ミルクレープを崇めよ…

自分が個人的な思いの丈を延々と書き連ねていくサイトです。

声優アーティストの礎を築いた人の今を識る~林原めぐみ「Fifty〜Fifty」(2018)

はじめに

 みんな林原めぐみって知ってますか?僕は知ってます。

 小学生の頃にアニメでシャーマンキングで恐山アンナを知って以来ずーっと好き。

 CDいっぱい持ってます

 名探偵のコナンとかポケモンのムサシとかフシギダネとか、あとハローキティで有名ですよね。世代が変わるとスレイヤーズのリナ=インバースとからんま1/2女らんまとか。

 中学生くらいからはTBSラジオの「林原めぐみのTokyo Boogie Night

 高校生になってアニメオタクになってからも好きな気持ちは消えること無く「万能文化猫娘」とか「セイバーマリオネットシリーズ」はじめ、林原めぐみさんが出演なさってた作品に片っ端から手を出したり…。

 

 そして、声優としても好きですが歌手としても好きで、シャーマンキングOver Soul」「Northern lightsに始まり、色々アルバムも集めたりしました。

全アルバムだと1996年の「Iravati」、1997年の「bertemu」、2007年の「Plain」がお気に入りです。

 近年は2010年の「CHOICE」以来オリジナルアルバムはでてませんでしたが、そのかわりにベストやら岡崎律子さんのトリビュート・アルバムがリリースされて。

 

 それでいてマルドゥック・スクランブルの「つばさ」や「3×3 EYESプロジェクト」

の一貫として出された「サンハーラ 〜聖なる力〜」があって、昭和元禄落語心中椎名林檎さんとタッグを組んだ2枚のやつがあって初ライブのCD音源があって…。

 

 そしたら、オリジナルアルバムが出て…それは本当に嬉しくて嬉しくて…!

 

 嗚呼、もう語りきれない!時系列がごちゃごちゃ!思いが溢れすぎて語れない!とりあえずレビューを見ろ!

 

林原めぐみ「Fifty〜Fifty」(2018)

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14thアルバム Fifty~Fifty 【初回限定盤】
 

 

  1. 集結の園へ 〜セカンドインパクト
  2. Come sweet death, second impact
  3. The Image of black me
  4. Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version
  5. SKY5
  6. もう一人の私 MEGU Version
  7. サンハーラ 〜聖なる力〜
  8. つばさ
  9. 薄ら氷心中
  10. 今際の死神
  11. リグレット
  12. Mint
  13. 恐山ル・ヴォワール
  14. Fifty

※プロデュース:中西豪(キングレコード)

 

 前作「CHOICE」から7年8ヶ月ぶりのオリジナルアルバム、CDの発売は普通水曜日だが、林原の誕生日に合わせて金曜日に発売されている。

 久々のオリジナルアルバムは全14曲、75分25秒という結構なボリュームで僕はとっても嬉しかった。

 アルバムジャケットに関して、林原めぐみはこう発言している。

 

私は「Half and, Half」というアルバム(1991年3月発売)を1枚目に出していまして。それは“私半分、キャラクター半分”という意味だったんですけど、今回はそれの進化版といったイメージなんですよね。当時よりも地に足が付いた分、よりどこへでも飛べるし、よりなんにでもなれる自分がいる。その一方で、年齢を重ねたことで変わった部分はもちろんあるけども、どう変わったとしても結局私は私。それを2人の自分で表現してみました。長年、私のことを応援してくださっている方はきっと「林原さんらしいな」って思ってくれるものになったとは思うんですけどね。お洋服の色がグレーと銀になっているところにも実は明確な意味があるんだけど、そこはご想像におまかせします、って言っとこうかな。

 出典はこちらです。

natalie.mu

 

 

 僕は間もなく26になるのだが、なんか林原めぐみの話をすると同世代のオタクたちから隔世の感を覚えるので、ここで少し声優アーティスト林原めぐみの凄さを説明しよう。

 

アルバム解説の前に~声優アーティスト「林原めぐみ」の凄さ

 まず声優林原めぐみが歌手としてデビューしたキッカケなのだが、1989年のOVA機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』で主題歌を担当してた椎名恵の代役としてイベントで歌うことが始まりであった。

 それに際して音域テストを行った所、当時プロデューサーであった現キングレコード専務取締役、大月俊倫(おおつきとしみち)から、才能を見出され、林原めぐみ名義としては初めての楽曲「夜明けのShooting Star」製作が決定した。

 

 そして、様々なレコード会社から幾度かのCDリリースを挟みつつシングル「虹色のSneaker」(1991年3月5日)でスターチャイルドレコードからのデビューを飾ることとなる。

 知ってる方も多いと思うが、元々林原めぐみが歌手志望ではなかったことや、声優は裏方であるという考え、また1980年代後半に於いては声優が歌手として活動するというのは極めて稀であった事、などあり活動に消極的だった。

 しかし、大月プロデューサーの説得で本格的に活動を行うようになり、その後、90年代の音楽業界で大活躍を果たす…

 

 というのが、本当にざっくりとした歌手活動の説明であるが、ここで打ち立てた記録を見てみよう。

CD
  • 1994年にアルバム「SPHEREで声優ソロとして史上初のオリコンアルバムチャート週間TOP10(第8位)
  • 1996年、アルバム「bertemu」でオリコンアルバムチャート3位、これも当時声優としては最高位
  • 1996年の「Give a reason」で声優ソロとして史上初のオリコンランキング週間TOP10(第9位)
  • 1997年、アルバム「Iravati」でオリコンアルバムチャート週間5位に輝き、初動売上、通算売上ともに声優によるアルバムとして歴代最高売上枚数を記録
  • また、シングルでも1997年に「don't be discouraged」で声優として初動売り上げ10万枚を達成しており、この記録は未だに破られていない。公称によるとなんとその枚数40万枚
  • 2002年「Northern lights」で声優ソロとして当時声優としては最高位のオリコン週間3位
  • シングルでは2000年の「サクラサク」、アルバムでは「CHOICE」で声優としては史上初のオリコン10度目のトップ10入り

 

CD以外
  • 「集結の園へ」は、2009年5月度に10万ダウンロード(ゴールド認定)、 2010年6月度に25万ダウンロード(プラチナ認定)、 2015年1月度に50万ダウンロード(ダブル・プラチナ認定)を記録。これは声優として史上初である。
  • 続く「集結の運命」も2011年1月度に10万ダウンロード(ゴールド認定)を記録。

 

 特にCDなのだが、当時がオリコンCD売り上げ全盛期であり、ラルクGLAYミスチルやサザンなど群雄割拠でひしめいていた頃、

オリコン上位チャートにバンバンアルバムを送り込んでいたと考えるとマジで怪物である。

 さらに、CD売上枚数においては水樹奈々田村ゆかり堀江由衣坂本真綾、更には後のアイドル声優が台頭してきて以降も未だに破られていないのでマジで意味がわからない。凄すぎて草も生えない。

 

 今の声優アーティスト活動の礎、今なら当たり前なことそのものを作り上げたのが林原めぐみなのである。

 

 声優としても凄かったらしく(当時小さかったから実感が…)、どこのアニメを見ても林原、林原の主演の次のアニメも林原の主演、そしてOPも林原という超絶な働きぶりであり、ネットでよく見るゴリ押し議論なんて比じゃない。

 

 ラジオパーソナリティとしても冠番組として、林原めぐみのHeartful Station」(ラジオ関西で1991年10月5日から2015年3月28日まで放送)、

林原めぐみのTokyo Boogie Night」(TBSラジオで1992年4月11日より放送中)を持ってるというのだから凄い。

 

 まあ、このように様々な記録を持っているわけである。

 

 しかし、それに反して音楽的な側面から彼女を語ると言うのはあまりなかったわけで…おまけに昨年オリジナルアルバムも出たということでレビューをしたくなったわけである。

 

 話が長くなったが、レビューをします。とにかく林原めぐみは凄いのである。

 

1.集結の園へ 〜セカンドインパクト〜 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう  

集結の園へ~セカンドインパクト~

集結の園へ~セカンドインパクト~

  • provided courtesy of iTunes

 

 2009年に発売されたシングル「集結の園へ」の別バージョン。

 作詞は林原めぐみの別名義で、作曲はたかはしごうなのだが、たかはしごうについて少し説明をしておこう。

 

 たかはしごう残酷な天使のテーゼで有名な歌手、高橋洋子の弟である。

 林原めぐみ保志総一朗に多く楽曲提供を行っているほか、フィットネストレーナーとしても活動している。

 その音楽性は端的に言えば、水樹奈々が引き継いだ要素の更に前である小室サウンド的なシンセサイザーを活かしたユーロビート+ロックである。まあ他にもかなり幅広く出来る器用な方だが。

 

 アニメソングにおけるロック、というと同じキングレコード系列だと水樹奈々関連の矢吹俊郎上松範康が挙げられると思うが、

その彼らと比べると全体的にシンセサイザーの主張が強く、重厚さよりも軽快な疾走感のあるロックサウンドが前に出ているように思われる。

 おそらく世代的にヘヴィメタルLAメタルの洗礼を受けているのも無関係ではないだろうし、林原めぐみが歌手活動を始めた頃は、小室哲哉浅倉大介五十嵐充などシンセサイザーを主体とした音楽があちこちに見られ、それをきっちり取り入れて消化したことも大きいだろう。

 

 ここで話を戻すが、林原めぐみとその手のサウンドの愛称は抜群である。

 数々のヒットソングが林原の存在感がありつつも突き抜ける声とこれらのサウンドのある意味黄金の方程式から生まれている。

 

 ソレは今作も例外ではないのだが…

 

前のバージョンよりもくっっそかっこよくない?

