アーティスト人生における新たなる船出~妖精帝國「PAX VESANIA」(2013)
はじめに
書きたいことがあるのに自分の執筆能力がそこに追いついてないので、テーマと書きかけのものばかり溜まっています。アキオです。
これまで色々な音楽を書いてきましたね、とは言ってもヴィジュアル系を通してとかアニソン絡みですが、ポップスからパンクからモダンメタルからフラメンコまで、色々書けました。
しかし、僕は忘れていた。自分がメタラーでもあるということを…。
そして思い出した、ゴシックとメタルの恍惚を…。
そうなんですよ、ゴシック系の音楽とかメタルも好物なのにココ最近は激しい音楽はちょっと、みたいないっちょ前に落ち着きましたムーブですよ。
それを打破するために改めて聴き直したこのアルバムがまた自分に刺さったので、今回はこの作品を紹介しようと思います。
ちなみに知ったキッカケはNHKのアニソンスペシャルでしたがそれ以来なのでそろそろ10年目の臣民になります。
妖精帝國「PAX VESANIA」(2013)
- 序
- Astral Dogma
- Solitude
- 狂気沈殿
- ココロサンクチュアリ
- 月鏡反転シネラリウム
- Siege oder sterben
- missing
- The Creator
- Herrscher
- 空想メソロギヰ
- 葬詩
- 機械
ボーカルが紅一点なゴシックメタルバンドのメジャーデビュー後のオリジナル4thアルバム。
妖精帝國を知らない人のためにまずはこのバンドの説明から入ろう。
第0章 妖精帝國とは
1.概要
所属レコードは株式会社バンダイナムコアーツのレコードレーベルであるLantis。
妖精を信じる人が少なくなってしまった現代。人間がいつしか忘れてしまった純粋な心を思い出してもらうというコンセプトのもとに活動を開始。音楽を通して荒廃した妖精帝國の再興させる…。
というバンド。ちなみに人間界で言うところのライブは「式典」、ファンは「臣民」と呼称する。なんか、デーモン閣下のあのバンドと少し似てる気がするが気のせいだ。気のせい。
ちなみにボーカルのゆい様の御言葉によると「最初は優しく諭していたのだが皆聴く耳を持たないので、今は大声を張り上げて伝えている。」とのこと。
デビュー当初はテクノやゴシック、トランス、ヘヴィメタルを組み合わせたシンフォニックで重く激しい音楽を披露していたが、本格的なヘヴィメタルへの転換を求めたゆい様と橘尭葉は徐々にバンドメンバーや機材を補強していき、今作から本格的なヘヴィメタル路線へと移行することとなった。
作詞は主にゆい様が行い、橘尭葉含めた下士官が作曲、編曲を行う。ちなみに作曲と編曲は同じ者が行うことが多い。
ちなみに電気式華憐音楽集団と勘違いされることもあるが別物だからな。メンバーが少し被ってても別物だからな。
2.メンバーについて
妖精帝國という名前ではあるが、実は妖精なのはボーカルであるゆい様のみ。
他のメンバーは人間である。
まずは現在のメンバーを記していく。
画面中央の女性。歌唱と作詞を担当する。横浜BLITZで挙行された特催公式式典「920Putsch」にて終身独裁官に就任。
作詞の時の名義はYUIであり、臣民からはゆい様、殿下と言われている。ヘヴィメタルの女性ボーカルとしてはキュートさのある声質が特徴で、これが妖精帝國と他のバンドを大きく分けているところでもある。
実はバンドを始める前はLINDBERGやJUDY AND MARYを聴いていたが、妖精帝國がヘヴィメタルを取り入れるという過程の中で、Within TemptationやIn This Moment、Flyleaf、他にはThe Agonistといった女性ボーカルのヘヴィメタルバンドを聴くようになる。
- 橘尭葉(たちばなたかは 少尉→大尉)
担当はキーボード、ギター、作曲、編曲。元々はただの人間だったが、ゆい様と出会い鮮血の誓いを結んで以来ゆい様の忠実な僕へと…。
前述したように担当していることがかなり多い、ソレに加えて時にヴァイオリンを駆使し妖精帝國の世界観を形作っている。
音楽や打ち込みに目覚めたキッカケは小室哲哉、バンドを始めるキッカケはX(現X JAPAN)とLUNA SEAである。きっちり担当に反映されているのだからなお面白い。
他にはタイトーの音楽開発部門であるZUNTATAのOGRこと小倉久佳が大好きであると語っており、他にも浅倉大介や菅野よう子を好むという。
ネオ・クラシカル・メタルの開拓者、Yngwie Malmsteenを好んでいるところからその手の音楽からも影響を受けているのだとか。
ステージングの面でも小室哲哉や浅倉大介、LUNA SEAのSUGIZOから影響を受けている。
バンド開始当初はキーボードでメタル要素のあるナンバーを作っていたが、メジャーデビューをきっかけにメインパートをギターに変更する。
メジャーデビュー後は妖精帝國以外の活動を余り行ってこなかった。しかし、2014年にDIR EN GREYの京のサイドプロジェクト、sukekiyoの1stアルバムにリミキサーとして参加するという色々な意味で驚きの活動を行った。
- Nanami(ななみ 伍長→准尉)
担当はベース、作曲、編曲。2010年加入。北欧のハードロックやヘヴィメタルを好む。ベースを担当しているが作曲する時はデモの時点ではギターも演奏する。またYngwie Malmsteenが演奏するベースには強く影響を受けている。
北欧メタルはヘヴィメタルのサブジャンルの1つで、今では細分化してその説明は難しいが、以下にバンドの一例を掲載しておく。
- Gight(がいと 軍曹)
担当はドラムス、作曲、編曲。ESPミュージックアカデミー出身。2013年加入。
小学生の低学年からマーチングバンドを担当しており、中学高校では吹奏楽を担当する。ドラムをはじめたキッカケはあんまり無かったらしいが、それがズルズルと伸びてB'zを聴いたのを機にドラム・セットを叩いてみたのだという。そして、そこからL'Arc~en~CielやSIAM SHADEを叩くようになったのだとか。
ドラマーとしてはスタジオ・ミュージシャンの山本秀夫や青山純(1957年3月10日 - 2013年12月3日)から特に影響を受けており、他にもMETALLICAのLars UlrichやMötley CrüeのTommy Leeからもステージングやプレイヤーの双方の面で影響を受けている。
