多様性とハイカロリーとオタク~水樹奈々「ULTIMATE DIAMOND」(2009)
はじめに
僕が水樹奈々と出会ったのは今からおよそ10年前、2009年にNHKで放送された「MUSIC JAPAN 新世紀アニソンスペシャル」である。
小さい頃からそれなりにアニメを見てきて、中学くらいから本格的に音楽にも興味が湧いて色々漁っていた。そんな中たまたまテレビを付けた時にこの番組がやるらしいということを知った。
そんなこんな、軽い気持ちで見てみたら衝撃を受けた。
僕がその頃知ってたアニメソングというと林原めぐみ、マクロスF、そして90年代から00年代初頭の小さい頃によく見ていたアニメソングだったのだが、全く様変わりしていた。
自分が今まで全く聴いたことのない雰囲気の曲の数々、見たことのないライブの作法やノリ方。本当にカルチャーショックだった。
その番組で初めて知ったのが水樹奈々である。彼女が今の声優のあり方であり、何やらデカイ会場で公演もいっぱいしてる…というのを番組で見て、「コレが今の声優なのか…」とただただ呆然としていたのを今も覚えている。
そして、その数日後くらいに「ULTIMATE DIAMOND」を買って目茶目茶ハマって今に至るわけであり…。
まあ、長々と書いたけど思い出の作品だから紹介したいってだけです。どうぞ!
水樹奈々「ULTIMATE DIAMOND」(2009)
- MARIA & JOKER
- 悦楽カメリア
- PERFECT SMILE
- Trickster
- Mr.Bunny!
- 沈黙の果実
- Brand New Tops
- 少年
- Gimmick Game
- Dancing in the velvet moon
- ray of change
- 深愛
- 蒼き光の果て-ULTIMATE MODE-
- Astrogation
- 夢の続き
※プロデュースは全曲三嶋章夫
総収録時間65分19秒、15曲に及ぶかなりボリューミーかつバラエティ豊かなこのアルバムは、声優で初めてオリコン1位を獲得した作品である(林原めぐみ、坂本真綾がオリコンアルバムチャート3位タイでこれが最高記録だった)。
声優による首位獲得はオリコンチャートが始まった1968年から数えて史上初の記録であり、キングレコード初のアルバムでは9年5ヶ月ぶりの大記録である。
ちなみにキングレコードで彼女の前にアルバムで首位を獲得したのは、スカパンク、メロコアバンド、SNAIL RAMP「FRESH BRASH OLD MAN」。こちらもいい音楽なので聴いてみてね。
話を戻すとソレだけの凄い記録なのだ。
しかし、その記録の偉大さと比較して、音楽としてレビューを書くというのは今まであまり見てこなかったように思う。ヴィジュアル系と声優アーティスト業界はまあまあ似てるなと思うのだが、歴史の長さに反して「音楽的な言葉」をあまり持っていない印象がある。
そういう訳で今回は発売10周年でもあるし、一曲づつ見ていこうと思う。
1.MARIA & JOKER 作詞:Hibiki 作曲、編曲:上松範康(Elements Garden)
ジャジーでかつテンポが早くハイテンションなオープニングナンバー。
イントロから、いきなりピストルの銃声が鳴り響き、ホーンセクションが全面に押し出されている。作曲はElements Gardenの上松範康。
Elements Gardenは「ALIVE & KICKING」から水樹奈々と一緒に仕事を初めて、「HYBRID UNIVERSE」から本格的にアルバム制作を共同で手がけることになった音楽クリエイターチームである。彼ら、特に上松範康の楽曲の特徴だが、大胆なストリングスやシンセ+ストリングスを全面に押し出したサウンドが挙げられる。「ETERNAL BLAZE」や「Justice to Believe」が代表例としてあげられるだろう。
今回はこれまでの楽曲にはなかったジャジーなテイストを押しだし、そこにホーンセクションとストリングスを大胆に絡ませているため、ビート感も含めかなり独特な曲になっている。そのためか、シンセサウンドは使われていない。
しかしながら、所々銃声を挟むなど、メジャーシーンのJPOPじゃまずやらないようなお遊びを入れてくるのが聴いていてとても面白い。
サックスがメロディを引っ張っている印象もあるため、今までの水樹奈々よりもかなり大人びて聴こえる。
ルパン三世、というか大野雄二的なテイストを感じるという声もあるようだが、現代風のテイストをより取り入れ、スタイリッシュに仕上げているという点ではTHE SEATBELTSにテイストが近いように思う(菅野よう子の率いるバンドでCOWBOY BEBOPのOPで有名)。
そのジャジーかつアグレッシヴなナンバーの歌詞を書いたのはHibiki。
水樹奈々に数多くの楽曲を提供している作詞家で、「残光のガイア」「Crystal Letter」「天空のカナリア」「NEXT ARCADIA」など「HYBRID UNIVERSE」以降の水樹奈々の楽曲に数多く歌詞を提供している。
そんな彼の提供した歌詞は、専業作詞家ということもあるのか楽曲の雰囲気にきっちりと照準を合わせたものである。所々小悪魔的な女性を想起させるのがツボ。
”ワンコイン渦巻くChance...
赤か黒かOne more chance...
Kissの尊厳もレイズ...
もう後戻り出来ない?”