集結の園へ

集結の園へ

  • provided courtesy of iTunes

 

 前のやつもギターとかシンセの音が凄い格好良くて、もう飽きるほど聴いたのだが、

こんなにドラムはドコドコ鳴ってなかったし、ここまで打ち込みとコーラスも入ってなかったし、それでいてストリングスもギターも、全ての要素が林原めぐみの歌を邪魔していない…

 

 2018年に鳴らすユーロビートとして、アルバム1曲目からかっこよすぎた。

 

 ともすれば、少し時代遅れに思えてしまうようなひとつひとつの要素が折り重なる、そしてそれが林原めぐみの声と重なることで時代を超えた説得力を産み出すのだ。

 流行を取り入れるのではなく、自分の最も強い部分を活かす音楽の使い方である。

 歌詞は林原めぐみが書いたのだが、エヴァに関連した楽曲であるというだけあり、どことなくそれを彷彿とさせる。

 

”抱いて

抱きしめても抜け出せない

定められた境から

溶けて なくなるほどの進化へと

おかえりなさい”

 

本編を知っていればわかるのだが、この部分なんか完全にエヴァである。

他には、

 

”永いとき

離れていても

知っている

必ず呼び合う 絆を

運命と呼ぶ事”

 

 この部分とか歌が際立つように楽器を鳴らすのを控えめにしていて凄い格好いい。

宗教歌を彷彿とさせる荘厳なクワイアから始まるイントロが非常に素晴らしい。

 

  

 

 少し前に、坂本真綾水樹奈々について記事を書いた。

 

disheatchaos.hatenadiary.com

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 僕はこの2人も非常に好きなのだが、やはり僕の中ではこの2人はシンガーである。比べて、林原めぐみは今も昔も声優というカテゴリーなのである。

 

 それは林原めぐみのスタンスをよく知っているというのもあるが、自身のアルバムでおいてもタイアップのキャラクターに寄りそった歌や表現を行ったりしているのが大きい。

 さらには、曲ごとに歌い方や表現をコロコロ変えるのは歌手として一本の芯があるというより、役者として曲の良さを最大限に引き出すということを重視してるように思えるのだ。

 

 声優が歌手をやるという大きな流れを作ったのは確かだが、林原めぐみは声優が歌手をやるということにおいて非常に真面目に考えており、今でも声優が歌手をやるということにおいては頂点に君臨していると思っている。

 

 そういう思いが個人的にはあるのだが、この曲においては歌手である林原めぐみのパブリックイメージに寄り添いながも作品のことを非常に考えた歌であり、

かつ、彼女のかっこよさが詰まった作品であると思う。

 

2.Come sweet death, second impact 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:鷺巣詩郎

Come sweet death,second impact

Come sweet death,second impact

  • provided courtesy of iTunes

 

 新世紀エヴァンゲリオンを代表する名曲「Komm, süsser Tod」を日本語詞で歌い、ジャジーにアレンジした作品である。

 作曲は鷺巣詩郎が担当しており、日本の作曲家、編曲家、プロデューサーとして1980年代から活動している。その数は膨大でアイドル歌謡曲、インストゥルメンタル、近年のアーティストに至るまで多くの楽曲を手がけている。また映画やテレビ、サウンドトラックなどを含めるとその作品数は本当に計り知れない。実はいいともの楽曲群なども担当してたかなりすごい人。

アニメソングアーティストだとMay'nの曲もいくつか手がけていたりする。

 

 原曲もこちらを貼って比較しておこう。

 

 まずアレンジが全く異なる。クラシックとポップスを主体とする曲をジャジーにアレンジするということは、基本メロディラインが同じとは言え、歌詞の譜割りやリズムの取り方も大きく変えることになる。

 

 また、英語と日本語では発音する音の数や曲に必要な語句の数が変わるため、新たに歌詞を組み直す時にその言語差を考慮しないといけないとなると結構面倒である。ちゃんと意味も近づけないといけないのだから辛い。

 

少し歌詞を見ていきたいのだが、

原曲だと一番最初の歌詞は

 

”I know, i know i've let you down,

i've been a fool to myself.” 

 

であるが

 

今作だと

 

”全てわかっていた

愚かな日々を生き続けてしまうこと” 

 

に変わるわけだ。

 エヴァに長年携わった林原自身が日本語詞を書いているだけあり、意味は近いが、ここまで言葉の発音が異なると日本語詞にする時に中々苦労したのではないかと思う。

 ほかにも色々あるので原曲と聴き比べてみるといいだろう。

 

 歌詞の中身だが、エヴァの根幹に関わるところでもありあまり多くは語れない。

 しかし、1つ言えるのは世界の絶望と無力感に溢れており、さらに母性も感じるという何やら不穏で神々しいものである。それだけは言っておこう。

 

 ところで、林原めぐみは昔からゆったりとしたアレンジを施されたエヴァンゲリオンナンバーを歌っている。

 今作もそうなのだが、魂のルフランのRemix、ジャズの名曲でもあるがEDのFly Me to the Moonなど、メインキャストの中でも歌手を大々的に行っていたのが林原自身であることも含め、ゆったりとしたアレンジで歌った経験があるのだ。

しっかりを日本語の発音を行うこともあり、そういう曲のほうが実は上手い人である。

 

 そして、彼女が声優であることも関係しているのか、曲のアレンジに合わせた声質や歌い方の変化が非常に優れていると思っている。

 ブレスやちょっとした語尾の発音に至るまできっちりと曲の世界に合わせてコントロールしているのはさすがというほかない。

 

 ストリングスや、ボサノヴァ調を思わせるアコースティックギター、ブラシの音が心地よいドラムが歌ものとして一体になり、彼女の歌声と重なることで生まれる極上の空間は筆舌に尽くしがたい心地よさがある。 

 

 本人が歌手に積極的ではないことに反して、そのポテンシャルの高さが堪能できる一曲だ。

 

3.The Image of black me 歌詞:MEGUMI 作曲、編曲:鷺巣詩郎

The Image of black me

The Image of black me

  • provided courtesy of iTunes

  1997年「EVANGELION-VOX」に収録されている、THE IMAGE OF ME - vocaliseの日本語歌詞バージョンである。音源もアレンジされているが、バックコーラスにはオリジナルのものが流用されている。

ちなみにこちらが原曲である。

THE IMAGE OF ME (vocalise A-4)

THE IMAGE OF ME (vocalise A-4)

  • LOREN
  • アニメ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 原曲がどことなくトリップホップ的な要素があったと考えると、イントロのストリングスの荘厳な響きは余り変化がないにしろ、ジャジーにアレンジされているのでかなり大きな変化である。

 まずサウンドだが、そのバックの響きが非常に美しい。

 ストリングスはどことなくクラシックを思わせるのに、ギターやベース、ドラム等は完全なジャズアレンジであり、そこに様々な効果音がおそらく打ち込みで入っている。

 そう考えると、スタンダードなジャズというよりはジャズにファンクやヒップホップ、エレクトロニカなど様々な要素を内包した「ニュージャズ」にカテゴライズ出来るのではないかと思えるほどに現代的かつスタイリッシュに仕上がっている。

 イントロのストリングスでRei 1」を彷彿とされるのが入ってるのも素敵だし、それを林原めぐみが歌うということもまた縁を感じて素晴らしい。

 

 歌詞に関してだが

 

”ゆれる炎の先に何を見る?

ゆれる心の先に誰がいる?