- XiVa(さいば 伍長)
2019年に加入した新ギタリスト。2019年に1月20日に味園ユニバースで開催されたストロベリーソングオーケストラ主催『怪帰大作戦~新春見世物地獄~』で初披露された。
まだ情報があまりないのだが、元々はポスト・ハードコアバンド、7years to midnightのギタリストであり今後が楽しみである。
ちなみにこのバンドで初めての白を基調とした出で立ちのメンバー。
ちなみにこのアルバムではもうひとりのギタリストは違う方だったのでそちらも参照されたし。
- 紫煉(しれん 曹長)
2013年に加入。2018年2月17日のやむにやまれぬ事情の末(詳しくは後述)、川崎で行われた式典で脱退、というより除隊。
ESPが運営する専門学校「MI JAPAN」出身であり、ヘヴィメタルバンド「LIGHTNING」の元サポートギタリスト。
2008年にUnlucky Morpheusを設立し、再度述べるが2013年からは妖精帝國に、2014年からは電気式華憐音楽集団に加入。また。2015年1月からはそれまで別名義で行っていた活動を紫煉に統一する。
実はアマチュア時代から妖精帝國のファンであり、加入後は自分が良いと思っていたバンドの要素をより増幅させ、足りない部分を補うことを意識して活動していた。
本人曰く「もっとこうしたら自分好みになるというのを実践できるのが楽しい。」とのこと。
2016年末よりある意味ギタリストの職業病でもある腕の腱鞘炎に悩まされることになり、その後様子を見ながら1年間活動を続け一時は回復に向かったと思われた。
しかし、ニューアルバムの製作等で再発。レコーディング量や2018年以降の妖精帝國の活動、ギタリストとしての将来も考慮し、メンバーとの度重なる協議の上前述した2018年2月17日の川崎での式典で除隊になった。お疲れ様でした…。
このアルバムから紫煉が妖精帝國のギタリストとして音源を録音している。
ロックを好きになったキッカケはX JAPANであると語っており、そこからヘヴィメタルを知り色々と手を広げていったらしい。ヘヴィ・メタルの中でも海外の高速でメロディアスないわゆるネオクラ、メロスピ的なバンドに影響を受けたようでANGRA、Rhapsody of Fire、Sonata Arcticaなどをを好むようである。
また、Raphaelなどの90年代のメロディックなヴィジュアル系バンドも好むほか、メタル・コアやDjentも好むようでPeripheryやBorn Of Osirisなどもフェイバリットとしてあげている。
ギタリストとしてはイングウェイやSteve Vai、LUNA SEAのSUGIZOに影響を受けていると語っており、他にもPat MethenyやAllan Holdsworth(1946年8月6日 - 2017年4月16日)からも影響を受けている。
以下は紫煉が関わったバンドである。
まあ、こんな感じなのだけど、ゆい様、橘尭葉、Nanami、Gight、紫煉のメンバーではじめてアルバムという形になったのが今回僕が紹介する「PAX VESANIA」。本作では可能な限り全て生バンドによる演奏で録音をしている。
ちなみにこのバンドの結成は名古屋なので僕は彼らを名古屋系だと強引に認定しているぞ、僕は基準がガバガバなので。
ここまで長かったけど1曲ずつ見ていこう。
アルバムのレビューに関してだが、特別な表記がない限り作詞はYUI、編曲は作曲者が行っている。
1.序
1曲目はインストではなく俳優、声優の内田尋子のナレーション。
個人的にゴシックにとって重要なことは世界観を重んじることなのだが、その点でもつかみはバッチリだと思うし、何より熟練の技によるナレーションがマジで上手い。
ソレもそのはず内田尋子は多数の演劇、CM、TVドラマ、吹き替えなどを担当しているベテランの方である。下手くそな訳がない。
ゴシック的な世界観、インダストリアル、モダンメタル的な荘厳で重々しいサウンドの中に載せられる熟練の技による年季の入った声による素晴らしいナレーション。
これでピンとこないやつおるん?
しかも、そのセリフもたまらないんですよ…
”歴史家たちは後にあの時代をそう呼んだ
人の心と现世の狭間にある彼の大帝国
埋め尽くされた広陵 溢れ出る命の泉 常勝必殺の大軍団”
”臣求む心の静謐
美味なる毒の杯
緩やかな恫喝
狂気によりもたらされた平和”
…こういう仰々しいセリフたまらなくない?僕はたまらない。
ちなみにこのアルバム自体にはコンセプトがあるのだが…
「妖精帝國の歴史書をお読みになられていたゆい様が、妖精帝國の過去に独裁による平和と繁栄の時代があったことを知る。この頃の時代に興味を持ったゆい様は、これをモチーフにアルバム製作を開始する…」
という感じのもの。
話は変わると、独裁による平和というとまあ旧ユーゴスラビアが代表だろう。ただ、恐怖政治ではなかったっぽいのでどちらかというとスターリンの頃のソ連とかそのへんだろうか。
アレを平和と呼ぶのなら、という話…。
話がそれたが、まあそんなことを踏まえて最後の部分を読んでほしい…
”遠い昔に封印された書に眠る常暗の言葉
幾星霜を記したその書の巻を解き
心を夺われたあのお方は 書を閉じそっと呟いた”
ここはその書物を読んだゆい様のことを表している、という事実は容易にわかるだろう。
「PAX VESANIA」の意味はラテン語で狂気による平和である。意味としてはPAXが平和(パックス・ロマーナを参照してください)、VESANIAが狂気。そのことを考えると実はこの序の部分は単なる世界観の構築だけでなく、アルバムコンセプトの理解にとってとても重要なのだ。
そして、ゆい様が最後に「PAX VESANIA」と呟くことで次の曲に繋がるのだが…
ここの部分はいつ聴いてもゾクゾクする…。
アルバムの1曲目としては完璧な導入だろうと個人的には思っている。
2.Astral Dogma 作曲:橘尭葉
荘厳なコーラスと疾走感が特徴なメタルナンバーであり実質アルバムのリードトラック。
1曲目の語りから、この導入は完璧ですよ。100点中120点な回答。
このメンバーでアルバムを作ったのはこれが初めてだと記憶しているが、まさかこんなキラーチューンを作ってくるとは…。
