ミルクレープを崇めよ…

自分が個人的な思いの丈を延々と書き連ねていくサイトです。

好きと知りたいの間にあるもの-行動原理から考えるオタクの和睦

はじめに

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無気力な人のいらすともある、いらすとやは恐ろしい子だよほんとに・・・

 ひさびさのブログ更新ですね、ほぼ1ヵ月!

いや、別にモチベーションがあがらなかったわけではないんですよ。

 実はブログを書いている間、結構な時間を書くことに費やしているので買ってた本とかが何十冊も溜まっちゃって、これはいかんなと思ってちまちま消化してたらすっかり更新を怠ってしまって。よくないなと思いました。

 そんなこんなでいろいろな題材の本を読んでました。都市計画だったり、エッセイだったり、ドキュメンタリーだったり…。

 

 そういうある種インプットをしてきた中で、なんとなーく浮かんだことを書いてみようと思います。ぜひ最後までお付き合いください。

 

 

  • 目次
  1. オタクは好きが溢れている、狂っている
  2. オタク≠物知り
  3. 好きと知りたいの差って?
  4. 総論

 

1.オタクは好きが溢れている、狂っている

 まず、僕はオタクをこういう種族というかこのようにぼんやりと認識している。

 例としてアニメオタクを考えてみよう。

 

 彼らにもいろいろタイプは存在するのだが、ある者は毎クールアニメを欠かさず視聴し、ある者は声優に熱を上げて音源やライブを熱心に追いかけたり、またある者はアニメの演出面や技術的な部分からいろいろと考察をしたり…。

 

 これらの行動は好きじゃなければできないことである。

 

 まあ、当然である。仕事であるならかかわらず、これらの活動はまったくもって金にならない。むしろ金が減っていくばかりである。

 好きじゃなければできることではない。しかも、いまだにオタク以外の人間からは奇異の目で見られることは確実なのだから、その外圧にも屈しないでやれてるんだから、当たり前だが本当に好きなんだなと感じさせる。

 

 実は、これらの行動は何も「アニメ」というカテゴリに限定される話ではない。どのオタクに対しても成り立つ。音楽だろうと電車だろうとミリタリだろうと、このロジックは成り立つ。

 

 かく言う自分自身もそのようなオタクの1人である。そこに損得の感情はないし、このような活動をしていると心が充足するから続けているに過ぎない。

 

 先ほど非オタクの人間からは奇異の目で見られると言ったが、僕はそれを仕方のないものだとして受け入れている。

 普通、という形容もおかしいのだがやっぱり社会生活を営む人間というのも生物の一種である。そのため当然打算やリスク管理などある種の生物的本能とも言えるものが働く。それが現代の人間で言えば「金」であり「時間」の分配にあたるのだと思う。

それらはすべてリスクを回避することと将来の利益獲得のための行動である、そう考えている。

 

 しかし、オタクはどうだ?

 金も時間も情熱も、下手したら衣食住にいたるまでオタク活動のために犠牲にしている者も珍しくない。

 

 これすごくない?

 

 自分で振り返っても完全に狂っている。リソースの配分の仕方が完璧にぶっ壊れている。

 精神的な充足はともかく実利的なリターンが見込めるわけではない。むしろ出て行くもののほうがはるかに多い。

 近年ではSNSの発達で趣味と人間関係の距離が近くなったとはいえ、常日頃会うような間柄の人間は距離的にも少ないだろうし、人間関係構築に割く部分もどこか狂っている。

 

 それでも彼らはやめない。

 好きなのだからやめるわけがない。

 

 僕はこの非合理的かつ狂った行動理念を人間とほかの生物を分けるもっともらしい部分であると感じている。

 断っておくが、別にオタク活動することが偉いとは思っていない。

 

 こういうことを書くとすぐオタクは偉いみたいなことを言いたがる人間が出てくるので、今一度言っておくのだが別に偉くもなんともない。

 

 リソースの配分の仕方が完全にぶっ壊れている、そう僕は言っているのだ。

 

 そう思うと奇異の目で見られても仕方がないと思うのだ、だって「違う」んだもん。

 非オタクとは行動理念もリソースの割き方も、考え方も何から何まで異なる。

 

 そこまで違う存在を理解する、というのは容易ではないのだ。

 

 このようにオタクには好きがあふれている。狂気的なまでに偏愛で満たされている。

それがオタクなのだと自分は感じている。

 

2.オタク≠物知り

 最近はそんなに多くないと思うが、今でもオタクというと物知りであるイメージを持つものも現存している。

 

正直、SNSはじめるまでの僕もそう思っていた。

 

 オタクは好きなことがいっぱいあるからいっぱい勉強するのだ…そんなことを思っていたのだ。

 しかし、実際にSNSを始めてみたらそれは完全に間違った認識だった。

 

 よく考えたら当然である。オタクと言うのは好きが溢れた人たちなのだ。別にそれは物知りであることを担保しない。

  好きなことには詳しいけど、ほかの分野はちょっと…、というものでもない。

 人によっては当然好きだからいろいろ知りたいというタイプの人間もいるだろうが、必ずしもそうではない。

 好きだから、それを声高に叫びたい者やみんなと気持ちを共有したい者(ここら辺でなんだかんだオタクも人間なのだということがわかる)、

ひたすら好きなモノに囲まれていたい者などその内訳はさまざまなのだ。

 

 その中に物知りという存在がたまたま含まれている、とうだけなのだ。

 

 そう、たまたま「好きだからもっといろいろなことを知りたい!」というタイプの人間がオタクであるというパターンである。

 

 好きだからこそ常にいろいろな知識をインプットして好きなものへの理解をより深めていく。場合によっては直接関係のないようなことまで調べ上げて、それを材料にしたり強引に結び付けていく。

 

 このタイプのオタクは実はそんなに多数派ではないということを先に理解しておく必要がある。

 

 ここの前提が意外と抜けがちだからこそ、オタクなのに物知りなタイプではない人を見るとなんともいえない不思議な感覚に陥るのだ。

 

3.好きと知りたいの差って?

 SNSというツールで人とつながるようになった僕がここ最近常々考えてるのがこのテーマである。

 オタク云々ではなく、そもそもこの両者は何が違うのか?

 

 もちろん、オタク的な性質を持つことと知的好奇心が強いタイプの人というのは共通項を持つことはあるのだが、先ほど述べたように別に同一の存在ではない。

 

 僕はこれを「精神的に満足できるかどうか」の差であると認識している。

 

 物質的な面ではなく、知りたいことが多い人間というのは基本的に満足できない。

  

 好きなことだけに囲まれていれば満足できるタイプの人、というのは満たされているように思える。

 もちろんリソースの配分は狂っているが、彼らは好きなものに囲まれていると心が安定し、「これでいい」と認識することができる。そしてそこに疑問を抱くことはない。

 

 物知りなタイプ、知りたいオタクはそうではない。

 

 僕が何でも知りたがるタイプの人間だからそう思うのだが、基本的に満足できない。

 人からほめられようが、好きなものに囲まれていようが、他人より知識があろうが満たされることはない。

 なぜなら知らないからである。このような人間にとって知らないということは一種の楽しみでもあるがストレスでもある。

 

 完璧な理解をしないと気がすまないのだ。しかし、完璧な理解などはこの世に存在しないのでまた新たな疑問が浮かび、それをまた調べて…というプロセスを延々と繰りかえす。

 

 たとえばとあるアーティストがいる。

「好き」という部分で充足できる人間は、彼らの曲を聴いているだけで満足できる。

 少しいろいろ知りたいと思うことも人間だからあると思うが、それが過度に広がっていくことはない。

 そして時に感情を共有して一緒に愛好したいのかもしれないが、それは知的好奇心に基づく行動ではなく、感情が水のごとく広がっていく横方向の心の動きである。

 

 「知りたい」もしくは「知らないと気がすまない」人間は、それでは満足できないのだ。

 

はたしてどのような影響でこのような音楽になったのか?

そもそもこのアーティストはどういう人間なのか?

この音楽が成立した社会背景は?

ほかにどういうのがいるのか?

過去から現在にかけてどのように評価が変遷してきたのか?

 

…などなど、ありとあらゆる場面に即座に疑問が浮かんでしまう。なぜなら、対象を完璧に理解していないから。

 

 そして、他人と共有することよりも知識をひたすらに深めることに充足感を覚える。

しかし、それも長く続くわけではない。疑問というのは生きている限り終わらないからである。そして、完璧な理解というのは不可能だからである。

 

 調べれば調べれるほど、自分の知らないことが見えてくる。そしてそれは解消したいことだから、また同じことを繰り返す。

 

 これは掘削のような心の縦方向の動きだろう。これはどちらが高尚であるかとかそんな話ではない。単純な違いである。

 

 このように根本的に行動理念や心の動きが違うのだ。

 

 以上のことを理解していないと、「好き」と「知りたい」のスタンスが違う人間同士が衝突を起こす。

 お互いがお互いの行動理念を一切理解できないからである。不毛なことだ。

 

 精神衛生的にはおそらく前者のスタンスのほうがいいのだろうが、後者の人間が前者に変化するのも、その逆もなかなか難しいんだろうなと26年の人生の中で感じている。

 

 お互いに尊重して生きていければ、それが最高なんですよね。なお現実…。

 

4.総論

 違いがあるオタク、どっちも一般人から奇異の目で見られるのは変わりないんだから仲良くしましょう…

 

 そこまでは言わないけど、まあお互いバトルしあってもいいことはないし、
モンロー主義(かつて、アメリカとヨーロッパが相互不干渉を決め込んだやつのこと)を貫こうね。

 友達100人できるかな、とかいう歌が悪い、世の中敵ができなきゃそれでいいんだ…。

 

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 僕はこういうスタンスだから、敵どころか友達もろくにうまく作れないんですけどね。

 

最後に

 なんかいろいろなことを思い出しながら書きましたよ。

 単純な書き方もそうですが、気分の乗せ方とかも含めてなんとなくリハビリになった気がします。

 最初のほうはかなり気負いながらブログやってたので、このくらいの適当さがいいのかもしれません。

 これからもマイペースにぼちぼち更新していけたらいいなあ、そんなことを思いました。

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

 

アーティスト人生における新たなる船出~妖精帝國「PAX VESANIA」(2013)

はじめに

 書きたいことがあるのに自分の執筆能力がそこに追いついてないので、テーマと書きかけのものばかり溜まっています。アキオです。

 これまで色々な音楽を書いてきましたね、とは言ってもヴィジュアル系を通してとかアニソン絡みですが、ポップスからパンクからモダンメタルからフラメンコまで、色々書けました。

 

 しかし、僕は忘れていた。自分がメタラーでもあるということを…。

そして思い出した、ゴシックとメタルの恍惚を…。

 

 そうなんですよ、ゴシック系の音楽とかメタルも好物なのにココ最近は激しい音楽はちょっと、みたいないっちょ前に落ち着きましたムーブですよ。

 それを打破するために改めて聴き直したこのアルバムがまた自分に刺さったので、今回はこの作品を紹介しようと思います。

 ちなみに知ったキッカケはNHKのアニソンスペシャルでしたがそれ以来なのでそろそろ10年目の臣民になります。

 

妖精帝國「PAX VESANIA」(2013)

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PAX VESANIA

PAX VESANIA

 
  1.  
  2. Astral Dogma
  3. Solitude
  4. 狂気沈殿
  5. ココロサンクチュアリ
  6. 月鏡反転シネラリウム
  7. Siege oder sterben
  8. missing
  9. The Creator
  10. Herrscher
  11. 空想メソロギヰ
  12. 葬詩
  13. 機械

 ボーカルが紅一点なゴシックメタルバンドのメジャーデビュー後のオリジナル4thアルバム。

 

 妖精帝國を知らない人のためにまずはこのバンドの説明から入ろう。

 

第0章 妖精帝國とは

1.概要

 所属レコードは株式会社バンダイナムコアーツのレコードレーベルであるLantis

 

 妖精を信じる人が少なくなってしまった現代。人間がいつしか忘れてしまった純粋な心を思い出してもらうというコンセプトのもとに活動を開始。音楽を通して荒廃した妖精帝國の再興させる…。

 

 というバンド。ちなみに人間界で言うところのライブは「式典」、ファンは「臣民」と呼称する。なんか、デーモン閣下のあのバンドと少し似てる気がするが気のせいだ。気のせい。

 ちなみにボーカルのゆい様の御言葉によると「最初は優しく諭していたのだが皆聴く耳を持たないので、今は大声を張り上げて伝えている。」とのこと。

 

 デビュー当初はテクノやゴシック、トランス、ヘヴィメタルを組み合わせたシンフォニックで重く激しい音楽を披露していたが、本格的なヘヴィメタルへの転換を求めたゆい様と橘尭葉は徐々にバンドメンバーや機材を補強していき、今作から本格的なヘヴィメタル路線へと移行することとなった。

 

 作詞は主にゆい様が行い、橘尭葉含めた下士官が作曲、編曲を行う。ちなみに作曲と編曲は同じ者が行うことが多い。

 

 ちなみに電気式華憐音楽集団と勘違いされることもあるが別物だからな。メンバーが少し被ってても別物だからな。

 

2.メンバーについて

   妖精帝國という名前ではあるが、実は妖精なのはボーカルであるゆい様のみ。

 他のメンバーは人間である。

 

 まずは現在のメンバーを記していく。

 

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 画面中央の女性。歌唱と作詞を担当する。横浜BLITZで挙行された特催公式式典「920Putsch」にて終身独裁官に就任。

 作詞の時の名義はYUIであり、臣民からはゆい様、殿下と言われている。ヘヴィメタルの女性ボーカルとしてはキュートさのある声質が特徴で、これが妖精帝國と他のバンドを大きく分けているところでもある。

 実はバンドを始める前はLINDBERGJUDY AND MARYを聴いていたが、妖精帝國ヘヴィメタルを取り入れるという過程の中で、Within TemptationIn This MomentFlyleaf、他にはThe Agonistといった女性ボーカルのヘヴィメタルバンドを聴くようになる。

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小さな頃から

小さな頃から

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  • 橘尭葉(たちばなたかは 少尉→大尉)

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 担当はキーボード、ギター、作曲、編曲。元々はただの人間だったが、ゆい様と出会い鮮血の誓いを結んで以来ゆい様の忠実な僕へと…。

 前述したように担当していることがかなり多い、ソレに加えて時にヴァイオリンを駆使し妖精帝國の世界観を形作っている。

 音楽や打ち込みに目覚めたキッカケは小室哲哉、バンドを始めるキッカケはX(現X JAPAN)とLUNA SEAである。きっちり担当に反映されているのだからなお面白い。

 他にはタイトーの音楽開発部門であるZUNTATAのOGRこと小倉久佳が大好きであると語っており、他にも浅倉大介菅野よう子を好むという。

 ネオ・クラシカル・メタルの開拓者、Yngwie Malmsteenを好んでいるところからその手の音楽からも影響を受けているのだとか。

 ステージングの面でも小室哲哉浅倉大介LUNA SEASUGIZOから影響を受けている。

 バンド開始当初はキーボードでメタル要素のあるナンバーを作っていたが、メジャーデビューをきっかけにメインパートをギターに変更する。

 メジャーデビュー後は妖精帝國以外の活動を余り行ってこなかった。しかし、2014年にDIR EN GREYの京のサイドプロジェクト、sukekiyoの1stアルバムにリミキサーとして参加するという色々な意味で驚きの活動を行った。

 

 

 

紅 -青い夜 完全版-(Short.ver.)

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End of Sorrow

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G ZERO

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MISTY HEARTBREAK

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  • Nanami(ななみ 伍長→准尉)

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 担当はベース、作曲、編曲。2010年加入。北欧のハードロックやヘヴィメタルを好む。ベースを担当しているが作曲する時はデモの時点ではギターも演奏する。またYngwie Malmsteenが演奏するベースには強く影響を受けている。

 北欧メタルはヘヴィメタルサブジャンルの1つで、今では細分化してその説明は難しいが、以下にバンドの一例を掲載しておく。

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  • Gight(がいと 軍曹)

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 担当はドラムス、作曲、編曲。ESPミュージックアカデミー出身。2013年加入。

 小学生の低学年からマーチングバンドを担当しており、中学高校では吹奏楽を担当する。ドラムをはじめたキッカケはあんまり無かったらしいが、それがズルズルと伸びてB'zを聴いたのを機にドラム・セットを叩いてみたのだという。そして、そこからL'Arc~en~CielやSIAM SHADEを叩くようになったのだとか。

 ドラマーとしてはスタジオ・ミュージシャンの山本秀夫青山純(1957年3月10日 - 2013年12月3日)から特に影響を受けており、他にもMETALLICAのLars UlrichやMötley CrüeのTommy Leeからもステージングやプレイヤーの双方の面で影響を受けている。

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Don't Tell Lies

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  • XiVa(さいば 伍長)f:id:lunaxxx:20190206230730j:plain

 2019年に加入した新ギタリスト。2019年に1月20日味園ユニバースで開催されたストロベリーソングオーケストラ主催『怪帰大作戦~新春見世物地獄~』で初披露された。

 まだ情報があまりないのだが、元々はポスト・ハードコアバンド、7years to midnightのギタリストであり今後が楽しみである。

 ちなみにこのバンドで初めての白を基調とした出で立ちのメンバー。

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 ちなみにこのアルバムではもうひとりのギタリストは違う方だったのでそちらも参照されたし。

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 2013年に加入。2018年2月17日のやむにやまれぬ事情の末(詳しくは後述)、川崎で行われた式典で脱退、というより除隊。

 ESPが運営する専門学校「MI JAPAN」出身であり、ヘヴィメタルバンド「LIGHTNING」の元サポートギタリスト。

 2008年にUnlucky Morpheusを設立し、再度述べるが2013年からは妖精帝國に、2014年からは電気式華憐音楽集団に加入。また。2015年1月からはそれまで別名義で行っていた活動を紫煉に統一する。

 実はアマチュア時代から妖精帝國のファンであり、加入後は自分が良いと思っていたバンドの要素をより増幅させ、足りない部分を補うことを意識して活動していた。

 本人曰く「もっとこうしたら自分好みになるというのを実践できるのが楽しい。」とのこと。

 2016年末よりある意味ギタリストの職業病でもある腕の腱鞘炎に悩まされることになり、その後様子を見ながら1年間活動を続け一時は回復に向かったと思われた。

 しかし、ニューアルバムの製作等で再発。レコーディング量や2018年以降の妖精帝國の活動、ギタリストとしての将来も考慮し、メンバーとの度重なる協議の上前述した2018年2月17日の川崎での式典で除隊になった。お疲れ様でした…。

 

 このアルバムから紫煉が妖精帝國のギタリストとして音源を録音している。

 

 ロックを好きになったキッカケはX JAPANであると語っており、そこからヘヴィメタルを知り色々と手を広げていったらしい。ヘヴィ・メタルの中でも海外の高速でメロディアスないわゆるネオクラ、メロスピ的なバンドに影響を受けたようでANGRA、Rhapsody of Fire、Sonata Arcticaなどをを好むようである。

 また、Raphaelなどの90年代のメロディックヴィジュアル系バンドも好むほか、メタル・コアやDjentも好むようでPeripheryやBorn Of Osirisなどもフェイバリットとしてあげている。

 ギタリストとしてはイングウェイSteve VaiLUNA SEASUGIZOに影響を受けていると語っており、他にもPat MethenyAllan Holdsworth(1946年8月6日 - 2017年4月16日)からも影響を受けている。

CARRY ON

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Holy Thunderforce

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  • Rhapsody
  • ロック
  • ¥250
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花咲く命ある限り

花咲く命ある限り

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以下は紫煉が関わったバンドである。

 

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prima dynamis

prima dynamis

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 まあ、こんな感じなのだけど、ゆい様、橘尭葉、Nanami、Gight、紫煉のメンバーではじめてアルバムという形になったのが今回僕が紹介する「PAX VESANIA」。本作では可能な限り全て生バンドによる演奏で録音をしている。

 

 ちなみにこのバンドの結成は名古屋なので僕は彼らを名古屋系だと強引に認定しているぞ、僕は基準がガバガバなので。

 

 ここまで長かったけど1曲ずつ見ていこう。

 

 アルバムのレビューに関してだが、特別な表記がない限り作詞はYUI、編曲は作曲者が行っている。

 

1.序

序

  • 橘尭葉
  • アニメ
  • ¥250
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 1曲目はインストではなく俳優、声優の内田尋子のナレーション。

  個人的にゴシックにとって重要なことは世界観を重んじることなのだが、その点でもつかみはバッチリだと思うし、何より熟練の技によるナレーションがマジで上手い。

 ソレもそのはず内田尋子は多数の演劇、CM、TVドラマ、吹き替えなどを担当しているベテランの方である。下手くそな訳がない。

 

 ゴシック的な世界観、インダストリアル、モダンメタル的な荘厳で重々しいサウンドの中に載せられる熟練の技による年季の入った声による素晴らしいナレーション。

 

 これでピンとこないやつおるん?