”恋を撃ち墜とせ どんな手でもいい
Oh god... 罪にお許しを...
そうJoker was knowing マリアの素顔
ピストルに愛を込めたなら
君の名の下嘘を放とう...
二人のワタシ
Which did you like?”
このような大人の女性を感じさせる水樹奈々という歌詞は今までに見られなかったように思うので、ソレを踏まえて聴くと新鮮であると共に、作詞、作曲ともに彼女の年齢に合わせたテイストをしっかりと意識していることが伺える。
初期では背伸びしていた部分が年月を経て歯車が噛み合った形になった。
そして、これらのテイストに演歌風味が混ざった水樹奈々の歌声を聴くと、個性のごった煮となり、1曲目から超絶ハイカロリーな楽曲へと変貌するのだ。
というかこのアルバム大体情報量が多くて高カロリー。
ラーメン二郎かな?
2.悦楽カメリア 作詞:水樹奈々 作曲、編曲:大西省吾
1曲目のハイカロリーナンバーに続けて、更にカロリーの高い曲をぶち込んできた水樹奈々。凄い。
作曲は大西省吾。元々Sleepin’ JohnnyFishというバンドのギターを務めていた。バンドの活動休止後は作曲家、編曲家としてのキャリアをスタートさせる。
特に編曲家の仕事は水樹奈々以外にも現在、Aimer、関ジャニ∞、シシド・カフカなど多岐にわたる。
今作では作曲と編曲の両方を担当しているが、オリジナルアルバム7作目にして水樹奈々史上初の本格的メタルナンバー。まだまだそこまで本格的なテイストではないが、モダンなテイストと和を取り入れたスピード感のあるメタル風味はどことなく「陰陽座」を想起させる。
水樹奈々が本格的に重量感のあるロックに挑戦したのは前作「GREAT ACTIVITY」であると認識しているが、その路線を本格的に引き継いだ形だ。
ちなみに、このメタル的な路線は今作以降も引き継がれた上により加速していくことになるが、「ミュステリオン」「アパッショナート」「WAKE UP THE SOULS」など厳密にはメタルとしてのテイストは異なるが数々のメタルナンバーを産み出すことになる。
今作はその始まりの曲だと思っている。
作詞は水樹奈々。水樹奈々の書く歌詞はいつも色々な意味で特徴的で高カロリーである。今作は水樹奈々漢字検定ができそうなあの特徴的な当て字は抑えめだが、例に漏れず濃い。
”狂おしく咲き乱れる華
紅い紅い月冴ゆる待宵さえ ひそやかに悦楽を重ねるの
無明の闇の中で貴方だけが
すべてを支配する-抱く-の
甘く導いて 綺羅星のよう(強く強く)照らしている
永久を願う”
僕のようなヴィジュアル系リスナーや水樹奈々を長らく聴いている人間は化調まみれな歌詞を浴びまくって完全に感覚が麻痺しているが、一般的に見ればこの歌詞はかなり濃い目である。
しかしながら、曲の持つ和の要素をしっかりと汲み取っている艶やかな歌詞である上、演歌を出自とするような言葉遣いも感じられる。
速いナンバーではあるが言葉をそこまで詰め込んでいないためか、演歌の出自だからなせるこぶしの聴いた歌声を十二分に活かせているナンバーである。
TBS系列『笑撃!ワンフレーズ』2009年5月・6月度エンディングテーマ…っていつも見ると思うのだが、プロモーションを考えてもお笑い番組のテーマがコレって面白いな。
3.PERFECT SMILE 作詞、作曲、編曲:伊藤寛之
鍵盤の音が軽やかさをプラスするポップなロックナンバー。
今作は作詞、作曲、編曲の全てをSPORTSのボーカル・ギターである伊藤寛之が手がけている。
様々な方に楽曲提供や編曲で関わっており、HKT48やベイビーレイズJAPAN、9nine、YUKIなど女性のアーティストが多いように思える中、flumpoolが異質に映る。
同一人間が楽曲の全てを手がけることのメリットとして、世界観や楽曲と語感の合致が挙げられると思うのだが、今作はそのメリットがきっちりと発揮されているように思える。
楽曲はメジャーシーンのJPOPでも聴かれるような明るいテイストの楽曲であり、名前も相まって前向きさを感じさせる…のだが、ここでSPORTSというバンドの話をしよう。
SPORTSは2001年に結成され、2004年にメジャーデビュー。2007年に活動休止したロックバンドである。
SUMMER SONIC’04にも出場した実は隠れた良質バンドでもあるのだが、そんな彼らの音楽性はローファイなテイストの漂うオルタナティブロックバンド。
どことなくCOALTAR OF THE DEEPERSっぽさがするのは内緒だぞ。
そのバンドのメインコンポーザーである彼が水樹奈々に提供した楽曲をここで改めて聴いてみると、かなり真っ当なJPOP。
オルタナなバンドサウンドのテイストは鳴りを潜めているがロック的なテイストはキッチリを組み込んでいるあたり、人に楽曲提供することの面白さを感じさせる。
てか、NARASAKIと同じパターンなんだよな(笑)
坂本真綾への楽曲提供がコンポーザーの色が割と全面に出ることを考えると、水樹奈々への楽曲提供は少しばかり色が違うかもしれないとか、伊藤寛之は器用なんだなと改めて認識できる。
ここで、歌詞を見てみよう。