ぱっと聴くと普通のメタルなのだが、実は構成がかなり独特で、
宗教的なパーカッションと荘厳なコーラス→ゴシック・メタル的な重々しさと綺羅びやかなキーボード、そしてインダストリアル的なボーカル加工→メロスピなサビ→サビ後にまたゴシックになる…。
という具合にメタルのおもちゃ箱である。
しかし、そこに不自然なつなぎは感じられない
原因として一番考えられるのはその美麗なメロディラインとフレーズ構成のうまさ、そして独特な声質のボーカルだろう。
妖精帝國はアニメソングを多く担当することやメインコンポーザーである橘尭葉がポップな音楽も好むこともあってか、メロディラインがポップな物が多い。
ポップなものというのは玄人から馬鹿にされることが多いのだが、ポップ性というのは音楽を聴く間口の広さや違和感なく様々な要素を盛り込ませる上で極めて重要なことである。
また、その各楽器隊のフレーズ構成の巧みさが、つなぎを滑らかなものにしている。
そのために、様々なメタルの要素を盛り込んでいてもそれが違和感なく聴ける様になっている。
間奏でバリバリに盛り込まれた紫煉のギターソロや、バックで鳴り続ける硬質なドラムがメタルであることをバリバリに主張している。
そして、1番の特徴はそのボーカルだろう。
妖精帝國の初期のコンセプトの中に「ゴシック・ロリィタ」というものが実は存在している。
個人的にロリィタの核は少女性、だと思うのだがそこに合うようにするならやはり声質は少女的な声のボーカルでなくてはならないと思うのだ。
この声質がアニメっぽいからあんまり…という声も聴くが、この低音主体の楽器隊に高音主体のボーカルが乗っかることはこのバンドの初期の面影を見せると共に、他のメタルバンドとの差別化のためにも重要だと考えている。
歌詞も、ヘヴィ・メタルが好きな人、というかヴィジュアル系的な仰々しい世界観が好きな人間にはたまらないものになっているだろう。
”時は奏でる陰鬱な大時計蒸気の帳で 無我夢中
金塊を蓄えて聳える摩天楼で毎夜のマスカレード”
とか最初の時点でもう格好いい。
サビの部分では楽器隊とボーカルがユニゾンしているようなサウンドに載せて…
”原初明かす記されたるコトバ 「終焉(おわ)るセカイ」
末路示す秘められたるコトバ 「興(おこ)るセカイ」”
この部分は荘厳なクワイアとボーカルの掛け合いも含め非常に格好いい。
初の5人態勢のアルバムとしてそのつかみはバッチリだと思うし、これを聴いてメタルバンドじゃないとか言わせないと言わんばかりの迫真の出来であるとと思う。
ちなみに、個人的にはサビの後の
”揺れる炎宇宙元素エーテル
虚空輪廻対のアカシャ
眠る生命(いのち)アストラルの幻影
リピカ綴る自己のイデア”
この部分がくっそかっこいい。格好いい。
3.Solitude 作曲:紫煉
作曲は紫煉であるが、彼の持つネオクラ、メロスピ的要素が存分に反映された形である。
ツインギターによる重厚なリフといい、硬質で速いドラム、低音の聴いたベースと言い、妖精帝國が徐々に志向していくようになった音楽がメンバーの拡充を経て完全な形として表現されている。
妖精帝國のヘヴィ・メタル化というのは初期やユニットだった時期から追いかけている人間としては複雑らしいが、元々がハードテクノ要素があったとは言え、徐々にメタルに接近していたことを考慮すると必然である。
何回もいうが5人体制になったのも、妖精帝國の音楽性のためには必然の流れだったし、多様なメンバーによって本格的なメタルのエッセンスが注入されることになったのも、また必然の流れなのだ。
イントロからドラムと高速フレーズ、そしてリフの重厚なバッキング…メタラーなら垂涎のセオリーの連発である。そこから楽器隊はノンストップで走り抜け、サビでは更に開放感をプラスしていく。所々間奏で鳴っているキーボードの音色が、ゴシック的な匂いをそこにプラスしていく。
ある意味で日本のメロディアスなメタルの様式美と言えるような曲である。
そして、そこにゆい様のボーカルが乗っかるようになることで他のバンドにはない少女性や聴きやすさがプラスされるのである。
メタラー的には声質や歌い方に賛否両論が出るところはなんとなくSADSと重なるのだが、ボーカルの個性というのはバンドにとって極めて重要だと考えているので僕はコレでいいと思うのだ。
※これがSADS
曲の話に戻るが、タッピングが炸裂している箇所もあるし、勿論ギターソロは弾きまくるしで、妖精帝國のコレまでにあったポップさにヘヴィ・メタル的な様式美やテクニカルさをプラスしていく所が非常に良い。
ドラムの手数も多く、テクニカルでかつ高速フレーズを出されるとこれもメタラーとしては何とも言葉に言い表せない感動がある。
その中でも、バッキングのサイドギターやベースがきっちりと支えることによってこれらのフレーズがより一層引き立っていることは忘れてはいけない。
こういう存在があることで伸び伸びとテクニカルにやれるのである。
歌詞は基本的に決意に満ちた歌である。
”風よ走れ空を薙ぎ
自由を知った野鳥の如く
刻よ廻れその度に
今の私創り変えてゆく 美しく”
とか
”自由な思考が私の美学を研ぎ澄ましてゆく
進化を邪魔する忠告紛いの口撃に負けない”
このあたりは、アルバムコンセプト以外にも、単に自分たちが路線方向をする時の決意のように思える。何の躊躇もなかったわけではないのだろう。
ここのサビの部分に背中を押される臣民も多いだろう。
”ソリチュード
始めは小さな心の兆し
変化を求めた者だけ猛く能(あた)う
素通りの日常抜け出すなら
自分が変わるしかない NO FEAR”
この部分は行動の大切さを呼びかけているようにも単純に思えるし、アジテーター的な意味合いではなく単純に呼びかけているような優しさを感じられるのだ。
こういう歌詞にゆい様のお人柄が出てるなあ、と僕は思うと共に…
バンドコンセプトとは裏腹に歌詞がとても優しいのは聖飢魔IIをやっぱり思い出すのだった。こちらも比類なき素晴らしいバンドである。
4.狂気沈殿 作曲:橘尭葉
インダストリアル的なビート感が特徴のナンバー。OVA「未来日記リダイヤル」テーマソング。
元々、妖精帝國はシンフォニックかつ打ち込み要素の強いユニットだったのだが、その時代の影を色濃く残した形である。