 

 しかも、そのセリフもたまらないんですよ…

 

”歴史家たちは後にあの時代をそう呼んだ

人の心と现世の狭間にある彼の大帝国

埋め尽くされた広陵 溢れ出る命の泉 常勝必殺の大軍団”

 

”臣求む心の静謐

美味なる毒の杯

緩やかな恫喝

狂気によりもたらされた平和”

 

こういう仰々しいセリフたまらなくない?僕はたまらない。

 

 ちなみにこのアルバム自体にはコンセプトがあるのだが…

 

妖精帝國の歴史書をお読みになられていたゆい様が、妖精帝國の過去に独裁による平和と繁栄の時代があったことを知る。この頃の時代に興味を持ったゆい様は、これをモチーフにアルバム製作を開始する…」

 

という感じのもの。

 

 話は変わると、独裁による平和というとまあ旧ユーゴスラビアが代表だろう。ただ、恐怖政治ではなかったっぽいのでどちらかというとスターリンの頃のソ連とかそのへんだろうか。

 アレを平和と呼ぶのなら、という話…。

 

 話がそれたが、まあそんなことを踏まえて最後の部分を読んでほしい…

 

遠い昔に封印された書に眠る常暗の言葉

幾星霜を記したその書の巻を解き

心を夺われたあのお方は 書を閉じそっと呟いた”

 

 ここはその書物を読んだゆい様のことを表している、という事実は容易にわかるだろう。

 

 「PAX VESANIA」の意味はラテン語で狂気による平和である。意味としてはPAXが平和(パックス・ロマーナを参照してください)、VESANIAが狂気。そのことを考えると実はこの序の部分は単なる世界観の構築だけでなく、アルバムコンセプトの理解にとってとても重要なのだ。

 

 そして、ゆい様が最後に「PAX VESANIA」と呟くことで次の曲に繋がるのだが…

 

 ここの部分はいつ聴いてもゾクゾクする…。

 

 アルバムの1曲目としては完璧な導入だろうと個人的には思っている。

 

2.Astral Dogma 作曲:橘尭葉

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Astral Dogma

Astral Dogma

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 荘厳なコーラスと疾走感が特徴なメタルナンバーであり実質アルバムのリードトラック。

 

 1曲目の語りから、この導入は完璧ですよ。100点中120点な回答。

 

 このメンバーでアルバムを作ったのはこれが初めてだと記憶しているが、まさかこんなキラーチューンを作ってくるとは…。

 

 ぱっと聴くと普通のメタルなのだが、実は構成がかなり独特で、

 宗教的なパーカッションと荘厳なコーラス→ゴシック・メタル的な重々しさと綺羅びやかなキーボード、そしてインダストリアル的なボーカル加工→メロスピなサビ→サビ後にまたゴシックになる…。

 

 という具合にメタルのおもちゃ箱である。

 

 しかし、そこに不自然なつなぎは感じられない

 原因として一番考えられるのはその美麗なメロディラインとフレーズ構成のうまさ、そして独特な声質のボーカルだろう。

 

 妖精帝國はアニメソングを多く担当することやメインコンポーザーである橘尭葉がポップな音楽も好むこともあってか、メロディラインがポップな物が多い。

 ポップなものというのは玄人から馬鹿にされることが多いのだが、ポップ性というのは音楽を聴く間口の広さや違和感なく様々な要素を盛り込ませる上で極めて重要なことである。

 

 また、その各楽器隊のフレーズ構成の巧みさが、つなぎを滑らかなものにしている。

そのために、様々なメタルの要素を盛り込んでいてもそれが違和感なく聴ける様になっている。

 間奏でバリバリに盛り込まれた紫煉のギターソロや、バックで鳴り続ける硬質なドラムがメタルであることをバリバリに主張している。

 そして、1番の特徴はそのボーカルだろう。

 

 妖精帝國の初期のコンセプトの中に「ゴシック・ロリィタ」というものが実は存在している。

 個人的にロリィタの核は少女性、だと思うのだがそこに合うようにするならやはり声質は少女的な声のボーカルでなくてはならないと思うのだ。

 この声質がアニメっぽいからあんまり…という声も聴くが、この低音主体の楽器隊に高音主体のボーカルが乗っかることはこのバンドの初期の面影を見せると共に、他のメタルバンドとの差別化のためにも重要だと考えている。

 

 歌詞も、ヘヴィ・メタルが好きな人、というかヴィジュアル系的な仰々しい世界観が好きな人間にはたまらないものになっているだろう。

 

”時は奏でる陰鬱な大時計蒸気の帳で 無我夢中

金塊を蓄えて聳える摩天楼で毎夜のマスカレード”

 

とか最初の時点でもう格好いい。

 

サビの部分では楽器隊とボーカルがユニゾンしているようなサウンドに載せて…

 

”原初明かす記されたるコトバ 「終焉(おわ)るセカイ」

末路示す秘められたるコトバ 「興(おこ)るセカイ」”

 

 この部分は荘厳なクワイアとボーカルの掛け合いも含め非常に格好いい。

 

 初の5人態勢のアルバムとしてそのつかみはバッチリだと思うし、これを聴いてメタルバンドじゃないとか言わせないと言わんばかりの迫真の出来であるとと思う。

 

 ちなみに、個人的にはサビの後の

 

”揺れる炎宇宙元素エーテル

虚空輪廻対のアカシャ

眠る生命(いのち)アストラルの幻影

リピカ綴る自己のイデア

 

 この部分がくっそかっこいい。格好いい。

 

3.Solitude 作曲:紫煉

Solitude

Solitude

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 クサメタルっぽさ全開のメロスピナンバー。

 

 作曲は紫煉であるが、彼の持つネオクラ、メロスピ的要素が存分に反映された形である。

 ツインギターによる重厚なリフといい、硬質で速いドラム、低音の聴いたベースと言い、妖精帝國が徐々に志向していくようになった音楽がメンバーの拡充を経て完全な形として表現されている。

 妖精帝國ヘヴィ・メタル化というのは初期やユニットだった時期から追いかけている人間としては複雑らしいが、元々がハードテクノ要素があったとは言え、徐々にメタルに接近していたことを考慮すると必然である。

 何回もいうが5人体制になったのも、妖精帝國の音楽性のためには必然の流れだったし、多様なメンバーによって本格的なメタルのエッセンスが注入されることになったのも、また必然の流れなのだ。

 

 イントロからドラムと高速フレーズ、そしてリフの重厚なバッキング…メタラーなら垂涎のセオリーの連発である。そこから楽器隊はノンストップで走り抜け、サビでは更に開放感をプラスしていく。所々間奏で鳴っているキーボードの音色が、ゴシック的な匂いをそこにプラスしていく。

 ある意味で日本のメロディアスなメタルの様式美と言えるような曲である。

 そして、そこにゆい様のボーカルが乗っかるようになることで他のバンドにはない少女性や聴きやすさがプラスされるのである。

 

 メタラー的には声質や歌い方に賛否両論が出るところはなんとなくSADSと重なるのだが、ボーカルの個性というのはバンドにとって極めて重要だと考えているので僕はコレでいいと思うのだ。

※これがSADS

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 曲の話に戻るが、タッピングが炸裂している箇所もあるし、勿論ギターソロは弾きまくるしで、妖精帝國のコレまでにあったポップさにヘヴィ・メタル的な様式美やテクニカルさをプラスしていく所が非常に良い。

 ドラムの手数も多く、テクニカルでかつ高速フレーズを出されるとこれもメタラーとしては何とも言葉に言い表せない感動がある。

 その中でも、バッキングのサイドギターやベースがきっちりと支えることによってこれらのフレーズがより一層引き立っていることは忘れてはいけない。

 こういう存在があることで伸び伸びとテクニカルにやれるのである。

 

 歌詞は基本的に決意に満ちた歌である。

 

”風よ走れ空を薙ぎ

自由を知った野鳥の如く

刻よ廻れその度に

今の私創り変えてゆく 美しく”

 

とか

 

”自由な思考が私の美学を研ぎ澄ましてゆく

進化を邪魔する忠告紛いの口撃に負けない”

 

 このあたりは、アルバムコンセプト以外にも、単に自分たちが路線方向をする時の決意のように思える。何の躊躇もなかったわけではないのだろう。

 ここのサビの部分に背中を押される臣民も多いだろう。

 

”ソリチュード

始めは小さな心の兆し

変化を求めた者だけ猛く能(あた)う

素通りの日常抜け出すなら

自分が変わるしかない NO FEAR”

 

 この部分は行動の大切さを呼びかけているようにも単純に思えるし、アジテーター的な意味合いではなく単純に呼びかけているような優しさを感じられるのだ。

 

 こういう歌詞にゆい様のお人柄が出てるなあ、と僕は思うと共に…

 バンドコンセプトとは裏腹に歌詞がとても優しいのは聖飢魔IIをやっぱり思い出すのだった。こちらも比類なき素晴らしいバンドである。

 

 


4.狂気沈殿 作曲:橘尭葉

 インダストリアル的なビート感が特徴のナンバー。OVA未来日記リダイヤル」テーマソング。

 

 元々、妖精帝國はシンフォニックかつ打ち込み要素の強いユニットだったのだが、その時代の影を色濃く残した形である。

 

 イントロのインダストリアル・メタル的なフレーズや音の質感はどこかNine Inch NailsやMinistryや一時期のKilling Joke,Godflesh、Marilyn Manson、そしてKMFDMが個人的には挙げられると思う。

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Streetcleaner

Streetcleaner

  • Godflesh
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Wardance

Wardance

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 彼らはみんなアプローチは違えどインダストリアルとメタルを組み合わせた先駆者たちである。

 しかし、橘尭葉と異なるのは、その世代である。

 

 何を言っているのかと思うかもしれないが、これは非常に重要な要素である。

なぜなら、世代により通ってきた音楽の質やジャンルが異なることがある。それは例えメタルというジャンルの中でも変わらない。

 

 橘尭葉は年齢非公開のはずだが、彼がX JAPANLUNA SEAやイングウェイを影響源に挙げていることを考えると、おそらくインダストリアル・メタルもNine Inch NailsMarilyn Mansonあたりの世代を通っていると予測できる。

 

 それだけなら模倣になってもおかしくはないのだが、そうならないのは妖精帝國ゴシック・メタルメロディック・スピード・メタルの要素があることや、5人による多彩なアプローチが可能であることが大きく作用していると思える。

 

 普通にインダストリアル・メタルに比べるとテンポは速めであり、規則的なビート感もあるが生感がかなり強い。何よりやはり声質と耽美さ、更にもうひとりのギタリスト紫煉のアプローチが弾きまくるタイプのメタルであること。これはやはり差別化という点でプラスに働いている。

 

 色々探してみたが、リズム隊の疾走感やゴシックでハイテンポ、それでいてインダストリアルでメロディアスでシンフォニック・メタル的というのは中々見当たらない。

 一番近いなと、個人的に思うのはKlaha在籍時のMALICE MIZER(マリスミゼル)Moi dix Mois(モワディスモワ)だろうか…

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 このように親和性の高い音楽はあることはあるのだ。しかしながら、それでも決して似ているとかそういうわけではなく「なんとなく近い」というあたりが独自性が高いバンドだなと思わせる。

 

”暁に燃える空の下

自らに科した意志を呑み込む

纏わり付いた霧は晴れて

折しもその目は翳りを帯びる”

 

 歌詞に関しては、未来日記の内容のシリアスさを意識しつつもやはり意志の強さを感じさせる。 

 何回も言うが、僕はこのような歌詞とメタル路線への転換は決して無関係ではないと思うし、そのためにちゃんとメンバーまで揃えたゆい様と橘尭葉には並々ならぬ決意を感じる。

 

 ロディック・スピード・インダストリアル・シンフォニック・メタル、というありそうでないジャンルと言っていいナンバーであり、妖精帝國というバンドの幅広さを思わせるナンバーだ。

 

”分からないもう何も分カラ な イ…

ワタシアナタダレナニドコニイル ダレカ!!”

 

な イ…。の感じが凄いヴィジュアル系っぽくて好きです。

 

5.ココロサンクチュアリ 作曲:Nanami

ココロサンクチュアリ

ココロサンクチュアリ

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 イントロのチェンバロの響きが美しいミディアム・テンポナンバー。

 

 妖精帝國が元々得意としてるゴシックメタル的な要素を突き詰めつつ、メロディアスに仕上がっているのは原曲者の影響もあるだろう。

 

 前述したが作曲者のNanamiが好むのは北欧のハードロックやヘヴィ・メタルである。

 そもそも、北欧はやたらとヘヴィ・メタルを愛好する人間の人口が多いのだが、ソレはなぜなのか考えてみよう。

 

 まずはこちらの図を見てほしい。

f:id:lunaxxx:20190209201326p:plain

(出典はこちら)

amass.jp

 人口100000人あたりのヘヴィ・メタルのバンド数を分布図にしたものだが、色が赤いほど多い。これによると北欧が突出して多いのがわかるだろう。

 

 そもそも北欧はメタルの歴史が長いのだが、特にこの20数年間において、デス・メタルブラック・メタルの排出人口が多い。理由をもっともらしく言うと「日照時間が少なくて外でやることがないからこもってデス・メタル」なんてのもあるらしい。

 

 80年代のメタルシーンというと後に世界的な成功を収めるMETALLICAがデビューしたり、Judas Priestがイギリスから生まれ、アメリカに進出し成功をおさめるというように英米が中心であったと記憶している。

 しかし、その中でゴシックな要素やダークな要素が強かったブラック・メタルや、また別の流れではオーケストラの要素を盛り込んだメタルが、北欧で息をし続けていたのであった。

 北欧メタル(デス・メタルブラック・メタルではない北欧のメタル)、というのは日本でしか通じない呼称であるが、共通する彼らの特徴として叙情的なメロディ、大げさな展開などが特徴としてあげられる。

 

(本当は北欧のブラック・メタルデスメタルに関しては北欧という社会の構造や教育もかなり関係していると考えてるのだが、これはまた別の話…)

 

 ところで、北欧にはスウェーデンストックホルムに王立のオペラ劇場が存在したり、

1771年創立のスウェーデン王立音楽アカデミー(1971年にストックホルム音楽大学が独立)があるなど、クラシック音楽というものがかなり根付いている土地であると言うことができる。

 他にも、フィンランドには昔から哀愁と情熱のフラメンコが馴染んでいたり、ノルウェーでも世界的なクラシック系音楽家エドヴァルド・グリーグなどを排出しているなど、やはりクラシックが馴染んでいると言うことできる。

 他にもデンマークにはMewがいたりABBAスウェーデンだったり、他のジャンルでも有名だったりするのだがそれは置いといて、そんなふうに北欧というのはメロディアス、そして哀愁というものと音楽がかなり密接にリンクしている。

 それは日本人の好む歌謡曲、JPOP的なメロディラインとの相性がいいわけで、ゲーム音楽やアニメソングで北欧メタル的なのは日本でもよく見受けられる。

 

 話を曲に戻すと、そのようなものを好んで聴いてきた作曲者の音楽的趣向はこの曲にも現れており、ミディアム・テンポのゴシック・メタルテイスト、荘厳なクワイアとの相性もさることながら何処かメロディアスだ。

 並びに妖精帝國がもつポップセンスと重なることでよりポップな曲になっている。

 

 歌詞に関してだが、内省的で耽美な内容が目立つように思う。

 

”身体を飾り自由を演じて

ココロは誰にも渡さない見せない

光を浴びてキラキラ揺れる

私だけが持つ私の宝石”

 

など、

 

”感情のまま喚き散らして

知性のかけらは微塵も見えない

穢れた総身ココロの牢獄

潜在意識の操り人形”

 

というように、心に関して言及し、その内省的な世界観を全開にしている。

 

 しかしながら、そんな中でも最後では…

 

”身体を飾り自由を演じて

ココロは誰にも渡さない見せない

光を浴びてキラキラ揺れる

私だけが持つ私の宝石

私のココロをあげよう”

 

 心を聖域として表現しつつも、大切な者にそれを渡そうとする結末になっている。

 

 内省的でありながらも、最後には外へと向かうその歌詞の流れも含めて味わいたい1曲だ。

 

6.月鏡反魂シネラリウム 作曲:Nanami

月鏡反魂シネラリウム

月鏡反魂シネラリウム

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 民族音楽的テイストとダーク・アンビエント的な要素を持つミディアム・テンポの曲。

 

 これまた作曲者がNanamiであることに僕はかなり驚いたのだが、まず、ダーク・アンビエントの説明からしよう。

 

 ダーク・アンビエントとは電子音楽のジャンルの1つである。もともとがアンビエントにノイズの派生系という流れが合流していることもあるのか、不安感を煽る旋律や不協和音を押し出しているのが特徴だ。

 アンビエント自体は1970年代にBrian Enoが提唱した音楽のジャンル…というより概念だが、その暗黒面に関しては既にKing CrimsonのRobert Frippがイーノと共作したアルバム「Evening Star」で提示されていた。

Evening Star

Evening Star

 

 

 そして、このような試みはポスト・パンクやニュー・ウェーブの世界でも成されてきたし、ブラック・メタルやゴスカルチャーとも結びついて脈々と受け継がれてきた。

 

 そのようなジャンル、もしくはそのような音楽の要素を持つアーティストとしてはMerzbow(メルツバウ)こと秋田昌美やサイレント・ヒルの音楽担当として有名な山岡晃Aphex Twin(エイフェックス・ツイン)、Burzum(ブルズムもしくはバーズム)、Ulver(ウルヴェル)、藤井麻輝、そして妖精帝國が実は該当している。

 ジャンル分け自体がかなり曖昧になるのが電子音楽の分野なのでどうしてもいろいろ不十分になってしまうのは否めない。

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True

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Einfühlungsvermögen

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Porn Piece or the Scars of Cold Kisses

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左手

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機械少女幻想

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 なんかジャンル分け違わない?って意見もあると思うのだが、このへんは割とジャンルの境目や音の傾向が定まっていないので、括りが人によって変わるのだ…。

 

 曲の話に戻るが、大体このような雰囲気の音楽性だと思ってくれれば十分である。

 

 この曲を初めて聴いた時に僕はかなり驚いた。

 

 なぜなら、サウンドヘヴィ・メタル的な質感が無かったからである。

ギターがガンガン入ってくることもないし、起伏に富んだ展開でもない。そもそも、生の楽器は主役ではない。

 そして、クレジットを見てこれが橘尭葉でないことに更に驚かされたのだ。

 Nanamiは自分の影響源を妖精帝國に反映させるのではなく、妖精帝國というバンドの音楽性や雰囲気に合致することを優先して曲を作ったのは間違いない。

 むしろ、ヘヴィ・メタル的な音楽を志向するずっと前の妖精帝國に近いテイストなのだ。

 更に、ゆい様の歌い方も少しキュートに見せているように感じられるし、所々新しい歌い方を取り入れているようにも思える。

 所々でインダストリアル的なボーカルのエフェクトをかけているのもとても良い。

 

 調べてみた所シネラリウムは英語でCinerarium、納骨堂という意味を持つ英単語らしい。

 シネラリウムというとラテン語のシネレウス、英語だとシネラリアを思いだす。これは一般的にはサイネリアという名で呼ばれる花であるが、正確なよみはシネラリアが正しい。ちなみに、死ねと語感が被るので病人へのお見舞いには向かない。

 そもそもサイネリア自体が鉢植えの花なので根付く(寝付く) という意味合いがあり敬遠されるのだが。

 話はそれたが、シネラリウムの意味は決して明るいものではない。

月鏡反魂という単語だが、月鏡と反魂という言葉に分けることが出来る。

 月鏡は「晴れた空に浮かぶ満月」を指すのか、「月を映した池を鏡とみなす」のかで多少意味合いが異なるのだが…

 

”灰を着飾って踊る

骨の奥まで熱くなる

夜が明けるまで独り占め

さぁ私連れて逝って”

 

 このような歌詞なので夜であっても晴れた空はあんまりふさわしくないかなと考え今回は後者として受け取る。間違っていたら本当に済まない…。

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メタルマン名物済まないおじさん

 反魂は死者の魂をもう一度現世に呼び戻すことなので、まあこれはこのまま。

 

 以上の意味を統合すると、少なくとも死、それも肉体は既に残っていないレベルでの死を描いていることはわかる。

 それを踏まえて歌詞を見てみよう。

 

”白くて淡い陶器のような

骨さえ愛でる密かな夜

この手をどうぞ 死すまで側に”

 

 

”狂いましょう月のシネラリウム

二人きりでずっと夜が明けるまで”

 

 退廃的な世界観が目立つ。反魂と名付けているくらいなのだから2人いる登場人物のうち、1人は既にこの世に居ないと考えるのが妥当だろう。

 

”祭壇並ぶ霊廟の中

すぐに貴方を見つけ出せる”

 

 妖精帝國のもつパブリック・イメージとこのような歌詞の相性は抜群である。ヴィジュアル系にも通づるゴスを感じさせる。

 

 月鏡を池に映る月と捉えると、そこにはいくら手を伸ばしても永遠に届くことはなく、そこにあるのみである。

 

 反魂もそれにかかっていると考えると、シネラリウムにいるあの人はもう永遠に届かないものであるがそれを夢見てしまうという儚さが封じ込められているように思う。

 

 個人的に昼より夜に聴きたいナンバーだ。

 

 ちなみに、黒百合姉妹の世界観がこの曲には一番近いと思うので是非…。

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7.Siege oder sterben 作曲:橘尭葉

Siege oder sterben

Siege oder sterben

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 インダストリアル・メタル色を強めたミディアム・テンポナンバー。

 

 狂気沈殿同様に橘尭葉が書く曲にインダストリアルなテイストなナンバーが多いことがなんとなく確認できる。

 全体的に落ち着いた構成の曲になっており、式典で盛り上がりそうな雰囲気を感じるのはL'Arc~en~CielのREVELATIONと重なるからだろうか。

こちらもインダストリアルに深い造詣があるラルクのドラマー、yukihiro作曲だし。

REVELATION

REVELATION

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 サウンド的にも、ギターソロやサビの開放感でアプローチすると言うよりはリフやリズム隊の重厚さで訴えかけてくるような構成になっており、シング・アロングがやりやすそうだなと感じさせる部分もある。

 何よりインダストリアル・メタル的と感じさせるのは楽器隊の機械的な反復フレーズの多さが寄与しているのだろう。

このへんの音楽がいい感じにお手本である。

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 こういう音楽は得てして音源よりライブの方が真価を発揮するパターンがかなり多く、音源だけでの判断がかなり難しい。

 メロディアスなメタルやシンフォニックなロックが好みな人にはなかなか刺さらないかもしれないが、個人的にはこういうタイプの楽曲も好みだ。

 

 歌詞が何処かダークでありながら無骨な力を感じさせる。それもゆい様の歌声により無骨さが中和されて聴きやすくなっているが。

 

”耳障り格別に 饒舌な囁きが

地獄より深き場所 育まれ愛でられる”

 

この部分は妖精帝國のダークさを感じさせるし、

 

”薄暗き目蓋越し 凍て付いた笑い顔

そこにはもう人なんて 誰1人いやしない”

 

 こちらの部分なんかは式典で盛り上がりそう。

 

 それでいてもちゃんとただの模倣にならないのは、インダストリアル・メタルの様式美に則りつつ、

バンドの持つゴシック的世界観やバックボーンの異なるメンバーによるアプローチの多彩さがあるからであろう。

 

 アルバムの中でもいいアクセントになっているナンバー。

 

8.missing 作曲:紫煉

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 メタルのモダンなタイプのアプローチとメロスピ的なフレーズの融合した高速ナンバー。

 

 まず、ヘヴィ・メタルにおけるモダン、というのは何なのか?というところから説明をしようと思う。

 モダン・ヘヴィネスと日本では言われるタイプのメタルのサブジャンルに該当する言葉なのだが、実は日本でしか通じない単語で、とりあえずPANTERAっぽい音作りのメタルくらいに思ってくれればいい。

(モダン・ヘヴィネスな音作りなんて言い方をした際は別にメタルじゃなくてもいいっぽい、この辺かなり面倒)

 というか80年代のメタルを聴いた後、90年代のメタルを聴いた時にちょっと系統が異なるなーと感じるメタルはだいたいコレに該当する。

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(どれも凄い好きだけどDeftonesはいいぞ)

 異論は認めるがジャンルが曖昧な区分けなので許してほしい。ラップメタルやTOOLなんかもサウンド的にはこの辺だと思うんだけど、怒られそう。

 日本だとDIR EN GREYとかMaximum The Hormone、この辺も該当するだろうがとにかく凄い一杯いるので適当に貼っておく。こんな感じの音を志向したバンドである。