”失くしたままの遠い記憶 確かめる度また怖くなる
大切なもの儚いもの 壊れたままじゃ進めないから”
”誰にも見せない笑顔で そっと空を見上げて
探した答えが今ならきっとわかるはずだよ 輝いた未来に”
水樹奈々に合わせた前向きさを感じさせるテイストの中に、淡い痛みもきっちり描いているのがこの曲の歌詞の良いところであり、その苦味が良いテイストになり曲の持つ魅力を引き出しているように思える。
個人的に春に聴きたい曲です。
4.Trickster 作詞:水樹奈々 作曲、編曲:上松範康(Elements Garden)
『アニメロミックス』CMソング 、日本テレビ系列『音楽戦士 MUSIC FIGHTER』2008年10月度POWER PLAY、コナミデジタルエンタテインメントアーケードゲーム・PlayStation 2用ゲームソフト『Dance Dance Revolution X』収録曲…とかいう3つもタイアップがついているのがある意味で特徴的なナンバー。
作詞は水樹奈々、作曲は上松範康という黄金コンビで制作された今作は水樹奈々と最小限のバンド編成(ギター、ベース、ドラム)で構成されている。
ハードロックテイストが少し入っているが、全体的にはガレージロックを感じさせる無骨な楽曲であり、弾きまくるとかテクニカルに手数で圧倒する、というものではない。
ちなみに大義のガレージロックに分類されるバンドはこんな感じである。
MC5 - Looking At You (Live 1970)
The Stooges - I wanna be your dog (1969)
The Flamin' Groovies - Shake Some Action (1976)
これを聴いた上でTricksterを聴くと、ガレージロック的な音像と共にギターソロではハードロック的な物が感じられる。ソレでいながらパンク的な瞬発力も感じさせるなど、水樹奈々の楽曲としてはかなり異質である。
これを上松範康が書いたのだから興味深いと共に、彼の書ける音楽性の広さを感じさせる。
歌詞は水樹奈々節が全面に押し出されており、
”君が「大好きだよ」っていつも無邪気な声で笑うから
僕の我が儘な感情-時計-はほら、動き始める
壊れた玩具並べ 自分の理想の城作って
誰もが求める幸せに心奪われていた”
”「大丈夫」と鍵をかけて隠してた
たくさんの本音-言葉-たち さあ、解き放ってみよう”
”僕の紡ぐ物語 君に伝えたい
それは、終りなき神話-星-の愛-いのち-の始まり”
めっちゃ、水樹奈々印だな…って感じさせるのがやっぱり独特の言葉遣い。
歌詞は全体的に心の開放を歌っており、彼女の前向きさや歌詞のテイストは楽曲が変わっても変わらないということを再確認できる。
5.Mr.Bunny! 作詞:SAYURI 作曲:若林充 編曲:齋藤真也
前曲の流れを引き継ぎつつ、シンセの要素を全面に押し出したポップソング。
しかし、歌詞はそのポップさに反して失恋を連想するものになっており、悲しみを明るさで覆い隠すような心理を感じさせる多層構造のナンバー。
作曲は若林充。有限会社メロネストの職業作曲、編曲家で今では鈴木このみや愛美の作曲を手がけている。
かなり幅の広い作風だと認識しているが、今作では先程述べたようなシンセサウンドを全面に出し、アニメソング的な過剰なまでのポップさをそこにプラスしている。
編曲家は齋藤真也。p.m.worksに所属している作曲、編曲家でトランス・ミュージックのテイストを取り入れたキャッチーな楽曲を得意としている。玉置成実や中川翔子などにも楽曲提供している。
2人の共通点はシンセサウンドのある音楽を得意としていることだが、曲を担う点ではコレ以上ない人選だろう。
作詞はSAYURI。元々は歌手活動をしており2003年には歌手活動を行っていた。2005年から休業状態だったのだが、「GREAT ACTIVITY」収録のNostalgiaから作詞家として活動を始める。
ある意味、水樹奈々以前の彼女をよく理解している方の作詞ということで安心感がある。
ポップなメロディで聴き流すとピンとこないのだが、よくよく聴いてると…
”あの頃とは違った景色でも
ほら
上手に笑って
青い空見上げ なんとか踏み出してみるよ”
”so manythings
manytime
「君以上に分かち合える誰かを見つけてやるさ」 なんて強がって言ってみたけれどね そうじゃない
君以上の誰かなんていないさ”
終始こんな感じである。
一人称が「僕」ということで男視点で描かれてるのだが、それを女性の水樹奈々が真っ直ぐで力強い歌うといい意味で男らしさと湿っぽさが前に出ないために生々しくならないのもすっと聴ける要因だろう。
ちなみにここまで一切バラードなどがない上、割とハイテンポな曲が揃っているのだが、曲に多様性があるためにリスナーを飽きさせないあたり工夫を感じる。
6.沈黙の果実 作詞、作曲:しほり 編曲:天羽蓮花
ストリングスとアコースティックなギターがバンドサウンドとガッツリ絡むのが特徴なアップテンポナンバー、というかここまでアップテンポナンバーしかない。
