ひっそりと産み落とされた至極の名盤~BAROQUE「PLANETARY SECRET」(2015)
はじめに
ハイペースな更新なのですが、書きたいものがいっぱいあるからです。
寄稿、という立場では出来ないことが自分のブログだと出来るのです。そのモチベを活かさない手はありませんよね。
書きたいものはほんとに多いですし、優先順位をつけるのは難しい。
そんな中で僕が近年で最も心を動かされたバンドであり、考え方や人生観に多大な影響をもたらしたこの作品を紹介することにしよう。
BAROQUE「PLANETARY SECRET」(2015)
- PURIFY
- PLANETARY LIGHT
- DREAMSCAPE
- CELEBRATE
- SKY WALKER
- SWALLOW THE NIGHT
- SILENT PICTURE
- ORIGINAL LOVE
- MEMENTO
全曲 作詞:怜 作曲:圭
BAROQUE - NEW ALBUM 『PLANETARY SECRET』 Trailer
オサレ系としてヴィジュアル系の世界に大きな影響を与えたバンドが、2人になって以降初のオリジナルアルバムであり、アートワークから歌詞カードまで細部に拘って作られている。
2人になってしまって心配していたファンも多い中、ベースにTOKIE、ドラムにかどしゅんたろうを迎え制作されたこの1枚には実は大きなテーマがある。
”惑星(この世)の秘密
「夜空に広がる星々を人々の生命の光になぞらえ
ひとり一人の魂こそが
この世界を創造するうえで必要不可欠な
唯一無二の大切な存在である。
というのが作品のテーマ
生まれて初めて見た星空を思い出すかの様に
現代社会の中で見失ってしまいがちな自分自身、
生きる美しさを見つめ直すきっかけになれば、
という願いが音楽を通して込められています」
(BAROQUE) ”
この壮大なテーマをたった2人でどう挑み、39分02秒の中にどうやって表現したのか
1曲ずつ見ていこう。
1.PURIFY
この言葉について検索すると次のような意味が出てきた。
- ~を浄化する、清潔にする、精錬する、清める、精製する
そして、音を聴いて驚いた。そのあまりに変化に。
BAROQUEが小文字名義だった頃はもっとポップな近年のヴィジュアル系に近く、疾走感のあるギターロックをやっていた印象だった。
しかしそのような影は鳴りを潜め、この一曲目からすでに一気にエレクトロニカに接近し、バラード調の曲の中に空間的な圭の隅々まで神経を張り巡らしたギターの音色が響き渡る。
それはまるで満点の星空に波紋が広がるかのような美しさ。
そこに乗る怜のボーカルはオートチューンを大胆に用いることで、いつもよりスペーシーな印象に。
約3分という短さながら、そのクオリティの凄まじさに圧倒される。
”1つ
星彩は生まれ
永遠の鐘鳴らして
刻をチクタク謳う”
一番最初のこの部分がいつ聴いてもまるで詩集のように美しい言葉だなと改めて思う。
アルバムの始まりとしてはかなり静かな印象だが、静謐さと包み込むような包容力を感じさせる素晴らしい曲だと思う。
まさに「PURIFY」の名にふさわしい心を清めてくれる歌だ。
2.PLANETARY LIGHT
昨今、絶望、厭世、孤独の歌なんてものは世界中決して珍しいことではない。
それは簡単にバーナム効果で共感を得られるのだろうし、そのような価値観の音楽は僕も好きなジャンルではある。
しかしどうだろう?そのような表現が真に迫っていない場合、その場限りのインスタントな共感と涙に終止し、音楽が止まると忘れられてしまう。ソレは演者やリスナーにとってあまりに哀しいことだ。
話を本題に戻そう。今作では圭のギターが星々のように微かにまたたき、怜のオートチューン混じりの「wake up dreamy special life」という言葉とともに、一気に弾ける。
それは一斉に星が目覚め瞬く、どこまでも果てのない夜に響き渡る全ての人間に対する讃美歌のようだ。
「wake up dreamy special life everything's gonna be alright」という歌詞に象徴されるように、そこに難しい言葉は使われていないし一切の絶望はない。
前述したような昨今にあるテーマとは完全な対極に位置する。
太宰治の晩年に「安楽なくらしをしているときは、絶望の詩を作り、ひしがれたくらしをしているときは生のよろこびを書きつづる」という言葉がある。
確かに、絶望の詩は心に響く。しかし、内面から絞り出されない空虚な絶望は演者にとってもリスナーにとってもその日の夕食やデザートの方が遥かに重要であるというものでしか無い。
それに需要はあるのだろうが、あまりに寂しいのではないか?