ちなみに音作りに関してはこの手のサウンドの影響は絶大で、今や正統派メタルよりこういうタイプの音のほうが多いくらいだ。

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 余談だがヴィジュアル系界隈はDIR EN GREY以前にも初期からこのようなサウンドを取り入れており、BUCK-TICKやhide、室姫深なんかがそういうアプローチや音作りなどを表現していたりする。

 他にもNARASAKI率いるCOALTAR OF THE DEEPERSもこのようなサウンドアプローチを得意としていたり、古くから脈々と日本にも受け継がれてきたっぽい。

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Zoei

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 厳密に言うと海外のも日本のも含めてみんな違うジャンルなのだが、そもそもモダン・ヘヴィネスという単語自体が日本でしか通じないので…。

 

 まあ、なんか重くてメロディよりリフ重視のサウンドアプローチの一種という感じである。

 

 曲の話に戻ると、サウンド面ではこの曲はイントロから重いサウンドによるリフがいたるところに見られる。

 このような音作りは単純なネオクラ的なアプローチではしないところがあるので、紫煉が80年代以降のメタルも聴いていることがこのあたりで改めて認識できる。

 そこにクワイアを加えることでゴシック的なアプローチをプラスすると共に、メロディにしっかり起伏をつけること、モダン・ヘヴィネスサウンドアプローチを自分たち流に消化している姿を見せている。

 メロデスにもこのようなアプローチが見られるのだが、やはりボーカルがここで大きな役割を果たし差別化の一助を担っている。

 硬質なドラムのよる疾走感のあるフレーズやベースの低い音作り、橘尭葉の堅実なプレイによる土台があってこその紫煉のメロディアスなギターであることは忘れてはいけない。

 モダン・ヘヴィネス的アプローチでありながらも、メロスピ的な要素が強いことで妖精帝國のリスナーにもしっかり聴きやすい形に仕上がっており、紫煉が言っていた役割を全うしていることがわかる。

 

 歌詞に関してだが、ストーリーを意識しやすいものになっている。

このあたりの物語性を意識した感じがネオクラとかメロスピ的なところを感じられる。

 

 "入(い)らずの森の奥 小さな馬小屋に

眠る漆黒の 髪を持つ少女

物心のついた おさな姫の頃

好いた継母に 森へ捨てられた"

 

"風さえ通さぬ静寂の籠城

頑なに拒む死の棺

森のざわめきが彼女の痛みを

遠ざけて辿り着けない"

 

 このあたりの歌詞もそうだが、この曲は1人の少女に関する物語になっており歌詞だけでも楽しむことが出来る。

 

 サウンド的にはモダン・ヘヴィネス的なアプローチを見せているのに、歌詞や全体的なポップさは、アニメソングやネオクラやメロスピ的なアプローチをする。

 こう振り返ると、実は不思議な構成の楽曲なのだが、これも妖精帝國だから出来るところもあるのだろうなと感じさせる楽曲である。

 

 ちなみに原曲はもっとテンポが早かったらしいが、今に落ち着いたのだとか。決して式典で歌えないから、とかそういうんじゃないぞ。

 

9.The Creator 作曲:橘尭葉

The Creator

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 シンフォニックさとマシンビート感が耳に残るアップテンポナンバー。アニメ「未来日記パイロット版のOPであり、空想メゾロギヰのカップリング曲でもある。

 ちなみに、パイロット版とは放送開始、一般放送に先んじて作られる映像作品のことを指す。

 

 サウンド面の話をすると、シンフォニックさとマシンビート感をうまく組み合わせる、インダストリアル的アプローチを橘尭葉の得意技だと認識している。

 

 それでいて、勢い任せではなくかなり構築的に楽器のフレーズや歌声の乗せ方を練り上げている。そこにポップさ、そしてゆい様を活かすようなサウンドに焦点を合わせていくことで、妖精帝國特有の雰囲気が生まれるのだなあと感じている。

 

 この曲にも顕著だが、ゆい様の帯域とかぶらないような音作りをしているほか、各楽器隊が鳴らす部分と鳴らさない部分をしっかりとわけていることで、楽曲にメリハリを産んでいる。

 サビの疾走感が非常にメタル的に思えるし、ギターソロがそれをまた後押ししている。

 この曲始め、未来日記関連はがでた頃は紫煉もGightも正式メンバーではなかったように思うが既にサポートやってたのかな?

 このようなメタリックな構築性の高いサウンドが橘尭葉がかねてから作りたかったものなのか、となんとなく伝わってくる。

 

歌詞に関しての話をするが、未来日記を意識した歌詞になっている。

 

”この世は戦乱堕ちても薫り高く

目蓋を閉じれば蘇りし空想

時空を操り自在に支配をする

生と死を賭ける未来のsurvival”

 

 この部分や、

 

”消滅を覆(くつがえ)して

互いの策を読みあい

奪い取れ神の御座(みくら) 排除と犠牲の果て

奇跡を起こし手に入れて”

 

 この部分なんかは未来日記のデス・ゲームの側面を歌詞に端的に盛り込んでいるように思う。

 

 それでいて…

 

”生を望めば死が

死を悟れば救世が

祈り捧げよ神

神祈りに応えず”

 

 この部分は神を否定しているように思うし、それは絶望ではなく人間の力強さを肯定しているようにも思えるのだ。

 

 このアルバムは妖精帝國ヘヴィ・メタル路線に舵を切った最初の作品である。

ソレに伴い、決意を感じさせる歌詞が普段よりも多いように感じられる。

 

 アニメソングタイアップと自分たちのバンドとしての音楽性の両立の仕方がわかるナンバーだ。

 

10.Herrscher 作曲:橘尭葉

Herrscher

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 「未来日記インスパイアードアルバム Vol.2 ~因果律デシベル~」収録曲。未来日記登場キャラクター、ジョン・バックスのテーマソング。

TVアニメ 未来日記 INSPIRED ALBUM Vol.2~因果律デシベル~

TVアニメ 未来日記 INSPIRED ALBUM Vol.2~因果律デシベル~

 

 ジョン・バックスの話や未来日記の話は、自分で読んでほしい部分があるのでまあここでは述べないが…。

 

 まずはサウンドの話に移ろう。

 

 橘尭葉がインダストリアル的サウンドアプローチを得意としているのは、数々の楽曲から見えてきたが、SCHAFT的なものを感じられる。まあ、ULTRA(2016)の方に関してはこちらのほうがリリースが後だが…。

 

ARBOR VITATE

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ReVive

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BROKEN ENGLISH -LIVE-

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 まあ、単純に僕がこの手のサウンドが大好きだから耳にやたら残るし、気になるだけなんだろうけど…。

 

 メタルというと様々なジャンルがあるが、橘尭葉のインダストリアル的なアプローチは妖精帝國の持つ荘厳さやゴシック的な雰囲気によくあっているように思う。

 

 打ち込みを効果的に使えるのも、access小室哲哉などを好んでいなければ出来ないアプローチだろう。生音を重視してるタイプのアーティストには中々出来ることではない。

 今までは、打ち込みで補っていたりもしたし、以前のバンド体制でもこのような音作りと攻め方は行っていたが、やはりメタル体制に移行するという明確な目的意識が現れてからはかなり違うように思える。

 バンドアレンジというものの重要性をなんとなく垣間見ることが出来る。

 

 歌詞に関してだが、デジタル処理を施されたゆい様がどことなくアジテーションを思える。

 

”叫べ獅子の如く

退け脱兎の如く

現在(いま)に魅入られしは

未来統べる闘争”

 

この部分や…

 

”旗揚げて

警鐘打ち鳴らして

風はためく

紅の旗章”

 

 この部分なんて 聴いてるだけでPVが欲しいもんね。

 

 サビの部分のドイツ語の力強さは日本語では出せない部分であると思うので、このチョイスが良いのだろう。

 

 ゆい様の声質は低く歌っても映えるし、ことすればこのようなサウンドで声までもがごついとなかなか間口が広がらないというか、ジャンル横断的にファンを増やすならこれが正解なんだろうと思う。

 

 アルバムのラストに向けて気分を盛り上げることの出来る扇動的ナンバーである。

 

11.空想メソロギヰ 作曲:橘尭葉

空想メソロギヰ

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 TVアニメ「未来日記」OPテーマ。今作で唯一のシングルメインタイトルである。

 

 おそらく、アルバムに収録されている曲の中ではかなりの古株に入るのだが…。

 

 めっちゃ好きです…

 

 サウンド面では橘尭葉の得意とするインダストリアル的なアプローチを随所に織り込みつつ、シンフォニックさをプラスしているし、疾走感のある楽器隊のサウンドと荘厳なクワイアの数々はヘヴィ・メタル的な様式美とゴシックさをそこに…

 

 しかも、アニメソングのOPということもあり、かなりポップで聴きやすい。

 これはかなり重要なことで、様々なタイプのリスナーにアピールするには決して無視できない部分なのだが、なかなか舐められやすい。気にしなきゃいいと思うけど。

 

 何よりサビで炸裂する開放感と、非常にキレの良い言葉の数々がヘビロテを促してくれること必至である。

 

 歌詞は未来日記を意識しまくりなのは当然といえば当然なのだが、ソレは置いといて…

 

”You'll surrender now,

We are sure of what we see... ...

thee can't resist this fantasy!

Survive!”

 

 まずここのイントロのコーラスがめちゃめちゃかっこいい。妖精帝國はやっぱりコーラスだよな、って改めて思う。

 

”CONSENTESDEI JUNO JUPITER

MINERVA APOLLO MARS CERES

MERCURIUS DIANA BACCHUS

VULCANUS PLUTO VESTA VENUS”

 

 その後のゆい様のこの部分の言葉のリズム感がめちゃめちゃいいのでここだけで何回も聴きたくなる。

 

 そしてサビなのだが、

 

”さぁ eins zwei drei! 重なり合う

さぁ eins zwei drei! 死を交わして”

 

 こういうドイツ語の力強さってめっちゃこの手の楽曲と相性いいよね。頭に残る。

 

 こんな感じで、全てのフレーズが強烈に頭に残る。

 

 こういう曲は90秒で展開を収めないと行けないアニメソングというジャンルを主戦場にしている妖精帝國の強みだし、このようなポップさはなかなか普通のヘヴィ・メタル・バンドにはない部分である。

 

 大サビの部分もマジで格好いいのだから言うことがない。

 

 楽曲の構成、歌詞のリズム感、声質や歌い方による個性、ポップセンス…

 

 どれをとってもハイレベルな作品であると共に妖精帝國の入門として相応しい楽曲であることは間違いないだろう。

 

 全然関係ないけどみんな未来日記をちゃんと買うんだぞ!

 

12.葬詩 作曲:Nanami

葬詩

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 淡々としたAメロBメロ部分と印象的なサビの開放感の対比が特徴的なバラード。

 

 Nanamiの作る曲が所々北欧メタルっぽいなと思わせるのは、サビへと向かう大げさと言える展開もそうだし、キーボード的なサウンドもしっかりとフォーカスしてること。

 ストリングスで壮大さをプラスしていながら、かなりメロディアスであること。

 

 途中で挟まれる紫煉のギターソロが非常に格好いいし、バックで鳴っているストリングスやもまたいい味を出している。

 

 ワルツ調のリズムというのも、なんとなくゴシックなイメージに対してプラスに働いているように思えるのだが、ゴシックという言葉が持つ中世西洋的な認識も大いに関係しているのだろうか。

 

 歌詞に関してはゆい様の入れ込みが半端ではなく、自分の作詞ながらレコーディング前に3回くらい泣いたらしい。かわいい。

 

”誰にも終わりは訪れる

悲しむ事など無いと

小さな声で励ます笑顔

少しずつ少しずつ

あぁ薄れて…

もう見えなくて”

 

とか

 

”独りは怖いと呟いて

眠れぬ夜を過ごした

小さな指が虚空に彷徨う

掌に舞い落ちた

花びらが

擦り抜けてゆく”

 

 この辺から感じる孤独感と耽美さが半端ない。

 

更に…

 

”天に続く虹を君は渡れるだろうか

振り返らぬまま目の前の道を

真っ直ぐに歩いてゆけ

そう僕がいなくても

ただ1人で逝くんだ

もう僕がいなくても

ただ1人で逝くんだ”

 

 この辺の孤独感は共に死ねなかった孤独なのか、それとも惜別の年が混ざっているのか…一言では言い表すことの出来ない哀しさに満ちている。

 

 このような歌詞を書く人は日本にはあまり多くなく、女性が歌うということで少女性や耽美さをプラスする。

 

 アルバムのシメに向けて構築性の高いナンバーを作り上げてきたが、クオリティの高さに底力や感じられる。

 

 何より、作詞家としてのゆい様の評価も改めてしたいなと感じられる作品だ。

 

13.機械 作詞:大槻ケンヂ 作曲:本城聡章筋肉少女帯 編曲:橘尭葉

機械

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 サブカルチャーを通る上で絶対に外すことのできないバンド、筋肉少女帯の名曲のカバー。

 

 こちらが原曲である。 

機械

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 筋肉少女帯について少し説明をしよう、僕が彼らを大好きなので…。

 

 筋肉少女帯は現在、

からなるロック・バンドである。

サポートでドラムの長谷川浩二やキーボードの三柴理が入ることがある。

 1982年に結成、1999年に活動凍結、2007年に再始動しており、当時は上記の4人に加えて大田明がドラムに加わっていた。

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(今の筋肉少女帯。この如何わしさと胡散臭さが好き…)

 

 バンドブーム期に人気になったバンドではあるが、その独自の世界観で根強いファンを獲得し、特にサブカルチャーに与えた影響が大きいバンドである。

 楽器隊のメンバー全員がテクニシャンなことから生まれた、テクニカルなハードロック、プログレッシヴ・ロックサウンド大槻ケンヂの超個性的な歌詞とボーカルが載るのが大きな特徴である。

 少し歌詞を例に書こう。

 

”才能の枯れたヤツがいた

彼の人生は退屈だった

わけあって 人をあやめ

灯がつくように気付いた”(戦え!何を!?人生を!)

 

”僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!

僕の宗教に入れよ何とかしてあげるぜ!

犬神つきのはびこる街に やって来た男は

リュックサックに子ネコをつめた少年教祖様さ

「この僕が街の悪霊どもを追いはらってあげよう」

うさんくさげに見てる奴等に少年が言った

「この僕が怪しげなら あんたら一体、何様のつもりだ!」”

(僕の宗教へようこそ ~Welcome to my religion~)

 

やあ!詩人 最近なんだかマトモだなあ?

やあ!詩人 随分普通のこと言うなあ?

やあ!詩人 奇をてらったりしないのかい?

やあ!詩人 世の中すねてる歳でもないかい?”(サーチライト)

 

 などなど、どれもコレも癖がありそのジャンルも社会風刺から厭世的な世界感、コミカルなものなど多岐にわたっている。

 

 僕が思うにこのバンドは人の哀しみや矛盾を描くのに長けているバンドなのだ。

 ダメ人間の性や、人の愚かさ、滑稽さ、執念、後ろめたい気持ち…このあたりの薄暗いジャンルを書かせたら大槻ケンヂの右に出るものは居ないだろう。

 

 そんなバンドだが、ヴィジュアル系を始めとするミュージシャンへの影響力の大きさもさることながら、新世紀エヴァンゲリオン庵野秀明綾波レイをデザインする時に彼らの楽曲をモチーフにつかっていたり、藤田和日郎和月伸宏

語ればキリがないのだが、クリエイターに対するその影響力は凄まじい。

 

 機械の話に移るが、この曲はギタリストの本城聡章が作曲した曲であり、ポップさとハードロック的な格好良さが同居したナンバーである。

 そこに大槻ケンヂの作詞が載るのだが、彼の描いたモチーフは「1人の狂人ともいえる科学者とそんな彼を信じたたった1人の女性の話」である。

 

 さーて、妖精帝國のお話に戻るぞ!

まずはこちらを見てほしい。

togetter.com

 

 ゆい様が筋肉少女帯にどういう思いを抱いているのか、その並々ならぬ物を感じられる。

 

 サウンド面の話に移ると、メロディアス・ハードロック的な要素の強かった原曲に比べるとストリングスでゴシック的な雰囲気をプラスしている。

 ギターのフレーズやドラム、ベースに至るまで原曲をリスペクトしているのか大きな変更はないが、ギターソロなどがメロスピ的な雰囲気に少し傾いてるのは個性の表出だろう。

 リフの刻みが地味に格好良く、ここだけ何回も聴いていたくなる。

 大サビのところではストリングスと楽器隊の絡みが非常に壮大で原曲以上にドラマチックなものになっている。

 

 歌詞やゆい様の歌唱だが、原曲が男性ボーカルだったのに比べると女性ボーカルが歌うことで少し雰囲気が変わっている。

 

”髪かきあげ 図面引いて

奇妙な話を熱く語った

あの男は 狂っていた

本当に人を救う気でいた”

 

 この部分は抑えめに原曲同様に歌っており…

 

”今、彼女が空へむける機械は

誰にも愛されぬ彼の思い出

彼女だけが一人男を信じた

きっと 彼女だけには見えるのでしょう

天使、翼が”

 

 この部分では一気に思いを爆発させるように声を張り上げて歌っている。

 妖精帝國でこのような歌い方は珍しいように思うので、ここも原曲に対するリスペクトと気合の表れなのだろう。

 

 そもそも、この原曲と妖精帝國のカバーだと歌っているボーカルの性別が逆である。

 

これは、大事なことでこの曲は男女という明確な役割が存在する歌である。

 

 それがまるで、この機械という曲を科学者を信じた女性の叫びのようにも感じられるものにしているし、元々少女性を描くことが多い筋肉少女帯において、楽曲の別な魅力をを引き出している。

 

 原曲と聴き比べても遜色のない出来であり、筋肉少女帯と合わせて聴きたいナンバーである。

 

まとめ

 このアルバムは妖精帝國がメタル志向を強めたアルバムであり、コンセプトやタイアップも含めて決意や力強さを感じるものが多い。

 今作以降妖精帝國はさらに現代のメタル的な方向性を強めていくのだが、今作はメロディアスなサウンドが多く、メタラーヴィジュアル系リスナー、アニメソングを愛するリスナー…

 他にも様々な層にアピールすることの出来るポテンシャルを持ったアルバムのように思う。

 

 ハイクオリティでありながらも聴きやすい、妖精帝國の入門編にもってこいな作品である。

 

最後に

 しばらく、ブログを書かずに他のことををしてたり、人と会ったり、本を読んだりしていましたが。いいリフレッシュになりました。最近は東京に関する本を色々読んでいます。

 かねてからいろいろ書こうと思っていたのですが、メタル系の音楽はガッツリ書いてないなと思いこの題材を選びました。

 

 妖精帝國はかなり特徴的で面白いバンドなので、このレビューから魅力が伝われた幸いです。

 あと、書きかけの記事が色々あるのでそちらをまずは片付けたいなと思います。

 

 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!

読書のおはなし

 読書の目的は人それぞれだろう。

自己の充実、勉強、必要に迫られて…その目的はさまざまだ。

 じゃあ僕はどうなのかというと…特に目的はない。強いて言えば自身の知的欲求を満たすための娯楽である。

 

 僕の母は昔から読書が好きだった、それが僕にも影響して本を読むようになったというだけである。

 だからこそ、僕の中では読書に特に崇高な目的は持っていない。はっきり言って、娯楽という同一線上に並べるとしたらギャンブルと対して変わらない認識である。

 

 しかし、人によっては読書は勉強だし、自己の充実に関係するから読むとか、必要に迫られて読まなければならなくなったりするひともいる。

 

 仕方がないことなのだけど、少し悲しくなってしまう。楽しさが見いだせる人はいいのだが、特に学校に押し付けられて読むような形だと嫌いになってしまうんじゃないかなあ…。読書が好きな人としては悲しいなあと思ってしまう。どうすることも出来ないが。

 

 僕も読書感想文は嫌いだった。今でこそある程度興味を見出して、それなりに自分の頭の中のプロットに従い、感想らしいものを書けるだろう。

 だが、ソレは色々な本を読んだり、学校の授業でそれなりに問題を問いたりしたからなんとなく身についたものであり、昔は興味のないのものはヤダ!という子供だったし、何よりも自分の中にノウハウもないので読み終わっても書くまでに数日を有した。

 

 確かに、文章を書くことの出力がもたらす効果は否定しないが、何のプロットもない状態で子供に書けとか、それが大人の望むものでなかったら書き直すとか、何よりも興味のないものを子供にさせるのは酷だろう。

 

 話は変わるが、読書に対してステータスを持っていて、本を読まない人間を見下す人がいる。僕も幾度となく目にしてきた。

 まったくもって面白くない話である。

 

 僕が思う読書のいい面、それは「自分に無いものを得られる」というのが一番重要だと思うのだ。読み方は問わない。

 自分にない価値観や、自分が今まで知らなかったこと、知り得なかった感情を読書を通して得られることが読書の良いところだと考えている。

 

 しかし、僕はそれを読書には限定しない。

人によってはソレは人付き合いで得られたり、スポーツで得られたり、アニメ、ゲーム、恋愛…まあたくさんある(僕の中では漫画も読書です)。

 

 それで得られて済むのなら僕は読書なんてしなくても良いのではないかなと感じるのだ。別に読書をしなくても死ぬわけではない。

 

 だが、読書をステータスにして他人を見下す人間、ソレは別である。

世の中の知らないことを知った結果が他人を見下すことなのか?

 そもそも本を読むのがそんなに偉いか?娯楽だぞ?恥ずかしくないのか?

 

 僕はそんな人間にならないために本を読むのだが…

 

そんなことを読書という事柄を通して思うのだ。

 

声優アーティストの礎を築いた人の今を識る~林原めぐみ「Fifty〜Fifty」(2018)

はじめに

 みんな林原めぐみって知ってますか?僕は知ってます。

 小学生の頃にアニメでシャーマンキングで恐山アンナを知って以来ずーっと好き。

 CDいっぱい持ってます

 名探偵のコナンとかポケモンのムサシとかフシギダネとか、あとハローキティで有名ですよね。世代が変わるとスレイヤーズのリナ=インバースとからんま1/2女らんまとか。

 中学生くらいからはTBSラジオの「林原めぐみのTokyo Boogie Night

 高校生になってアニメオタクになってからも好きな気持ちは消えること無く「万能文化猫娘」とか「セイバーマリオネットシリーズ」はじめ、林原めぐみさんが出演なさってた作品に片っ端から手を出したり…。

 

 そして、声優としても好きですが歌手としても好きで、シャーマンキングOver Soul」「Northern lightsに始まり、色々アルバムも集めたりしました。

全アルバムだと1996年の「Iravati」、1997年の「bertemu」、2007年の「Plain」がお気に入りです。

 近年は2010年の「CHOICE」以来オリジナルアルバムはでてませんでしたが、そのかわりにベストやら岡崎律子さんのトリビュート・アルバムがリリースされて。

 

 それでいてマルドゥック・スクランブルの「つばさ」や「3×3 EYESプロジェクト」

の一貫として出された「サンハーラ 〜聖なる力〜」があって、昭和元禄落語心中椎名林檎さんとタッグを組んだ2枚のやつがあって初ライブのCD音源があって…。

 

 そしたら、オリジナルアルバムが出て…それは本当に嬉しくて嬉しくて…!