もしも あなたの愛がココにあるなら

ゆれて ゆらぐ 真実 それでいいのよ…”

 

 

”包み隠さず見せて

自由も愛も

怖がらなくてもいい

全てさじ加減 ひとつ”

 

 など、受容や愛をテーマとしているのは実にエヴァの根本に沿っているというか…。

 そんな歌を林原の艶っぽさのました声で歌われるというのは本当に贅沢だなと感じさせる。

 

 昔から、こういうジャンルは得意だったように思うが年々、魅力が増していくように思えるのはやはり年月が持つ強みと深み、何よりも林原めぐみの表現力の高さゆえか。

 今、声優でこういうタイプの曲を歌う人は坂本真綾くらいしか自分が知らなかったりするのだが中々聴かない音だと思う。

 

 前曲と合わせて夜にゆったりと聴きたいナンバーである。

 

4.Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version 作詞:Mike Wyzgowski, MEGUMI 作曲、編曲:鷺巣詩郎

Dilemmatic triangle opera

Dilemmatic triangle opera

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  新世紀エヴァンゲリオンのTV版にあるBGM「Hedgehog's Dilemma」(ヤマアラシのジレンマと言えば伝わる人も多いだろう…)に日本語詞とジャズアレンジを施したバージョン。

 

”Sometimes love gets too much.

you can't make your heart beat faster.

In the end, you befriend the one that you've lusted after.”

 

 

 まず、冒頭から原曲のメロディに沿いながらもオペラ調の荘厳なクワイアで始まるところがとてもいいのだが、ジャズアレンジであってもエヴァンゲリオンの持つ重厚で荘厳な重苦しさを崩さないのは見事だと思う。

 

 そこに入ってくる、アコースティックギターの美しい音色から…

 

”触れて 欲しい 細い指先で

そっと そっと 溶けて 行くの

深い源(みず)の中”

 

とウィスパー気味で歌われる。これが非常にいい。

 

さらに、

 

”似ているわね 心の傷 

誰にも気づかれぬまま

触れた先で夢が泡と消え

ゆらり ゆらり

蘇(かえ)る場所は今は探せない”

 

この部分の切なさたるや筆舌に尽くしがたい。

 この部分はエヴァンゲリオンという作品の持つ特有のナイーブさを端的に表現しており、日本語詞を歌うところだけアコースティックギター主体になり、歌メロを際だたせるようにしているのがまたいい味になっている。

 

 更には、ここまでジャズアレンジが連続しているにも関わらず、その歌い方がすべて異なるのが林原めぐみの良さであり、マンネリ感をリスナーに与えることはない。

それこそが、表現力の豊かさを端的に示しているように思われる。

 

ここで、ヤマアラシのジレンマのジレンマについて軽く説明する。

 エヴァの作中では赤木リツコが劇中で発したセリフとして記憶されているが、元々はフロイトが考えた話である。

 それによると、寒さの中で二匹のヤマアラシが暖を取ろうと互いに近づくのだが、近づきすぎると互いの針が身体に刺さってしまう。 

 しかし、離れると寒くなるのでお互いにその距離を模索し、やがていい位置に落ち着く…という話である。

 これは、転じて人間関係にも応用でき、どんな関係でもあまりに近づいたり鑑賞しすぎたりするトラブルになり互いを傷つけ合うことになる。ということらしい。

 

 作中の言及は新世紀エヴァンゲリオンの登場人物が皆いかに人間関係に難を抱えているか、ということや人間関係の難しさを表しているのだ。

 エヴァンゲリオンとこれらを踏まえると歌詞や曲の聴こえ方がより一層違うものになってくるだろう。

 

 

 実は2曲目から4曲目は鷺巣詩郎によるジャズアレンジアルバム「THE WORLD! EVANGELION JAZZ NIGHT =THE TOKYO III JAZZ CLUB=」に収録されている。

コレもいい作品なので是非皆さんも…。

The world!EVAngelion JAZZ night=The Tokyo III Jazz club=
 

 

5.SKY5 作詞:宇治田愛 作曲:松村裕二 編曲:Avaivartika 

SKY5

SKY5

  • provided courtesy of iTunes

 

 ピアノの美しい旋律とギターのキラキラした音が印象的なミディアムナンバー。

 

 作詞の宇治田愛さん、作曲の松村裕二さんが見慣れない名前なので調べてみるとI's CUBEというユニットを組んでいることがわかった。

 彼らの基本的な作風はピアノの美しい旋律に宇治田の豊かな中音域を活かしたパワフルさと繊細さを併せ持った歌声にあり、メロディラインの良さも特徴的だ。

www.youtube.com

 

 そして編曲を担当したのはAvaivartika(アヴァイヴァルティカ)。同じく宇治田がボーカルと務めるバンドで2010年から活動を開始している。

 メンバーにキーボードがいるためアレンジに幅があるのが特徴的であり、こちらもキーボードの音色を活かした伸びやかなロックサウンドが特徴的なバンドだ。

 

 実はこの曲はそのAvaivartikaが原曲を担当しており、日本アニメーター見本市で『そこからの明日。』という作品内で使われている。

SKY5

SKY5

  • 日本アニメ(ーター)見本市/Avaivartika
  • アニメ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

www.youtube.com

 

 これのカバーだが林原めぐみ自身がLINE BLOGで言及しているのでそちらも参照されたし。

lineblog.me

 

 サウンド面の話に移るが、キーボードの旋律とエレクトロニカを思わせる繊細な打ち込みが非常に美しく、林原めぐみの新たな一面を覗かせるような音になっている。

 

 また、途中からディレイを効果的につかったギターの音色が非常に美しく、ともすれば少しU2を思わせる伸びやかな音が合わさってくるのが名前に相応しいほどの開放感を感じさせている。

 

 このような音楽を林原めぐみがやる、というのはあまり例がないので彼女なりの新基軸であろう。

それがきっちりとハマっているのは声質がそういうのに向いているのが大きいこともあるが、そこまでロック的な激しさが無いのがマッチしているのだろうと考えられる。

 

歌詞であるが、やはり空を思わせる開放感と可能性に満ちたものになっている。

 

”今夜 遠い夜空 手を伸ばしてみる

無数に輝く光 距離は果てしない

誰もがその先を 描く自由を手にしている

空へ空へ”

 

この部分なんかは林原めぐみが元々持っている前向きさとかなり食い合わせがいいように思えるし…

 

”繰り返す日々 溺れそうで

そのループから 逃れられず

助けを求める 言葉など知らない”

 

という部分はもがきながらも空に向かわせる力強さも感じさせる。

 

 水樹奈々もこのようなメッセージ性を持った曲を歌うことは多いが、林原めぐみ水樹奈々に比べるとヒーロー然としてはいないというか何処かあっさりしていると個人的には思っている。

 

 超人的な物を感じさせないくらいの人並な挫折、そして前向きさ ー そのような個性にこの歌詞は外部の人間が描いたものながらきっちりハマっているあたり、曲のチョイスの仕方も林原めぐみは優れているのだろう。

 

 冬の今に聴くよりは、始まりの季節である春に聴いたほうがより一層聴こえ方が良くなるナンバーであることは間違いない。

 

6.もう1人の私 MEGU Version 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう

もう1人の私

もう1人の私

  • provided courtesy of iTunes

 

 アニメ『3×3 EYES』連動プロジェクトの一貫としてリリースされた「サンハーラ 〜聖なる力〜」カップリング曲を自身のバージョンで歌い直したもの。

 原曲だと同アニメのヒロイン「パールバティー四世」のキャラソン的な雰囲気の歌声、オリエンタルなアレンジになっているがこちらではピアノの音色のみであり、林原めぐみの声音も、自身の名義のようになっている。

 

 サウンド面ではピアノのみの非常にシンプルなアレンジである。そのため、この曲のもつメロディラインの良さや、林原の息遣いまでもがつぶさに聴こえてくるようなアレンジやミックスがされていると考えられる。

 また、楽器が少ないことにより、どことなくブレスなどが際立つのも生っぽいサウンドを印象づける大きな要素になっているだろう。

 

 林原の書く歌詞は、人を勇気づけるもの、キャラに寄り添うもの、自分を励ますもの、失恋、恋愛、人生など様々なものがあるが、歌手の書くものに比べると何処かあっさりしている。

 水樹奈々が書くような濃厚な世界観でもなく、坂本真綾が描くような抽象的で詩的な世界でもない。

どことなくノンフィクション的な等身大の自分らしさと、親しみやすさが同居しているのだ。

そういうのを見ているとつくづく林原めぐみはシンガーではないんだなと実感をするのである。

 

”知っていたのもう一人の 私がソコにいると

傷ついてる 泣けずにいる 心を閉ざしかけてる

抱えきれない悲しみなら 私に託していいよ

長い時が必要なら ここで待っているから

その瞳 開くまで”

 

 この部分は彼女演じる「パールバティー四世」が、多重人格(性格には違うのだが便宜上そう呼ぶ)であることに由来しており、勿論そこに寄り添ったものになっているのだが、

彼女自身が経てきた年月やファンを大事にする林原めぐみのスタンスが垣間見えているようで何処か微笑ましいのだ。

 