普通パンクバンドでもないんだからここでミディアムテンポとか挟むだろ…と考えるのは凡人の発想である。この人はそういうんじゃない。
イントロからストリングスがドバー!と流れると一瞬でテンションが上がってしまうし、途中で入ってくるアコギのギターソロも情熱的でどことなくヨーロピアンなテイストを感じさせる。
エレキギターやドラム、ベースがそこで引っ込むでもひたすら前に出てくるというどのパートもぶつかり合っている熱さが水樹奈々の持ち味でもあるが、1曲聴くだけでお腹いっぱいという意見もわからないではない(笑)
所々でキメがあるのがヴィジュアル系ー!とか勝手に思っているのだが、作詞作曲を担当したのはシンガーソングライターのしほり。
いつも水樹奈々に楽曲提供しているのであまり思い至らないことがあるが、彼女自体はそんなに激しい音楽をやっているわけではない。こういうところでも水樹奈々に合わせているというのを感じられる。
主にゲーム音楽などに楽曲提供を行っているが、ゼクシイのパパパパーンの歌を歌っていたりします。実は作詞作曲家としての曲はコレが初。
(天羽蓮花については調べたのだが情報が出てこなかった…。)
彼女の作詞面だが、これも水樹奈々に焦点を合わせており…
”七つの海渡る疾風よ
鳴り止まぬこの想いどこまでも
焦がれていた君へ続く天空へ
止まらない衝動 遥かな祈り 連れていって・・・
あぁ、色褪せぬ願い 歌声は何度でも 蘇る”
という超勇ましい歌詞。
水樹奈々の真っ直ぐな歌声や楽曲を参考にして作ったのが垣間見えるような内容であるが、水樹奈々が裏声を多用して歌っていることで独特の神々しさが生まれるように思う。
個人的にお気に入りです。
7.Brand New Tops 作詞:ゆうまお 作曲、編曲:雅智弥
シングアロングやライブ映えしそうなアップテンポナンバー。
作曲と編曲は雅智弥。水樹奈々の楽曲「Inside of mind」を過去に提供している作曲家であり、曲を聴く限りにはポップでありながらもバンドを含めたギターサウンドやシンセをバンバン盛り込んでくる印象がある。雰囲気的には林原めぐみの楽曲に近いだろうか。
いい意味で古き良き90年代のアニソン感を持っている作曲家と言えるだろう。
今作でも、シンセとギターは絶対と言わんばかバンバン前に出してくるあたり強烈なこだわりを感じさせる。特に途中のギターソロとかがいきなり展開されるあたりとっても古き良きアニソンっぽい。
あと、最後の怒涛のドラムとギターがとても好き。
作詞はゆうまお。実はこの方もシンガーソングライターであり、小室哲哉に憧れたらしい。そのため、MAYUKO名義でキーボードによる弾き語りアーティストになったのだとか。
ちなみにランティスからはゆうまお名義でメジャーデビューしている。
また、楽曲提供経験も豊富で、数多くのアニメに楽曲提供をしているほか、実はアニメソング以外の仕事もしている。代表的なのはフジテレビ系月9ドラマ「イノセント・ラヴ」の劇伴だろう。
水樹奈々の歌詞は非常に前向きなものも多いのだが、この曲もその例に漏れず前向きである。ちなみに水樹奈々の声のトーンは少女性を前に出したものと男らしさを出したものと大別できるのだが、これは前者である。
個人的なお気に入りは
”がんばろうよ こんな時代だから
アタシだけが アシタを動かす
白か黒か決めるのMyself うまくいくわ
愛そう My Dream Top
胸に抱いた 輝き My Treasure Top”
こういう真っ直ぐな前向きな詩も時には良いものです…。
8.少年 作詞、作曲:矢吹俊郎 編曲:大平勉
イントロのピアノとドラム、そしてホーンセクションが印象的なナンバー。
そして、作詞と作曲が矢吹俊郎で編曲が大平勉という水樹奈々もう1つの黄金タッグによる作品の1つである。
作詞と作曲の矢吹俊郎について今更どのくらいの説明が必要かわからないが、プロデューサーでありミュージシャンという2つの肩書を持つ。
元々は80年代後半に松本伊代やWinkのバックでギターを務めており、その時にすでにキーボードを努めていた大平勉と出会っている。
ちなみに渡辺格と大平勉を介し知り合ったことがあり、ソレがキッカケで奥井雅美と水樹奈々のバンドのギターを渡辺格に委ねることになるという、超重要人物。
95年から01年までは奥井雅美の音楽プロデューサーを努めており、今現在も水樹奈々の音楽プロデューサーを努めている。
そして、何より演歌畑だった水樹奈々に厳しい指導を施しロックとポップスの歌い方を伝授した師匠。
彼女のキャリアにおいてほんとに重要な人です。
…色々な経歴があって書ききれないのだが…木梨憲武の中学時代の同級生で今も仲がいいというのは明記しておきたい。
個人的に気に入ってるのは彼がTOTOのギタリスト、スティーブ・ルカサーのファンであるということ。ここから僕は興味を持ったりしました。
編曲は大平勉。先にも述べたがキーボーディストであり、水樹奈々とは「おんなになあれ」の編曲から長年携わるというこちらも縁が深い人である。矢吹俊郎と共同で関わることが多いようだ。
そんな2人が手を組んで作るロックはどこかAOR(アルバム・オリエンテッド・ロックもしくはアダルト・オリエンテッド・ロック)的なテイストを取り入れている。