 

 嗚呼、もう語りきれない!時系列がごちゃごちゃ!思いが溢れすぎて語れない!とりあえずレビューを見ろ!

 

林原めぐみ「Fifty〜Fifty」(2018)

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14thアルバム Fifty~Fifty 【初回限定盤】
 

 

  1. 集結の園へ 〜セカンドインパクト
  2. Come sweet death, second impact
  3. The Image of black me
  4. Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version
  5. SKY5
  6. もう一人の私 MEGU Version
  7. サンハーラ 〜聖なる力〜
  8. つばさ
  9. 薄ら氷心中
  10. 今際の死神
  11. リグレット
  12. Mint
  13. 恐山ル・ヴォワール
  14. Fifty

※プロデュース:中西豪(キングレコード)

 

 前作「CHOICE」から7年8ヶ月ぶりのオリジナルアルバム、CDの発売は普通水曜日だが、林原の誕生日に合わせて金曜日に発売されている。

 久々のオリジナルアルバムは全14曲、75分25秒という結構なボリュームで僕はとっても嬉しかった。

 アルバムジャケットに関して、林原めぐみはこう発言している。

 

私は「Half and, Half」というアルバム(1991年3月発売)を1枚目に出していまして。それは“私半分、キャラクター半分”という意味だったんですけど、今回はそれの進化版といったイメージなんですよね。当時よりも地に足が付いた分、よりどこへでも飛べるし、よりなんにでもなれる自分がいる。その一方で、年齢を重ねたことで変わった部分はもちろんあるけども、どう変わったとしても結局私は私。それを2人の自分で表現してみました。長年、私のことを応援してくださっている方はきっと「林原さんらしいな」って思ってくれるものになったとは思うんですけどね。お洋服の色がグレーと銀になっているところにも実は明確な意味があるんだけど、そこはご想像におまかせします、って言っとこうかな。

 出典はこちらです。

natalie.mu

 

 

 僕は間もなく26になるのだが、なんか林原めぐみの話をすると同世代のオタクたちから隔世の感を覚えるので、ここで少し声優アーティスト林原めぐみの凄さを説明しよう。

 

アルバム解説の前に~声優アーティスト「林原めぐみ」の凄さ

 まず声優林原めぐみが歌手としてデビューしたキッカケなのだが、1989年のOVA機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』で主題歌を担当してた椎名恵の代役としてイベントで歌うことが始まりであった。

 それに際して音域テストを行った所、当時プロデューサーであった現キングレコード専務取締役、大月俊倫(おおつきとしみち)から、才能を見出され、林原めぐみ名義としては初めての楽曲「夜明けのShooting Star」製作が決定した。

 

 そして、様々なレコード会社から幾度かのCDリリースを挟みつつシングル「虹色のSneaker」(1991年3月5日)でスターチャイルドレコードからのデビューを飾ることとなる。

 知ってる方も多いと思うが、元々林原めぐみが歌手志望ではなかったことや、声優は裏方であるという考え、また1980年代後半に於いては声優が歌手として活動するというのは極めて稀であった事、などあり活動に消極的だった。

 しかし、大月プロデューサーの説得で本格的に活動を行うようになり、その後、90年代の音楽業界で大活躍を果たす…

 

 というのが、本当にざっくりとした歌手活動の説明であるが、ここで打ち立てた記録を見てみよう。

CD
  • 1994年にアルバム「SPHEREで声優ソロとして史上初のオリコンアルバムチャート週間TOP10(第8位)
  • 1996年、アルバム「bertemu」でオリコンアルバムチャート3位、これも当時声優としては最高位
  • 1996年の「Give a reason」で声優ソロとして史上初のオリコンランキング週間TOP10(第9位)
  • 1997年、アルバム「Iravati」でオリコンアルバムチャート週間5位に輝き、初動売上、通算売上ともに声優によるアルバムとして歴代最高売上枚数を記録
  • また、シングルでも1997年に「don't be discouraged」で声優として初動売り上げ10万枚を達成しており、この記録は未だに破られていない。公称によるとなんとその枚数40万枚
  • 2002年「Northern lights」で声優ソロとして当時声優としては最高位のオリコン週間3位
  • シングルでは2000年の「サクラサク」、アルバムでは「CHOICE」で声優としては史上初のオリコン10度目のトップ10入り

 

CD以外
  • 「集結の園へ」は、2009年5月度に10万ダウンロード(ゴールド認定)、 2010年6月度に25万ダウンロード(プラチナ認定)、 2015年1月度に50万ダウンロード(ダブル・プラチナ認定)を記録。これは声優として史上初である。
  • 続く「集結の運命」も2011年1月度に10万ダウンロード(ゴールド認定)を記録。

 

 特にCDなのだが、当時がオリコンCD売り上げ全盛期であり、ラルクGLAYミスチルやサザンなど群雄割拠でひしめいていた頃、

オリコン上位チャートにバンバンアルバムを送り込んでいたと考えるとマジで怪物である。

 さらに、CD売上枚数においては水樹奈々田村ゆかり堀江由衣坂本真綾、更には後のアイドル声優が台頭してきて以降も未だに破られていないのでマジで意味がわからない。凄すぎて草も生えない。

 

 今の声優アーティスト活動の礎、今なら当たり前なことそのものを作り上げたのが林原めぐみなのである。

 

 声優としても凄かったらしく(当時小さかったから実感が…)、どこのアニメを見ても林原、林原の主演の次のアニメも林原の主演、そしてOPも林原という超絶な働きぶりであり、ネットでよく見るゴリ押し議論なんて比じゃない。

 

 ラジオパーソナリティとしても冠番組として、林原めぐみのHeartful Station」(ラジオ関西で1991年10月5日から2015年3月28日まで放送)、

林原めぐみのTokyo Boogie Night」(TBSラジオで1992年4月11日より放送中)を持ってるというのだから凄い。

 

 まあ、このように様々な記録を持っているわけである。

 

 しかし、それに反して音楽的な側面から彼女を語ると言うのはあまりなかったわけで…おまけに昨年オリジナルアルバムも出たということでレビューをしたくなったわけである。

 

 話が長くなったが、レビューをします。とにかく林原めぐみは凄いのである。

 

1.集結の園へ 〜セカンドインパクト〜 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう  

集結の園へ~セカンドインパクト~

集結の園へ~セカンドインパクト~

  • provided courtesy of iTunes

 

 2009年に発売されたシングル「集結の園へ」の別バージョン。

 作詞は林原めぐみの別名義で、作曲はたかはしごうなのだが、たかはしごうについて少し説明をしておこう。

 

 たかはしごう残酷な天使のテーゼで有名な歌手、高橋洋子の弟である。

 林原めぐみ保志総一朗に多く楽曲提供を行っているほか、フィットネストレーナーとしても活動している。

 その音楽性は端的に言えば、水樹奈々が引き継いだ要素の更に前である小室サウンド的なシンセサイザーを活かしたユーロビート+ロックである。まあ他にもかなり幅広く出来る器用な方だが。

 

 アニメソングにおけるロック、というと同じキングレコード系列だと水樹奈々関連の矢吹俊郎上松範康が挙げられると思うが、

その彼らと比べると全体的にシンセサイザーの主張が強く、重厚さよりも軽快な疾走感のあるロックサウンドが前に出ているように思われる。

 おそらく世代的にヘヴィメタルLAメタルの洗礼を受けているのも無関係ではないだろうし、林原めぐみが歌手活動を始めた頃は、小室哲哉浅倉大介五十嵐充などシンセサイザーを主体とした音楽があちこちに見られ、それをきっちり取り入れて消化したことも大きいだろう。

 

 ここで話を戻すが、林原めぐみとその手のサウンドの愛称は抜群である。

 数々のヒットソングが林原の存在感がありつつも突き抜ける声とこれらのサウンドのある意味黄金の方程式から生まれている。

 

 ソレは今作も例外ではないのだが…

 

前のバージョンよりもくっっそかっこよくない?

集結の園へ

集結の園へ

  • provided courtesy of iTunes

 

 前のやつもギターとかシンセの音が凄い格好良くて、もう飽きるほど聴いたのだが、

こんなにドラムはドコドコ鳴ってなかったし、ここまで打ち込みとコーラスも入ってなかったし、それでいてストリングスもギターも、全ての要素が林原めぐみの歌を邪魔していない…

 

 2018年に鳴らすユーロビートとして、アルバム1曲目からかっこよすぎた。

 

 ともすれば、少し時代遅れに思えてしまうようなひとつひとつの要素が折り重なる、そしてそれが林原めぐみの声と重なることで時代を超えた説得力を産み出すのだ。

 流行を取り入れるのではなく、自分の最も強い部分を活かす音楽の使い方である。

 歌詞は林原めぐみが書いたのだが、エヴァに関連した楽曲であるというだけあり、どことなくそれを彷彿とさせる。

 

”抱いて

抱きしめても抜け出せない

定められた境から

溶けて なくなるほどの進化へと

おかえりなさい”

 

本編を知っていればわかるのだが、この部分なんか完全にエヴァである。

他には、

 

”永いとき

離れていても

知っている

必ず呼び合う 絆を

運命と呼ぶ事”

 

 この部分とか歌が際立つように楽器を鳴らすのを控えめにしていて凄い格好いい。

宗教歌を彷彿とさせる荘厳なクワイアから始まるイントロが非常に素晴らしい。

 

  

 

 少し前に、坂本真綾水樹奈々について記事を書いた。

 

disheatchaos.hatenadiary.com

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 僕はこの2人も非常に好きなのだが、やはり僕の中ではこの2人はシンガーである。比べて、林原めぐみは今も昔も声優というカテゴリーなのである。

 

 それは林原めぐみのスタンスをよく知っているというのもあるが、自身のアルバムでおいてもタイアップのキャラクターに寄りそった歌や表現を行ったりしているのが大きい。

 さらには、曲ごとに歌い方や表現をコロコロ変えるのは歌手として一本の芯があるというより、役者として曲の良さを最大限に引き出すということを重視してるように思えるのだ。

 

 声優が歌手をやるという大きな流れを作ったのは確かだが、林原めぐみは声優が歌手をやるということにおいて非常に真面目に考えており、今でも声優が歌手をやるということにおいては頂点に君臨していると思っている。

 

 そういう思いが個人的にはあるのだが、この曲においては歌手である林原めぐみのパブリックイメージに寄り添いながも作品のことを非常に考えた歌であり、

かつ、彼女のかっこよさが詰まった作品であると思う。

 

2.Come sweet death, second impact 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:鷺巣詩郎

Come sweet death,second impact

Come sweet death,second impact

  • provided courtesy of iTunes

 

 新世紀エヴァンゲリオンを代表する名曲「Komm, süsser Tod」を日本語詞で歌い、ジャジーにアレンジした作品である。

 作曲は鷺巣詩郎が担当しており、日本の作曲家、編曲家、プロデューサーとして1980年代から活動している。その数は膨大でアイドル歌謡曲、インストゥルメンタル、近年のアーティストに至るまで多くの楽曲を手がけている。また映画やテレビ、サウンドトラックなどを含めるとその作品数は本当に計り知れない。実はいいともの楽曲群なども担当してたかなりすごい人。

アニメソングアーティストだとMay'nの曲もいくつか手がけていたりする。

 

 原曲もこちらを貼って比較しておこう。

 

 まずアレンジが全く異なる。クラシックとポップスを主体とする曲をジャジーにアレンジするということは、基本メロディラインが同じとは言え、歌詞の譜割りやリズムの取り方も大きく変えることになる。

 

 また、英語と日本語では発音する音の数や曲に必要な語句の数が変わるため、新たに歌詞を組み直す時にその言語差を考慮しないといけないとなると結構面倒である。ちゃんと意味も近づけないといけないのだから辛い。

 

少し歌詞を見ていきたいのだが、

原曲だと一番最初の歌詞は

 

”I know, i know i've let you down,

i've been a fool to myself.” 

 

であるが

 

今作だと

 

”全てわかっていた

愚かな日々を生き続けてしまうこと” 

 

に変わるわけだ。

 エヴァに長年携わった林原自身が日本語詞を書いているだけあり、意味は近いが、ここまで言葉の発音が異なると日本語詞にする時に中々苦労したのではないかと思う。

 ほかにも色々あるので原曲と聴き比べてみるといいだろう。

 

 歌詞の中身だが、エヴァの根幹に関わるところでもありあまり多くは語れない。

 しかし、1つ言えるのは世界の絶望と無力感に溢れており、さらに母性も感じるという何やら不穏で神々しいものである。それだけは言っておこう。

 

 ところで、林原めぐみは昔からゆったりとしたアレンジを施されたエヴァンゲリオンナンバーを歌っている。

 今作もそうなのだが、魂のルフランのRemix、ジャズの名曲でもあるがEDのFly Me to the Moonなど、メインキャストの中でも歌手を大々的に行っていたのが林原自身であることも含め、ゆったりとしたアレンジで歌った経験があるのだ。

しっかりを日本語の発音を行うこともあり、そういう曲のほうが実は上手い人である。

 

 そして、彼女が声優であることも関係しているのか、曲のアレンジに合わせた声質や歌い方の変化が非常に優れていると思っている。

 ブレスやちょっとした語尾の発音に至るまできっちりと曲の世界に合わせてコントロールしているのはさすがというほかない。

 

 ストリングスや、ボサノヴァ調を思わせるアコースティックギター、ブラシの音が心地よいドラムが歌ものとして一体になり、彼女の歌声と重なることで生まれる極上の空間は筆舌に尽くしがたい心地よさがある。 

 

 本人が歌手に積極的ではないことに反して、そのポテンシャルの高さが堪能できる一曲だ。

 

3.The Image of black me 歌詞:MEGUMI 作曲、編曲:鷺巣詩郎

The Image of black me

The Image of black me

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  1997年「EVANGELION-VOX」に収録されている、THE IMAGE OF ME - vocaliseの日本語歌詞バージョンである。音源もアレンジされているが、バックコーラスにはオリジナルのものが流用されている。

ちなみにこちらが原曲である。

THE IMAGE OF ME (vocalise A-4)

THE IMAGE OF ME (vocalise A-4)

  • LOREN
  • アニメ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 原曲がどことなくトリップホップ的な要素があったと考えると、イントロのストリングスの荘厳な響きは余り変化がないにしろ、ジャジーにアレンジされているのでかなり大きな変化である。

 まずサウンドだが、そのバックの響きが非常に美しい。

 ストリングスはどことなくクラシックを思わせるのに、ギターやベース、ドラム等は完全なジャズアレンジであり、そこに様々な効果音がおそらく打ち込みで入っている。

 そう考えると、スタンダードなジャズというよりはジャズにファンクやヒップホップ、エレクトロニカなど様々な要素を内包した「ニュージャズ」にカテゴライズ出来るのではないかと思えるほどに現代的かつスタイリッシュに仕上がっている。

 イントロのストリングスでRei 1」を彷彿とされるのが入ってるのも素敵だし、それを林原めぐみが歌うということもまた縁を感じて素晴らしい。

 

 歌詞に関してだが

 

”ゆれる炎の先に何を見る?

ゆれる心の先に誰がいる?

もしも あなたの愛がココにあるなら

ゆれて ゆらぐ 真実 それでいいのよ…”

 

 

”包み隠さず見せて

自由も愛も

怖がらなくてもいい

全てさじ加減 ひとつ”

 

 など、受容や愛をテーマとしているのは実にエヴァの根本に沿っているというか…。

 そんな歌を林原の艶っぽさのました声で歌われるというのは本当に贅沢だなと感じさせる。

 

 昔から、こういうジャンルは得意だったように思うが年々、魅力が増していくように思えるのはやはり年月が持つ強みと深み、何よりも林原めぐみの表現力の高さゆえか。

 今、声優でこういうタイプの曲を歌う人は坂本真綾くらいしか自分が知らなかったりするのだが中々聴かない音だと思う。

 

 前曲と合わせて夜にゆったりと聴きたいナンバーである。

 

4.Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version 作詞:Mike Wyzgowski, MEGUMI 作曲、編曲:鷺巣詩郎

Dilemmatic triangle opera

Dilemmatic triangle opera

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  新世紀エヴァンゲリオンのTV版にあるBGM「Hedgehog's Dilemma」(ヤマアラシのジレンマと言えば伝わる人も多いだろう…)に日本語詞とジャズアレンジを施したバージョン。

 

”Sometimes love gets too much.

you can't make your heart beat faster.

In the end, you befriend the one that you've lusted after.”

 

 

 まず、冒頭から原曲のメロディに沿いながらもオペラ調の荘厳なクワイアで始まるところがとてもいいのだが、ジャズアレンジであってもエヴァンゲリオンの持つ重厚で荘厳な重苦しさを崩さないのは見事だと思う。

 

 そこに入ってくる、アコースティックギターの美しい音色から…

 

”触れて 欲しい 細い指先で

そっと そっと 溶けて 行くの

深い源(みず)の中”

 

とウィスパー気味で歌われる。これが非常にいい。

 

さらに、

 

”似ているわね 心の傷 

誰にも気づかれぬまま

触れた先で夢が泡と消え

ゆらり ゆらり

蘇(かえ)る場所は今は探せない”

 

この部分の切なさたるや筆舌に尽くしがたい。

 この部分はエヴァンゲリオンという作品の持つ特有のナイーブさを端的に表現しており、日本語詞を歌うところだけアコースティックギター主体になり、歌メロを際だたせるようにしているのがまたいい味になっている。

 

 更には、ここまでジャズアレンジが連続しているにも関わらず、その歌い方がすべて異なるのが林原めぐみの良さであり、マンネリ感をリスナーに与えることはない。

それこそが、表現力の豊かさを端的に示しているように思われる。

 

ここで、ヤマアラシのジレンマのジレンマについて軽く説明する。

 エヴァの作中では赤木リツコが劇中で発したセリフとして記憶されているが、元々はフロイトが考えた話である。

 それによると、寒さの中で二匹のヤマアラシが暖を取ろうと互いに近づくのだが、近づきすぎると互いの針が身体に刺さってしまう。 

 しかし、離れると寒くなるのでお互いにその距離を模索し、やがていい位置に落ち着く…という話である。

 これは、転じて人間関係にも応用でき、どんな関係でもあまりに近づいたり鑑賞しすぎたりするトラブルになり互いを傷つけ合うことになる。ということらしい。

 

 作中の言及は新世紀エヴァンゲリオンの登場人物が皆いかに人間関係に難を抱えているか、ということや人間関係の難しさを表しているのだ。

 エヴァンゲリオンとこれらを踏まえると歌詞や曲の聴こえ方がより一層違うものになってくるだろう。

 

 

 実は2曲目から4曲目は鷺巣詩郎によるジャズアレンジアルバム「THE WORLD! EVANGELION JAZZ NIGHT =THE TOKYO III JAZZ CLUB=」に収録されている。

コレもいい作品なので是非皆さんも…。

The world!EVAngelion JAZZ night=The Tokyo III Jazz club=
 

 

5.SKY5 作詞:宇治田愛 作曲:松村裕二 編曲:Avaivartika 

SKY5

SKY5

  • provided courtesy of iTunes

 

 ピアノの美しい旋律とギターのキラキラした音が印象的なミディアムナンバー。

 

 作詞の宇治田愛さん、作曲の松村裕二さんが見慣れない名前なので調べてみるとI's CUBEというユニットを組んでいることがわかった。

 彼らの基本的な作風はピアノの美しい旋律に宇治田の豊かな中音域を活かしたパワフルさと繊細さを併せ持った歌声にあり、メロディラインの良さも特徴的だ。

www.youtube.com

 

 そして編曲を担当したのはAvaivartika(アヴァイヴァルティカ)。同じく宇治田がボーカルと務めるバンドで2010年から活動を開始している。

 メンバーにキーボードがいるためアレンジに幅があるのが特徴的であり、こちらもキーボードの音色を活かした伸びやかなロックサウンドが特徴的なバンドだ。

 

 実はこの曲はそのAvaivartikaが原曲を担当しており、日本アニメーター見本市で『そこからの明日。』という作品内で使われている。

SKY5

SKY5

  • 日本アニメ(ーター)見本市/Avaivartika
  • アニメ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

www.youtube.com

 

 これのカバーだが林原めぐみ自身がLINE BLOGで言及しているのでそちらも参照されたし。

lineblog.me

 

 サウンド面の話に移るが、キーボードの旋律とエレクトロニカを思わせる繊細な打ち込みが非常に美しく、林原めぐみの新たな一面を覗かせるような音になっている。

 

 また、途中からディレイを効果的につかったギターの音色が非常に美しく、ともすれば少しU2を思わせる伸びやかな音が合わさってくるのが名前に相応しいほどの開放感を感じさせている。

 

 このような音楽を林原めぐみがやる、というのはあまり例がないので彼女なりの新基軸であろう。

それがきっちりとハマっているのは声質がそういうのに向いているのが大きいこともあるが、そこまでロック的な激しさが無いのがマッチしているのだろうと考えられる。

 

歌詞であるが、やはり空を思わせる開放感と可能性に満ちたものになっている。

 

”今夜 遠い夜空 手を伸ばしてみる

無数に輝く光 距離は果てしない

誰もがその先を 描く自由を手にしている

空へ空へ”

 

この部分なんかは林原めぐみが元々持っている前向きさとかなり食い合わせがいいように思えるし…

 

”繰り返す日々 溺れそうで

そのループから 逃れられず

助けを求める 言葉など知らない”

 

という部分はもがきながらも空に向かわせる力強さも感じさせる。

 

 水樹奈々もこのようなメッセージ性を持った曲を歌うことは多いが、林原めぐみ水樹奈々に比べるとヒーロー然としてはいないというか何処かあっさりしていると個人的には思っている。

 

 超人的な物を感じさせないくらいの人並な挫折、そして前向きさ ー そのような個性にこの歌詞は外部の人間が描いたものながらきっちりハマっているあたり、曲のチョイスの仕方も林原めぐみは優れているのだろう。

 

 冬の今に聴くよりは、始まりの季節である春に聴いたほうがより一層聴こえ方が良くなるナンバーであることは間違いない。

 

6.もう1人の私 MEGU Version 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう

もう1人の私

もう1人の私

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 アニメ『3×3 EYES』連動プロジェクトの一貫としてリリースされた「サンハーラ 〜聖なる力〜」カップリング曲を自身のバージョンで歌い直したもの。