対してこの曲は太宰治が言うところの生の喜びを綴った曲である。kannivalismでもそのような歌詞はあった。しかしその頃はポジティブな曲の中に見え隠れする絶望。それは暮らしに疲れてしまったかのような諦念があったのだが…。
この曲はどうだろう、さらなる艱難辛苦を経て生み出されたこの曲は当時よりも強烈な説得力を帯びる。
もちろん何を見出すのかは聞き手次第ではあるのだが、そのコーラスと冴え渡るギター、何より曲自体の持つ圧倒的なクオリティは安易な絶望の歌よりも深く人々に余韻を残すだろう。
BAROQUE 12/25(fri) SHIBUYA VISION 「PLANETARY LIGHT」 HD
3.DREAMSCAPE
前曲のテンションをそのままに、更にアップテンポにしたナンバー。
宇宙を感じさせる深淵で静謐な雰囲気はそのままに、圭の空間系エフェクトを多用したギターがどこまでも無限に拡がる中に怜の歌声がどこまでも伸びやかである。
その美しさは本当に夢のような情景であり、宇宙を旅するかのような遥か彼方を感じさせる。
ディレイとクリーントーンを駆使したそのギターサウンドには昔のヴィジュアル系バンドが持っていたものを感じさせるし、ポップなメロディと伸びやかな歌声と合わさるといい意味で嫌なことをすべて忘れさせてくれる。
4分半弱の夢の世界に手を惹かれ、幸福と希望に身を浸すことが出来る。
そして、曲が止まっても心の中に残り続ける余韻は、ことあるごとに生きる活力を与えてくれるに違いない。
”手掲げて
give a cry a cry
滾る想い
解き放て 輝く先へ”
この「輝く先へ」からの声の伸びと、そこからのギターソロが鳥肌モノだから聴きましょう。
BAROQUE - DREAMSCAPE (Full ver.)
4.CELEBRATE
こちらはゆったりとした曲調のなかに静謐な電子音のヴァイオリンのようなギターが響き渡る優しいナンバー。
キーボードの音色も光るし、これまたオートチューンを効果的に使った浮遊感のあるボーカルとの相性も抜群にいい。
ドラムの手数は決して多くないが、要所要所に挟まることで曲の中でいいアクセントとして働くほか、終盤のシューゲイザー的な展開とギターサウンドが恍惚で心地よい。
聞けば聞くほど虜になる曲である共に、2人になったBAROQUEの持つ圧倒的な表現力とポテンシャルには驚かされるばかりである。
BAROQUE - CELEBRATE (Full ver.)