 全編にわたり林原めぐみ流のメッセージソングであると僕は解釈しているが、と同時に水樹奈々のようなヒーロー然としたスタンスとはまた違う。

肩の力が抜けた感じがとても聴きやすく思えるのだ。

 これはどちらがいいか悪いかではなく、生き方と僕の解釈の違いでしか無いのだが。

 

 どことなく90年代のアニメソングを思わせる懐かしいメロディラインと優しい歌詞が身にしみる1曲である。

 

7.サンハーラ 〜聖なる力〜 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう 

サンハーラ~聖なる力~

サンハーラ~聖なる力~

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 シタールを思わせるエキゾチックな音使いが耳に残る林原めぐみお得意のアップテンポなナンバー。

 

 サウンド面だが、ストリングスとロックサウンド、そしてキーボードの音色が合わさるポップ・ロック、そしてそこに歌謡曲を思わせるメロディラインが加わることで90年代的な懐かしさを感じさせる。

別に悪い意味ではない、このような曲調をアニメソングだなあ、と思えることそのものが林原めぐみが作った大きな功績だろう。

 このようなものは水樹奈々にもきっちり受け継がれているし、このポップさは現在のアニメソング界の基礎になっていると個人的には考えているので、それだけでこの方の偉大さがなんとなく感じ取られるのが良い。

 

 林原めぐみとエキゾチックさ、というと「MIDNIGHT BLUE」がなんとなく連想されるのだが、こちらはシタール的な音色が加わることでより、その方面に強調されていると思う。「3×3 EYES」の世界観にきっちりと照準を合わせていることも含めてとてもアニソン的である。そこがいいのだ。

MIDNIGHT BLUE

MIDNIGHT BLUE

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  疾走感のあるアニメソングというと林原めぐみの少し高めで特徴的な声質をどうしても想像してしまうのは、ぼくが小さい頃からこの声を刷り込まれているからかもしれない。

 

 歌詞に関してだが、アニメの内容に沿う、勇ましく決意を感じさせるものになっている。まあ、こういうタイプのアニソンの生みの親みたいなところがあると思っているし。

水樹奈々と大きく違うのは基本的に他者ではなく自分を鼓舞する、それを背中で語ることで勇気を与えるというベクトルの方向性の違いだろうか。

 

”強さの裏側へと 閉じ込めてた

涙枯れ果てるほど 孤独な日々

生真面目なぬくもりが 全て包み

この瞳の奥へ 真実を告げる

聖なる力を”

 

 

”心に負った傷を 数えるより

集いあった儀礼(いのり)に 交わるなら

涙の向こう側に 必ずある

出会うべき未来が 切り開かれゆく”

 

 このあたりだが、基本的に語りかけるスタイルと言うよりは独白の色彩が強いのだ。

励まし、というのはときには他者の心を蹂躙する暴力になってしまう。

 看護師の資格を持っている林原めぐみにはソレがなんとなくわかっているからこそ、背中で語るということに徹しているのかもしれないと思う。男らしいな…

 

 思えば、声優が歌手をやる意味について僕はよく考える。歌だけをとってみれば、本職の歌手の方が上手いわけだし、バンドを歌ってみても、アニメなどのタイアップが多いというその性質上ポップにせざるを得ないし、どう頑張っても「歌もの」なのである。

 声優アーティストが歌手よりも特徴的だと言える部分は何なのだろう?

 

 声優なんだもの、ソレは声に決まっているだろう。

 

 声質というある意味歌う際に最も重要な武器である恵まれた道具を持っているのだ。

 

そんな素材を楽曲提供者が一流の手腕を持って調理をすることで、声優が歌うことの良さが引き出されると考えている。

 

 加えて、声優というのは発声の訓練をしっかり積んでることもあり、発声に優れているところがある。そういう点でもその部分の訓練を省けるというコスト的な面もあるだろう。

 さらに、今の世界では声優とアイドルの境目が曖昧になってきており、ビジュアル面での売出しも含め…

声優が歌う=金になるというビジネス面も無視できない。

 

 まあ、これらのビジネスモデルは林原めぐみ始め色々な声優が作り上げたものだが、とりわけ林原に関しては声質に加え、アニメの内容をきっちり理解している内部関係者であるという点も関係しているのだろう。

 

 古き良きアニソンの要素をきっちりと持っている点でもまさしく正しくアニメソングを歌う声優なのだなとこの曲を聴いてふと考えたりした。

 

8.つばさ 作詞:岩谷時子 作曲:太田美知彦 編曲:Conisch

つばさ

つばさ

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 映画「マルドゥック・スクランブル 排気」の主題歌及び挿入歌であり、本田美奈子の同名曲のカバー。

 

 この曲の作詞は岩谷時子という方なのだが、作詞家、翻訳家、詩人として有名な方である。また、シャンソン歌手であり女優でもある、越路吹雪(若い人に伝わるだろうか…)のマネージャーを務めたことでも知られている。

 

 その作詞した方々のメンツも豪華で、ザ・ピーナッツ郷ひろみ加山雄三田原俊彦越路吹雪布施明ピンキーとキラーズ島倉千代子フランク永井沢田研二フォーリーブスジュディ・オング美川憲一など…まさに昭和を代表する作詞家である。

 

 また、エディット・ピアフ愛の讃歌始め訳詞も数多く残しており、歌手に提供したもの以外だと、ミュージカル「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」などが挙げられる。更にアメイジング・グレイス本田美奈子が歌う際にその訳詞も担当している。

 そして、校歌や合唱曲などの作詞も担当している本当にすごい人である。

 

 作曲は太田美知彦。1983年に原田真二とのバンド「クライシス」でデビューする(1年ほどで脱退した)。

 その後は爆風スランプ稲垣潤一T-BOLANなど様々なアーティストのサポートキーボーディストを務めることになる。

 そして、作曲家、編曲家の活動が中心になっていった。

 実は世代ならピンとくるかもしれないが、1996年に放映された「キャプテン翼J」、1997年から1998年では「中華一番!」において音楽を担当し

デジモンアドベンチャー02の「ターゲット~赤い衝撃~」の作曲を担当した。

 

 ちなみにクライシスだが、ギタリストであり、水樹奈々のサポートでも知られる北島健二がメンバーだった時期があったり、サポートでキーボーディストとして小室哲哉が参加していたことがあった(北島健二の紹介による)。

小室はその後正式メンバーになるべくオーディションを受けたが参加には至らなかったらしい。

 

 また、Conisch(コーニッシュ)は作曲家、編曲家、キーボーディストとして活動しており、テレビ朝日ドラマ「生徒諸君!」、桐原いづみの漫画を原作とするTVアニメ「ひとひら」のテーマ曲を製作。

また中西圭三のライブ等にキーボーディスト、ピアニストとして出演しているという経歴の持ち主だ。

 

 本田美奈子に関してはもう、説明はそこまで必要ない気もするんだが…。

 元々アイドルだった本田美奈子は、ミュージカル女優として活躍してから初めて出したシングルであり、間奏での28秒にも及ぶロングトーンはもはや伝説である。

 彼女が亡くなってしまったことが非常に惜しまれるというか…ファンの思い、本人、家族の思いはいかばかりだったろうか、と思ってしまう。

つばさ

つばさ

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 コレほどまでに様々な人が関わり、思い入れも深い作品は非常に扱い、そして思いに折り合いをつけるのが難しい。

 林原めぐみはカバーに対して映画の公開初日の挨拶で本田美奈子さんが長年支えてきた作品を自分が歌っていいのか、それが本当に作品のためになるのか」と葛藤があったことを語っていた。

 しかし、マルドゥック・スクランブルの著者である冲方丁から「命のバトンタッチをしてほしい」という助言があったことで迷いが晴れて歌わせてもらったことも語っているため、故人の曲、とりわけ病で早逝してしまった方に対する彼女なりの敬意が垣間見える。

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 僕が好きなX JAPANのHIDEもそうなのだが、人が亡くなるということは本人にその真意を問うことが二度と出来ないということでもある。だからこそその取扱にはとりわけ敬意を払い、故人、遺族、そして原曲を愛するファンへの敬意が何よりも重要なのだと思う。

 

 曲に話を戻そう。

 

 原曲から大きくアレンジを変えているわけではないのだが、原曲に比べるとドラムもないし、テンポを多少スロウにするなどの違いが見られる。

 また、キーボードの音色がそこまで華飾されていないため、歌声を大事にしていることが伺える。

 歌唱だが、本田美奈子の突き抜けるようなロングトーンや低音から高音まで感じさせる歌い方に比べると、林原めぐみのほうがどことなく柔らかく、また、少し語りかけような物に変化しているのも特筆すべき事項である。

 