イントロのインダストリアル・メタル的なフレーズや音の質感はどこかNine Inch NailsやMinistryや一時期のKilling Joke,Godflesh、Marilyn Manson、そしてKMFDMが個人的には挙げられると思う。
彼らはみんなアプローチは違えどインダストリアルとメタルを組み合わせた先駆者たちである。
しかし、橘尭葉と異なるのは、その世代である。
何を言っているのかと思うかもしれないが、これは非常に重要な要素である。
なぜなら、世代により通ってきた音楽の質やジャンルが異なることがある。それは例えメタルというジャンルの中でも変わらない。
橘尭葉は年齢非公開のはずだが、彼がX JAPANやLUNA SEAやイングウェイを影響源に挙げていることを考えると、おそらくインダストリアル・メタルもNine Inch NailsやMarilyn Mansonあたりの世代を通っていると予測できる。
それだけなら模倣になってもおかしくはないのだが、そうならないのは妖精帝國にゴシック・メタルやメロディック・スピード・メタルの要素があることや、5人による多彩なアプローチが可能であることが大きく作用していると思える。
普通にインダストリアル・メタルに比べるとテンポは速めであり、規則的なビート感もあるが生感がかなり強い。何よりやはり声質と耽美さ、更にもうひとりのギタリスト紫煉のアプローチが弾きまくるタイプのメタルであること。これはやはり差別化という点でプラスに働いている。
色々探してみたが、リズム隊の疾走感やゴシックでハイテンポ、それでいてインダストリアルでメロディアスでシンフォニック・メタル的というのは中々見当たらない。
一番近いなと、個人的に思うのはKlaha在籍時のMALICE MIZER(マリスミゼル)やMoi dix Mois(モワディスモワ)だろうか…
このように親和性の高い音楽はあることはあるのだ。しかしながら、それでも決して似ているとかそういうわけではなく「なんとなく近い」というあたりが独自性が高いバンドだなと思わせる。
”暁に燃える空の下
自らに科した意志を呑み込む
纏わり付いた霧は晴れて
折しもその目は翳りを帯びる”
歌詞に関しては、未来日記の内容のシリアスさを意識しつつもやはり意志の強さを感じさせる。
何回も言うが、僕はこのような歌詞とメタル路線への転換は決して無関係ではないと思うし、そのためにちゃんとメンバーまで揃えたゆい様と橘尭葉には並々ならぬ決意を感じる。
メロディック・スピード・インダストリアル・シンフォニック・メタル、というありそうでないジャンルと言っていいナンバーであり、妖精帝國というバンドの幅広さを思わせるナンバーだ。
”分からないもう何も分カラ な イ…
ワタシアナタダレナニドコニイル ダレカ!!”
な イ…。の感じが凄いヴィジュアル系っぽくて好きです。
5.ココロサンクチュアリ 作曲:Nanami
イントロのチェンバロの響きが美しいミディアム・テンポナンバー。
妖精帝國が元々得意としてるゴシックメタル的な要素を突き詰めつつ、メロディアスに仕上がっているのは原曲者の影響もあるだろう。
前述したが作曲者のNanamiが好むのは北欧のハードロックやヘヴィ・メタルである。
そもそも、北欧はやたらとヘヴィ・メタルを愛好する人間の人口が多いのだが、ソレはなぜなのか考えてみよう。
まずはこちらの図を見てほしい。
(出典はこちら)
人口100000人あたりのヘヴィ・メタルのバンド数を分布図にしたものだが、色が赤いほど多い。これによると北欧が突出して多いのがわかるだろう。
そもそも北欧はメタルの歴史が長いのだが、特にこの20数年間において、デス・メタルやブラック・メタルの排出人口が多い。理由をもっともらしく言うと「日照時間が少なくて外でやることがないからこもってデス・メタル」なんてのもあるらしい。
80年代のメタルシーンというと後に世界的な成功を収めるMETALLICAがデビューしたり、Judas Priestがイギリスから生まれ、アメリカに進出し成功をおさめるというように英米が中心であったと記憶している。
しかし、その中でゴシックな要素やダークな要素が強かったブラック・メタルや、また別の流れではオーケストラの要素を盛り込んだメタルが、北欧で息をし続けていたのであった。
北欧メタル(デス・メタルやブラック・メタルではない北欧のメタル)、というのは日本でしか通じない呼称であるが、共通する彼らの特徴として叙情的なメロディ、大げさな展開などが特徴としてあげられる。
(本当は北欧のブラック・メタルとデスメタルに関しては北欧という社会の構造や教育もかなり関係していると考えてるのだが、これはまた別の話…)
ところで、北欧にはスウェーデンのストックホルムに王立のオペラ劇場が存在したり、
1771年創立のスウェーデン王立音楽アカデミー(1971年にストックホルム音楽大学が独立)があるなど、クラシック音楽というものがかなり根付いている土地であると言うことができる。
他にも、フィンランドには昔から哀愁と情熱のフラメンコが馴染んでいたり、ノルウェーでも世界的なクラシック系音楽家エドヴァルド・グリーグなどを排出しているなど、やはりクラシックが馴染んでいると言うことできる。
他にもデンマークにはMewがいたりABBAもスウェーデンだったり、他のジャンルでも有名だったりするのだがそれは置いといて、そんなふうに北欧というのはメロディアス、そして哀愁というものと音楽がかなり密接にリンクしている。
それは日本人の好む歌謡曲、JPOP的なメロディラインとの相性がいいわけで、ゲーム音楽やアニメソングで北欧メタル的なのは日本でもよく見受けられる。
話を曲に戻すと、そのようなものを好んで聴いてきた作曲者の音楽的趣向はこの曲にも現れており、ミディアム・テンポのゴシック・メタルテイスト、荘厳なクワイアとの相性もさることながら何処かメロディアスだ。
並びに妖精帝國がもつポップセンスと重なることでよりポップな曲になっている。
歌詞に関してだが、内省的で耽美な内容が目立つように思う。
”身体を飾り自由を演じて
ココロは誰にも渡さない見せない
光を浴びてキラキラ揺れる
私だけが持つ私の宝石”
など、
”感情のまま喚き散らして
知性のかけらは微塵も見えない
穢れた総身ココロの牢獄
潜在意識の操り人形”