 原曲だと同アニメのヒロイン「パールバティー四世」のキャラソン的な雰囲気の歌声、オリエンタルなアレンジになっているがこちらではピアノの音色のみであり、林原めぐみの声音も、自身の名義のようになっている。

 

 サウンド面ではピアノのみの非常にシンプルなアレンジである。そのため、この曲のもつメロディラインの良さや、林原の息遣いまでもがつぶさに聴こえてくるようなアレンジやミックスがされていると考えられる。

 また、楽器が少ないことにより、どことなくブレスなどが際立つのも生っぽいサウンドを印象づける大きな要素になっているだろう。

 

 林原の書く歌詞は、人を勇気づけるもの、キャラに寄り添うもの、自分を励ますもの、失恋、恋愛、人生など様々なものがあるが、歌手の書くものに比べると何処かあっさりしている。

 水樹奈々が書くような濃厚な世界観でもなく、坂本真綾が描くような抽象的で詩的な世界でもない。

どことなくノンフィクション的な等身大の自分らしさと、親しみやすさが同居しているのだ。

そういうのを見ているとつくづく林原めぐみはシンガーではないんだなと実感をするのである。

 

”知っていたのもう一人の 私がソコにいると

傷ついてる 泣けずにいる 心を閉ざしかけてる

抱えきれない悲しみなら 私に託していいよ

長い時が必要なら ここで待っているから

その瞳 開くまで”

 

 この部分は彼女演じる「パールバティー四世」が、多重人格(性格には違うのだが便宜上そう呼ぶ)であることに由来しており、勿論そこに寄り添ったものになっているのだが、

彼女自身が経てきた年月やファンを大事にする林原めぐみのスタンスが垣間見えているようで何処か微笑ましいのだ。

 

 全編にわたり林原めぐみ流のメッセージソングであると僕は解釈しているが、と同時に水樹奈々のようなヒーロー然としたスタンスとはまた違う。

肩の力が抜けた感じがとても聴きやすく思えるのだ。

 これはどちらがいいか悪いかではなく、生き方と僕の解釈の違いでしか無いのだが。

 

 どことなく90年代のアニメソングを思わせる懐かしいメロディラインと優しい歌詞が身にしみる1曲である。

 

7.サンハーラ 〜聖なる力〜 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう 

サンハーラ~聖なる力~

サンハーラ~聖なる力~

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 シタールを思わせるエキゾチックな音使いが耳に残る林原めぐみお得意のアップテンポなナンバー。

 

 サウンド面だが、ストリングスとロックサウンド、そしてキーボードの音色が合わさるポップ・ロック、そしてそこに歌謡曲を思わせるメロディラインが加わることで90年代的な懐かしさを感じさせる。

別に悪い意味ではない、このような曲調をアニメソングだなあ、と思えることそのものが林原めぐみが作った大きな功績だろう。

 このようなものは水樹奈々にもきっちり受け継がれているし、このポップさは現在のアニメソング界の基礎になっていると個人的には考えているので、それだけでこの方の偉大さがなんとなく感じ取られるのが良い。

 

 林原めぐみとエキゾチックさ、というと「MIDNIGHT BLUE」がなんとなく連想されるのだが、こちらはシタール的な音色が加わることでより、その方面に強調されていると思う。「3×3 EYES」の世界観にきっちりと照準を合わせていることも含めてとてもアニソン的である。そこがいいのだ。

MIDNIGHT BLUE

MIDNIGHT BLUE

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  疾走感のあるアニメソングというと林原めぐみの少し高めで特徴的な声質をどうしても想像してしまうのは、ぼくが小さい頃からこの声を刷り込まれているからかもしれない。

 

 歌詞に関してだが、アニメの内容に沿う、勇ましく決意を感じさせるものになっている。まあ、こういうタイプのアニソンの生みの親みたいなところがあると思っているし。

水樹奈々と大きく違うのは基本的に他者ではなく自分を鼓舞する、それを背中で語ることで勇気を与えるというベクトルの方向性の違いだろうか。

 

”強さの裏側へと 閉じ込めてた

涙枯れ果てるほど 孤独な日々

生真面目なぬくもりが 全て包み

この瞳の奥へ 真実を告げる

聖なる力を”

 

 

”心に負った傷を 数えるより

集いあった儀礼(いのり)に 交わるなら

涙の向こう側に 必ずある

出会うべき未来が 切り開かれゆく”

 

 このあたりだが、基本的に語りかけるスタイルと言うよりは独白の色彩が強いのだ。

励まし、というのはときには他者の心を蹂躙する暴力になってしまう。

 看護師の資格を持っている林原めぐみにはソレがなんとなくわかっているからこそ、背中で語るということに徹しているのかもしれないと思う。男らしいな…

 

 思えば、声優が歌手をやる意味について僕はよく考える。歌だけをとってみれば、本職の歌手の方が上手いわけだし、バンドを歌ってみても、アニメなどのタイアップが多いというその性質上ポップにせざるを得ないし、どう頑張っても「歌もの」なのである。

 声優アーティストが歌手よりも特徴的だと言える部分は何なのだろう?

 

 声優なんだもの、ソレは声に決まっているだろう。

 

 声質というある意味歌う際に最も重要な武器である恵まれた道具を持っているのだ。

 

そんな素材を楽曲提供者が一流の手腕を持って調理をすることで、声優が歌うことの良さが引き出されると考えている。

 

 加えて、声優というのは発声の訓練をしっかり積んでることもあり、発声に優れているところがある。そういう点でもその部分の訓練を省けるというコスト的な面もあるだろう。

 さらに、今の世界では声優とアイドルの境目が曖昧になってきており、ビジュアル面での売出しも含め…

声優が歌う=金になるというビジネス面も無視できない。

 

 まあ、これらのビジネスモデルは林原めぐみ始め色々な声優が作り上げたものだが、とりわけ林原に関しては声質に加え、アニメの内容をきっちり理解している内部関係者であるという点も関係しているのだろう。

 

 古き良きアニソンの要素をきっちりと持っている点でもまさしく正しくアニメソングを歌う声優なのだなとこの曲を聴いてふと考えたりした。

 

8.つばさ 作詞:岩谷時子 作曲:太田美知彦 編曲:Conisch

つばさ

つばさ

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 映画「マルドゥック・スクランブル 排気」の主題歌及び挿入歌であり、本田美奈子の同名曲のカバー。

 

 この曲の作詞は岩谷時子という方なのだが、作詞家、翻訳家、詩人として有名な方である。また、シャンソン歌手であり女優でもある、越路吹雪(若い人に伝わるだろうか…)のマネージャーを務めたことでも知られている。

 

 その作詞した方々のメンツも豪華で、ザ・ピーナッツ郷ひろみ加山雄三田原俊彦越路吹雪布施明ピンキーとキラーズ島倉千代子フランク永井沢田研二フォーリーブスジュディ・オング美川憲一など…まさに昭和を代表する作詞家である。

 

 また、エディット・ピアフ愛の讃歌始め訳詞も数多く残しており、歌手に提供したもの以外だと、ミュージカル「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」などが挙げられる。更にアメイジング・グレイス本田美奈子が歌う際にその訳詞も担当している。

 そして、校歌や合唱曲などの作詞も担当している本当にすごい人である。

 

 作曲は太田美知彦。1983年に原田真二とのバンド「クライシス」でデビューする(1年ほどで脱退した)。

 その後は爆風スランプ稲垣潤一T-BOLANなど様々なアーティストのサポートキーボーディストを務めることになる。

 そして、作曲家、編曲家の活動が中心になっていった。

 実は世代ならピンとくるかもしれないが、1996年に放映された「キャプテン翼J」、1997年から1998年では「中華一番!」において音楽を担当し

デジモンアドベンチャー02の「ターゲット~赤い衝撃~」の作曲を担当した。

 

 ちなみにクライシスだが、ギタリストであり、水樹奈々のサポートでも知られる北島健二がメンバーだった時期があったり、サポートでキーボーディストとして小室哲哉が参加していたことがあった(北島健二の紹介による)。

小室はその後正式メンバーになるべくオーディションを受けたが参加には至らなかったらしい。

 

 また、Conisch(コーニッシュ)は作曲家、編曲家、キーボーディストとして活動しており、テレビ朝日ドラマ「生徒諸君!」、桐原いづみの漫画を原作とするTVアニメ「ひとひら」のテーマ曲を製作。

また中西圭三のライブ等にキーボーディスト、ピアニストとして出演しているという経歴の持ち主だ。

 

 本田美奈子に関してはもう、説明はそこまで必要ない気もするんだが…。

 元々アイドルだった本田美奈子は、ミュージカル女優として活躍してから初めて出したシングルであり、間奏での28秒にも及ぶロングトーンはもはや伝説である。

 彼女が亡くなってしまったことが非常に惜しまれるというか…ファンの思い、本人、家族の思いはいかばかりだったろうか、と思ってしまう。

つばさ

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 コレほどまでに様々な人が関わり、思い入れも深い作品は非常に扱い、そして思いに折り合いをつけるのが難しい。

 林原めぐみはカバーに対して映画の公開初日の挨拶で本田美奈子さんが長年支えてきた作品を自分が歌っていいのか、それが本当に作品のためになるのか」と葛藤があったことを語っていた。

 しかし、マルドゥック・スクランブルの著者である冲方丁から「命のバトンタッチをしてほしい」という助言があったことで迷いが晴れて歌わせてもらったことも語っているため、故人の曲、とりわけ病で早逝してしまった方に対する彼女なりの敬意が垣間見える。

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 僕が好きなX JAPANのHIDEもそうなのだが、人が亡くなるということは本人にその真意を問うことが二度と出来ないということでもある。だからこそその取扱にはとりわけ敬意を払い、故人、遺族、そして原曲を愛するファンへの敬意が何よりも重要なのだと思う。

 

 曲に話を戻そう。

 

 原曲から大きくアレンジを変えているわけではないのだが、原曲に比べるとドラムもないし、テンポを多少スロウにするなどの違いが見られる。

 また、キーボードの音色がそこまで華飾されていないため、歌声を大事にしていることが伺える。

 歌唱だが、本田美奈子の突き抜けるようなロングトーンや低音から高音まで感じさせる歌い方に比べると、林原めぐみのほうがどことなく柔らかく、また、少し語りかけような物に変化しているのも特筆すべき事項である。

 

 歌詞に関しては、原曲は全く別の意味ではあるが林原めぐみが演じるマルドゥック・スクランブルの主人公「ルーン・バロット」との心境にリンクするように選んだようで、

 

”私つばさがあるの 太陽にきらめいて

はばたきながら 夢追いながら

はるかな旅を つづける”

 

 

”あなたもある つばさがある

飛び立つのよ 空へと

美しいわ 幸せでしょう

風にのり 虹を渡ろう”

 

というように自由を渇望して夢を見る心境を正直に吐露している。

 

 カバーでここまでアニメとちゃんと思いをリンクさせるように選んだ、となるとスタッフも本当に慎重に選定したんだろうということが伺える素晴らしいカバーである。

 

林原めぐみの歌声の暖かさを味わえる1曲。

 

 ちなみにここまで林原めぐみを思わせるアップテンポなナンバーよりもスロウで彼女の歌声の妙を感じさせるナンバーが多く集まっている

また、たかはしごう作曲以外のものも多くあるところに、パブリックイメージよりも今の林原めぐみを見せたいのだという意志を感じさせる。

 

9.薄ら氷心中 作詞、作曲、編曲:椎名林檎 木管編曲:村田陽一

薄ら氷心中

薄ら氷心中

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 椎名林檎節全開のジャジーでミステリアスなナンバー。TVアニメ「昭和元禄落語心中」の第1期のOP。

 

そして…

 僕にとっての神と神が邂逅した曲。マジで予想外だった。

 

 作詞作曲編曲はシンガーソングライターの椎名林檎…まあそこまで説明がいる人ではないと思うが初期以降、つまり加爾基 精液 栗ノ花」以降の彼女を知らない人に少し説明しよう。なぜならここで離れた人が多いと聞くから…。

 まず、椎名林檎は自身の表現の延命措置のためもあり、2004年に東京事変としての活動をスタート。幾度かのメンバーチェンジを経て(ホントはガッツリ紹介したいけど割愛)、2012年まで東京事変のボーカルとして活動をする。

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 解散後は再び椎名林檎名義に戻り(東京事変在籍時も時折個人名義の活動はしていた)、変わらず作曲を続けている。近年だとエレファントカシマシ宮本浩次とコラボしたのは記憶に新しいだろう。

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 初期しか知らない人には椎名林檎=ロック少女のイメージが強いかもしれないが、

クラシックやポピュラーミュージック、ジャズへの造形も深い父、バレエ経験があり古い歌謡曲を好む母を持つ。

 そういうわけで、むしろジャジーでどこかレトロなアレンジのほうが身に染み付いているまである、そして勿論ロックも好き。そんな人なのだ。

 そらこの曲もそうなるわけです…。

 

 編曲者の村田陽一についても説明が必要だろう。

 この方はJAGATARA米米CLUBオルケスタ・デ・ラ・ルスなど数々のバンドに在籍したトロンボーン奏者、作曲家、編曲家、音楽プロデューサーである。

 

 国内では10000曲以上のレコーディングに参加している他、海外での活動経歴も豊富でモントレージャズフェスティバルへの出演経験がある。

 海外ミュージシャンとの共演も多く、マーカス・ミラーデヴィッド・サンボーンマイケル・ブレッカーなど数々の国際的なミュージシャンが並ぶ。

 アレンジャーとしても布袋寅泰SMAP井上陽水ピチカート・ファイヴ、サザン・オールスターズ、福山雅治、そして椎名林檎など書ききれないほど多岐に及ぶ。

 

 さらに、クラシックや吹奏楽の分野でも楽曲提供が多く、2009年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」、2017年には大河ドラマおんな城主 直虎」の吹奏楽版の編曲を

担当し、古畑任三郎やFNS歌謡祭のテーマ曲の編曲を担当…

 

 まあとにかくふたりともめっちゃ凄いの!

 

 そんな人達が林原めぐみに関わるっていうんだから、それは期待するしお互いにこのラブコールぶりである。テンション上がるよな!

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 肝心な楽曲の話に移ろう。

 基本的にはビッグバンド・ジャズ的な音の豪華さが目立つ。金管楽器も大きく前に出てるし、リズムセクションも素晴らしい。ウッドベースの響きがいいアクセントになっている。

 そして、どこか謡曲的なレトロ感を思わせるメロディライン…椎名林檎が創るジャジー全開である。

 しかし、実はこの曲で個性的な部分はここだけではない。

 

歌である。

 

 まず歌い方は椎名林檎というよりは、昭和元禄落語心中に出てくるミステリアスな女性「みよ吉」の持つアンニュイな部分に完全に寄せにいった。

 もとはもっと張り上げた仮歌だったらしいが、みよ吉が歌うとしたらこんなふうには歌わない、ということをひたすらに突き詰めキャラの生き様を借りたことや、

椎名林檎「もっと囁くようしてください」にとディレクションしたこともあり、アレだけの音が鳴り響いているのにボーカルがかなり静かで話し声に近いものに変貌したらしい。

──あの囁くような歌い方は椎名林檎さんのディレクションによるものだったんですね。

そうそう。最初はもっと歌い上げていたんですよ。いただいたデモの仮歌も、いわゆる林檎節で歌われたものだったので、言葉をばらまくような感じがいいんだろうなと思ったので。でも実際はひたすら「囁くように、囁くように」と言われ。さらに、この曲はみよ吉が命を落とす3分前の曲だっていう、そこに込めた思いを聞いたことでよりキャラに寄っていったところはありました。とは言えね、みよ吉さんに「歌ってよ」って頼んだところで小唄しか歌ってくれないですからね。「いやよ」って言われちゃいそうなんで、「そこをなんとか、あなたの生き様を借りていいかしら?」みたいな感じでなりきっていきました。

──みよ吉さんとそんなやり取りをしつつ。

そう。脳の中でね(笑)。まあでも、あれだけ楽器が鳴ってるサウンドに対して囁き声で渡り合わなきゃいけないなんてね、最初はまったくできる気がしなかったですよ。綾波レイもビックリなくらいの囁きを要求されたわけですから。

──でも結果的に林原さんのボーカルの存在感たるや、ものすごいですよね。確実にあのサウンドと渡り合えていると思います。

たぶんそうなることが林檎嬢には見えていたんでしょうね。囁き声であっても、あまたの楽器が鳴り響くオケに負けないマインドを重視してくれました。だからこそ、「もっとちょうだい、もっとちょうだい」みたいな感じでディレクションしていただけたんだと思いますし。私としては求められるがままに心地よく漂っただけなんですけどね。

 (林原めぐみ|デビューから変わらない“キャラと私”の進化系.より抜粋https://natalie.mu/music/pp/hayashibaramegumi03

 

 声優、林原めぐみの真骨頂が垣間見える話である。多分綾波レイ並みに静かな歌い方をしている。

 そして、最初からこの完成図がおそらく見えていたであろう椎名林檎の凄さも同時に分かるエピソードだ。

 

 歌詞に関しても椎名林檎独特の漢字の使い方が炸裂しており、

 

”ねえ、如何して目を合わさうともしないの。何故。

屹度 「直視に耐へない。」とでも云ふのでせう。だうせ。

ぢやあ 一体誰よ。こんな女にしたのは誰。”

 

 

”分かんないの。仕合せつて何。何れが其れだつてのよ。

面倒臭いわ。脳味噌も腸もばら撒いて見せやうか。

骨の髄 まで染め抜かれた女をご覧なさい。”

 

 この辺の仕合せという漢字の使い方や古風な言い回しを多用するところとか完全に椎名林檎。僕の性癖である。

 

 それでいて、昭和元禄落語心中を読んでいる、もしくは見てるとわかるのだがこれほどみよ吉という人間を表した歌もないと思うし、林原めぐみの色気ある歌い方に思わずこっちまでドキッとしてしまう。

 こういう歌い方が出来たのか…と、このキャリアにして林原の新たな一面を発見できる。

 

 これほどまでに強烈な化学反応を起こすとは思ってなかったし、歌手ではなく声優であり役者である林原めぐみだからこそ為せるものあるなと聴いていて改めて感じられた。

 

 アルバムの中では異色ながら林原めぐみの新たな側面を感じることの出来るナンバーである。

 

10.今際の死神 作詞、作曲:椎名林檎 編曲:斎藤ネコ

今際の死神

今際の死神

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 スウィングのリズムを感じさせるスロウなジャズナンバー。TVアニメ「昭和元禄落語心中」第2期シリーズOP。

 

 前曲に引き続き作詞作曲を椎名林檎が担当しているが、編曲が斎藤ネコになっている。

 斎藤ネコは日本の作曲家、編曲家、ヴァイオリニストである。数多くのアーティストの作編曲、プロデュースを担当し、その範囲もクラシックからハードロックと幅が広い。

 また、1984年から斎藤ネコカルテットという自身のバンドをスタートさせており、聖飢魔IIの「OVERTURE 〜BAD AGAIN〜」などの演奏にも参加している。

 アーティストとしては椎名林檎ほか谷山浩子とも深い関わりを持つ。

 

 このように、編曲を変えることを意識したのか楽曲面では金管楽器がフューチャーされた「薄ら氷心中」とは対照的に弦楽隊を大きく前に出し、弦楽器の響きをきっちりと活かすためゆったりとしたテンポ感の楽曲を提示している。

 また前曲と比べると歌い方は変わっていないものの、言葉の数を明らかに減らしており、そのあたりも楽曲に合わせていることが伺える。

 

 椎名林檎の楽曲はリズムとメロディラインの良さが際立ち、どこかフックがあるが譜割りがそこまで変なものではないため、ある意味汎用性があり他の人が歌うことも可能という一面がある。個性はそのリズムとメロディラインにあるのだからそこは問題ないというわけだ。

 

 歌詞に関してだが、

 

”さあ悲しみの亡者は湿(しめ)やかに啜り泣き

ご覧喜びの亡者が逆さまにほころぶぞ

人生はいつも一人きり分(わか)ち合へないの

一世一代の恋のお相手も行違つたまゝ”

 

というように前曲よりもどこか悲哀を感じさせるものや、

 

”ぶつつけ本番の大博打、伸(の)るか反(そ)るか”

 

というように明らかに決意を感じさせるものもある。

 

 これは、話の展開にかなりリンクしているのだが…これ以上は自らの目で確かめてほしい。

 椎名林檎らしいこの言葉の言い回しの巧みさと独特の美学を感じることが出来る他、やはり前曲と合わせてより大人の歌を歌うようになった林原めぐみの色気ある歌唱を存分に堪能してほしい1曲だ。

 

11.リグレット 作詞、作曲:岡崎律子 編曲:蓮沼健介

リグレット

リグレット

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 ピアノの旋律と綺麗なメロディラインが特徴なバラードポップ。

 

 岡崎律子…というと林原めぐみの歴史には欠かすことの出来ない方である。

 

 岡崎律子はシンガーソングライターである。長崎に生を受け、高校1年生の時に同級生とバンド「モノマー」を始める、当時のパートはピアノ・コーラスだったとか。

 その後、音楽業界入りすると「森野律」の名義でCMソングを手がけ、1993年に岡崎律子の名前でメジャーデビューする(トーラスレコード)。晩年はスターチャイルドレコードに移籍していた。

アニメファン的には「For フルーツバスケット」が有名だろう。

 

 2004年に敗血症性ショックで亡くなった。享年44歳だった。

 …その死後なのだが、2003年にスキルス性胃がんを発病し闘病しながら創作活動を続けていたことが明らかになる。遺作となったfor RITZは製作中の5月に訃報が出されたため、レコーディングスタッフがその冥福を祈ってタイトルを改定した。

 仮歌状態のものもあったが、彼女の強い意向により同年の岡崎の誕生日でもある12月26日にリリースされた。音源の完成を彼女が見ることはなかったが、本番の収録がされてなかったものは生前親交があった編曲家たちの手で最後まで完成するに至った。

 親族の意向で、交流のあった一部の芸能関係者の例外を除くと墓所は一般公開されていない。

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※生前唯一のテレビ出演。

 

  林原めぐみと深い親交があったことは知られているが、他にも飯塚雅弓緒方恵美やまとなでしこ(堀江由衣田村ゆかりのユニット)、井上喜久子など数々の声優に楽曲を提供している他、アニメだと「魔法のプリンセス ミンキーモモ」「フルーツバスケット」「ストラトス・フォー」「アキハバラ電脳組」 などのアニメにも楽曲を提供している。

 様々な、楽曲提供の中でもとりわけ面白いのがヤマハ音楽教室のピアノ・エレクトーンの教材用に曲をいくつか提供しており、音楽生徒向けの教材CDにソレが収録されていることだろう。

 