 歌詞に関しては、原曲は全く別の意味ではあるが林原めぐみが演じるマルドゥック・スクランブルの主人公「ルーン・バロット」との心境にリンクするように選んだようで、

 

”私つばさがあるの 太陽にきらめいて

はばたきながら 夢追いながら

はるかな旅を つづける”

 

 

”あなたもある つばさがある

飛び立つのよ 空へと

美しいわ 幸せでしょう

風にのり 虹を渡ろう”

 

というように自由を渇望して夢を見る心境を正直に吐露している。

 

 カバーでここまでアニメとちゃんと思いをリンクさせるように選んだ、となるとスタッフも本当に慎重に選定したんだろうということが伺える素晴らしいカバーである。

 

林原めぐみの歌声の暖かさを味わえる1曲。

 

 ちなみにここまで林原めぐみを思わせるアップテンポなナンバーよりもスロウで彼女の歌声の妙を感じさせるナンバーが多く集まっている

また、たかはしごう作曲以外のものも多くあるところに、パブリックイメージよりも今の林原めぐみを見せたいのだという意志を感じさせる。

 

9.薄ら氷心中 作詞、作曲、編曲:椎名林檎 木管編曲:村田陽一

薄ら氷心中

薄ら氷心中

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 椎名林檎節全開のジャジーでミステリアスなナンバー。TVアニメ「昭和元禄落語心中」の第1期のOP。

 

そして…

 僕にとっての神と神が邂逅した曲。マジで予想外だった。

 

 作詞作曲編曲はシンガーソングライターの椎名林檎…まあそこまで説明がいる人ではないと思うが初期以降、つまり加爾基 精液 栗ノ花」以降の彼女を知らない人に少し説明しよう。なぜならここで離れた人が多いと聞くから…。

 まず、椎名林檎は自身の表現の延命措置のためもあり、2004年に東京事変としての活動をスタート。幾度かのメンバーチェンジを経て(ホントはガッツリ紹介したいけど割愛)、2012年まで東京事変のボーカルとして活動をする。

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 解散後は再び椎名林檎名義に戻り(東京事変在籍時も時折個人名義の活動はしていた)、変わらず作曲を続けている。近年だとエレファントカシマシ宮本浩次とコラボしたのは記憶に新しいだろう。

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 初期しか知らない人には椎名林檎=ロック少女のイメージが強いかもしれないが、

クラシックやポピュラーミュージック、ジャズへの造形も深い父、バレエ経験があり古い歌謡曲を好む母を持つ。

 そういうわけで、むしろジャジーでどこかレトロなアレンジのほうが身に染み付いているまである、そして勿論ロックも好き。そんな人なのだ。

 そらこの曲もそうなるわけです…。

 

 編曲者の村田陽一についても説明が必要だろう。

 この方はJAGATARA米米CLUBオルケスタ・デ・ラ・ルスなど数々のバンドに在籍したトロンボーン奏者、作曲家、編曲家、音楽プロデューサーである。

 

 国内では10000曲以上のレコーディングに参加している他、海外での活動経歴も豊富でモントレージャズフェスティバルへの出演経験がある。

 海外ミュージシャンとの共演も多く、マーカス・ミラーデヴィッド・サンボーンマイケル・ブレッカーなど数々の国際的なミュージシャンが並ぶ。

 アレンジャーとしても布袋寅泰SMAP井上陽水ピチカート・ファイヴ、サザン・オールスターズ、福山雅治、そして椎名林檎など書ききれないほど多岐に及ぶ。

 

 さらに、クラシックや吹奏楽の分野でも楽曲提供が多く、2009年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」、2017年には大河ドラマおんな城主 直虎」の吹奏楽版の編曲を

担当し、古畑任三郎やFNS歌謡祭のテーマ曲の編曲を担当…

 

 まあとにかくふたりともめっちゃ凄いの!

 

 そんな人達が林原めぐみに関わるっていうんだから、それは期待するしお互いにこのラブコールぶりである。テンション上がるよな!

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 肝心な楽曲の話に移ろう。

 基本的にはビッグバンド・ジャズ的な音の豪華さが目立つ。金管楽器も大きく前に出てるし、リズムセクションも素晴らしい。ウッドベースの響きがいいアクセントになっている。

 そして、どこか謡曲的なレトロ感を思わせるメロディライン…椎名林檎が創るジャジー全開である。

 しかし、実はこの曲で個性的な部分はここだけではない。

 

歌である。

 

 まず歌い方は椎名林檎というよりは、昭和元禄落語心中に出てくるミステリアスな女性「みよ吉」の持つアンニュイな部分に完全に寄せにいった。

 もとはもっと張り上げた仮歌だったらしいが、みよ吉が歌うとしたらこんなふうには歌わない、ということをひたすらに突き詰めキャラの生き様を借りたことや、

椎名林檎「もっと囁くようしてください」にとディレクションしたこともあり、アレだけの音が鳴り響いているのにボーカルがかなり静かで話し声に近いものに変貌したらしい。

──あの囁くような歌い方は椎名林檎さんのディレクションによるものだったんですね。

そうそう。最初はもっと歌い上げていたんですよ。いただいたデモの仮歌も、いわゆる林檎節で歌われたものだったので、言葉をばらまくような感じがいいんだろうなと思ったので。でも実際はひたすら「囁くように、囁くように」と言われ。さらに、この曲はみよ吉が命を落とす3分前の曲だっていう、そこに込めた思いを聞いたことでよりキャラに寄っていったところはありました。とは言えね、みよ吉さんに「歌ってよ」って頼んだところで小唄しか歌ってくれないですからね。「いやよ」って言われちゃいそうなんで、「そこをなんとか、あなたの生き様を借りていいかしら?」みたいな感じでなりきっていきました。

──みよ吉さんとそんなやり取りをしつつ。

そう。脳の中でね(笑)。まあでも、あれだけ楽器が鳴ってるサウンドに対して囁き声で渡り合わなきゃいけないなんてね、最初はまったくできる気がしなかったですよ。綾波レイもビックリなくらいの囁きを要求されたわけですから。

──でも結果的に林原さんのボーカルの存在感たるや、ものすごいですよね。確実にあのサウンドと渡り合えていると思います。

たぶんそうなることが林檎嬢には見えていたんでしょうね。囁き声であっても、あまたの楽器が鳴り響くオケに負けないマインドを重視してくれました。だからこそ、「もっとちょうだい、もっとちょうだい」みたいな感じでディレクションしていただけたんだと思いますし。私としては求められるがままに心地よく漂っただけなんですけどね。

 (林原めぐみ|デビューから変わらない“キャラと私”の進化系.より抜粋https://natalie.mu/music/pp/hayashibaramegumi03

 

 声優、林原めぐみの真骨頂が垣間見える話である。多分綾波レイ並みに静かな歌い方をしている。

 そして、最初からこの完成図がおそらく見えていたであろう椎名林檎の凄さも同時に分かるエピソードだ。

 

 歌詞に関しても椎名林檎独特の漢字の使い方が炸裂しており、

 

”ねえ、如何して目を合わさうともしないの。何故。

屹度 「直視に耐へない。」とでも云ふのでせう。だうせ。

ぢやあ 一体誰よ。こんな女にしたのは誰。”

 

 

”分かんないの。仕合せつて何。何れが其れだつてのよ。

面倒臭いわ。脳味噌も腸もばら撒いて見せやうか。

骨の髄 まで染め抜かれた女をご覧なさい。”

 

 この辺の仕合せという漢字の使い方や古風な言い回しを多用するところとか完全に椎名林檎。僕の性癖である。

 

 それでいて、昭和元禄落語心中を読んでいる、もしくは見てるとわかるのだがこれほどみよ吉という人間を表した歌もないと思うし、林原めぐみの色気ある歌い方に思わずこっちまでドキッとしてしまう。

 こういう歌い方が出来たのか…と、このキャリアにして林原の新たな一面を発見できる。

 

 これほどまでに強烈な化学反応を起こすとは思ってなかったし、歌手ではなく声優であり役者である林原めぐみだからこそ為せるものあるなと聴いていて改めて感じられた。

 

 アルバムの中では異色ながら林原めぐみの新たな側面を感じることの出来るナンバーである。

 

10.今際の死神 作詞、作曲:椎名林檎 編曲:斎藤ネコ

今際の死神

今際の死神

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 スウィングのリズムを感じさせるスロウなジャズナンバー。TVアニメ「昭和元禄落語心中」第2期シリーズOP。

 

 前曲に引き続き作詞作曲を椎名林檎が担当しているが、編曲が斎藤ネコになっている。

 斎藤ネコは日本の作曲家、編曲家、ヴァイオリニストである。数多くのアーティストの作編曲、プロデュースを担当し、その範囲もクラシックからハードロックと幅が広い。

 また、1984年から斎藤ネコカルテットという自身のバンドをスタートさせており、聖飢魔IIの「OVERTURE 〜BAD AGAIN〜」などの演奏にも参加している。