この曲もソレに該当するのだが、ロックというジャンルとしては攻撃的で刺さるようなサウンドではなく、楽器の各パートの調和を重視しているように思う。
要所要所で入ってくるキーボードの音色が楽曲に広がりをもたせており、かなり色々な音が楽しめる曲である。途中で入ってくるサックスがとっても良い。
水樹奈々の曲の歌詞は常に前を向けるようなものが多いのだが、この曲は大人になってから響く曲である。具体的には…
”少年のような輝きで もう一度はじけよう
守る モノに隠れた お宝を探そう
誰でも華やかな色に 染まれるはずだよ
いつも忘れないように 時々笑顔で
教えて欲しい”
こんな箇所。
僕も大きくなるまではそこまでピンときませんでした…。
これは僕だけなのだが、少年…って言うと…
こっちなんだよな…。
9.Gimmick Game 作詞:Hibiki 作曲、編曲:藤田淳平(Elements Garden)
このアルバムでおそらく一番聴いた曲です。
TBS『カード学園』のオープニングテーマである。
トランス・ミュージックを感じさせるバッキバキのシンセトラックに水樹奈々の歌声が乗るという、当時のキャリアとしてはかなり斬新なナンバー。
藤田淳平はElements Gardenに所属するキーボーディストであり、数多くのアーティストに楽曲提供を行っている。水樹奈々に対しては作曲や編曲で深く関わっているのだが、作曲で代表的なのが「ファーストカレンダー」「COSMIC LOVE」「囚われのBabel」である。
そんな彼が今作では何を思ったのか、バッキバキのシンセをメインにしたトラックを作ってきて、そこに演歌譲りの歌唱法を持つ水樹奈々の歌声を乗せるという狂った発想を考えついた。
そして、ソレが噛み合った。
伸びやかな彼女の声にシンセが細かく入り込むことで今までの彼女にはなかった風合いになったし、何よりこの曲のフォーマットは水樹奈々のみならず様々なアニソン系アーティストの基本構造の1つになったように思える。
勿論I'veのようなテクノ・トランスをアニメソングやゲームソングに乗せるタイプのグループはいたが、彼らと比べるとキーといい、曲調といいだいぶメジャー感が強くなっている。
そのため、割と色々なアーティストと合わせやすいのではないかと推測している。
歌詞は「MARIA & JOKER」同様響きが手がけているが、テイストをガラリと変えていて、語彙の選択においてかなり性急さを掻き立てるようにチョイスしていると感じている。それが曲の持つテンポ感と緊迫感を更に高める効果をもたらしていると個人的に思う。具体的にはサビのこの部分だが…
”ねぇ Give me, Give me your heart
愛じゃなくていいの
裸のココロ抱きしめて
心情に身を任せたら
わたしを壊すほどに
ねぇShaking, Shaking emotion
昂るレゾナンス
禁断のLabyrinth...
そう君は 指先のGimmick game”
アップテンポな曲に早口で英詞やスキャンダラスな言葉をかなり使っている。
歌詞も曲も全部がサビに思えるほどなキャッチーさもあるので本当によく出来た曲だと思います。
10.Dancing in the velvet moon 作詞:水樹奈々 作曲:上松範康(Elements Garden) 編曲:中山真斗(Elements Garden)
テレビアニメ『ロザリオとバンパイア』エンディングテーマであり、水樹と上松という定番タッグの制作に中山真斗が編曲で加わったナンバー。
現在はF.M.F.に所属している中山真斗は元々Elements Gardenのメンバーであり、ロックサウンドのアレンジを得意としているのだが、ブラスやストリングスのアレンジもしている…というのが検索等で探すことの出来る情報。
まあ、それを踏まえて改めて聴いてみると…
マジでそのとおりだな!!!
ギターとストリングスとキーボードが一体になったイントロから、打ち込みのキックと生のドラムをうまくかぶせた独特の処理。チェンバロに似た音色をシンセで入れることでそこにゴシック感をプラスし、所々キメを作っていく…
これはヴィジュアル系なんだが?
ともすればゴシック・ロックテイストのアニソンとして普通にリリースされそうだが、ここで活きてくるのが水樹奈々の出自。
演歌という特性上こぶしが入るのだが、これが入ることでカテゴライズ不能な水樹奈々印に仕上がるわけである。
このような音楽はおそらく世界中探しても彼女しか無い。普通は考え付きもしない。
ここで歌詞を見てみよう。
”白銀の炎 天を焦がして
例え心を引き裂いても
あなただけに捧げたいの
私の胸の本性-十字架-を”
とか…
”愛の鎖 誰にも壞せない
甘く清らな呪文かけて
あなただけに許されるの
禁じられた本能-メロディ-さえも
自由翔ける翼になる
捕まえて… 早く私を”
とか…
聴いてるといつも思うんだけど、要所要所のキメといい、TVアニメ準拠としてもこのゴシック感満載の歌詞といい、ストリングスとギターのサウンドの組み合わせと言い、個性のごった煮感といい…
ヴィジュアル系なんだが?
個人的にバックで延々となってるチェンバロの音色が凄い好きです。
11.ray of change 作詞、作曲:斉田和典 編曲:高橋浩一郎
ここに来てようやくやってきたミディアムテンポと呼べるナンバー 。このアルバム頭おかしい。
エレキ・ベースとドラムのサウンドに五十嵐充を彷彿とさせるシンセを挟みつつ、ギターはアコースティックギターというこれまたカオスな曲。
今作の作詞、作曲を担当している斉田和典だがギタリスト、作曲家であり、数多くのアーティストのバックバンドを努めているほか、水樹奈々以外にも関ジャニ∞、Hey!Say!JUMP!などにも楽曲提供をしている。
小室哲哉に憧れてキーボードでバンド活動を初めたことはこのような楽曲と無関係ではないだろう。
パッと聴いてると少しアクセントに癖があるミディアムテンポナンバーなのだが、ほんとに聴けば聴くほど不思議な曲で、アコースティックギターをここで大々的に押し出す!?という驚きを感じさせる。
編曲は高橋浩一郎でこの方は宮野真守やLiSA、田村ゆかりなど主にアニメソングを主戦場にして活動するアーティストの編曲や作曲を行っている。
歌詞を見てみようと思うのだが、アルバムの中でも何かを掴みに行こうという強い意志を感じる内容になっている。
たとえば…
”you can change 教えて自由の意味を
いつか解り合う日が来るから
汚れない光を目指して 探しに行こう
keep me we can change 叶えて僕らの夢を
遥か遠くにも伝えられる
求めたモノはただ一つしかないから
Can't live without you”
この部分がそうだろうか。
水樹奈々の歌詞はハングリー精神に満ち溢れたものが多いのだが、そのハングリー精神に満ちた歌詞はどことなく後期のLUNA SEAを彷彿とさせるし、その前向きさはGLAYを彷彿とさせるように思う。
水樹奈々の伸びやかな声と合わさることで、彼女の楽曲は誰かの背中を押したり引っ張り上げるような絶対的なブレのなさが見受けられる。
その姿勢は昔から今まで変わることは決してなかったのだが、個人的にはこの曲でその姿勢が確立されたように思います。
12.深愛 作詞:水樹奈々 作曲:上松範康(Elements Garden) 編曲:藤間仁(Elements Garden)
水樹奈々のオタクにとっては言うまでもなく名曲であり、個人的にもものすごく深い思い出がある曲。
テレビアニメ『WHITE ALBUM』オープニングテーマであり日本テレビ系列『音楽戦士 MUSIC FIGHTER』2009年1月度POWER PLAYであるこの曲。
ファンから見たらほんとに言わずと知れた名曲だし、自伝のタイトルにもなってるくらいに水樹奈々本人の思い入れも強い曲だが、ここで編曲の紹介をしておこう。
こちらの曲はElements Gardenの藤間仁が編曲しているのだが、この方はアルパ奏者でこの曲にも演奏、PVで参加している上松美香の旦那さんです。
打ち込みなども得意とするが基本的に劇伴や楽曲提供ではピアノとギターを主役に据えたアコースティックな物が多い。今作も例に漏れずその構成になってはいるがストリングスの音色が全面に押し出されるのはやはり上松範康の手癖のようなものか。
そしてこの曲について欠かせないのはその記録である。
まず、2009年1月21日に声優としては3年4ヶ月ぶりのオリコンデイリーランキング1位を獲得する。通常の水曜日発売でかつソロは声優史上初の快挙。
更には声優として史上初のNHK紅白歌合戦出場を果たす。その後7年連続で出場するするという例を見ない記録を打ち立てる。
おそらく、このような記録を樹立する声優は今後現れないのではないかと思える。
(ちなみに、いつも奈々さんが歌番組に出ると観客と奈々さんの熱量の差とかに心が冷え冷えして落ち着かなかったです…)
僕は正直に言うとこの記録の部分はあくまでも数字上のデータでしか無いと思っていて、彼女や楽曲の魅力とは関係ないと思っているのだが…。
この曲はストリングスとアルパの音色を全面に押し出したバラードであり、アニメに合わせて切ない恋物語を表した歌詞が特徴的であるのだが、実はこの歌詞を書いたのは水樹奈々のお父上が亡くなった1週間後であり、レコーディングはその2日後であると考えるとまた聴こえ方が変わってくるだろう。
”「行かないで、もう少しだけ」 何度も言いかけては
「また会えるよね? きっと」 何度も自分に問いかける”
”一つだけ 許される願いがあるなら
「ごめんね」と伝えたいよ”
この部分とか彼女の歌詞の背景を考えると、本当に聴くたびに色々なことを考えてしまう…。
彼女の伸びのある声と感情表現豊かでありながら湿っぽくならない真っ直ぐな歌声と合わさることで、ストリングスとアルパの美しさも相まって極上のバラードに仕上がっている。
個人的にこの曲には強い思い入れがある。
この曲は水樹奈々の紅白を固唾を飲んで見守ったというのもあるのだが、僕は死別の経験が人より多いはず、というのもある。
母方の祖父母は既に他界しているし、父方の祖父も僕が小学3年生の頃に山の事故で亡くなってしまった。
この曲を初めて聴いた時に、僕はこの曲に単なる恋物語だけではない過剰なまでの思い入れをしてしまったのだが、あとで歌詞を書き上げた背景を知ると自然と腑に落ちた。
そして、もともと、出自が未熟児生まれであるのも大きく関係している。同じような週数で産まれた周囲の人間は早くに亡くなっている、もしくは障害を持っていることを僕は今でも時折思い出してしまうのだ。
そして、最近だと近所の方の孤独死が相次いだことや、20年連れ添った愛犬を亡くした事もあるし、一昨年に10年ほど行方不明だった従兄弟を亡くしている。
水樹奈々の背景を知ってしまっているためか、そういった「こぼれていってしまった命」のことをどうしてもこの曲に投影してしまうのである。彼女は不本意だろうが…。
本来は「夢の続き」に対して思うような内容なのだろうが、あれは彼女と彼女のお父上の話、という区切りが自分の中であるのでそれを侵してはいけないように思えてしまう。
本当に単なる自分語りでしかないが、そういった経験が重なれば重なるほどこの曲を恋物語ではなく死別として聴いてしまう自分がいる。
そして、死の重さを感じてしまった自分は真っ直ぐな彼女の歌声に、そして真っ直ぐな中に別れを感じさせるこの曲にかなり救われてきている。
だからこそ、この曲は僕にとって思い出深い曲なのである。
13.蒼き光の果て-ULTIMATE MODE- 作詞:辻純更 作曲:松井俊介 編曲:藤間仁(Elements Garden)
アルバムも終盤に差し掛かる中、シンセとバンドサウンドの兼ね合いが特徴的であるかなりハイカロリーなアップテンポナンバー。
この曲はイントロのギターのアルペジオ、AメロBメロのバンドサウンドと打ち込みがとても好きなのだが、ただでさえ情報量が多い曲にストリングスがかぶさっていたりギターソロがかなり弾きまくっていたりとかなりハイカロリーな曲に思える。
作曲は松井俊介。専業作詞、作曲家であり、西沢幸奏や野水伊織、平野綾や佐倉綾音など数々のアニメソング系アーティストや声優作詞、作曲、編曲で関わっている。
この過剰なまでのポップさと情報量の多さがひたすらに耳をひきつけるサウンド、そして唐突に挟まってくるヘヴィメタル的ギターソロがアニソンの様式美と思える。
おそらく世代的なものなのだろうがバンドサウンドの骨子はJPOPとヘヴィメタル由来の物を感じさせるのが耳に馴染みやすい要因なのかもしれない。
作詞は辻純更。アイカツ!シリーズやまりあ†ほりっく、うぽって!!などのアニメソングの土壌からエビ中やAKBなどのアイドルシーン、さらにはCMソングやコーラスなどその活動は多岐に渡る。
そしてアレンジは藤間仁、深愛でも担当したが今回はバンドサウンドと打ち込みの比重が多めに仕上がっている。こんな曲でもストリングスをガッツリ挟んでくるのはElements Gardenの所属者の癖なのかもしれない。
水樹奈々にガッツリ歌詞を寄せてくる外部提供者の中で、彼女の作詞はサビの部分がリズミカルで非常に頭に残りやすいように思える。
”この声この心 手と手に 望むものがあるとするなら
あと少し世界を見せて 光を見せて”
”例えば痛みを背負うとしても 自分で選んだコトだから
蒼く高く この身体に刻んでみせる”
ココらへんの歌詞とか超リズミカルでとても歌いやすそうだし。
そして…
”ねぇ
強く(強く)
想う(願う)
誰の(為に?)
in your eyes(in your eyes)
in your mind
yourself 重ねる”
この辺などはカッコ内の部分とそうでない部分の掛け合いが同様にリズミカルで、辻さんは音と言葉のハメ方を最優先して曲を作っているのかもしれないと感じた。
もちろん、これが曲先か詞先かが判断できないので推測でしか無いのだが。
アルバム終盤のハイカロリーな曲に聴きごたえも抜群なのだが、その流れはまだ終わらないのであった…水樹奈々、恐ろしい子っ!!
14.Astrogation 作詞:Hibiki 作曲、編曲:陶山隼
はい来ました、アルバム終盤でこのアップテンポナンバー、「Gimmick Game」に通じるバッキバキのトランス。
何このアルバム馬鹿なの?