というように、心に関して言及し、その内省的な世界観を全開にしている。
しかしながら、そんな中でも最後では…
”身体を飾り自由を演じて
ココロは誰にも渡さない見せない
光を浴びてキラキラ揺れる
私だけが持つ私の宝石
私のココロをあげよう”
心を聖域として表現しつつも、大切な者にそれを渡そうとする結末になっている。
内省的でありながらも、最後には外へと向かうその歌詞の流れも含めて味わいたい1曲だ。
6.月鏡反魂シネラリウム 作曲:Nanami
民族音楽的テイストとダーク・アンビエント的な要素を持つミディアム・テンポの曲。
これまた作曲者がNanamiであることに僕はかなり驚いたのだが、まず、ダーク・アンビエントの説明からしよう。
ダーク・アンビエントとは電子音楽のジャンルの1つである。もともとがアンビエントにノイズの派生系という流れが合流していることもあるのか、不安感を煽る旋律や不協和音を押し出しているのが特徴だ。
アンビエント自体は1970年代にBrian Enoが提唱した音楽のジャンル…というより概念だが、その暗黒面に関しては既にKing CrimsonのRobert Frippがイーノと共作したアルバム「Evening Star」で提示されていた。
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そして、このような試みはポスト・パンクやニュー・ウェーブの世界でも成されてきたし、ブラック・メタルやゴスカルチャーとも結びついて脈々と受け継がれてきた。
そのようなジャンル、もしくはそのような音楽の要素を持つアーティストとしてはMerzbow(メルツバウ)こと秋田昌美やサイレント・ヒルの音楽担当として有名な山岡晃、Aphex Twin(エイフェックス・ツイン)、Burzum(ブルズムもしくはバーズム)、Ulver(ウルヴェル)、藤井麻輝、そして妖精帝國が実は該当している。
ジャンル分け自体がかなり曖昧になるのが電子音楽の分野なのでどうしてもいろいろ不十分になってしまうのは否めない。
なんかジャンル分け違わない?って意見もあると思うのだが、このへんは割とジャンルの境目や音の傾向が定まっていないので、括りが人によって変わるのだ…。
曲の話に戻るが、大体このような雰囲気の音楽性だと思ってくれれば十分である。
この曲を初めて聴いた時に僕はかなり驚いた。
なぜなら、サウンドにヘヴィ・メタル的な質感が無かったからである。
ギターがガンガン入ってくることもないし、起伏に富んだ展開でもない。そもそも、生の楽器は主役ではない。
そして、クレジットを見てこれが橘尭葉でないことに更に驚かされたのだ。
Nanamiは自分の影響源を妖精帝國に反映させるのではなく、妖精帝國というバンドの音楽性や雰囲気に合致することを優先して曲を作ったのは間違いない。
むしろ、ヘヴィ・メタル的な音楽を志向するずっと前の妖精帝國に近いテイストなのだ。
更に、ゆい様の歌い方も少しキュートに見せているように感じられるし、所々新しい歌い方を取り入れているようにも思える。
所々でインダストリアル的なボーカルのエフェクトをかけているのもとても良い。
調べてみた所シネラリウムは英語でCinerarium、納骨堂という意味を持つ英単語らしい。
シネラリウムというとラテン語のシネレウス、英語だとシネラリアを思いだす。これは一般的にはサイネリアという名で呼ばれる花であるが、正確なよみはシネラリアが正しい。ちなみに、死ねと語感が被るので病人へのお見舞いには向かない。
そもそもサイネリア自体が鉢植えの花なので根付く(寝付く) という意味合いがあり敬遠されるのだが。
話はそれたが、シネラリウムの意味は決して明るいものではない。
月鏡反魂という単語だが、月鏡と反魂という言葉に分けることが出来る。
月鏡は「晴れた空に浮かぶ満月」を指すのか、「月を映した池を鏡とみなす」のかで多少意味合いが異なるのだが…
”灰を着飾って踊る
骨の奥まで熱くなる
夜が明けるまで独り占め
さぁ私連れて逝って”
このような歌詞なので夜であっても晴れた空はあんまりふさわしくないかなと考え今回は後者として受け取る。間違っていたら本当に済まない…。
反魂は死者の魂をもう一度現世に呼び戻すことなので、まあこれはこのまま。
以上の意味を統合すると、少なくとも死、それも肉体は既に残っていないレベルでの死を描いていることはわかる。
それを踏まえて歌詞を見てみよう。
”白くて淡い陶器のような
骨さえ愛でる密かな夜
この手をどうぞ 死すまで側に”
や
”狂いましょう月のシネラリウム
二人きりでずっと夜が明けるまで”
退廃的な世界観が目立つ。反魂と名付けているくらいなのだから2人いる登場人物のうち、1人は既にこの世に居ないと考えるのが妥当だろう。
”祭壇並ぶ霊廟の中
すぐに貴方を見つけ出せる”
妖精帝國のもつパブリック・イメージとこのような歌詞の相性は抜群である。ヴィジュアル系にも通づるゴスを感じさせる。
月鏡を池に映る月と捉えると、そこにはいくら手を伸ばしても永遠に届くことはなく、そこにあるのみである。
反魂もそれにかかっていると考えると、シネラリウムにいるあの人はもう永遠に届かないものであるがそれを夢見てしまうという儚さが封じ込められているように思う。
個人的に昼より夜に聴きたいナンバーだ。
ちなみに、黒百合姉妹の世界観がこの曲には一番近いと思うので是非…。
7.Siege oder sterben 作曲:橘尭葉
インダストリアル・メタル色を強めたミディアム・テンポナンバー。
狂気沈殿同様に橘尭葉が書く曲にインダストリアルなテイストなナンバーが多いことがなんとなく確認できる。
全体的に落ち着いた構成の曲になっており、式典で盛り上がりそうな雰囲気を感じるのはL'Arc~en~CielのREVELATIONと重なるからだろうか。
こちらもインダストリアルに深い造詣があるラルクのドラマー、yukihiro作曲だし。
サウンド的にも、ギターソロやサビの開放感でアプローチすると言うよりはリフやリズム隊の重厚さで訴えかけてくるような構成になっており、シング・アロングがやりやすそうだなと感じさせる部分もある。
何よりインダストリアル・メタル的と感じさせるのは楽器隊の機械的な反復フレーズの多さが寄与しているのだろう。
このへんの音楽がいい感じにお手本である。
こういう音楽は得てして音源よりライブの方が真価を発揮するパターンがかなり多く、音源だけでの判断がかなり難しい。
メロディアスなメタルやシンフォニックなロックが好みな人にはなかなか刺さらないかもしれないが、個人的にはこういうタイプの楽曲も好みだ。
歌詞が何処かダークでありながら無骨な力を感じさせる。それもゆい様の歌声により無骨さが中和されて聴きやすくなっているが。
”耳障り格別に 饒舌な囁きが
地獄より深き場所 育まれ愛でられる”
この部分は妖精帝國のダークさを感じさせるし、
”薄暗き目蓋越し 凍て付いた笑い顔
そこにはもう人なんて 誰1人いやしない”
こちらの部分なんかは式典で盛り上がりそう。
それでいてもちゃんとただの模倣にならないのは、インダストリアル・メタルの様式美に則りつつ、
バンドの持つゴシック的世界観やバックボーンの異なるメンバーによるアプローチの多彩さがあるからであろう。
アルバムの中でもいいアクセントになっているナンバー。
8.missing 作曲:紫煉
メタルのモダンなタイプのアプローチとメロスピ的なフレーズの融合した高速ナンバー。
まず、ヘヴィ・メタルにおけるモダン、というのは何なのか?というところから説明をしようと思う。
モダン・ヘヴィネスと日本では言われるタイプのメタルのサブジャンルに該当する言葉なのだが、実は日本でしか通じない単語で、とりあえずPANTERAっぽい音作りのメタルくらいに思ってくれればいい。
(モダン・ヘヴィネスな音作りなんて言い方をした際は別にメタルじゃなくてもいいっぽい、この辺かなり面倒)
というか80年代のメタルを聴いた後、90年代のメタルを聴いた時にちょっと系統が異なるなーと感じるメタルはだいたいコレに該当する。
(どれも凄い好きだけどDeftonesはいいぞ)
異論は認めるがジャンルが曖昧な区分けなので許してほしい。ラップメタルやTOOLなんかもサウンド的にはこの辺だと思うんだけど、怒られそう。
日本だとDIR EN GREYとかMaximum The Hormone、この辺も該当するだろうがとにかく凄い一杯いるので適当に貼っておく。こんな感じの音を志向したバンドである。
ちなみに音作りに関してはこの手のサウンドの影響は絶大で、今や正統派メタルよりこういうタイプの音のほうが多いくらいだ。
余談だがヴィジュアル系界隈はDIR EN GREY以前にも初期からこのようなサウンドを取り入れており、BUCK-TICKやhide、室姫深なんかがそういうアプローチや音作りなどを表現していたりする。
他にもNARASAKI率いるCOALTAR OF THE DEEPERSもこのようなサウンドアプローチを得意としていたり、古くから脈々と日本にも受け継がれてきたっぽい。
厳密に言うと海外のも日本のも含めてみんな違うジャンルなのだが、そもそもモダン・ヘヴィネスという単語自体が日本でしか通じないので…。
まあ、なんか重くてメロディよりリフ重視のサウンドアプローチの一種という感じである。
曲の話に戻ると、サウンド面ではこの曲はイントロから重いサウンドによるリフがいたるところに見られる。
このような音作りは単純なネオクラ的なアプローチではしないところがあるので、紫煉が80年代以降のメタルも聴いていることがこのあたりで改めて認識できる。
そこにクワイアを加えることでゴシック的なアプローチをプラスすると共に、メロディにしっかり起伏をつけること、モダン・ヘヴィネス的サウンドアプローチを自分たち流に消化している姿を見せている。
メロデスにもこのようなアプローチが見られるのだが、やはりボーカルがここで大きな役割を果たし差別化の一助を担っている。
硬質なドラムのよる疾走感のあるフレーズやベースの低い音作り、橘尭葉の堅実なプレイによる土台があってこその紫煉のメロディアスなギターであることは忘れてはいけない。
モダン・ヘヴィネス的アプローチでありながらも、メロスピ的な要素が強いことで妖精帝國のリスナーにもしっかり聴きやすい形に仕上がっており、紫煉が言っていた役割を全うしていることがわかる。
歌詞に関してだが、ストーリーを意識しやすいものになっている。
このあたりの物語性を意識した感じがネオクラとかメロスピ的なところを感じられる。
"入(い)らずの森の奥 小さな馬小屋に
眠る漆黒の 髪を持つ少女
物心のついた おさな姫の頃
好いた継母に 森へ捨てられた"
"風さえ通さぬ静寂の籠城
頑なに拒む死の棺
森のざわめきが彼女の痛みを
遠ざけて辿り着けない"
このあたりの歌詞もそうだが、この曲は1人の少女に関する物語になっており歌詞だけでも楽しむことが出来る。
サウンド的にはモダン・ヘヴィネス的なアプローチを見せているのに、歌詞や全体的なポップさは、アニメソングやネオクラやメロスピ的なアプローチをする。
こう振り返ると、実は不思議な構成の楽曲なのだが、これも妖精帝國だから出来るところもあるのだろうなと感じさせる楽曲である。
ちなみに原曲はもっとテンポが早かったらしいが、今に落ち着いたのだとか。決して式典で歌えないから、とかそういうんじゃないぞ。
9.The Creator 作曲:橘尭葉
シンフォニックさとマシンビート感が耳に残るアップテンポナンバー。アニメ「未来日記」パイロット版のOPであり、空想メゾロギヰのカップリング曲でもある。
ちなみに、パイロット版とは放送開始、一般放送に先んじて作られる映像作品のことを指す。
サウンド面の話をすると、シンフォニックさとマシンビート感をうまく組み合わせる、インダストリアル的アプローチを橘尭葉の得意技だと認識している。
それでいて、勢い任せではなくかなり構築的に楽器のフレーズや歌声の乗せ方を練り上げている。そこにポップさ、そしてゆい様を活かすようなサウンドに焦点を合わせていくことで、妖精帝國特有の雰囲気が生まれるのだなあと感じている。
この曲にも顕著だが、ゆい様の帯域とかぶらないような音作りをしているほか、各楽器隊が鳴らす部分と鳴らさない部分をしっかりとわけていることで、楽曲にメリハリを産んでいる。
サビの疾走感が非常にメタル的に思えるし、ギターソロがそれをまた後押ししている。
この曲始め、未来日記関連はがでた頃は紫煉もGightも正式メンバーではなかったように思うが既にサポートやってたのかな?