 アーティストとしては椎名林檎ほか谷山浩子とも深い関わりを持つ。

 

 このように、編曲を変えることを意識したのか楽曲面では金管楽器がフューチャーされた「薄ら氷心中」とは対照的に弦楽隊を大きく前に出し、弦楽器の響きをきっちりと活かすためゆったりとしたテンポ感の楽曲を提示している。

 また前曲と比べると歌い方は変わっていないものの、言葉の数を明らかに減らしており、そのあたりも楽曲に合わせていることが伺える。

 

 椎名林檎の楽曲はリズムとメロディラインの良さが際立ち、どこかフックがあるが譜割りがそこまで変なものではないため、ある意味汎用性があり他の人が歌うことも可能という一面がある。個性はそのリズムとメロディラインにあるのだからそこは問題ないというわけだ。

 

 歌詞に関してだが、

 

”さあ悲しみの亡者は湿(しめ)やかに啜り泣き

ご覧喜びの亡者が逆さまにほころぶぞ

人生はいつも一人きり分(わか)ち合へないの

一世一代の恋のお相手も行違つたまゝ”

 

というように前曲よりもどこか悲哀を感じさせるものや、

 

”ぶつつけ本番の大博打、伸(の)るか反(そ)るか”

 

というように明らかに決意を感じさせるものもある。

 

 これは、話の展開にかなりリンクしているのだが…これ以上は自らの目で確かめてほしい。

 椎名林檎らしいこの言葉の言い回しの巧みさと独特の美学を感じることが出来る他、やはり前曲と合わせてより大人の歌を歌うようになった林原めぐみの色気ある歌唱を存分に堪能してほしい1曲だ。

 

11.リグレット 作詞、作曲:岡崎律子 編曲:蓮沼健介

リグレット

リグレット

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 ピアノの旋律と綺麗なメロディラインが特徴なバラードポップ。

 

 岡崎律子…というと林原めぐみの歴史には欠かすことの出来ない方である。

 

 岡崎律子はシンガーソングライターである。長崎に生を受け、高校1年生の時に同級生とバンド「モノマー」を始める、当時のパートはピアノ・コーラスだったとか。

 その後、音楽業界入りすると「森野律」の名義でCMソングを手がけ、1993年に岡崎律子の名前でメジャーデビューする(トーラスレコード)。晩年はスターチャイルドレコードに移籍していた。

アニメファン的には「For フルーツバスケット」が有名だろう。

 

 2004年に敗血症性ショックで亡くなった。享年44歳だった。

 …その死後なのだが、2003年にスキルス性胃がんを発病し闘病しながら創作活動を続けていたことが明らかになる。遺作となったfor RITZは製作中の5月に訃報が出されたため、レコーディングスタッフがその冥福を祈ってタイトルを改定した。

 仮歌状態のものもあったが、彼女の強い意向により同年の岡崎の誕生日でもある12月26日にリリースされた。音源の完成を彼女が見ることはなかったが、本番の収録がされてなかったものは生前親交があった編曲家たちの手で最後まで完成するに至った。

 親族の意向で、交流のあった一部の芸能関係者の例外を除くと墓所は一般公開されていない。

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※生前唯一のテレビ出演。

 

  林原めぐみと深い親交があったことは知られているが、他にも飯塚雅弓緒方恵美やまとなでしこ(堀江由衣田村ゆかりのユニット)、井上喜久子など数々の声優に楽曲を提供している他、アニメだと「魔法のプリンセス ミンキーモモ」「フルーツバスケット」「ストラトス・フォー」「アキハバラ電脳組」 などのアニメにも楽曲を提供している。

 様々な、楽曲提供の中でもとりわけ面白いのがヤマハ音楽教室のピアノ・エレクトーンの教材用に曲をいくつか提供しており、音楽生徒向けの教材CDにソレが収録されていることだろう。

 

 さて、林原めぐみとの関わりだが、以下の楽曲を彼女に提供している。

  • 素直な気持ち(SPHERE)
  • はなれていても(bertemu)
  • -Life-(bertemu)
  • Good Luck!(Iravati)
  • 引っ越し(ふわり)
  • あの頃(ふわり)
  • 雨の子犬(CHOICE)

※あの頃のみ作詞:MEGUMI 作曲:岡崎律子、他は作詞、作曲:岡崎律子。なお雨の子犬は岡崎律子の未発表曲を形にしたもの。

 

 こうして並べてみると、林原めぐみが最も多忙を極めた90年代での楽曲提供が多いように思う。

 林原のキャリアを考えると決して水樹奈々で言う上松範康矢吹俊郎坂本真綾で言う菅野よう子のように常に楽曲を提供していたわけではないが、そのどれもが重要な楽曲で林原にとって心理的に大きなウエイトを占めていたことがわかる。

 ちなみに僕自身はGood Luck!に幾度となく元気をもらってきました。

 

 曲の話に移ろう。

 この曲は1996年に岡崎律子が歌っていたものをカバーした作品であり、その編曲は岡崎律子の曲を多数編曲してきた編曲家、蓮沼健介が手がけている。

 岡崎律子の楽曲を岡崎律子の信頼できる人のもとに託した形だ。

リグレット

リグレット

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 原曲からテンポもアレンジも大きく変化させていないのは、岡崎律子に対する1つのの敬意の現れだろう。2010年代も終わりに差し掛かろうという現代から、このようなポップスを見たら少し古臭く映るかもしれないが、歌謡曲的な懐かしさを感じる楽曲はどこか安心感がある。あえてアレンジで取り上げるとしたらこの懐かしさの部分だろうか。

 このようなアレンジは今ではあまり見ないし、80年代アイドルのような既視感があり、それがどこかすっと耳に馴染む。

  素直なメロディラインのポップスが多いのは、彼女がデビューした当時の時代性も反映してるのだろうが林原めぐみ、そして岡崎律子の大きな特徴である。

 

 また、歌詞に関しては男女の別れを描きながらもそこに悲壮感はなく、少しの苦味と後悔、そしてあいてに対する感謝を滲ませたものになっている。

 

”本当はまだ 迷っていた

ただつらくて悲しくて

その全てが あなたのせいと

思うくらいに 愛してた”

 

この部分や

 

”恋人たち 腕を組んで

誇らしげに しあわせ

みつめあって 悩みあって

愛を育てていくのね”

 

この部分に滲んでいるのは相手に対する感謝である。

 

 感情をありのままに吐き出し、憎しみや怒りをぶつける歌詞が共感されやすい現代には余り見ないような形ではあるが、このような歌詞のほうが個人的には好きなのだ。

 解釈の余地がある曲のほうが好みというだけなのだが…。

 

 実際にはもっと言いたいことがあるのかもしれないし、本当に感謝だけなのかもしれない。その解釈は人それぞれでいいのである。

 

 ソレ以上の説明は野暮というものだろう。

 

 加えて、林原めぐみの歌い方も何処か語りかけるような優しい歌い方になっており、林原がいかに岡崎律子のことを大切に思っていたのかが少し垣間見えてウルっときてしまう。

 

 これは林原自身が語っていたことなのだが、「薄ら氷心中」「今際の死神」の後にこれを配置したのはあえてらしい。

──どちらもどこか懐かしい雰囲気のアレンジになっていますし、流れで聴くとグッときますよね。

いいですよねえ。あとこれはネタの1つとして受け止めてもらえればいいんですけど、「今際の死神」の後に「リグレット」を置いたのはあえてなんですよ。「リグレット」は「恋人なら大切にしなくちゃね」って歌っている曲なので、それをみよ(みよ吉)ちゃんにも、こっそり言ってあげたかったと言うか。

                               

(林原めぐみ|デビューから変わらない“キャラと私”の進化系.より抜粋https://natalie.mu/music/pp/hayashibaramegumi03) 

 

 このようなことを知っていると、またこの曲が違う聴こえ方をするだろう。

 

 岡崎律子の楽曲が2018年に聴けたのは嬉しく思うし、同時に色々なことを考えて少しホロリとしてしまうナンバーである。

 

12.Mint 作詞、作曲:岡崎律子 編曲:蓮沼健介

Mint

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 岡崎律子の未発表曲をサルベージし、形にした軽快なポップナンバー。

 

 こちらも編曲は蓮沼健介に託している。岡崎律子にたいして最も信頼ができる人に任せるということが少し透けて見える。

 

 まず、こちらの楽曲が世に出る敬意なのだがこのようなものがあるらしい。

――印象としては非常にドラマチックな、最後に「Fifty」に辿り着くっていうような感じの曲順になっているなと思ったんですが、聞きたいことから伺っていくとなると、やはり「Mint」についてです。こちらは1stライブの楽屋打ちの席でangelaのKATSUさんからテープを渡されたとのことで。