作曲家は陶山隼。ジャズピアニストの父とジャズ歌手の母を持ち2003年から作曲家、編曲家としての活動を開始する。水樹奈々以外にも川嶋あいや柴咲コウ、田原俊彦や東方神起に提供するなど精力的に活動、活躍している。
そんな人がまさかバキバキにトランスに振り切れたナンバーを作ってくるのか…(戦慄)
Hibikiの書く「空」と「ラブソング」というテーマの歌詞と相まってその拡がりはまさに名前に相応しいスペーシーな物を感じさせる。ちなみにAstrogationの意味は「宇宙旅行」「天体地質学」「宇宙航空学」という意味らしい。
トランスのテンポ感とシンセの感覚にストリングスが絡み、壮大さをより感じさせる効果があるように思えるし、どちらが脇役というわけでもないのが個人的にとても好みである。
ちなみに宇宙、と僕が聴いて最初に思い出すのがLUNA SEAのSUGIZOなのだが彼も彼でテクノやトランス系のサウンドと宇宙的ギターサウンドを融合させたソロ活動をしている。
SUGIZO / MESSIAH - from STAIRWAY to The FLOWER OF LIFE (Official)
まあ、冗談はおいといて今作は「STARCAMP EP」というコンセプチュアルなEPに収録されているだけあり歌詞も特徴的である。
たとえば…
"感情がハジける アダムとイヴの軌跡を追う
Ready, Go to star heaven 恋だと地図が示すよ
シンクロしたい でも届かない
君との距離ワープしたい"
や
"夢を語るには 宇宙じゃなんか狭すぎるから
Shining love & Galaxy 「大好き」が溢れてるんだ
上手く言えないけど僕についてきて
空を教えてあげるよ"
など…ラブソングでありながら宇宙を想像させるようなスケール感の大きい歌詞のオンパレード。
水樹奈々が器用だなと思うのは、こういった曲でもビブラートをきっちり聴かせつつポップさに寄せていけることであろう。
他の曲にも言えるのだが、語尾の部分できっちりビブラートというかこぶしを効かせてくるあたりは演歌の出自を十二分に活かしているし、それを幅広いジャンルに対応させているあたりとてもおもしろい方である。
この曲めっちゃ好きです。
15.夢の続き 作詞、作曲:水樹奈々 編曲:藤田淳平(Elements Garden)
ハイカロリーなアルバムのラストを飾るバラードであり、水樹奈々の作詞作曲。
水樹奈々が作曲をすると、歌手であるということも関係するのかかなり歌メロが素直な印象で、Elements Gardenや他の提供者に見られるようなトリッキーなものはあまり見られない。自分の声質や歌い方から得意なメロディラインや譜割りをよく理解しているのだろう。
編曲は大体Elements Gardenのメンバーが手がけているらしいが今回は藤田淳平。
ロック色を滲ませつつもアルバムの中ではもっとも歌謡曲テイストが強いオーソドックスなバラードであり、超絶ハイカロリーなアルバムの終わりにはこのくらいでちょうどいいと思える。
この曲は水樹奈々がこのアルバムリリース前年に亡くなった父への思いを綴った曲である。
"「ごめんね」いつも同じ謝ってばかり
本当はね もっと話したいことあるんだ "
"何度も道の途中ぶつかり合ったね
悔しくて一緒に涙したこともある
真っ直ぐ前を向いて信じて歩いた
忘れないよずっと がむしゃらだった日々"
このような歌詞はまさにストレートな父への思いであり、不器用な親子関係ながらも充実した日々を思わせてくれるし、
"ありがとう 伝えたい
たくさんの音に乗せ
照れ臭くて言えなかった想いを込めて
ありがとう 届けたい
大好きなあなたに
どこにいても繋がってる
歌い続けるよ"
このようなサビの部分は父への感謝をストレートに述べている。
僕は両親との関係が決して良いわけではないが、こういった曲を聴くとやはりこみ上げるものがある。
高校生の時に読んだのだが、大人になってから振り返ると彼女と父親の関係が決して正常なものだとは思えない部分がある。
しかし、それでも彼女が抱いている感謝は紛れもなく本物だろうし、余人が立ち入ることの出来ない強い絆をこの曲から感じ取ることが出来る。
本人たちがソレで納得しているのならもう全てが良いのだ。
このような曲は彼女の真っ直ぐな歌声と相性が良いように本当に思えるし、人柄も透けて見えるようで素朴ながら時折聴きたくなる1曲である。
まとめ
今改めて聴くと、過去に水樹奈々が培ってきた音楽性や経験の集大成的なアルバムに思える。
他にはバラエティ豊かで新たな挑戦が見られるものの、彼女の年齢に合わせて歌詞をブラッシュアップしている部分がちらほらと散見される点や、
昔のアルバムで培ってきた音楽性を今の水樹奈々にきっちりと落とし込んでいるあたりにプロの仕事を感じるのだ。
そして、なんと言ってもそのカロリーの高さ。15曲ある中で純粋にバラードと呼べるものは2曲であり、ほかはほぼ全てがアップテンポナンバーという完全なぶっ壊れアルバムにも関わらず、一本真っ直ぐ芯が通っているのは水樹奈々の歌唱や表現のブレなさが大きい。
おそらく、ここまで熱量のあるアルバムは近年のJPOPシーンではもはや絶滅危惧種であり、だからこそこのアルバムには大きな価値がある。
そして、水樹奈々が燦然と打ち立てた記録も含めて一聴の価値がある作品であると言えよう。
このようなアルバムはなかなか見られるものではない上に、中だるみも一切なく、何よりも演歌出自の歌の個性と楽曲の絶妙な異物感が他にはないテイストを醸し出している名盤と言えるだろう。
一聴の価値ありだぞ!凄い疲れるけど…
最後に
書きたいことをとりあえず全部書いちゃえとか思って何も考えずにひたすら書いてたら20000字に迫る勢いになってしまいました。
水樹奈々の楽曲を聴くたびに、どことなくそのストイックさはLUNA SEAと重なり、気合で様々なことを乗り切ろう、押し切ろうとする姿勢はX JAPANと重ねてしまうところがあります。
ポップでありながら坂本真綾と違う意味で超絶にアクの強い彼女の曲ですが、この記事を通して魅力が少しでも伝わったなら幸いです。
寄稿を音楽サイトにしていた2年くらい前から水樹奈々の記事が書きたい!と思っていたのでそれがきっちりやり遂げられてよかったです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!