ノイズとドローンによる深淵の世界~minus(-)「R」(2017)
はじめに
水樹奈々の長い記事を書いたあとにまた記事を書くのか…って思われそうな人です。
思いついたらとりあえず冷めないうちに実行するのがモットーなので…。
色々なジャンルのアーティストにとりあえずバラけて書けてるかな、とかブログを始めた頃は思っていましたが、やっぱり僕が書くとどうしても推しの性質が似てしまうようです。
コレばっかりは僕の業のようなものなので仕方ないですね。
そして、これはブログを初めてわかりましたがヴィジュアル系を愛聴する方たちは結構アクセスしてくれるんですね…。ありがたや…。
今回は別にヴィジュアル系、というわけではないのですがごゆるりとどうぞ。
minus(-)「R」(2017)
minus(-) / 「Spell ver1.0」 from New Mini Album「R」
- Below Zero
- Drop
- Spell-subtraction
- LIVE-advanced
- Spell-ver1.0
※全曲Spotifyでリスニング可
元々、元SOFT BALLETの森岡賢と藤井麻輝がタッグを組んで2014年にスタートしたminus(-)だが、2016年に森岡賢が急逝。その後は藤井麻輝のソロユニットとして活動をスタートさせている。
ソロユニット化して初のオリジナルアルバムだが、色としては完全に藤井麻輝のもつインダストリアル的なビートやドローンを愛好する部分が全面に出た作品である。
各曲ずつ見ていこう。
1.Below Zero Vocal:玲里 Guitar:佐々木亮介(a flood of circle)
海の底からどこまでも拡がりゆくサウンドスケープが特徴的なオープニングナンバー。
僕はコレを神曲だと思っています。
この曲に限らず今作の曲は4曲目を除くと全てがスロウ~ミディアムテンポのダウンビート・エレクトロニカで構成されている。
これは藤井麻輝と芍薬のユニット睡蓮時代からずっと引き継がれている彼の心の故郷のようなものなのだろう。まあこれはロック要素も入ってるが。
minus(-)がまだ森岡賢とのユニットだった頃は、森岡賢の持つシンセポップ的メロディが楽曲にも反映されていたと思うが、のっけから完全にそこをRejectした形になる。
そのかわりに、音像の突き詰め方を数段階上げているようで、その音像はノイズ混じりなのに突き刺さるようなものではなく深みを帯びている。
ただ、手癖というだけではない。今作では藤井麻輝がネオソウル的なメロディ、ビート感を取り入れているように思える。
(ネオソウルの代表的なアーティスト、エリカ・バドゥ)
だからこそインダストリアルのようにダークで硬質的でありながらもノれる、という独特のグルーヴ感が産まれているのだろう。
もともと、藤井麻輝の楽曲は女性ボーカルに合うように思うのだが、今作でもソレは例外ではない。この曲ではシンガーソングライターの玲里にボーカルを依頼しており、彼女のコクのある少し低めのボーカルが楽曲の気だるさを引き立てている。
ちなみに玲里の曲自体はこんな感じである。彼女自身もR&B的な要素を持つため楽曲と相性が良かったのだろう。
ギターはa flood of circleでギターボーカルを務める佐々木亮介。このアルバムで名前を知って聴いてみたが、彼らの指向する音楽はブルースやロックンロールのようなものなので、ずいぶん違うなあ…と思ったものだ。
(マジでこのアルバムと違いますね…)
彼らの個性がアルバムに影響を与えたと言うよりは藤井麻輝によって新たな魅力が引き出されているといったほうがいいのだろう。
夜に聴きたくなる1曲である。
2.Drop Vocal:Yurari
1曲目に見られる音像やR&Bの要素はそのままに、エレクトロニカやアンビエント、ドローンミュージックの色を更に強くした曲。
ボーカルのYurariという人に一切心当たりがなかったが、藤井麻輝の実の娘らしい。なんという…。
骨子となるウィスパーボイス気味のボーカルにコーラスを多重録音で重ねた上に、バックのトラックと溶け込ませることで非常に幻想的な世界を構築している。
女性ボーカルとエレクトロニカ、というとまっさきに頭に浮かぶのはビョークなのだが、ボーカルの雰囲気としてはスティーナ・ノルデンスタムのほうに近いだろう。
こちらも、昼よりも夜に聴きたくなる楽曲である。
3.Spell-Subtraction Vocal:YOW-ROW(GARI、SCHAFT)
キーボードやスロウビート、ノイズが流れる中にロック的肉体感のある歌声が乗った作品。どことなくMUSEやPlaceboっぽいと言えば良いのだろうか。
藤井麻輝は作曲方法として「まずドローンを構築していき、そこから浮いてくるフレーズやメロディを乗っける」やり方を述べているが、ドローンというのは「単音で変化のない音」を指す用語であり、その傾向が顕著なジャンルである。このようなタイプの作品をリリースするのはノイズミュージシャンやエレクトロニカ、現代音楽と関係が深いアーティストが多い。
ドローンが使われている例だが、バックでずーっと鳴っている低音がそのドローンに該当する。
そんな作曲方法はなんとも効率が悪そうな…と苦笑せざるを得ないところがあるのだが、その方法論の方が作為的にならないらしく藤井麻輝の独特なセンスが伺い知れる。
話がそれてしまったが、ドローンをモロに使っていても使っていなくても、藤井麻輝の曲にはその骨子がなんとなく流れていることが垣間見えるであろう。
前の2曲ではスロウビートかつアンビエント的な音像が強かったが、この曲では少し歌ものっぽく仕上がっているのはYOW-ROWの歌声によるのだろう。
そして、所々に挟まる鍵盤の音が非常に効果的で、曲をよりドラマチックに彩っている。
多分このアルバムの中でこれを歌ものって言えるのはYOW-ROWのボーカリゼーションが大きい。
YOW-ROWというとエレクトロロックバンドGARI、そしてSCHAFTのボーカルとして知られているが、彼はもこのような無機質な音像と相性が良いように思うし、そういった曲の歌い方を知っているのだろう。
ちなみにSubtractionとは削減、の意があるのでもしやVer.1.0の方が先に出来上がったのかもしれない。
故・森岡賢の意味も少し考えたのだが、そういう人ではない気もする…
そう言えばYOW-ROWと藤井麻輝が組んでるユニットでJugendgedenkenというのがあるのだが、もしやここらへんから着想を得たのかと思うと胸熱である…。
4.LIVE-advanced Vocals: Anis(MONORAL)
元々はアルバム「O」に入ってた曲から森岡賢のの要素を抜いて再構築した曲であり、このアルバムで唯一のアップテンポなダンスナンバー。
そうは言っても所々に差し込まれるノイジーな音や硬質なビート感は明らかに森岡賢の指向するソレとは違うのがいかにも藤井麻輝らしい。
ちなみにこちらが原曲。
原曲のほうがよりダンサブルに、そしてキーボードなど数々の音が装飾されドラマチックなように思う。
このように、このアルバムは森岡賢の要素をRejection(拒絶)していく過程の作品でもあるし、Restart(再始動)する姿をファンに見せる作品でもある。
その過程がこの曲に象徴されているように思うのだ。
同じ曲でもアレンジャーが変わるとここまで違うものになるのか、という驚きと鋭さをもってブラッシュアップされたその音像は原曲とはまた違った魅力を教えてくれる。
ここで歌を務めるのがMONORALのボーカルAnis。
前の曲といいこの曲といい、藤井麻輝がボーカルに男性を使うというのはなんとなく珍しいように感じるのだが、本人的には良ければ使うらしい。
MONORAL自体はポスト・グランジ、オルタナティブ・ロック系のバンドなのでこのアルバムとは毛色がかなり異なるように思えるのだが、その異物感がむしろ良い化学反応を起こしているように思える。
そして、なんとなくこの曲の雰囲気と声質でDepeche Modeを思い出させるのはおそらく自分だけ…。
5.Spell-ver.1.0 Vocal:YOW-ROW(GARI、SCHAFT) Guitar:菅波栄純(THE BACK HORN)
(このバージョンの誤字がジワる…)
3曲目に菅波栄純のギターをプラスしたバージョン。サビのような部分でノイジーなギターが聴けるほか、イントロのアレンジも微妙に違っていて聴き比べるのも面白い作品。
そもそも藤井麻輝と菅波栄純の縁は睡蓮「音ヲ孕ム」からだったと思うが、その後にTHE BACK HORNを聴いた時は普段やっているバンドの音楽性の違いに非常に驚いたのを覚えている。
しかし、この藤井麻輝の退廃的な世界には彼のギターは非常にあっているように思えるし、だからこその人選だったのだろう。
ともすれば、アンビエント的な色合いの強い歌ものであるこの曲にギターをプラスすることでポピュラリティとスケール感が出るように思えるのだ。
アウトロのギターとバックトラックの溶け込むような音が非常に美しい曲である。
最後に
ソロユニットになって一発目、ということでどうなるのかとても注目していましたがここまで藤井麻輝色になるとは思わず…寂しくも圧倒される気持ちです。
はからずしもマイナス、という字義がバンド名と一致してしまったように思いますし、ロゴを一新したりインタビューでソロであることを強調したりしていたので、これからは藤井麻輝を全面に出してやっていくんだなあ…と納得しました。
とてつもなく内省的な作品ではありますが、その音像は本当に素晴らしいです。
何よりも藤井麻輝が持つダンサブルさのようなものが全面に押し出されていて、2人でいた頃よりも高くなるそのクオリティには圧倒されるばかりです。
きっと、長く人々に聴かれる作品になるでしょう…。
ここまで読んでいただきありがとうございました!