林原 そうなんです。

――ブログを拝見して、衝撃だったんですけれども。

林原 13年時が経って軍艦島も見て、岡崎さんへの想いを……忘れるとかそういうことでは決してなくて、ひとつ整理をして。でも言ってみると、あのライブって岡崎さんがいっぱいだったんですよ。「『ミンキーモモ』から始めよう」とか「岡崎さんの声で始めて岡崎さんの声で終わろう」とか。そのライブの打ち上げの席で岡崎さんのカセットもらうって、できすぎじゃないですか?その日じゃなくても、スタッフ越しでもいいじゃん、って思うし。で、びっくりしちゃって、KATSU君にはかつてしたことないぐらいのハグをして。

――そうなんですね(笑)。

林原 「ありがとう」でもないし「何これ」でもないし、全部日本語がめんどくさくなっちゃって、もう「あーっ!」みたいな(笑)。KATSU君が、モノとしては古いけどあえてDATを使いたいからと言って、ピアノのお師匠さんの蓮沼(健介)さんからDATをもらって、その時に、キングレコードとゆかりの深い…という意味で岡崎さんのカセットももらったそうで。そこで彼は「これはめぐさんが持っていたほうがいい」と思ってくれたらしく。打ち上げの席で、渡してくれました。しばらく聴けずにワタワタしていたんですけど。いざカセットをセットして、あそびの部分がスーッとなって、イントロが聴こえてきて……そのあと岡崎さんの声が聴こえてきたときすぐ止めちゃったんです。なんかもう、聞いたら終わっちゃうって、怖くて。でも深呼吸してもう1回聴いて……。

出典:

www.lisani.jp

 

 なにか運命に似たものを感じさせるエピソードである。

 angelaのKATSUがコレを手に入れた経緯もまた特別なもので、編曲を担当してる蓮沼健介にDATを貰い、その時にキングレコードと縁が深い…ということで原曲であるカセットを手渡されたのだとか。その後打ち上げの席で林原めぐみの手に渡るのだ…。

 

 正直このエピソードだけでだいぶ涙腺にクる。

 

 ちなみにDATというのは簡単に言うと音声をデジタル化して磁気テープに記録する規格、またはその媒体のことを指す。

 現代のレコーディング方式を考えると少しレトロな代物なのだ。

 

 そんなわけで、林原の手に渡ったカセットだが、蓮沼氏 と話し合った時の感想は「リグレットのアンサーソングみたい」とのこと。

 リグレットの後に作られたものであることがぼんやりと感じられる、という言葉からは林原、蓮沼と岡崎律子の縁や関係の深さが伺える。

 林原がテープから流れてくる岡崎律子の声を聴いた時に、想いが溢れて思わず涙ぐんでしまった一方、まだ未発表曲があるのではないかと何処か冷静に捉えてる自分もいたとのこと。

 

 そんな訳でこの曲の話に移るが、サウンド面ではステップを踏みたくなるリズムと共に林原の綺麗で優しげな歌声が乗る、という林原流ポップスの典型を踏襲している形になる。

 岡崎律子の曲であることを意識しているのか、普段の快活な歌声とは違い、少し優しげなのがどこから心憎い。

 

 歌詞に関してだが、こちらも別れの歌である。しかし前曲に比べるとより感謝に満ちた歌になっている。

 

”人が羨むあの頃だって 問題はあった

二人の事は二人にしか分からないね(two of us)

結局ちゃんと続けてゆく根気が無くて

何かに負けてしまったような想いが残る”

 

 

”どうしたの 私は平気

今は遅くなった日も

独り星を見ながら

ちょっと寂しく帰るけれど

あなたといた日の意味や キラリ見つけた事が

ほらね 幾つもあるわ” 

 

など、何処か別れの寂しさを滲ませながらもそれは感謝に満ちたものになっており、過ごした日々が決して2人にとって無駄ではなかったと思わせてくれる。

 

 恨みつらみをぶちまける歌も悪くはないのだが、時折心がしんどい気持ちになってしまう自分がいる。だからこそ、こういう歌詞は身にしみるのだろう。

 

 さっぱりとした思い、そして少しの後悔の中にたくさんの感謝がある、そんな少し大人な甘酸っぱさの恋の歌である。

 

 この曲解説のリンクに更に踏み込んだ話があるので、興味がある方は是非。

 

13.恐山ル・ヴォワール 作詞:武井宏之 作曲、編曲:かぴたろう

恐山ル・ヴォワール

恐山ル・ヴォワール

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 かつて林原めぐみがネット上で「歌ってみた」ものを琴と笛を生演奏に差し替えて録音されたナンバー。

 

 まずはこの曲の経緯について話をしよう。

 

 はじめに、「恐山ル・ヴォワール」という単語は漫画「シャーマンキング」の単行本19、20巻に出てくる(完全版だと15巻、16巻)に出てくる。

 この話は主人公麻倉葉とヒロイン恐山アンナ(彼女の声優が林原めぐみ)の出会いを描いた過去編の副題、そして、その話の中に幾度となく散りばめられる劇中詩である。

 その劇中詩は各話のラストに登場し、またエピソードの終盤にも登場する。

 

 ここで言う「ヴォワール(revoir)」、とはフランス語で「会う」、そして隠語で「花嫁」を指す単語であり、また「オ・ルヴォワール(au revoir)」で「さよなら」もしくは「またね」の意味になる。

 アニメでは放送されていないエピソードではあるが、後にドラマCDになったときにアニメのキャストそのままに収録された経緯がある。

 

 その数年後、前述の劇中詩に中学生時代のかぴたろう氏が音楽をつけて、後に手直し。そして、初音ミクに歌わせ、ボーカロイド曲として2010年にニコニコ動画内で発表したものである。

 彼いわく「とても良い詩なのに音楽がついていないなんてもったいない」ということだったらしい。

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 ここでミラクルが起こる。

 事後報告であったが「シャーマンキング」原作者の武井宏之先生並びに関係者各位に気に入られたのだ。 

 

 そして、2011年10月にシャーマンキング復活記念として、「恐山アンナ」と名乗るユーザー名のとある動画がニコニコ動画内で投稿される。

 

www.nicovideo.jp

 

 あまりにも林原な歌声、あまりにも武井宏之先生に酷似した歌声、Twitterでの関係者の言及等により、これは林原めぐみの匿名投稿なのではないかと噂された。

 

 そしてこれは2011年11月8日、「ジャンプ改」内のシャーマンキング公式サイトにて、武井宏之先生直々の以来のもと、林原めぐみの賛同を得た上で、作曲者(もちろんかぴたろう氏のことである)に確認の上に誕生した」との説明がなされた。

 

 コレにより、名実ともに恐山アンナの歌ってみたであるという証明が成された。こんなミラクルは僕もインターネットをずっとやってて初めての出来事である。

 ちなみにこれの詳しい経緯はこちらのリンクから確認できる。

togetter.com

 

 

 そして今回収録されているのは、その歌ってみた音源の琴と笛の演奏を生に差し替えたものである。          

 

 サウンド面であるが、生演奏の琴と笛に差し替えたことで原曲以上に臨場感が増したとともに、さらに和の雅さが表現されているように思う。

 恐山アンナとして歌った林原めぐみのどこか少女っぽさの残る歌声も非常にマッチしている。

 間奏に入ってくるピアノの美しさは筆舌に尽くしがたいものがある…。

 

 シャーマンキングが大好きな自分としてはこの事実だけでも既に感動モノである。

 

 さらに歌詞なのだが、これがまたシャーマンキングの過去編の様々な場面を思い起こさせるものになっているのである。劇中詩だから当然といえば当然なのだが。

 

”お前さんを待つ その人はきっと

寂しい思いなぞ させはしない

少なくとも 少なくとも”

 

ここが既にアンナなんだよなあ…とか思うし、

 

”齢千余年 小生はやっと

さびしい思いから はなれます

はかなくとも はかなくとも”

 

ここが麻倉葉、そしてハオと縁の深いあの猫の話だし…

 

”不肖の身なれども この度は

至上の喜びと ちりぬるを

非情に思われど 気にはせぬ

微笑のひとつでも くりゃりゃんせ 慕情にも”

 

原作知ってると、思いが入りすぎてまともに語れないのですが、涙が出ますね…。

 

 もう一回シャーマンキング読もう…これ聴く前に該当場面を再度(多分100回目以上)完全版と通常版で読み返したけども…。

 

 林原めぐみ、かぴたろう、武井宏之先生、そして関係者の方々が「CHOICE」以降で起こした1つの奇跡を目のあたりにできる楽曲であり、シャーマンキングをまた読み返したくなるナンバーなので、是非聴いたことのない方はこの機会に。