"旋律の方舟 calm the sky calm peace
奇跡の音 鳴り響く ring a bell ring a bell
beautiful day celebrate celebrate
sing a song for you celebrate celebrate"
後半の英語詞は数回繰り返されるが、約5分という長さの中にある歌詞はこれだけである。
歌詞を詰めないことで、曲そのものが持つ余韻やギターやボーカルの美しさ以外にも、ベースやドラムの調べなどを集中して聴くことが出来る。
アルバムの中での位置も含めかなり計算されて練られているのだろうなと思うとただただ敬服するばかりである。
5.SKY WALKER
始めに言っておく…
僕はこの曲がめちゃめちゃ好きなので寝る前に聴いてます。マジです。
いや、ほんとに言いたかっただけなんだけどそのくらい好きなんですよね…。
まず、空間系エフェクトのばっちり効いた圭のギターサウンドが本当に美しい。
エレクトロニカ的な要素とギターサウンドの組み合わせとして、コレ以上の正解は存在しないと思えるレベルで全ての歯車が噛み合っている。
そこに怜のボーカルが合わさることで、まさにタイトルに相応しい強烈な浮遊感を生む。
"teleportation recreation
静謐のカーニバル
playing
starry blue
密やかに弧を描く月虹
浮遊 歩く
teleportation illumination
真夜中を歩く
sky walker
imagination starry blue
wonder wonder wonderland
walk"
(歌詞からすでに浮遊感があるもんな…。)
2分半という時間、リスナーは現実の全てから離れ果てのない美しい夜空を旅することが出来る。
ソレほどまでの強烈な没入効果があると感じている。
後半から入ってくるガッチリとしたバンドサウンドとディストーションギターがさらなる世界へとリスナーを誘うようで心地よい。
そして、それらが活かせるのは怜の声質がぴったりそこにハマっているからであり…。
めっちゃ良いぞ!!
6.SWALLOW THE NIGHT
アンビエントやミニマルミュージック的な要素が強い今作の中で、おそらく唯一のロックサウンドが全面に出た曲であり、今までのbaroqueも感じさせるナンバーである。
といっても世界観を決して壊すことはなく、ギターの印象的なフレーズがバンド全体を牽引する中、どこまでも駆け抜けていく。
そのギターフレーズに合わせてボーカルもベースもドラムも、ひたすらに走り抜けていく。途中に入るフランジャーの効いたギターフレーズが良いフックになっている。
しかし、その疾走は逃避ではなく、むしろ未来へ向かって更にギアを上げていくという強い意志を感じさせる。
”彼方に霞む 光と影
水平線に明日を創るまで”
このような歌詞から見られる通り、そこに迷いや恐れは感じられない。
個人的はアルバムのクライマックスへと勢いをつけていくと共に、2人になったことへの不安を抱えているリスナーに対する意思表示でもあったのではないかと思っている。
7.SILENT PICTURE
全編に及び希望を感じさせるアルバムの中で唯一曲調にも歌詞にも陰が垣間見える曲。
ロングトーン主体の圭のギターが非常に印象的ではあるが、実はドラムのドラムンベース的なフレーズとしっかりとボトムを支えるベースが光っており、ボーカル以外にも聴きどころが満載である。
コレほどよく出来た曲はなかなか無いぞ…。
怜はそこにテンションを抑えたボーカルを合わせ、曲に静謐さをプラスしていく。
オートチューンによって無機質さが加わることも大きな要因だろう。
”求めて 求めて 求めて
偽りのない終生の愛を
いつまでも抱いて いつまでも抱いて”
深い思考の宇宙を彷徨う中でも愛や救いを求め、また他者に与えていこうとする姿勢は聴く人の胸を打つに違いない。
記憶の断片の海に沈みながらも、そこに留まらないという姿そのものが今作のBAROQUEが示したいことの1つなのかもしれない。
BAROQUE – SILENT PICTURE from LIVE Blu-ray & DVD ALL OF THE LOVE, ALL OF THE DREAM
優しさと包容力に満ち溢れたアンビエント要素の強いナンバー。
この曲とアルバム最後が今作のアルバムが示したいことの最終形を示してくれている、と僕は思っている。
大きな変化をしつつも包み込まれるようなギターサウンドやボーカルの伸びやかで優しい歌声は、アルバムの最初から今まで決してリスナーを突き放すことはない。そして、これからもそうであると言わんばかりの至極のバラード。
コレを聴いたときにわけもなく涙を流してしまった経験があるが、それは決して絶望に満ちたものではなくむしろ真逆である。
希望と祈りに満ちた涙は人を前に進める大きな力がある。僕はそう信じているし、この曲に限らずアルバム全てにソレが通底されている。
冒頭に述べたテーマに対して、一切のブレがない。
その中でも、この曲はBAROQUEの持つ母性を象徴してるように思える。そして、その愛はひとりひとりの人に向けられている。
"I love you
asleep awake
swear tomorrow"
BAROQUEがここまで壮大なスケールの音楽を作ると思っていなかったリスナーもいるのではないか?