 さて、林原めぐみとの関わりだが、以下の楽曲を彼女に提供している。

  • 素直な気持ち(SPHERE)
  • はなれていても(bertemu)
  • -Life-(bertemu)
  • Good Luck!(Iravati)
  • 引っ越し(ふわり)
  • あの頃(ふわり)
  • 雨の子犬(CHOICE)

※あの頃のみ作詞:MEGUMI 作曲:岡崎律子、他は作詞、作曲:岡崎律子。なお雨の子犬は岡崎律子の未発表曲を形にしたもの。

 

 こうして並べてみると、林原めぐみが最も多忙を極めた90年代での楽曲提供が多いように思う。

 林原のキャリアを考えると決して水樹奈々で言う上松範康矢吹俊郎坂本真綾で言う菅野よう子のように常に楽曲を提供していたわけではないが、そのどれもが重要な楽曲で林原にとって心理的に大きなウエイトを占めていたことがわかる。

 ちなみに僕自身はGood Luck!に幾度となく元気をもらってきました。

 

 曲の話に移ろう。

 この曲は1996年に岡崎律子が歌っていたものをカバーした作品であり、その編曲は岡崎律子の曲を多数編曲してきた編曲家、蓮沼健介が手がけている。

 岡崎律子の楽曲を岡崎律子の信頼できる人のもとに託した形だ。

リグレット

リグレット

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 原曲からテンポもアレンジも大きく変化させていないのは、岡崎律子に対する1つのの敬意の現れだろう。2010年代も終わりに差し掛かろうという現代から、このようなポップスを見たら少し古臭く映るかもしれないが、歌謡曲的な懐かしさを感じる楽曲はどこか安心感がある。あえてアレンジで取り上げるとしたらこの懐かしさの部分だろうか。

 このようなアレンジは今ではあまり見ないし、80年代アイドルのような既視感があり、それがどこかすっと耳に馴染む。

  素直なメロディラインのポップスが多いのは、彼女がデビューした当時の時代性も反映してるのだろうが林原めぐみ、そして岡崎律子の大きな特徴である。

 

 また、歌詞に関しては男女の別れを描きながらもそこに悲壮感はなく、少しの苦味と後悔、そしてあいてに対する感謝を滲ませたものになっている。

 

”本当はまだ 迷っていた

ただつらくて悲しくて

その全てが あなたのせいと

思うくらいに 愛してた”

 

この部分や

 

”恋人たち 腕を組んで

誇らしげに しあわせ

みつめあって 悩みあって

愛を育てていくのね”

 

この部分に滲んでいるのは相手に対する感謝である。

 

 感情をありのままに吐き出し、憎しみや怒りをぶつける歌詞が共感されやすい現代には余り見ないような形ではあるが、このような歌詞のほうが個人的には好きなのだ。

 解釈の余地がある曲のほうが好みというだけなのだが…。

 

 実際にはもっと言いたいことがあるのかもしれないし、本当に感謝だけなのかもしれない。その解釈は人それぞれでいいのである。

 

 ソレ以上の説明は野暮というものだろう。

 

 加えて、林原めぐみの歌い方も何処か語りかけるような優しい歌い方になっており、林原がいかに岡崎律子のことを大切に思っていたのかが少し垣間見えてウルっときてしまう。

 

 これは林原自身が語っていたことなのだが、「薄ら氷心中」「今際の死神」の後にこれを配置したのはあえてらしい。

──どちらもどこか懐かしい雰囲気のアレンジになっていますし、流れで聴くとグッときますよね。

いいですよねえ。あとこれはネタの1つとして受け止めてもらえればいいんですけど、「今際の死神」の後に「リグレット」を置いたのはあえてなんですよ。「リグレット」は「恋人なら大切にしなくちゃね」って歌っている曲なので、それをみよ(みよ吉)ちゃんにも、こっそり言ってあげたかったと言うか。

                               

(林原めぐみ|デビューから変わらない“キャラと私”の進化系.より抜粋https://natalie.mu/music/pp/hayashibaramegumi03) 

 

 このようなことを知っていると、またこの曲が違う聴こえ方をするだろう。

 

 岡崎律子の楽曲が2018年に聴けたのは嬉しく思うし、同時に色々なことを考えて少しホロリとしてしまうナンバーである。

 

12.Mint 作詞、作曲:岡崎律子 編曲:蓮沼健介

Mint

Mint

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 岡崎律子の未発表曲をサルベージし、形にした軽快なポップナンバー。

 

 こちらも編曲は蓮沼健介に託している。岡崎律子にたいして最も信頼ができる人に任せるということが少し透けて見える。

 

 まず、こちらの楽曲が世に出る敬意なのだがこのようなものがあるらしい。

――印象としては非常にドラマチックな、最後に「Fifty」に辿り着くっていうような感じの曲順になっているなと思ったんですが、聞きたいことから伺っていくとなると、やはり「Mint」についてです。こちらは1stライブの楽屋打ちの席でangelaのKATSUさんからテープを渡されたとのことで。

林原 そうなんです。

――ブログを拝見して、衝撃だったんですけれども。

林原 13年時が経って軍艦島も見て、岡崎さんへの想いを……忘れるとかそういうことでは決してなくて、ひとつ整理をして。でも言ってみると、あのライブって岡崎さんがいっぱいだったんですよ。「『ミンキーモモ』から始めよう」とか「岡崎さんの声で始めて岡崎さんの声で終わろう」とか。そのライブの打ち上げの席で岡崎さんのカセットもらうって、できすぎじゃないですか?その日じゃなくても、スタッフ越しでもいいじゃん、って思うし。で、びっくりしちゃって、KATSU君にはかつてしたことないぐらいのハグをして。

――そうなんですね(笑)。

林原 「ありがとう」でもないし「何これ」でもないし、全部日本語がめんどくさくなっちゃって、もう「あーっ!」みたいな(笑)。KATSU君が、モノとしては古いけどあえてDATを使いたいからと言って、ピアノのお師匠さんの蓮沼(健介)さんからDATをもらって、その時に、キングレコードとゆかりの深い…という意味で岡崎さんのカセットももらったそうで。そこで彼は「これはめぐさんが持っていたほうがいい」と思ってくれたらしく。打ち上げの席で、渡してくれました。しばらく聴けずにワタワタしていたんですけど。いざカセットをセットして、あそびの部分がスーッとなって、イントロが聴こえてきて……そのあと岡崎さんの声が聴こえてきたときすぐ止めちゃったんです。なんかもう、聞いたら終わっちゃうって、怖くて。でも深呼吸してもう1回聴いて……。

出典:

www.lisani.jp

 

 なにか運命に似たものを感じさせるエピソードである。

 angelaのKATSUがコレを手に入れた経緯もまた特別なもので、編曲を担当してる蓮沼健介にDATを貰い、その時にキングレコードと縁が深い…ということで原曲であるカセットを手渡されたのだとか。その後打ち上げの席で林原めぐみの手に渡るのだ…。

 

 正直このエピソードだけでだいぶ涙腺にクる。

 

 ちなみにDATというのは簡単に言うと音声をデジタル化して磁気テープに記録する規格、またはその媒体のことを指す。

 現代のレコーディング方式を考えると少しレトロな代物なのだ。

 

 そんなわけで、林原の手に渡ったカセットだが、蓮沼氏 と話し合った時の感想は「リグレットのアンサーソングみたい」とのこと。

 リグレットの後に作られたものであることがぼんやりと感じられる、という言葉からは林原、蓮沼と岡崎律子の縁や関係の深さが伺える。

 林原がテープから流れてくる岡崎律子の声を聴いた時に、想いが溢れて思わず涙ぐんでしまった一方、まだ未発表曲があるのではないかと何処か冷静に捉えてる自分もいたとのこと。

 

 そんな訳でこの曲の話に移るが、サウンド面ではステップを踏みたくなるリズムと共に林原の綺麗で優しげな歌声が乗る、という林原流ポップスの典型を踏襲している形になる。

 岡崎律子の曲であることを意識しているのか、普段の快活な歌声とは違い、少し優しげなのがどこから心憎い。

 

 歌詞に関してだが、こちらも別れの歌である。しかし前曲に比べるとより感謝に満ちた歌になっている。

 

”人が羨むあの頃だって 問題はあった

二人の事は二人にしか分からないね(two of us)

結局ちゃんと続けてゆく根気が無くて

何かに負けてしまったような想いが残る”

 

 

”どうしたの 私は平気

今は遅くなった日も

独り星を見ながら

ちょっと寂しく帰るけれど

あなたといた日の意味や キラリ見つけた事が

ほらね 幾つもあるわ” 

 

など、何処か別れの寂しさを滲ませながらもそれは感謝に満ちたものになっており、過ごした日々が決して2人にとって無駄ではなかったと思わせてくれる。

 

 恨みつらみをぶちまける歌も悪くはないのだが、時折心がしんどい気持ちになってしまう自分がいる。だからこそ、こういう歌詞は身にしみるのだろう。

 

 さっぱりとした思い、そして少しの後悔の中にたくさんの感謝がある、そんな少し大人な甘酸っぱさの恋の歌である。

 

 この曲解説のリンクに更に踏み込んだ話があるので、興味がある方は是非。

 

13.恐山ル・ヴォワール 作詞:武井宏之 作曲、編曲:かぴたろう

恐山ル・ヴォワール

恐山ル・ヴォワール

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 かつて林原めぐみがネット上で「歌ってみた」ものを琴と笛を生演奏に差し替えて録音されたナンバー。

 

 まずはこの曲の経緯について話をしよう。

 

 はじめに、「恐山ル・ヴォワール」という単語は漫画「シャーマンキング」の単行本19、20巻に出てくる(完全版だと15巻、16巻)に出てくる。

 この話は主人公麻倉葉とヒロイン恐山アンナ(彼女の声優が林原めぐみ)の出会いを描いた過去編の副題、そして、その話の中に幾度となく散りばめられる劇中詩である。

 その劇中詩は各話のラストに登場し、またエピソードの終盤にも登場する。

 

 ここで言う「ヴォワール(revoir)」、とはフランス語で「会う」、そして隠語で「花嫁」を指す単語であり、また「オ・ルヴォワール(au revoir)」で「さよなら」もしくは「またね」の意味になる。

 アニメでは放送されていないエピソードではあるが、後にドラマCDになったときにアニメのキャストそのままに収録された経緯がある。

 

 その数年後、前述の劇中詩に中学生時代のかぴたろう氏が音楽をつけて、後に手直し。そして、初音ミクに歌わせ、ボーカロイド曲として2010年にニコニコ動画内で発表したものである。

 彼いわく「とても良い詩なのに音楽がついていないなんてもったいない」ということだったらしい。

www.nicovideo.jp

 

 

 ここでミラクルが起こる。

 事後報告であったが「シャーマンキング」原作者の武井宏之先生並びに関係者各位に気に入られたのだ。 

 

 そして、2011年10月にシャーマンキング復活記念として、「恐山アンナ」と名乗るユーザー名のとある動画がニコニコ動画内で投稿される。

 

www.nicovideo.jp

 

 あまりにも林原な歌声、あまりにも武井宏之先生に酷似した歌声、Twitterでの関係者の言及等により、これは林原めぐみの匿名投稿なのではないかと噂された。

 

 そしてこれは2011年11月8日、「ジャンプ改」内のシャーマンキング公式サイトにて、武井宏之先生直々の以来のもと、林原めぐみの賛同を得た上で、作曲者(もちろんかぴたろう氏のことである)に確認の上に誕生した」との説明がなされた。

 

 コレにより、名実ともに恐山アンナの歌ってみたであるという証明が成された。こんなミラクルは僕もインターネットをずっとやってて初めての出来事である。

 ちなみにこれの詳しい経緯はこちらのリンクから確認できる。

togetter.com

 

 

 そして今回収録されているのは、その歌ってみた音源の琴と笛の演奏を生に差し替えたものである。          

 

 サウンド面であるが、生演奏の琴と笛に差し替えたことで原曲以上に臨場感が増したとともに、さらに和の雅さが表現されているように思う。

 恐山アンナとして歌った林原めぐみのどこか少女っぽさの残る歌声も非常にマッチしている。

 間奏に入ってくるピアノの美しさは筆舌に尽くしがたいものがある…。

 

 シャーマンキングが大好きな自分としてはこの事実だけでも既に感動モノである。

 

 さらに歌詞なのだが、これがまたシャーマンキングの過去編の様々な場面を思い起こさせるものになっているのである。劇中詩だから当然といえば当然なのだが。

 

”お前さんを待つ その人はきっと

寂しい思いなぞ させはしない

少なくとも 少なくとも”

 

ここが既にアンナなんだよなあ…とか思うし、

 

”齢千余年 小生はやっと

さびしい思いから はなれます

はかなくとも はかなくとも”

 

ここが麻倉葉、そしてハオと縁の深いあの猫の話だし…

 

”不肖の身なれども この度は

至上の喜びと ちりぬるを

非情に思われど 気にはせぬ

微笑のひとつでも くりゃりゃんせ 慕情にも”

 

原作知ってると、思いが入りすぎてまともに語れないのですが、涙が出ますね…。

 

 もう一回シャーマンキング読もう…これ聴く前に該当場面を再度(多分100回目以上)完全版と通常版で読み返したけども…。

 

 林原めぐみ、かぴたろう、武井宏之先生、そして関係者の方々が「CHOICE」以降で起こした1つの奇跡を目のあたりにできる楽曲であり、シャーマンキングをまた読み返したくなるナンバーなので、是非聴いたことのない方はこの機会に。

 

14.Fifty 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう

Fifty

Fifty

  • provided courtesy of iTunes

 

 林原めぐみが50歳の自分、そしてこれから歳を取るすべての人に向けた新たな応援ソング。

 

 林原めぐみは年齢の節目節目にメッセージソングを作っている。

Thirty

Thirty

  • provided courtesy of iTunes
Forty

Forty

  • provided courtesy of iTunes

 

 どれもこれも、彼女の節目に自分の年齢を振り返って生まれた作品である。

 

 それは押し付けがましくもなく、暑苦しくもない。しかしながら、年を取ることを肯定させてくれるし、そっと背中を押してくれたり寄り添ってくれる詩ばかりである。

 この曲について林原めぐみは下記のように語っている。

 

──そしてアルバムのラストは、林原さんがご自身で作詞した「Fifty」で締めくくられます。年齢シリーズはこれで3作目になりますね。

「Thirty」「Forty」「Fifty」とそろいました。ポーカーで言ったらロイヤルストレートフラッシュくらいのけっこう強い手ですよね(笑)。去年、せっかく50歳で初ライブでもしたので、やっぱり「Fifty」という曲は入れておきたいなと思ったんですよ。

──どんなことを思いながら歌詞を書いていったんでしょう?

たまにネットなんかで“劣化した”みたいな表現を見ることがあって、自分が言われてどうのこうのではなく、その表現そのものが、嫌だなーって思うんですよ。一生懸命生きてきた人に対してそういう表現を張り付けるのって、なんだかすごく切ないでしょ。「それって当たり前なことなんだってば! みんな時に順応しながら老いていくんだってば!」って言いたかったんだと思います。私は自分のおばあちゃんに対して劣化したって思ったこと一度もなかったし(笑)。

 (林原めぐみ|デビューから変わらない“キャラと私”の進化系.より抜粋https://natalie.mu/music/pp/hayashibaramegumi03

 

 今作でもその年齢に対する考え方を喋ってくれているのだが、僕は彼女の考え方に人生を通して影響され続けている。それはやはりこういった曲の存在も大きいのだと思う。

 それでは曲を見ていこう。

 

 まず、サウンド面だがストリングスとポップ・ロックのバランスが良いし、イントロのストリングスがあることでさらに軽快さをプラスしているように思える。

 今どきこのような真っ直ぐなポップ・ロックナンバーは中々聴くことが出来ないのだが、林原めぐみに小さい頃から触れてきた自分としては、こういう曲を聴くとなぜか安心してしまうのだ。

 これに思い入れがあるのは否定できないのだが、歌謡曲的な綺麗なメロディラインがあるからなのか、どことなく日本人の琴線に触れるような物があると思っている。

 

 歌詞なのだが、これはThirty、Fortyとの比較で書いたほうが良いかもしれない。

 

”気がつけば後ろに道が しっかりとできていて

迷ったり つまずいたり 色々あったけど

それぞれがとても大切 私だけのダイアリー

いつのまにか思い出ね あの日 あの時 あの声”(Thirty)

 

 30のころは自分の思い出や過去を懐かしむような歌詞であり…

 

”そうそう人は 変わらないものね

泣いて、笑って、怒って、すねて

大人の境はあいまいで

また 泣いて、笑って、怒って、ねむる ”(Forty)

 

 40になったら、少し苦しいことや大人への迷いが増えて…

 

”行ってきますと飛び出しては

忘れ物を思いだす

駆け戻った扉の前

戻ってくると思ったと

あきれた顔で

微笑んでた母(あなた)”(Fifty)

 

 50になると、懐かしく思う記憶と同時に親の影を見るようになるのであった。

 

 そして、最後の部分では…

 

”10年前の私は 激しく泣いたり、 怒ったり

自分が好きになれずに 落ち込んでいたけれど

10年後の私は 少し優しくなれていて

自分以外の誰かを 大切にしてたら すてきね

10年前の私に 思い切り無理をしなさい

がむしゃらにぶつかって しっかり傷ついてと

10年後の私には あんまり無理をしないで

ゆっくりとあなたらしく 歳(とき)を重ねていてと 伝えたい”(Thirty)

 

 

30の頃には自分の過去と未来にメッセージを贈っていた。

 

そして、

 

”大丈夫を 口癖に

足跡はそれだけで宝物

私がいる あなたがいる

それだけで一つの宇宙になる

四つの10を クリアしても

まだまだ出来ない事だらけ

太陽<ひ>が落ちて 太陽がのぼる

それだけで一つの宇宙になる”(Forty)

 

 40の頃には辛い思いをしている人に対する励ましを与えていた。

それが50の頃には…

 

”出来ない自分も少し愛してあげて

そこからあきらめずに

まだあきらめずに

この体ごと手放すその日まで

目もとのライン、キュートに増やして行きましょう

きっと、涙と笑顔のバランスは

フィフティ フィフティ

半世紀からその先も、果てが無いね

To be continued”(Fifty)

 

 人生の終わりを意識しながら、年を重ねながらもまだまだ未来はあるんだよと語りかけ、希望をもたせる終わり方になっている。

 

 これを見ていると、30歳というのは人生をわかっているようでまだまだわかっていなくて、40になると更に苦しいことがあったりもするけど自分を励ましながら進んでいく。

 そして50になると思い出が増え、後進に伝えることも出来、それでも未来を見ることが出来る。苦しみの先にもちゃんと楽しさがあるということをなんとなく僕に思わせてくれるのだ。

 

 林原めぐみは自分の声優アーティストとしてのすさまじいブレイクの反面、自分のことをきっちり見ている人だった。

 ソレはこの曲からも伺えるし、彼女の発言、キャラクターを大事にする姿勢、そしてファンへの敬意など…

 そこに、昨今のアイドル声優が忘れてしまったものが詰まっているように思うのだ。

 

 果たして彼女のように歌うことは出来るのだろうかと思う半面、林原めぐみはきっとそんな後進にもこういう思いを伝えたいのだろうかとなんとなく感じた。

 このような曲を聴いていると、このような年の重ね方を出来たらなあと我が身を振り返るのだ。

 

 50にして老いを楽しむことをリスナーに教えてくれる大事な歌であり、これからもこういう歌を歌ってほしいなと僕は願っている。

 

まとめ

 たかはしごうで始まり、たかはしごうで終わるこのアルバム。林原めぐみのパブリックイメージをある程度は保ちつつも、こういうのも私なんですよとか、今の私はこうです!という感じで、どちらかというと現在のありのままの自分を見せることを優先したように思える。

 

 林原めぐみほどのキャリアと実績なら沢山のスタッフが動いてくれるだろうし、もっとトレンドを取り入れた作風にすることも出来ただろう。

 しかし、彼女はそういうある意味背伸びみたいなことはせずに素直な自分を表現した。

 それは、大人の彼女が持つ包容力や余裕でもあると思うし、それは歌声の柔らかさにも現れているだろう。

 伸びがある歌声でもどことなく優しさが見え隠れするのだ。

 

 林原めぐみの今を知らない人に届いてほしいアルバムだと思ったし、年齢のことで悩む全ての人、特に年齢や老いにネガティブなことを言われやすい女性に聴いてほしいものがたくさん詰まった作品である。

 

 僕も人生の後輩として先輩である彼女から学ぶことがこのアルバムからもたくさんあった。

 やっぱり、林原めぐみのことが大好きなんだなあとこのアルバムを聴いて再確認出来たので、改めて1stアルバムから聴き返そうかなという気分になったのだった。

 

最後に

 今回はそんな長く書くつもりはなかったのに思いが溢れすぎて、過去最長の記事になりました。

 林原めぐみさんと小学校3年生で出会って以来、本も買い、CDも集め、ラジオの公開録音にも当選し、ラジオを聞きながら勉強し…

 

 今まで感じてきたことをなんとなくこの記事に込めたつもりです。

 

 そして、オリジナルアルバムが出て、それが懐古主義ではなく良いと思えるもので僕はとても嬉しかったです。

 

 林原めぐみさんを今から聴くとなると大変かもしれませんが、ベストアルバムが出てるのでそこから是非はいってみてください。

 今の声優アーティストの原点の素晴らしさを知ることが出来ると思いますし、年齢とどう付き合っていくかもわかってくるんじゃないかなと思います。

 

 そういえば、次のライブはまだ未定だし、次のアルバムもまだ未定ですよね。僕は待てますがなるたけ早いと嬉しいです。

 あと、エヴァに関する音源が多かったことは、シン・エヴァンゲリオンのことと関係があるんですかね?そうだったら嬉しいです。完結する姿がみたいです。

 

 とにかく林原めぐみが好きなの!それだけ!

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました!

無限に続く夜の旅へ~Chouchou「theme02 Night and Wanderer」(2017)

はじめに

 自分はいろいろな音楽を聴くんだよ~とか言いながら、1番多くなったのがまさか水樹奈々関連だと思わかなった。

 

disheatchaos.hatenadiary.com

disheatchaos.hatenadiary.com

disheatchaos.hatenadiary.com

disheatchaos.hatenadiary.com

 

 しかもヴィジュアル系とかばっかりだし、ここらで新しい人達を書くか~と思い、筆を執った次第です。

 自分の好きな音楽はファン層が重ならない人ばかりで、ソレはソレはアプローチの難しさを感じるのですが、少しでもファンが増やせたらいいなと思うのと、同好の士がほしいなって…オタクは寂しがり屋だから…。

 今回は、今までと全く違う音楽です。それではどうぞ!