 

14.Fifty 作詞:MEGUMI 作曲、編曲:たかはしごう

Fifty

Fifty

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 林原めぐみが50歳の自分、そしてこれから歳を取るすべての人に向けた新たな応援ソング。

 

 林原めぐみは年齢の節目節目にメッセージソングを作っている。

Thirty

Thirty

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Forty

Forty

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 どれもこれも、彼女の節目に自分の年齢を振り返って生まれた作品である。

 

 それは押し付けがましくもなく、暑苦しくもない。しかしながら、年を取ることを肯定させてくれるし、そっと背中を押してくれたり寄り添ってくれる詩ばかりである。

 この曲について林原めぐみは下記のように語っている。

 

──そしてアルバムのラストは、林原さんがご自身で作詞した「Fifty」で締めくくられます。年齢シリーズはこれで3作目になりますね。

「Thirty」「Forty」「Fifty」とそろいました。ポーカーで言ったらロイヤルストレートフラッシュくらいのけっこう強い手ですよね(笑)。去年、せっかく50歳で初ライブでもしたので、やっぱり「Fifty」という曲は入れておきたいなと思ったんですよ。

──どんなことを思いながら歌詞を書いていったんでしょう?

たまにネットなんかで“劣化した”みたいな表現を見ることがあって、自分が言われてどうのこうのではなく、その表現そのものが、嫌だなーって思うんですよ。一生懸命生きてきた人に対してそういう表現を張り付けるのって、なんだかすごく切ないでしょ。「それって当たり前なことなんだってば! みんな時に順応しながら老いていくんだってば!」って言いたかったんだと思います。私は自分のおばあちゃんに対して劣化したって思ったこと一度もなかったし(笑)。

 (林原めぐみ|デビューから変わらない“キャラと私”の進化系.より抜粋https://natalie.mu/music/pp/hayashibaramegumi03

 

 今作でもその年齢に対する考え方を喋ってくれているのだが、僕は彼女の考え方に人生を通して影響され続けている。それはやはりこういった曲の存在も大きいのだと思う。

 それでは曲を見ていこう。

 

 まず、サウンド面だがストリングスとポップ・ロックのバランスが良いし、イントロのストリングスがあることでさらに軽快さをプラスしているように思える。

 今どきこのような真っ直ぐなポップ・ロックナンバーは中々聴くことが出来ないのだが、林原めぐみに小さい頃から触れてきた自分としては、こういう曲を聴くとなぜか安心してしまうのだ。

 これに思い入れがあるのは否定できないのだが、歌謡曲的な綺麗なメロディラインがあるからなのか、どことなく日本人の琴線に触れるような物があると思っている。

 

 歌詞なのだが、これはThirty、Fortyとの比較で書いたほうが良いかもしれない。

 

”気がつけば後ろに道が しっかりとできていて

迷ったり つまずいたり 色々あったけど

それぞれがとても大切 私だけのダイアリー

いつのまにか思い出ね あの日 あの時 あの声”(Thirty)

 

 30のころは自分の思い出や過去を懐かしむような歌詞であり…

 

”そうそう人は 変わらないものね

泣いて、笑って、怒って、すねて

大人の境はあいまいで

また 泣いて、笑って、怒って、ねむる ”(Forty)

 

 40になったら、少し苦しいことや大人への迷いが増えて…

 

”行ってきますと飛び出しては

忘れ物を思いだす

駆け戻った扉の前

戻ってくると思ったと

あきれた顔で

微笑んでた母(あなた)”(Fifty)

 

 50になると、懐かしく思う記憶と同時に親の影を見るようになるのであった。

 

 そして、最後の部分では…

 

”10年前の私は 激しく泣いたり、 怒ったり

自分が好きになれずに 落ち込んでいたけれど

10年後の私は 少し優しくなれていて

自分以外の誰かを 大切にしてたら すてきね

10年前の私に 思い切り無理をしなさい

がむしゃらにぶつかって しっかり傷ついてと

10年後の私には あんまり無理をしないで

ゆっくりとあなたらしく 歳(とき)を重ねていてと 伝えたい”(Thirty)

 

 

30の頃には自分の過去と未来にメッセージを贈っていた。

 

そして、

 

”大丈夫を 口癖に

足跡はそれだけで宝物

私がいる あなたがいる

それだけで一つの宇宙になる

四つの10を クリアしても

まだまだ出来ない事だらけ

太陽<ひ>が落ちて 太陽がのぼる

それだけで一つの宇宙になる”(Forty)

 

 40の頃には辛い思いをしている人に対する励ましを与えていた。

それが50の頃には…

 

”出来ない自分も少し愛してあげて

そこからあきらめずに

まだあきらめずに

この体ごと手放すその日まで

目もとのライン、キュートに増やして行きましょう

きっと、涙と笑顔のバランスは

フィフティ フィフティ

半世紀からその先も、果てが無いね

To be continued”(Fifty)

 

 人生の終わりを意識しながら、年を重ねながらもまだまだ未来はあるんだよと語りかけ、希望をもたせる終わり方になっている。

 

 これを見ていると、30歳というのは人生をわかっているようでまだまだわかっていなくて、40になると更に苦しいことがあったりもするけど自分を励ましながら進んでいく。

 そして50になると思い出が増え、後進に伝えることも出来、それでも未来を見ることが出来る。苦しみの先にもちゃんと楽しさがあるということをなんとなく僕に思わせてくれるのだ。

 

 林原めぐみは自分の声優アーティストとしてのすさまじいブレイクの反面、自分のことをきっちり見ている人だった。

 ソレはこの曲からも伺えるし、彼女の発言、キャラクターを大事にする姿勢、そしてファンへの敬意など…

 そこに、昨今のアイドル声優が忘れてしまったものが詰まっているように思うのだ。

 

 果たして彼女のように歌うことは出来るのだろうかと思う半面、林原めぐみはきっとそんな後進にもこういう思いを伝えたいのだろうかとなんとなく感じた。

 このような曲を聴いていると、このような年の重ね方を出来たらなあと我が身を振り返るのだ。

 

 50にして老いを楽しむことをリスナーに教えてくれる大事な歌であり、これからもこういう歌を歌ってほしいなと僕は願っている。

 

まとめ

 たかはしごうで始まり、たかはしごうで終わるこのアルバム。林原めぐみのパブリックイメージをある程度は保ちつつも、こういうのも私なんですよとか、今の私はこうです!という感じで、どちらかというと現在のありのままの自分を見せることを優先したように思える。

 

 林原めぐみほどのキャリアと実績なら沢山のスタッフが動いてくれるだろうし、もっとトレンドを取り入れた作風にすることも出来ただろう。

 しかし、彼女はそういうある意味背伸びみたいなことはせずに素直な自分を表現した。

 それは、大人の彼女が持つ包容力や余裕でもあると思うし、それは歌声の柔らかさにも現れているだろう。

 伸びがある歌声でもどことなく優しさが見え隠れするのだ。

 

 林原めぐみの今を知らない人に届いてほしいアルバムだと思ったし、年齢のことで悩む全ての人、特に年齢や老いにネガティブなことを言われやすい女性に聴いてほしいものがたくさん詰まった作品である。

 

 僕も人生の後輩として先輩である彼女から学ぶことがこのアルバムからもたくさんあった。

 やっぱり、林原めぐみのことが大好きなんだなあとこのアルバムを聴いて再確認出来たので、改めて1stアルバムから聴き返そうかなという気分になったのだった。

 

最後に

 今回はそんな長く書くつもりはなかったのに思いが溢れすぎて、過去最長の記事になりました。

 林原めぐみさんと小学校3年生で出会って以来、本も買い、CDも集め、ラジオの公開録音にも当選し、ラジオを聞きながら勉強し…

 

 今まで感じてきたことをなんとなくこの記事に込めたつもりです。

 

 そして、オリジナルアルバムが出て、それが懐古主義ではなく良いと思えるもので僕はとても嬉しかったです。

 

 林原めぐみさんを今から聴くとなると大変かもしれませんが、ベストアルバムが出てるのでそこから是非はいってみてください。

 今の声優アーティストの原点の素晴らしさを知ることが出来ると思いますし、年齢とどう付き合っていくかもわかってくるんじゃないかなと思います。

 

 そういえば、次のライブはまだ未定だし、次のアルバムもまだ未定ですよね。僕は待てますがなるたけ早いと嬉しいです。

 あと、エヴァに関する音源が多かったことは、シン・エヴァンゲリオンのことと関係があるんですかね?そうだったら嬉しいです。完結する姿がみたいです。

 

 とにかく林原めぐみが好きなの!それだけ!

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました!