扉の向こう側の光へ~Plastic Tree「インサイドアウト」(2018)
はじめに
音楽のレビューを書くときは必ず同じようなアーティストは2日続けて書かないと決めている。理由は凄い単純で飽きっぽいからだ。新鮮感は大事だからね。
SNSでアルバムについては散々話したしこんなものも書きました。
delivery-sushi-records.hatenablog.com
このアルバムも本当に傑作だったのだが、次はどうするんだろう?とは感じていた。
そんなアルバムの先の世界を今回は覗いてみようと思う。
Plastic Tree「インサイドアウト」(2018)
1.インサイドアウト 作詞:有村竜太朗 作曲:長谷川正 編曲:Plastic Tree
今作は2016年リリースの「サイレントノイズ」同様、PlayStation Vita用ゲーム『Collar×Malice 』シリーズの主題歌として起用されている。また、前シングル「雨中遊泳」から1年1ヶ月ぶりのシングル。
「doorAdore」で荒涼とした砂漠のような世界観を見せたPlastic Treeだが、今作はアルバムの方向性は踏襲しないままの光と疾走感を感じるナンバー。
最新アルバムではポストロックへの接近と仄かな闇を内包しつつ、ナカヤマアキラのギターが炸裂するギターロックバンドとしての一面を覗かせた。
そのアルバムを経てリリースされた今作は、ゲームのタイアップの関連以外にも、前回タイアップの割と混沌さもあった「サイレントノイズ」との対比もあるのか、光と開放感を感じさせるナンバーになった。
2016年シングル サイレントノイズ
Plastic Tree - サイレントノイズ【MUSIC VIDEO】
今作のシングル インサイドアウト
Plastic Tree/インサイドアウト【MUSIC VIDEO】
ドラムの佐藤ケンケンが叩く直線的な8ビートとナカヤマアキラのカッティングが冴え渡る中、長谷川正のベースは低音をしっかり聞かせていく中、堅実にボトムを支えることに徹する。まあ長谷川正はいつもそうだけどね。そこが好き。
それは何処か今のバンドのアプローチには無いであろう懐かしさを感じさせるが、有村竜太朗の歌詞と特徴的な声が乗ることで決して懐古的にはならない。
”風の中 何問いかけたの? ちっぽけな気持ちが揺れてた
なみだ目でいつもどこ視てた? あい言葉 思いだせないなぁ
平常時で正常値だ 感情のパルス
自画像は色褪せる あらたな花を飾っても”
有村竜太朗の歌詞が他の数々のヴィジュアル系バンドと違うのはその言葉遣いもだ。
彼はヴィジュアル系にありがちな大仰な言葉は基本的には使わず、日常にある平易な言葉から非常に詩的な言葉を紡ぎ出す。作家で言うなら銀色夏生が近いだろう。
しかも、歌詞に非常に現実感があるのも特徴で、「新宿」「千葉」など特定の地名がしっかり登場する。このような表現はcali≠gariと並んでヴィジュアル系の歌詞表現を大きく変えたと僕は認識している。
更には音の面でも、90年代ヴィジュアル系が基本的に影響されているハードコア・パンクやヘヴィメタルやポストパンクに加えて、シューゲイザー、オルタナティブ・ロックに影響された、ともすればヴィジュアル系バンドとは思えないような独特な音を産み出す。しかも、2009年に正式加入した新ドラマー佐藤ケンケンが持ち込んだポストロック的な要素を取り込み、その音像は唯一無二である。
そんな彼らが最新シングルとして選んだサウンドはビートロックとも取れるような直線的なロック。それはまるでBOØWYを思い起こさせる懐かしさ。
まあ言うて彼らのバンドキャリアは結成26年目だからね。バリバリの世代か。特に活休もないのほんと凄い。
もちろんバンド自体はそういうジャンルとは違うのだが、やはり彼らもそういう音楽に影響された世代なんだろうな、と感じさせてくれるのが微笑ましくなった。
”誰かの夢の続き残して
夜が朝に変わるの インサイドアウト
昨日と違う世界の青が 映ってる気がしたら
深呼吸 目が覚める 蜃気楼 手招いてる”
歌詞の中では特にこの部分が本当に好きで、朝焼けを感じさせる。それにしても相変わらず有村竜太朗は少しの言葉だけで情景がありありと浮かんでくる…。
キレキレのカッティングからの開放感あるサビ、そして複雑な展開を挟むこと無く一気に駆け抜ける疾走感は大きな魅力である。そこに迷いや不安はない。
Plastic Tree流の翳りを帯びながら疾走していくさまは、今のバンドの状態の良さ、そいてある種の懐かしさとバンドの未来を感じさせてくれる1曲となった。
2.灯火 作詞、作曲:長谷川正 編曲:Plastic Tree
こちらも同ゲームのエンディングテーマとして制作された。
表題曲とはうって変わって憂いを全面に押し出したバラードナンバー。
アコースティックギターの美しい音色と有村竜太朗の儚げな声が美しく弾き語りを思わせるのだが、クラシカルなピアノとストリングスを打ち込みで全面にフューチャーしたのはギターのナカヤマアキラ。これがめっちゃ綺麗。
これにより曲がスケール感を帯びるし、何よりもさらに美しく聴こえる。インタビューでも言っていたのだが、どことなく映画のサウンドトラックにありそうな雰囲気すら漂う。
”逃げ出せない哀しみなら どこまでも側にいるよ
巡る星いつか僕ら 繋がったまま沈んでいけたらな”
”想い出に傷つくのは あやまちが絡まるから
笑う君その安らぎ
よぎる刹那耳をかすめたハレルヤ”
何処か切なげながらも温かみがある歌詞。マジでPlastic Treeは詩集を出してほしい。
ここでPlastic Treeの特徴なのだが、4人全員で歌詞を書くにも関わらずかなり統一感がある。長谷川正はリーダーでありPlastic Treeの結成メンバーだから当然といえば当然なのだが、1番新参の佐藤ケンケンも「雨音」などのようにとてもPlastic Treeらしい歌詞を書き上げてくるのは驚きというほかない。
※雨になったら必ず聴きます。
このように彼らの持つ独特の美意識が貫かれながらも実は少し新しい試みで作られたこの曲の美しさにみなさんもぜひ浸ってほしい。まず映像が凄い好きです。
最後に
昨年は推しのシングルやアルバムがたくさんリリースされたのだが、Plastic Treeは僕が最も好きなバンドの1つであり、恐らく一生聴き続けるんだろうなと思えるバンドでもある。
他にもCOALTAR OF THE DEEPERSがまさかの新譜を出したり、BUCK-TICKやDIR EN GREYがアルバムを出したり、X JAPANは毎年恒例の新譜チャレンジ失敗をしたりと、書いてたらキリがないがリスナーとしてはとても充実した1年となりました。
Plastic Treeを元々好きな人もそうだが、このバンドはヴィジュアル系のリスナーではない方々に訴求する力が大きいと思うのでそういった方々も彼らの音源を手にとって聴いてほしいと思う。
追伸
全然関係ないけど、今年のX JAPANアルバムチャレンジではどんな発言が出てくるか楽しみです。