 

Chouchou「theme02 Night and Wanderer」(2017)

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chouchou.bandcamp.com

www.youtube.com

(映し出される夜から薄明にかけての映像が美しいトレーラー)

  1. l'heure bleue
  2. Arkadia
  3. 1619kHz
  4. träumerei
  5. aldebaran
  6. Colors
  7. DISPATCHER
  8. everlasting
  9. ray
  10. Uroboros

 日本のエレクトロニカユニット、Chouchou(シュシュ)が2017年に出したコンセプトアルバムなのだが…音楽の紹介に入る前にまずこのグループの紹介をしようと思う。

Chouchouってどんなグループなの?

 このグループは2人のメンバーで構成されているのだが、経歴が少し変わっている。

  • juliet Heberle(ジュリエット・へベール): 作詞、歌唱

 日本生まれ東京育ちの女性。

10代の時に渡米して美術学士であるBFAを取得するとファッション業界に身を置く傍らアラベスクに才能を見出され、Chouchouとして活動を開始する。

 楽曲のアートワークやサイトのイメージ、仮想空間内でのプレゼンテーションなどユニットのビジュアル面のディレクションも担当している。

 このユニットのコンポーザーであり、チェコ人の父と日本人の母を持つ。

 プロのクラシックピアニストとしての一面も持っており、別名義Michal Horák(ミハル ホラーク)として活動していた。高校時代から作曲を始めており、新しい表現のスタイルとしてChouchouを結成する。

作曲、アレンジ、ミキシング、マスタリングなど音楽面全般を担当する他、PVなどの映像制作も担当している。

www.youtube.com

 

 とまあ、その経歴も変わっていれば結成のいきさつも変わっている。

 結成年は2007年。キッカケはジュリエットが元々セカンドライフ(ネット上に存在する仮想世界。今のVRチャットの先駆けみたいなもの)内でやっていたラジオでアラベスクが「自分で歌ってみたら?」と提案したことにあるらしい。

 仮想世界で結成されたグループというのは2007年の時点では世界に殆どなかっただろうから、本当に不思議な経緯である。

 ちなみにこのChouchou(シュシュ)という名前は2人が好きな作曲家ドビュッシーの娘、エマの愛称にちなんでいる。

 

 そんな彼らが奏でるエレクトロニカは、アンビエントで実験なポップさを持っている幻想的な作品が非常に多く、今作のテーマは「夜の旅」である。

 

 以上のお話がわかったところで1曲ずつ見ていこうと思う。

 

1.l'heure bleue

l'heure bleue

l'heure bleue

  • provided courtesy of iTunes

 

  およそ2分のインストゥルメンタルナンバー。

 バックで空間的なエフェクトのかかった打ち込みが流れる中、ピアノの美しい旋律がとても印象的であり、それだけで一気にこのアルバムの世界に引き込まれる。

 

 Chouchouが他のエレクトロニカアーティストと違うのは、クラシックに対する非常に熟達した技能やその素養があることである。ボーカルのウィスパーボイス、どこかEGOISTに重なるのだが、それも相まって非常に幻想的かつメロディアスな仕上がりになっている。

 このメロディアスさと楽曲の構築能力、ボーカルの独特の声質はこのグループの大きな武器であり、僕が彼らを好きな大きな理由である。

 

 この1曲でコンセプトである「夜の旅」に通じるような仄暗さと、幻想的な雰囲気に引き込まれることだろう。

 

2.Arkadia

Arkadia

Arkadia

  • provided courtesy of iTunes

  前曲の流れを組んだスロウテンポのナンバー。

 

 ”そしてまた扉を開けた 最果てへ帰った

「おかえりなさい」と囁く 声が聞こえた”

 

 そう、囁くボーカルから始まるこのアンビエント・ポップのタイトルはArkadia(アルカディア)。

ギリシャペロポネソス半島中央部にある地域名で、理想郷の代名詞である。

 

 理想郷というと、一般的にイメージするのは「天国」「楽園」であり、それらの単語を聞いた時に何をイメージするだろうか?一般的には白、もしくは緑を基調とした光に溢れた世界なのではないだろうか?

 

 そんな中で、この曲は違う。”朝の幻”という単語は存在するがその世界は基本的に夜である。

 

明くる日朝に祈れ ただ目を閉じ

赤毛の鳥はいないと

忘れたはずの祈り ただ唱えて

枯れた古巣の匂いを 香っていたいの”

 

 

 つまり、これは理想郷というものを夜というある意味闇の象徴から見た目線なのだ。

理想郷というテーマでこういう表現の仕方は非常に珍しいと思う。

 

”赤色の葡萄の滴りを 種へ零した

霧が晴れる朝の幻を 描いて”

 

 この歌詞からもわかるように、あくまでも朝の幻であり、幻なのだ。

 ここまで儚い理想郷への憧憬を描いた歌をウィスパー気味の声で歌われるのが非常に新鮮である。

 

 ピアノの旋律と藤井麻輝を彷彿とする打ち込みの入れ方と空間的なエフェクトの愛称は抜群であり、この2人が出会うべくして出会ったのだなと改めて感じさせてくれる。

 綺麗なメロディだが、フレーズに緩急があるとかそういう方向性ではないあたり、何処かミニマルミュージック的な匂いもする。

 

 全編を通して儚く美しいという言葉が似合うナンバーであることは間違いないだろう。

 

3.1619kHz

1619kHz

1619kHz

  • provided courtesy of iTunes

www.youtube.com

 

 近年の日本エレクトロニカ史上最強のナンバーの1つ!神、優勝、マスターピース

 

 いや、割とほんとに思う。

 

 この曲はラジオの高速道路情報を思わせるポエトリーリーディング、そしてドラマチックなバックトラックで構成されており、アルバムでも異色のナンバーである。

 世代や普段ラジオを聴かない人にはこの例えがピンとこないかもしれないので参考動画を掲載しておく。

www.youtube.com

(僕は日本道路交通情報センターの高速道路情報ラジオが凄い好きです)

 

 この曲の始まりの歌詞はこんな感じである。

 

”午後6時15分現在の 高速道路情報をお伝えします

首都高一号羽田線 下りの情報をおしらせします

芝浦ジャンクション付近を頭に

平和島ランプ付近まで 5kmほど渋滞しています”

 

 やや、舌っ足らずな高めの声でごく普通に高速道路の情報を読み上げていくのだが、少しずつ世界の崩壊が見られ…

”梟が肉を拾っている”

だの

男の子が泣いている”

と少しずつ不穏な単語が増えていき…

 

”250422km先のポスト付近で

夜が終わりかけている

との一報が入りました”

 

 という何やら幻想的かつ異世界に迷い込んでしまったかのような歌詞へと変貌していく。

 「高速道路情報」という普通の始まり方で淡々と読み上げる中、で徐々に世界が崩壊していくさまはドキリとさせられ、寒気すら覚える。

 また、そこに至るまでの文章構成や間のとり方が非常に巧みであるため、気がついたらその世界に入り込んでいるのがこの曲の素晴らしいところである。途中で少しだけ挿入される歌も素晴らしいアクセントになっている。

 

 サウンド面に関してだが、基本的にはアンビエント・テクノ的でありながらも、

所々に入ってくるシンセサイザー的な電子音があるため、このトラックと単調とは無縁のものに仕上げている。

 このようなポエトリーリーディングとバックトラックの組み合わせも絶妙ながら、

この曲はタイポグラフィにこだわったPVも非常に完成度が高く、深夜の高速道路の映像も相まって、この曲をもり立てている。

 

4.träumerei

träumerei

träumerei

  • Chouchou
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

 チル・アウト的な色彩の強いナンバー。

 前曲の怪奇幻想的な気分をどことなく冷ましていくかのような、澄んだ儚いサウンドが特徴である。

 トロイメライ、という単語自体は特に珍しくはない単語である。

 シューマントロイメライもあるし、YUKIトロイメライもある。前者は放課後の学校で聴いたことのある方も多いだろう。

www.youtube.com

 

 そもそも、トロイメライという単語はドイツ語の「Traum(トラウム)」から派生した言葉であり、夢見ることや白昼夢という意味がある。

 

 それを踏まえて歌詞をまず見ていこう。

 

”名前も無い 夢の欠片

近づいては 離れゆく 二連星のようね”

 

 二連星、というか連星というのはお互いの引力で引き合いながら軌道を描いている天体のことを指している。

 その字義と歌詞の内容は関係があるのか、という話だが関係がないわけではない。

 

”名前も無い 夢の欠片

近づいては 離れゆく 二連星のようね

夜目覚めて あなただったと気づいたの

微睡みの中で見つけたの”

 

ここで、連星と比喩として使っている他、

 

”永遠の 現の 刹那の片隅に

どうか連れ去って 私を

仕草で 声で 貴方だと分かるわ

どうか連れ去って”

 

 この部分では、惹かれるというのを引力と同じようなニュアンスで強調しているように思える。

 

 夢の中でしか会えないような離れ離れな2人の意味合いなのか、それとも関係の終わりか、夜の孤独さとどれを表している歌詞なのかは明言されていない。

 おそらく、そういうことを直接描写しないのがこの曲の良さだろうし、Chouchouというグループのもつ幻想的、抽象絵画的な世界を端的に表現していると思う。

 

 チル・アウト的なサウンドやビート感に対して、ストリングスを効果的に用いることで楽曲にドラマ性をもたせているほか、ギターのアルペジオの響きが非常に美しい。

 全編におよび空間的処理が施されているのも相まって、とてつもなく幻想的でどこか寂しげな音色に仕上がっている。

 

 このアルバムの序盤の中でも、とりわけ人々を夢の中に誘ってくれるナンバーであることは間違いないだろう。

 

5.aldebaran

aldebaran

aldebaran

  • Chouchou
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

 前アルバム「ALEXANDRITE」の流れを汲む、ポップでキャッチーなナンバー。


Chouchou - CD Album "ALEXANDRITE" Trailer

ALEXANDRITE (BICOLOR EDITION)

ALEXANDRITE (BICOLOR EDITION)

 

 

 

 とは言っても、Chouchouの持つ「幻想的かつ静謐な雰囲気」と「夜の旅」を加味しているため、コンセプトアルバムにもよく馴染んでいる。

 

 アルデバランとはおうし座アルファ星を別名とするおうし座の中でもっとも明るい星の1つである。

 名前の意味は「後に続くもの」であり、これはプレアデス星団が東の地平線から登ってくる時に、それに続き空に登っていくように見えたことが由来らしい。

 赤色巨星、という星としてはまあまあ老境の域にある天体でもあり、その大きさはなんと太陽の約44倍。スケールが大きすぎて何も想像ができない。

 

 端的に言えば死にゆく星である。

 

 そのことが、この曲と関係していると思わせるのがその歌詞である。終わりを感じさせるものが非常に多いのだ。

たとえば、

 

”交わした 言葉はそっと

風に消えていくのだと知った”

 

 

”巨星は疾うに沈んだ

消えた事さえも気づかずに”

 

 この部分だろう。消えていくことや、終わりを明らかに意識している歌詞は珍しくないが、天体とともにスケールの大きさと拡がりと深みを感じさせるのはその声質に依存するところもあるだろう。

 

 そもそも天体のアルデバランは地球からとても遠い星なのだ。距離でいうと65.23光年。簡単に言うと地球からアルデバランに行くには光の速度で約63年間かかるということである。

 そのため、地球からアルデバランを観測することは可能なのだが、僕らが観測できるその輝きは既に63年前に放たれたものであるということになる。

 個人的には現在に生きていながら、過去の光を見ることが出来るという少しロマンチックなところを感じさせる。

 

 話を戻そう。この曲のサビと言える部分では、

 

アルデバラン とっくの疾うに放たれた

光を見せるんだ 不思議な公平さで この無慈悲な今を隠すんだ”

 

 と書いており、過去に放たれた光ということも哀しみの象徴として使用しているように思えるし、それが更に別の深い喪失を覆い隠しているというようにも読み取れる。

 全編通して哀しみの漂う不思議な風合いの歌詞である。

 

 逆にサウンド面だが、Chouchouのナンバーにしては割と珍しく、疾走感とビートがはっきりと感じられる。

打ち込みに関しては最初は点でしかなかったものが、曲が進むごとに音が増えていき、徐々に壮大になっていくというドラマチックな構成になっている。

また、今作の全ての曲に共通してるのだが、深いリバーブのかかった空間的な音像は健在である。

 

 「夜の旅」が1つの転換点を迎えたと思わせる、このアルバムでもかなりアップテンポなナンバーである。

そしてそれは、アルバムが後半に向けてさらなるステージに加速していくということを感じさせる。

 

 個人的にはIDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)とアンビエントが好きな方にオススメしたいナンバーだ。

 

6.Colors

Colors

Colors

  • provided courtesy of iTunes

 

 前曲とは対照的なダウナーでサウンドも含めメランコリックさの漂うナンバー。

 

 まず、この曲の歌詞はサウンドに対して譜割りが独特である。

 今までメロディに対して素直に歌ってきたこのアルバムの前半と比べるとどことなく異質である。

 

”what color will fade

and what will stay

僕らはいつでも気づかぬふりして”

 

 この部分の歌詞などは完全にバックに比べると言葉を少し多めに詰め込んでいる。

 そうすることで、言葉を発するリズムにおいて少しモタったり、またつんのめるということが産まれる。

 こうして、生まれる言葉のリズムの波が一種のグルーヴとしてこの曲では働いていると考えられる。それは、ともすれば単調で同じような風合いの曲になりがちなエレクトロニカというジャンルにおいて曲の差別化を担っている。

 タイトルに反して、曲の雰囲気や歌詞は終始、色が失われたような儚さを帯びており…

 

パステルカラーが滲む少女の顔した 君は愁いに満たされたら

「もういらないの」 そう甘い声で囁いた”

 

 このようにColorsという複数の色であることを拒否するような「愁い(うれい)」「もういらない」というネガティブな意味合いのある単語が登場する。

 

 歌詞の内容を逆説的にくっきりと表現するためのタイトルとして「Colors」と名付けたのは僕はとてもいいことだと感じている。

 

 サウンドはやはり、アルバムのコンセプトに合うような深いリバーブのかかった打ち込みなのだが、この曲では泡沫のほうな儚さがあり、オルゴールや鉄琴を思わせるような金属的かつ抱擁感のある音が特徴的である。

夜にコレほど合うナンバーも珍しい。

 

 途中でストリングスが入ってくる箇所があるのだが、それが曲を引き締めているように思えるし、所々グリッチのように入ってくるノイズが非常に美しい。

 

 クラシックのピアニストでもある方がこのような曲を作るというのは、世界ではともかく日本では中々居ないのではないかと思う。しかもそれが打ち込み主体の電子音楽となると尚更少ないだろう。

 

 普通のエレクトロニカ系アーティストにはないような音へのバランス感覚を持った特異性があることも納得の1曲だ。

 

7.DISPATCHER

DISPATCHER

DISPATCHER

  • Chouchou
  • IDM / エクスペリメンタル
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

ダークさと空間的な拡がり、そして実験的ビートが特徴的なミディアム・テンポな1曲。

 

 英語詞によるポエトリーリーディング的なものは入っているが、ほぼほぼインストゥルメンタルである。

 

 今までがポップさもあるアンビエント的な楽曲と大きくくくることが出来るなら、この曲はそれとは全く違う性質のエクスペリメンタルなIDMナンバーと言えるだろう。

 

 先程も少し触れたが、IDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)とは電子音楽のいちジャンルのことだ。

 

 90年代初頭に登場したジャンルの音楽であり、ダンスという名前がついているものの、フロアで踊るよりは家でじっくり聴くための電子音楽である。

 なぜ、フロアで踊るということに向かないのか?それはメロディに依存しない音楽であるため、メロディに縛られないという特性上、自由なビートの構成が許される。

そして、そういう音楽はしばしばビートの複雑性を持っているからである。

 その中にクラシックを取り入れるアーティストも居たりするので更に複雑である。

 

 このジャンル自体がデトロイト・テクノやアシッド・ハウス、ブレイク・ビーツなど様々な音楽の影響を受けて出来上がった音楽である。どういう面が表出するかによってかなり雰囲気が変わったりする。

 また、ジャンルという様式であるよりは個人の実験的な色合いもかなり強いジャンルである。

 IDMという呼称自体がエリート主義的で他のジャンルを見下しているという批判もあり、このジャンル名を拒絶するアーティストも少なくはない。

以下このジャンルに一応数えられる有名な…ではなく僕の好きなアーティストの例である。

なにせ、電子音楽はジャンルの境目がかなり曖昧でサブジャンルも多いので、分類が難しいのだ…。

www.youtube.com

www.youtube.com

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www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com

(適当に本読むとか生活の間に流し聴きしてみてください)

 

 これらの音楽のような要素を、Chouchouでも感じられるわけだが、ビートがそこまで詰め込まれていないことや、打ち込みである程度のメロディが感じられること、

人間の声が入ってることなどIDMのジャンルとしてはまあまあ聴きやすい部類に入る。

 

 また、打ち込みの音色が美しいため、ビートの複雑さやダイヤルアップ接続を思わせる効果音の突飛さを無視して音に浸ることが出来る。

 やはりこういうものは単純に電子音楽をやっているだけでは得られないクラシック出身者ならではの、音やメロディに対するバランス感覚なのかもしれない。

 

 最初は少し戸惑うかもしれないが難解でリスナーを付き放つような雰囲気は持ってないし、IDMの入門にぴったりな作品だろう。

 

 ちなみに、DISPATCHERは英単語で発送係やバスやトラックの発進係という意味がある。また、航空会社に勤務し、その会社の全ての便のフライトプランを作成する職業を指すことも。日本では運行管理者などの国家資格の取得を要する仕事である。

 

8.everlasting

everlasting

everlasting

  • provided courtesy of iTunes

 

 アブストラクトで幻想的な風合いの強いバラードナンバー。

 

 everlastingというのは複数の意味がある単語である。その意味は「永遠」「不朽」「永久」を意味し、場合によっては「退屈するほどに長い」というのも選択される。

 おそらく意味合いとしては前者なのだろうが、ここで歌詞を見てみよう。

 

”二度と 帰れない 帰りたい あなたへ

終わりなど知らぬように 話していたいの”

 

”陽の色も闇も 朧げに移ろい

さよならは時を 常しえに氷らせた”

 

 これらから見る限り、意味合いとしてはおそらく前者だろう。

普通、「永遠」という単語はそこまで悪い意味で使われない。

 

 「何を言ってるんだ?永遠の命とか永遠の苦痛とか…」って言ってる人もいるはずだ。1つ言っておこう。

 

ソレを感じた人はぶっちゃけオタクだからである。僕もそう。

 

 むしろ一般的に永遠という単語でイメージされるのは、「永遠の近い」とか「永遠の愛」とか、幸せな感情が時と共に風化しないことを願うようなポジティブさを伴うものばかりなのだ。

 

 では今回はどうなのかというと、永遠をポジティブな意味では一切使っていない。

この曲で印象的なフレーズがある。

 

”二度と 帰れない 帰りたい あなたへ”

 

 この部分である。

 

 コンセプトが夜の旅であることは既に何回も言っているが、様々な角度から夜にリスナーを誘う中でも、この曲はとりわけ孤独感が強い。

 夜、というのは時折人を強烈な孤独に誘う。それはバイオリズムで単純に脳が疲れているのもあるだろうが、夜が静かであることも大いに関係していると思う。

 

 主観だが、人が孤独を感じやすいのは、喧騒にいるときよりも、喧騒から静寂に放り込まれたときだと考えている。

 

 周囲の賑やかさから一転して自分しか居ないということを意識せざるを得ない環境に放り込まれる時に、否が応でも誰かと居た時のことを思い出して寂しくなってしまうのだろう。

そして、人々が寝静まり否が応でも喧騒から静寂を体験しないといけなくなるのが夜なのだ。

 

 そんな孤独感をeverlastingという永遠を表す単語で表現し、更には前述した歌詞で表す、というのは中々に一般的な価値観とは言い難い。

 

 それでもなお、二度と帰れないという永遠は本当の意味での孤独である。それにはこの曲のタイトルをが必要であるという必然性を強く感じさせる歌詞であった。

 

 その歌詞に呼応するように余り強い主張をする音は使わず、空間的なエフェクトを活かしたサウンドが目立つ。

 所々ドローンのようなものが流れる中、ピアノやヴァイオリンがところどころに聴こえる旋律は儚く、美しい。そして、何処か脆い。

 

 それはまるで薄氷を踏むような心もとなさも感じさせるし、触れたら消えてしまう泡のようなものも感じさせる。

 そこにジュリエットの伸びやかな声が乗るというのはもはや反則技に近いものがあり、それによってChouchouというアーティストの個性と武器を最大限に発揮している。

 

 ときおり、打ち込みのフレーズのニュアンスを変化させることで、静かなバラードながら曲にメリハリを付けて退屈させないのも非常に良く出来ている。

 

 永遠の孤独を感じさせる、文字通り「夜の旅」に相応しいナンバーだ。

 

9.ray

ray

ray

  • Chouchou
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

 名前の通り光線の如き疾走感とスペーシーな拡がりを感じさせるアップテンポな曲。

 このアルバムにアップテンポなナンバーが多くないのは、「夜」という単語がイメージさせる時間の流れがゆったりしているもあるのだろう。

 しかし、夜空というのは宇宙の大きさを感じさせるような深い青の色彩を帯びている。

 それは生活音が止み、空に対して1人で対峙しなければならなくなるという事実もあろうだろう。

 何よりも思うのは、星が瞬くということはその光線を宇宙から受け取っていること。そして、これは夜にしかはっきりと観測することが出来ないということ。

 

 だからこそ、「夜の旅」というテーマに”ray”というタイトルなのだろうと僕は思っている。

 

 話がそれてしまったが、ここで歌詞を見てみよう。

 疾走感のあるスペーシーなサウンドにリンクするように、歌詞にもその傾向が見受けられる。

 

”君が夢見た蜃気楼へ

僕ももう向かうよ

絶望の淵を照らした

君は眩い一縷の閃光”

 

 夜の旅、というテーマで閃光という単語がでてくることにまずここで驚かされるのだが、宇宙というところまで解釈を拡大すると、それは恒星の発するまたたきであり不思議はないのかもしれない。

 光線がどこまでも伸びていくさまもやはり、周囲が暗い場所、もしくは夜にしか見ることが出来ない。やはり夜の旅、なのだ。

 

 しかし、この歌詞をすべて見ても夜明けを感じることはない。むしろ闇を疾走する光のままなのだ。また、光は人に例えられそれに恋い焦がれる話である。

 

 夜の旅が明けてしまえば夜の旅ではなくなる、ということは当たり前なのだが、

光に向かうとか夜明けに結び付けがちなテーマだと考えるとやはりこのアーティストはひと味もふた味も違うことを再確認させてくれた。

 

 サウンドシンセサイザーの音色が特徴的であり、夜のような深く暗い音像を残しつつ光も感じさせる音色に仕上がっている。

 また、ドラムのフレーズがそこに疾走感を更に上乗せする。このアルバムでここまでドラムの音が目立つのはおそらくこれだけだろう。

 聴いてるとどことなくラスマス・フェイバーに通じるポップさを感じさせる。

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 サウンドの明るさはまるで夜明けを感じさせるような明るさがあるのに、歌詞の中で夜明けという明確な描写がないというのは非常に面白い。

 行間に滲ませてるのか本当に夜が明けないのか、どちらにしろどことなく日本語ならではの含みをもたせた歌詞表現の妙なのかもしれない。

こういう感じで、いい意味で歌詞とサウンドの間にギャップをもたせているのではないかと僕は思う。そして、そういうギャップというのは音楽を聴く時の面白さに関係すると思っている。

 

 アルバムはこの曲からラストに向かうわけだが、その刹那の煌めきのようなナンバーで、もう何回か聴き直す必要がありそうだ。

 

10.Uroboros

Uroboros

Uroboros

  • provided courtesy of iTunes

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 夜の旅を告げるナンバーは夜明けなのにおやすみで終わるチル・アウト的なナンバー。

 まず、歌詞を見ていこう。

 

”綺麗な夜明けね

おやすみ おやすみ”

 

 このような文字の組み合わせは今までで初めて見た歌詞である。

 陳腐で安直な話になってしまうのだが、普通は夜明けにはおはようだし、夜にはおやすみである。

ましてや、普通に想像するなら…

夜の旅の終わり=夜明け

である。

 

 しかし、このグループはそうしなかった。

 

 ”凍てつき 朝日を浴びて

黒い羽 散らして 羽ばたいた あなたに

ただ会いに行きたいだけなのに”

 

 

”ただ傍で 幸せだと

ねぇあなたに 言いたいだけ

夜は終わり 夢は消える”

 

そして…

 

”眩い夜明けね

おやすみ おやすみ”

 

という具合に相反する言葉と、どことなく寂しげな歌詞が目立つ。

 

 夜明けというのは普通はなにかいいことが起こる前触れとして象徴である。

だったら別にここまで寂しげな歌詞にする必要はなかったのではないか?と考える人もいるだろうが、ここで曲のタイトルを思い出してほしい。

 

 Uroborosというのは一匹もしくは二匹で啄みあい輪を形成した蛇、もしくは龍の図案化である。

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 そして、その意味は「死と再生」「不老不死」であり、他にも循環性、永続性、始原性(宇宙の根源)など、様々な意味を持つが基本的には終わりがない物の象徴である。

 

 ここで、Chouchouの曲に戻ろう。

彼らは夜明けにおやすみと言っている。

 

おやすみということはどうなるか?