このようなメタリックな構築性の高いサウンドが橘尭葉がかねてから作りたかったものなのか、となんとなく伝わってくる。
歌詞に関しての話をするが、未来日記を意識した歌詞になっている。
”この世は戦乱堕ちても薫り高く
目蓋を閉じれば蘇りし空想
時空を操り自在に支配をする
生と死を賭ける未来のsurvival”
この部分や、
”消滅を覆(くつがえ)して
互いの策を読みあい
奪い取れ神の御座(みくら) 排除と犠牲の果て
奇跡を起こし手に入れて”
この部分なんかは未来日記のデス・ゲームの側面を歌詞に端的に盛り込んでいるように思う。
それでいて…
”生を望めば死が
死を悟れば救世が
祈り捧げよ神
神祈りに応えず”
この部分は神を否定しているように思うし、それは絶望ではなく人間の力強さを肯定しているようにも思えるのだ。
このアルバムは妖精帝國がヘヴィ・メタル路線に舵を切った最初の作品である。
ソレに伴い、決意を感じさせる歌詞が普段よりも多いように感じられる。
アニメソングタイアップと自分たちのバンドとしての音楽性の両立の仕方がわかるナンバーだ。
10.Herrscher 作曲:橘尭葉
「未来日記インスパイアードアルバム Vol.2 ~因果律デシベル~」収録曲。未来日記登場キャラクター、ジョン・バックスのテーマソング。
ジョン・バックスの話や未来日記の話は、自分で読んでほしい部分があるのでまあここでは述べないが…。
まずはサウンドの話に移ろう。
橘尭葉がインダストリアル的サウンドアプローチを得意としているのは、数々の楽曲から見えてきたが、SCHAFT的なものを感じられる。まあ、ULTRA(2016)の方に関してはこちらのほうがリリースが後だが…。
まあ、単純に僕がこの手のサウンドが大好きだから耳にやたら残るし、気になるだけなんだろうけど…。
メタルというと様々なジャンルがあるが、橘尭葉のインダストリアル的なアプローチは妖精帝國の持つ荘厳さやゴシック的な雰囲気によくあっているように思う。
打ち込みを効果的に使えるのも、accessや小室哲哉などを好んでいなければ出来ないアプローチだろう。生音を重視してるタイプのアーティストには中々出来ることではない。
今までは、打ち込みで補っていたりもしたし、以前のバンド体制でもこのような音作りと攻め方は行っていたが、やはりメタル体制に移行するという明確な目的意識が現れてからはかなり違うように思える。
バンドアレンジというものの重要性をなんとなく垣間見ることが出来る。
歌詞に関してだが、デジタル処理を施されたゆい様がどことなくアジテーションを思える。
”叫べ獅子の如く
退け脱兎の如く
現在(いま)に魅入られしは
未来統べる闘争”
この部分や…
”旗揚げて
警鐘打ち鳴らして
風はためく
紅の旗章”
この部分なんて 聴いてるだけでPVが欲しいもんね。
サビの部分のドイツ語の力強さは日本語では出せない部分であると思うので、このチョイスが良いのだろう。
ゆい様の声質は低く歌っても映えるし、ことすればこのようなサウンドで声までもがごついとなかなか間口が広がらないというか、ジャンル横断的にファンを増やすならこれが正解なんだろうと思う。
アルバムのラストに向けて気分を盛り上げることの出来る扇動的ナンバーである。
11.空想メソロギヰ 作曲:橘尭葉
TVアニメ「未来日記」OPテーマ。今作で唯一のシングルメインタイトルである。
おそらく、アルバムに収録されている曲の中ではかなりの古株に入るのだが…。
めっちゃ好きです…
サウンド面では橘尭葉の得意とするインダストリアル的なアプローチを随所に織り込みつつ、シンフォニックさをプラスしているし、疾走感のある楽器隊のサウンドと荘厳なクワイアの数々はヘヴィ・メタル的な様式美とゴシックさをそこに…
しかも、アニメソングのOPということもあり、かなりポップで聴きやすい。
これはかなり重要なことで、様々なタイプのリスナーにアピールするには決して無視できない部分なのだが、なかなか舐められやすい。気にしなきゃいいと思うけど。
何よりサビで炸裂する開放感と、非常にキレの良い言葉の数々がヘビロテを促してくれること必至である。
歌詞は未来日記を意識しまくりなのは当然といえば当然なのだが、ソレは置いといて…
”You'll surrender now,
We are sure of what we see... ...
thee can't resist this fantasy!
Survive!”
まずここのイントロのコーラスがめちゃめちゃかっこいい。妖精帝國はやっぱりコーラスだよな、って改めて思う。
”CONSENTESDEI JUNO JUPITER
MINERVA APOLLO MARS CERES
MERCURIUS DIANA BACCHUS
VULCANUS PLUTO VESTA VENUS”
その後のゆい様のこの部分の言葉のリズム感がめちゃめちゃいいのでここだけで何回も聴きたくなる。
そしてサビなのだが、
”さぁ eins zwei drei! 重なり合う
さぁ eins zwei drei! 死を交わして”
こういうドイツ語の力強さってめっちゃこの手の楽曲と相性いいよね。頭に残る。
こんな感じで、全てのフレーズが強烈に頭に残る。
こういう曲は90秒で展開を収めないと行けないアニメソングというジャンルを主戦場にしている妖精帝國の強みだし、このようなポップさはなかなか普通のヘヴィ・メタル・バンドにはない部分である。
大サビの部分もマジで格好いいのだから言うことがない。
楽曲の構成、歌詞のリズム感、声質や歌い方による個性、ポップセンス…
どれをとってもハイレベルな作品であると共に妖精帝國の入門として相応しい楽曲であることは間違いないだろう。
全然関係ないけどみんな未来日記をちゃんと買うんだぞ!
12.葬詩 作曲:Nanami
淡々としたAメロBメロ部分と印象的なサビの開放感の対比が特徴的なバラード。
Nanamiの作る曲が所々北欧メタルっぽいなと思わせるのは、サビへと向かう大げさと言える展開もそうだし、キーボード的なサウンドもしっかりとフォーカスしてること。
ストリングスで壮大さをプラスしていながら、かなりメロディアスであること。
途中で挟まれる紫煉のギターソロが非常に格好いいし、バックで鳴っているストリングスやもまたいい味を出している。
ワルツ調のリズムというのも、なんとなくゴシックなイメージに対してプラスに働いているように思えるのだが、ゴシックという言葉が持つ中世西洋的な認識も大いに関係しているのだろうか。
歌詞に関してはゆい様の入れ込みが半端ではなく、自分の作詞ながらレコーディング前に3回くらい泣いたらしい。かわいい。
”誰にも終わりは訪れる
悲しむ事など無いと
小さな声で励ます笑顔
少しずつ少しずつ
あぁ薄れて…
もう見えなくて”
とか
”独りは怖いと呟いて
眠れぬ夜を過ごした
小さな指が虚空に彷徨う
掌に舞い落ちた
花びらが
擦り抜けてゆく”
この辺から感じる孤独感と耽美さが半端ない。
更に…
”天に続く虹を君は渡れるだろうか
振り返らぬまま目の前の道を
真っ直ぐに歩いてゆけ
そう僕がいなくても
ただ1人で逝くんだ
もう僕がいなくても
ただ1人で逝くんだ”
この辺の孤独感は共に死ねなかった孤独なのか、それとも惜別の年が混ざっているのか…一言では言い表すことの出来ない哀しさに満ちている。
このような歌詞を書く人は日本にはあまり多くなく、女性が歌うということで少女性や耽美さをプラスする。
アルバムのシメに向けて構築性の高いナンバーを作り上げてきたが、クオリティの高さに底力や感じられる。
何より、作詞家としてのゆい様の評価も改めてしたいなと感じられる作品だ。
13.機械 作詞:大槻ケンヂ 作曲:本城聡章、筋肉少女帯 編曲:橘尭葉
サブカルチャーを通る上で絶対に外すことのできないバンド、筋肉少女帯の名曲のカバー。
こちらが原曲である。
筋肉少女帯について少し説明をしよう、僕が彼らを大好きなので…。
筋肉少女帯は現在、
からなるロック・バンドである。
サポートでドラムの長谷川浩二やキーボードの三柴理が入ることがある。
1982年に結成、1999年に活動凍結、2007年に再始動しており、当時は上記の4人に加えて大田明がドラムに加わっていた。
(今の筋肉少女帯。この如何わしさと胡散臭さが好き…)
バンドブーム期に人気になったバンドではあるが、その独自の世界観で根強いファンを獲得し、特にサブカルチャーに与えた影響が大きいバンドである。
楽器隊のメンバー全員がテクニシャンなことから生まれた、テクニカルなハードロック、プログレッシヴ・ロック的サウンドに大槻ケンヂの超個性的な歌詞とボーカルが載るのが大きな特徴である。
少し歌詞を例に書こう。
”才能の枯れたヤツがいた
彼の人生は退屈だった
わけあって 人をあやめ
灯がつくように気付いた”(戦え!何を!?人生を!)
”僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!
犬神つきのはびこる街に やって来た男は
リュックサックに子ネコをつめた少年教祖様さ
「この僕が街の悪霊どもを追いはらってあげよう」
うさんくさげに見てる奴等に少年が言った
「この僕が怪しげなら あんたら一体、何様のつもりだ!」”
(僕の宗教へようこそ ~Welcome to my religion~)
”やあ!詩人 最近なんだかマトモだなあ?
やあ!詩人 随分普通のこと言うなあ?
やあ!詩人 奇をてらったりしないのかい?
やあ!詩人 世の中すねてる歳でもないかい?”(サーチライト)
などなど、どれもコレも癖がありそのジャンルも社会風刺から厭世的な世界感、コミカルなものなど多岐にわたっている。
僕が思うにこのバンドは人の哀しみや矛盾を描くのに長けているバンドなのだ。
ダメ人間の性や、人の愚かさ、滑稽さ、執念、後ろめたい気持ち…このあたりの薄暗いジャンルを書かせたら大槻ケンヂの右に出るものは居ないだろう。
そんなバンドだが、ヴィジュアル系を始めとするミュージシャンへの影響力の大きさもさることながら、新世紀エヴァンゲリオンの庵野秀明が綾波レイをデザインする時に彼らの楽曲をモチーフにつかっていたり、藤田和日郎、和月伸宏…
語ればキリがないのだが、クリエイターに対するその影響力は凄まじい。
機械の話に移るが、この曲はギタリストの本城聡章が作曲した曲であり、ポップさとハードロック的な格好良さが同居したナンバーである。
そこに大槻ケンヂの作詞が載るのだが、彼の描いたモチーフは「1人の狂人ともいえる科学者とそんな彼を信じたたった1人の女性の話」である。
さーて、妖精帝國のお話に戻るぞ!
まずはこちらを見てほしい。
ゆい様が筋肉少女帯にどういう思いを抱いているのか、その並々ならぬ物を感じられる。
サウンド面の話に移ると、メロディアス・ハードロック的な要素の強かった原曲に比べるとストリングスでゴシック的な雰囲気をプラスしている。
ギターのフレーズやドラム、ベースに至るまで原曲をリスペクトしているのか大きな変更はないが、ギターソロなどがメロスピ的な雰囲気に少し傾いてるのは個性の表出だろう。
リフの刻みが地味に格好良く、ここだけ何回も聴いていたくなる。
大サビのところではストリングスと楽器隊の絡みが非常に壮大で原曲以上にドラマチックなものになっている。
歌詞やゆい様の歌唱だが、原曲が男性ボーカルだったのに比べると女性ボーカルが歌うことで少し雰囲気が変わっている。
”髪かきあげ 図面引いて
奇妙な話を熱く語った
あの男は 狂っていた
本当に人を救う気でいた”
この部分は抑えめに原曲同様に歌っており…
”今、彼女が空へむける機械は
誰にも愛されぬ彼の思い出
彼女だけが一人男を信じた
きっと 彼女だけには見えるのでしょう
天使、翼が”
この部分では一気に思いを爆発させるように声を張り上げて歌っている。
妖精帝國でこのような歌い方は珍しいように思うので、ここも原曲に対するリスペクトと気合の表れなのだろう。
そもそも、この原曲と妖精帝國のカバーだと歌っているボーカルの性別が逆である。
これは、大事なことでこの曲は男女という明確な役割が存在する歌である。
それがまるで、この機械という曲を科学者を信じた女性の叫びのようにも感じられるものにしているし、元々少女性を描くことが多い筋肉少女帯において、楽曲の別な魅力をを引き出している。
原曲と聴き比べても遜色のない出来であり、筋肉少女帯と合わせて聴きたいナンバーである。
まとめ
このアルバムは妖精帝國がメタル志向を強めたアルバムであり、コンセプトやタイアップも含めて決意や力強さを感じるものが多い。
今作以降妖精帝國はさらに現代のメタル的な方向性を強めていくのだが、今作はメロディアスなサウンドが多く、メタラー、ヴィジュアル系リスナー、アニメソングを愛するリスナー…
他にも様々な層にアピールすることの出来るポテンシャルを持ったアルバムのように思う。
ハイクオリティでありながらも聴きやすい、妖精帝國の入門編にもってこいな作品である。
最後に
しばらく、ブログを書かずに他のことををしてたり、人と会ったり、本を読んだりしていましたが。いいリフレッシュになりました。最近は東京に関する本を色々読んでいます。
かねてからいろいろ書こうと思っていたのですが、メタル系の音楽はガッツリ書いてないなと思いこの題材を選びました。
妖精帝國はかなり特徴的で面白いバンドなので、このレビューから魅力が伝われた幸いです。
あと、書きかけの記事が色々あるのでそちらをまずは片付けたいなと思います。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!