星の降る夜の中で奏でられる母なる暖かな歌とともにアルバムは次でついにクライマックスを迎えるのだ。
9.MEMENTO
今作のシメでありクライマックスでもある、BAROQUEの産みだした時代を超えるバラード。そして唯一オートチューンを使用していない曲。
ギターの静かなアルペジオから、怜の歌声が乗る。
ソレはまるで世界そのものに語りかけているかのようだ。
そこから、バンドサウンドを全面に押しだし圭のギターは様々なエフェクトを用いながら壮大なスケールと様々な奏法によってアルバムの世界を縁取り、完成させていく。
ベース、ドラム共にアンサンブルを保ちつつ他の曲よりも主張してくる印象がある。
しかし、やはり怜の歌声はりんとそびえ立つ大木のように一切ぶれることがない。
しっかりとした指標があるからこそ、楽器隊は様々なチャレンジが可能なのだろう。
ラスサビの部分ではマーチングのようなドラムと安定したベース、ギターの澄み切った音がどこまでも拡がりゆく音像の中、
”四季彩は謳う
美しく咲き誇れよ
抱き上げた君へ
全てを与えよう 捧げよう”
と歌われ、一気にシューゲイザー的な甘美なノイズが曲を覆っていく。
それは39分02秒という時間に渡る旅の終わりを意味しているが、それは決して哀しいものではなく、夜明けや始まりを感じさせる優しいものだ。
これほどまでに優しさと力強さを感じるバラードを聴くと、彼らのやりたいことに納得せざるを得ないし、何よりも心の中が温かい気持ちになる。
この曲を聴けばこれからのBAROQUEも大丈夫だろうときっと安心すると思います。
最後に
実はこのアルバムからBAROQUEを聴き始めたのだが、自分の抱いていたイメージとあまりに違うことに驚いたのだ。
とても、落ち着いており、一切の隙がない。
いわゆるオサレ系の頃は浮ついていたところもなくはなかったし、この前のアルバムは少し若返りすぎていたと今は思う。
そして、色々なことが起こり2人になった中で、彼らが最初に提示したのがこのアルバムなのは本当に納得だし、クオリティも今までのものと比較しても段違いにいい(昔が低いわけでは決して無い、むしろ良質)。
このアルバムがプロモーションも控えめにひっそりと産み落とされたのは確かだが、
そのクオリティは数あるバンド音楽の中でも超特級品であり、エレクトロニカ、アンビエント系の音楽としても歴史に名を残すべき名盤だと思う。本当にそう思う。
ここまで、アルバムのテーマやアートワークとズレがない作品も珍しいなと思うし、彼らの音楽に対する姿勢の真面目さが垣間見える。
BAROQUE名義になって以降、あらゆる面でアート性が高まったのかアルバムのアートワークもライブの告知フライヤーもとてつもなく美しい。美術品として鑑賞していられる。
ちなみに、コレ以降のBAROQUEも素晴らしくて、L'Arc~en~Cielのkenをプロデューサーに迎えたことで更にクオリティを跳ね上げていくのだからある種の狂気を感じる。
近年のBAROQUEはあんまり知らないな、という人もいわゆるヴィジュアル系というジャンルには疎い人も、このアルバムを是非聴いてほしい。
君の世界は聴く前と後で一変するだろう。