 

また夜の旅が始まるということだ。

 

そして、それはこのアルバムの1曲目に繋がることになり、またここに戻ってくる。

ここにきたらまた1曲目に戻る…。

 

 つまり、夜の旅の永遠性、循環性を端的に表した曲であり、醒めない夢というのをタイトルと相反する言葉の組み合わせで表したナンバーだと考えている。

 そうでなければおやすみと夜明けをわざわざ組み合わせる理由がない。

 

 アルバムの最後で夢は消えると言っているが、ウロボロスの原義に戻れば循環でありまた夢が始まるわけである。

 

 そう考えて聴いていると次第に夢と現実の境目がごちゃごちゃになってくる。

 夜というのは疲れているのもあるが、時折まどろみで現実と眠りがごちゃごちゃになってしまうことがある。

そのときには夢と現実はどこまでも連続した形になり、そこに終わりも始まりも無くなっていく…

 そんなことをこの歌詞を聴いていて思い出したと共に、この曲の特殊な構造に敬服するばかりである。

 

 サウンド面では少ない音数でありながら、空間的な響きをうまく活かせるようなエフェクトが使われており、スカスカで散漫な印象はない。

時折挟まれるピアノの音が美しいし、どこまでも拡がっていく幻想的な音は本当に夢の中のよう。

 しかし、夜明けの雰囲気がしない夜の旅の終わりのトラック、というのも不思議なものだ。何回も言っているがChouchouの発想は何から何まで普通と違うのだなあとつくづく感じさせる。

 

 アルバムを何回も聴きたくなる仕掛けが詰まった曲であった。

 

まとめ

 今作のコンセプトは「夜の旅」。そこに見合った非常に洗練されたトラックが数多く並んでおり、極限までに練り上げられている。

やはりこういった作風こそChouchouの魅力であり最大の武器であると改めて実感させられた。

 夜の静けさに注目してコンセプトと様々な曲をまとめ上げていったその手腕は非常に素晴らしいし、それでいてコンセプトに縛られすぎない自由さを見せたのもとても良い。

  

 改めてもっと多くの人に聴いてもらいたいアルバムであり、エレクトロニカというジャンルの素晴らしさがひとりでも多くの人に伝わればいいなと感じた。

 

最後に

 今回は、今まで書いてきたアーティストとは全く毛並みの違う方を書きました。

特に、ここ最近は水樹奈々さんのことばかり書いてきたので、エレクトロニカに改めて触れてその神秘性と構築性の高い音楽の魅力を再確認しました。

 

 普段から静かな音楽を好む人も、そうでない人も、アニメソングが好きな人も、とにかくひとりでも多くこのグループを知ってくれると嬉しいです。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!

水樹奈々を聴く以前の自分について

はじめに

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僕の学生時代は灰色です

 

 

 僕は水樹奈々のリスナーである、と同時に90年代ヴィジュアル系とその周辺の音楽ののオタクでもある。

しかも、その昔は坂本真綾中島みゆきのリスナーである。

 つまり、元々が結構な根暗でどうしようもないオタクで小学生時代はいじめの記憶しかない…

 

 自分の心象風景に水樹奈々的な希望に満ちた世界はそもそもなかったのだ。

 

 そんな自分だが、水樹奈々のファンになって今年で10年目になった。

 どこでこうなった?今もそう思う。

 

思春期と出会い

 坂本真綾の話と中島みゆきの話は省いてヴィジュアル系から入るのだが、僕はヴィジュアル系というジャンルが好きである。

 元々、人付き合いが余り得意ではなくすぐ気疲れしてしまうため、読書をするくらいしか趣味がなかった人間である。

  水樹奈々を聴き始めるのは高校2年生に入ってからなので、その以前の話をしよう。

 

 そんな僕が音楽に強く興味を持ったキッカケは中学1年生の時にMステで見たL'Arc~en~Cielの「Caress of Venus」だった。

Caress of Venus

Caress of Venus

  • L'Arc~en~Ciel
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 ”君が笑うと嬉しくて 明日が無くてもかまわない”(Caress of Venus)

 

 このような刹那的な歌詞と世界観は、今まで生きてきた中にはなかったのでその衝撃たるや計り知れなかった。

 

 その後に、僕は同バンドの花葬に強く心を惹かれることになる。 

花葬

花葬

  • L'Arc~en~Ciel
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 ”瞳あけたまま 腐食してゆく身体

鮮やかに失われる この意識だけを残して

春を待てずに

愛しい貴方はただ そっと冷たくなって

腕の中で壊れながら ほら夢の淵で呼んでる”(花葬)

 

 元々、未熟児で生まれたことやその後周囲の人たちの死に別れに数多く直面したこともあり、「自分に合う世界はこれだ」と直感した。

 

 そして、中1の終わりに僕は動画サイトでとあるバンドと運命的な出会いを果たす。

 

Rosier

Rosier

  • provided courtesy of iTunes

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 全てが衝撃だった。

何処まで格好いい映像。歌声、楽器隊、そして雰囲気。

 その全てに僕は虜になった。

 そして、ソレと同時に彼らの音楽だけではなく、彼らの歌うことや、音楽性、ジャンル、楽器、文化、精神性…

 あらゆる領域に興味を持ち始めた。

 

 中でも、僕は彼らの周辺から聴く音楽を拡げていきつつ、彼らの孤独な歌詞にますます惹かれていった。そして、ソレと同時に完全に普通の人の価値観から乖離していってしまった。

 

End of Sorrow

End of Sorrow

  • provided courtesy of iTunes

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”幾千の星に抱かれて ロマンを叫び続けて

さびついた時は流れて 痛みを叫び続けて

愛しいキミを離さない あぁ トキメキ を…”(END OF SORROW)

 

 また、もう1つ僕の人生とも言えるバンドBUCK-TICKと出会うことになった。

この2つのバンドは自分にとって生き方を変えるレベルの衝撃を受けた。

 そして、彼らの歌う孤独や孤高の歌詞、そしてその毒々しい雰囲気に僕という人間はもう戻れないところまで人生観が変わってしまった。

悪の華

悪の華

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”燃える血を 忘れた訳じゃない

甘いぬくもりが 目にしみただけ

Lonely days

あふれる太陽

蒼い孤独を 手に入れた Blind-Blue-Boy”(悪の華)

 

 このようなタイプの歌詞に急激に惹かれていった。「何よりもかっこいい!」そう思って生きてきたが大きな問題があった。

 僕の周りではELLEGARDENBUMP OF CHICKENASIAN KUNG-FU GENERATIONが流行っていた。もうこの時代のヴィジュアル系なんて誰も聴いていなかったのだ。同好の士が欲しくて口を開けば馬鹿にされることさえあった。

 

 そうして、僕は水樹奈々が掲げるような溢れんばかりのポップな光に完全に背を向け、ひたすらに理解されない苦しみと、周囲への憎しみを持ちながら、孤独に自分の道を邁進していくことになったのだった。

 

 まず惹かれたのがX JAPANだった。彼らの持つ激しさと刹那、そして孤独は僕の心に救いと影の両面をもたらしたと思う。

特に、DAHLIAに強く心を動かされた思い出がある。 

DAHLIA

DAHLIA

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”TIME AFTER TIME YOU TRY TO FIND YOURSELF

流れる時代の中で

絶えない傷抱きしめ 切なさの風に舞う”(DAHLIA)

 

 その音楽の激しさと対照的なあまりにも孤独感の漂う歌詞。それは、僕の内面をも代弁しているようで自然と涙が溢れてきた。

 

 そして、僕の中の反骨精神が大きくなり始めた頃に、とあるバンドに出会うことになる。

 

 黒夢だ。

Fake Star

Fake Star

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 ”狂った洗脳 見破れそうさ

僕はニセモノ 不敵な fakestar

買収するのがホンモノなら

僕は偽りだらけの fakestar i'm a fake”(FAKE STAR)

 

 これは本当に衝撃的だった。

 中3の頃だったが、内面が完全に刺々しかった自分にこの瞬発力あふれるサウンドと、多数派に真っ向からケンカを売っていく姿勢に僕は完全に虜になった。

 

 そして、更に深い闇を歌うバンド、DIR EN GREYを好きになった。

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 地の底から這い上がってコチラを殺さんとする狂気の歌唱、重苦しいサウンド、絶叫、痛み…

 孤独感しかなかった自分の学生生活にとってDIR EN GREYの詩は1つの癒しだった。

 

 自分にとっての孤独を歌うバンド、というとZi:Killも外せない。このバンドには何度も救われてきた。

 ただ闇に耽溺するだけではなく全員を見返して這い上がるという意志も芽生え、やたら男臭いバンドを好むようになったのも彼らを聴いた時期だったと思う。

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”行き場のない俺がいる のたうちまわってるだけ

短い時だったと 身を投げ出そうともした

傷つき堕ちていくことに 嫌気がさしていたけど

どしゃぶりの雨に打たれることが 今はとても素敵に見える”(少年の詩)

 

 そんな観点でいうとCRAZEにも惹かれただろうか。

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”晴れた日の朝も雨の降る夜も独りで 泣いた

寂しさ埋める術もなくただただ 独りで

夜の海は黒くて冷たくて独りきりじゃ 怖くて

肩を寄せあえる距離に誰か 恋しくて”(傷)

 

 サウンドの激しさと相反するそのあまりにも孤独感の漂う歌詞は、僕の心をつかんで話さなかった。

 

 自分の中の闇を歌ったバンドとして外せないバンドはかなり多い、というか水樹奈々を聴くまで邦楽なんてほぼ暗いのしか聴いてなかったである。

 

そんな1番精神的に荒れていた中学生時代を過ごしたのだった。

 

音楽にぶん殴られる時期

 そんなこんなで、暗い自分に若干どころじゃなくまあまあ酔いしれてた自分だったが、高校1年から高校2年、つまり水樹奈々を聴くまでにになるに居鼻っ柱を完全に折って水樹奈々を聴く自分に繋げたバンドがいくつかいる。

 

筋肉少女帯Plastic Treecali≠gari、そしてTHE YELLOW MONKEY

 

  筋肉少女帯だが、BUCK-TICK絡みで調べてて見つけたバンドである。

 このバンドの歌詞はある意味で、暗いということで悦に入ってた自分の心を完全に抉った。

踊るダメ人間

踊るダメ人間

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”踊ってる場合か! お前の思い言ってやろう" この世を燃やしたって 一番ダメな自分は残るぜ! (3 2 1 0!)”(踊るダメ人間)

 

 最初に聴いた時にマジで泣きそうになってしまった。自分のアイデンティティなんて所詮紙くずみたいなものでしか無いのだ、ダメな自分と向き合うしか無いという残酷な現実を突きつけられてしまったのはかなりきつかった。

 

そして、Plastic Tree

梟(ドナドナ版)

梟(ドナドナ版)

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”ざわめく胸を羽ばたいた。

光を忘れながら。 暗闇。君に触れそうな夢見せてよ、梟。

泣いてる片目閉ざした。

記憶の舞台裏でこぼれた涙支払って未来を覗いたら、

恋しくて、愛しくて、切なくて、苦しくて、悲しくって、

見えなくてまばたきをした瞬間、いま刹那スローモーション―。

逢いたくて、逢えなくて、追いかけて触れてみたその花は、

ずぶ濡れて、幻。”(梟)

 

 この歌詞を初めて聴いたときに涙したのを覚えている。明らかに、自分の中で何かが溶けた気がした。

 

 坂本真綾に通づる平易な言葉による散文詩だが、曲の疾走感と相反する歌詞の空虚さに寂しさを感じ、共感してしまったのだろう。

 

cali≠gariにもかなり価値観を変えられた。

スクールゾーン

スクールゾーン

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”いつも夢ばっか見てたさ。

「何になろうかな?」 明日を無駄遣いしてた。

だから夢なんてやめたさ。

息も吐かずに同じ孤独を生きよう。”(スクールゾーン)

 

 今までは、心に闇があることを自己防衛のように考えていたがこの曲で完全に考えを改めた。

 別に闇があってもいいのだと。辛くたっていい。ただ漠然と生きてもいいのだと。そう言われている気がした。

 

 そして、おそらくこの中で最も水樹奈々に繋がるキッカケとなったのは実はTHE YELLOW MONKEYだ。

球根(Remastered)

球根(Remastered)

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”世界はコナゴナになった

でも希望の水を僕はまいて

身体で身体を強く結びました

永遠の中に生命のスタッカート

土の中で待て命の球根よ

魂にさあ根を増やして 咲け……花”(球根)

 

 この曲でかなり今の水樹奈々に共通するほとばしる生命力を注入されたりかなり力をもらった記憶がある。学校で寂しかったときや浪人して辛かったときもよく聴いてた。

 

 まあ他にも邦楽洋楽ジャンルを問わず色々な音楽を聴いていた。

そんなのを書いてたら時間がいくらあっても足りないが、闇から光へのきっかけとなるというとこんなところだろうか。

 

そうして、アニソンスペシャル、そして水樹奈々へと繋がっていくのだった…。

 

GLAY水樹奈々の受容

 実はここまで書いてなかったが、L'Arc~en~Cielを好きになって以来、並行してGLAYをずっと聴いていた。

 しかし、僕はその前向きな歌詞に好きになりつつも、少し感情移入できずに居た。

 

 そんなこんなで、一応なんとなく聴きながら3年が経った高校2年生の頃、GLAYのとある曲の真価を理解した。

BEAUTIFUL DREAMERだ。

BEAUTIFUL DREAMER

BEAUTIFUL DREAMER

  • GLAY
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

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”目覚めた朝に誓いをたてろ

自分らしくあるがままに

そう その為に何が出来るだろう?

感じた夜に胸を詰まらせ 憤るこの心の闇

確かに今灯がともる”(BEAUTIFUL DREAMER)

 

 中学1年の頃の自分ではわからなかったのだが、この歌詞はただ夢を見ているだけではない。

 彼らには挫折や苦しみがついてまわっているが、それでもなお諦めようとしない凄さ。GLAYの姿勢が忌避すべきものから人生の目標へと変わった瞬間だった。

 

 今思うとGLAY水樹奈々はかなり近い存在なのではないかと思っている。

 

 孤独や反骨心、そしてその全てを薙ぎ払われたアイデンティティの崩壊と再構築で、僕はGLAYのバンドの本当の素晴らしさを知ることになった。

 

 まあ、それが水樹奈々に繋がるわけだが…その話についてはこちらを参照してほしい。

disheatchaos.hatenadiary.com

 

 そうして、まあNHKアニソンスペシャルを見たわけだが、衝撃も受けたと主に、あんなに前向きな歌詞をすっと受け入れられた自分にもかなり驚いた。

 なにせ、4年ほどJPOP的な明るさからは完全に遠ざかっていたし、書いてないが音楽的な志向もかなりマニアックになっていたからだ。

 それはこれらの経験が全て実を結んだ結果だと自分では思っているし、孤独と苦悩の狭間に悩んだことや、価値観を一回壊された上で再構築したことが大きな意味を持っている。

 まあ、この後も色々な音楽的変遷をするのだがソレはまた別の話で…。

 

 最後に

  こうやって振り返ると自分でも不思議な変遷をしています。

もちろん語ればまだまだ長いし、他にも様々なバンドやアーティストが僕に大きく影響しています。

 それにしても自分が水樹奈々を聴く異質さが浮かび上がってくる気がしますね。今度は水樹奈々と自分の好きなアーティストを比較して違いを考えたいです。

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

 

絶滅危惧種の白系の世界~SERAPH「Génesi」(2017)

はじめに

 水樹奈々にも坂本真綾のオタクにも引っかからない記事を書いてしまっているで、おなじみのアキオです。

 おそらくこの視点は日本で始めてなのでこの記事に対する個人的な満足度は高いです。

 

disheatchaos.hatenadiary.com

 

 まあ、そんなことはおいといて、每日5000字超えくらいのブログを書いてると書き方とか短い間にだいぶ変わってきますね。一番最初に書いたJUDY AND MARYとか、今と大違いだものね。

 

disheatchaos.hatenadiary.com

 

 ところで皆さん、神秘的な音楽は好きですか?好きですよね。

今回紹介するのはこちらです!

 

SERAPH「Génesi」(2017)

 

f:id:lunaxxx:20190130203136j:plain

www.youtube.com

www.galaxybroadshop.com

  1. Génesi
  2. Génesi(Instrumental Version)
  3. Génesi(Orchestra Version)

 DIR EN GREYのドラマーShinyaが満を持してはじめたソロプロジェクトの1stアルバム。

 DIR EN GREYのShinyaというと、バンドの極悪で激しいイメージに反して…

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物静かな人

だったり…

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チェブラーシカとのコラボイベントもしました

(出典:有吉反省会)

 だったり、バンドのパブリック・イメージに反した性格をしてることが記憶に新しい。ちなみに、チェブラーシカとはコラボイベントまでした。DIR EN GREY的には良いのかソレは(笑)

spice.eplus.jp

 

 そんな彼がソロプロジェクトで作った音楽は、自身ドラムを務めながらもDIR EN GREY的なハードでフリーキーな一面は一切見せず、

神秘的で耽美的、どことなくX JAPANYOSHIKIMoi dix MoisMALICE MIZERのManaに通ずる作品を作り出した。

 

個人的には黒百合姉妹とも共通した耽美主義的な世界観があるように思う。

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 では、はたしてどんな感じになったのか?それを改めて文字にしていきたい。

 

1.Génesi 作詞:Moa 作曲:Shinya

Génesi

Génesi

  • SERAPH
  • ポップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 女性ボーカルとドラム、ストリングスの対比が非常に美しいバラード。

SERAPHのメンバーは

  • Vocal&Piano:moa
  • Drums:Shinya

 で構成されているのだが、Shinyaによると構想はバンドを始める2014年ごろから既にあったらしい。

 その中で、Shinyaが作曲をした曲に、Moaが仮歌を入れた所、そのまま採用になったのだとか。

 英語詞であることの理由としては日本語詞であることでラジオ等で制限を受けたくなかったことのだが、日本人であることは意識しているというところに、DIR EN GREYの国際的な活動で培ってきた経験が感じられて非常に興味深い。

 

 イントロのピアノとボーカルの澄んだ声は本当に浄化されそうな美しさだし、その後にドラムが入ってくることに少し不思議な感覚を覚える。

 今のバンドでこのような神秘性と耽美性を全面に押し出したバンドなんて、ヴィジュアル系バンドの世界でももはや絶滅危惧種であることを考えると、Shinyaがどのような音楽を好み、育ってきたかが垣間見える。

 間奏はドラムではなくストリングスで表現されるあたり、その統一された耽美的な世界やこだわりを感じられるし、そのクラシカルな響きにはX JAPANYOSHIKIに通じるものがある。

 

 DIR EN GREYのパブリックイメージを完全に覆すような音楽活動は京も行っているが、sukekiyoは方向性は違えどダークであることを考えると、ここまで違う方向性の活動は驚きである。

 

 LUNA SEAでいうと河村隆一レベルで方向性が異なるのに、余り注目されないのはいかんせん少し地味だからか…(笑)

 

 しかしながら、その神秘的な世界は常に一定数のファンが居ると思うし、日本よりも海外で歓迎されそうな音像なので、個人的にはバンバン海外向けにプロモーションをしてほしいし、リリースをしてほしいなと思った。

 

 個人的にオーケストラバージョンとインストゥルメンタルの違いがかなり曖昧だったのだが、両者ともにドラムレスであることは共通していた。

 どちらかというとオーケストラバージョンの方が弦楽器の響きが増えてるのかな?という感覚があったが、いまいち自信のある回答が言えないのは申し訳ない。

 

 まだ、実質1曲のみのリリースだが、今後が楽しみになってくる作品であった。

 

最後に

 今日は少し記事を短めにまとめました。

今まで長文で色々書いてきたこともありますが、このバンドはまだまだリリースが少なく、これから書くことが増えていく予感がします。

 声優について書いたり、ヴィジュアル系について書いたり、とかなり節操のないブログですが、ある程度の反応が付くのがありがたい限りです。

 

 まあ、SERAPHはいいバンドなのでぜひぜひ皆さんどうぞ。

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました!