眩き光の果てへ~坂本真綾「逆光」(2018)
はじめに
僕がこのブログを始めるに当たり、書きたい人は色々いる。それはジャンルを問わず多数に及ぶのだけど、その中でも絶対に書きたいと思っていたアーティスト「坂本真綾」。
数ある声優とアーティストを兼ねる存在の中で、稀有な存在感と才能を持つ彼女について真面目に書きたい。そう、強く思っている。
というのも、僕が彼女に惚れ込んだのは今から14年前、ちょうど小学校5年生の頃にNHKで見た「ツバサ・クロニクル」がEDで聴いた「ループ」(2005)。歌詞の美しさもさることながら、僕はその声質にいたく惚れ込んだ。
その時はまだ彼女が声優だとー声優という職業そのもの―すら知らなかったのだが、そこからずっと好きで、たとえ自分の好きな音楽が拡張していっても気持ちはぶれることはなかった。
彼女の言葉や考え方や生き方から多大な影響を受けており、彼女抜きで僕という人間の現在の人格は存在し得ないと言っても良い。
そんな彼女が去年出したシングルは当然のように全部買ったのだが、その中でもまず最初に書きたいのが「逆光」。インストゥルメンタルは除くとして、このシングルを通し彼女の魅力をもう一度考えてみたいと思う。
坂本真綾「逆光」(2018)
- 逆光
- 空白
- 色彩-unplugged session-
- 逆光-Instrumental
- 空白-Instrumental
1.逆光 作詞:坂本真綾 作曲:伊澤一葉 編曲:伊澤一葉、井口亮
表題曲であるこの曲はスマートフォン向けRPGゲーム「Fate/Grand Order」の第二部「Fate/Grand Order-Cosmos in the Lostbelt-」の主題歌。
坂本真綾自身がFGOの制作陣と綿密な打ち合わせを重ねて歌詞を考えたらしいです。
まず僕がこの曲で驚いたのは作曲が伊澤一葉であること。
伊澤一葉と言えばthe HIATUSや東京事変のキーボーディストとして有名だが彼らしいキーボードの旋律を活かしたピアノロックに仕上がっている。そこに伊澤一葉本人と、江口亮(Stereo Fabrication of Youth、la la larks。どちらも凄くいいバンド)、そして石塚徹のストリングスアレンジが華を添える。
さらにスペーシーで疾走感のあるギターサウンドが楽曲を大きく彩っている。LUNA SEAのSUGIZOが好きそうだねこういう音。加えてドラムもベースもフレーズめっちゃカッコいい。インストゥルメンタルで聴いてくれ。
…何だお前ら神か?
単純にロックナンバーとして超絶にカッコいいのだが、そこに坂本真綾の歌詞と声がプラスされることで楽曲に彼女ならではの透明感と柔らかさを帯びる。
それがマジで素晴らしい。歌詞も含めて個人的には近年の坂本真綾の歌手のキャリアの中でも最高クラスの出来。
坂本真綾「逆光」Music Video (Short ver.)
”憂鬱だった いつも目覚めると
同じ天井があって
現実だって 思い知らされる
ここには出口がない”
ここでシンプルな鍵盤のフレーズとストリングスで彼女の声が乗って…
”どうやって終わらせるの
完成も崩壊も永遠におとずれない物語
もう運命が決まってるなら
選べなかった未来は想像しないと誓ったはずなのに”
ここでスペーシーなギターが入ってきて…
”まどろみの淵で私は優しい夢を見る
幻と知りながら
あなたに駆け寄って
もうすぐ指がふれる
そして微笑みながら目覚めるの”
ここで一気に開放感あるサビと共に駆け抜ける!
…良くない?
…良くない?最高なんだが?
とにかく、かなり練られていると思われる楽曲構成と歌詞構成が最高に素晴らしい。
あと、一聴すると自然に聴ける部分でも地味に歌詞の譜割りが変則的で頭がおかしい。
坂本真綾をこのレベルに育て上げた菅野よう子女史は偉大。そしてコレに限らず実験的なポップソングをサラリと歌いこなす坂本真綾は地味に変態。
「平易な語彙でありながら詩的で哲学的な歌詞」というのが坂本真綾の大きな特徴だと思うが、今作ではFateシリーズに世界観と合致して爆発的な化学反応を起こしている。100点満点で言うと1億兆点みたいな出来。奈須きのこ先生ありがとう…。
まあ肝心のゲーム性とかガチャとかいう新手のギャンブルとか月姫リメイクとかDDDの話とか魔法使いの夜の続編とかこの際全部目をつぶってやるとして、きのこたちがいないと産まれない歌詞だと思うと本当に良いよ…。
ちなみにシングル発売に際して坂本真綾と奈須きのこがガッツリ対談してるんだが、これが単純に読み物としてめちゃめちゃいい。奈須きのこほんと坂本真綾好きだね。
ちなみに菌糸類、型月の作品でLUNA SEAとかBUCK-TICKとかPlastic Treeとかの歌詞を引用しまくってたり、言峰綺礼のモデルがSOFT BALLETの遠藤遼一だったり、なんか他人に思えない。型月のオタクは全部履修してくれ…。
2.空白 作詞:坂本真綾 作曲、編曲:la la larks
こちらは「Fate/Grand Order Arcade」の主題歌。ストリングスに石塚徹と江口亮が関わっている。
la la larksを聴いた時ピンとくる人もいるかも知れないが、FGOもう1つの名曲「色彩」を提供したバンドである。
ボーカルは元School Food Punishmentの内村友美。エレクトロニカとロックを融合させた特徴的なサウンドが持ち味のバンドだった。その内村とSFPのプロデューサーだったギターの江口亮。
そして、黒夢のボーカル清春が率いたもう1つのバンド、SADSの元ベースであるクボタケイスケ(ちなみにSADSは1期と2期に分けられ、クボタが所属してたのはラウドロック主体の2期)、ポップ・パンクバンド元GO!GO!7188のドラム、ターキーという結構凄いメンバーのバンドなのだ…。
la la larks 「Massive Passive 」Music Video
そんな彼らが坂本真綾に提供した楽曲はストリングスとエレクトロニック・ロックがうまく合わさったポップ感の強いナンバーに仕上がっている。キーボードのサウンドも良い持ち味になっている。
地味にドラムのパターンが変則的なのがとてもニクい。こういう聴きどころを作ってくるあたり本当に素晴らしい。
坂本真綾が歌詞をつけ、歌を乗せると楽曲全体が柔らかくなり、透明感と存在感を同時に帯びるという地味にすごい変化を起こすのだが、その裏で楽曲提供者が割とやりたい放題にしてるのがいつ聴いても癖になる。こういうのがあるから坂本真綾のファンはやめられない。
”振り向くと もうあなたの姿は見えなかった
最後まで言わないのね 核心に触れることは
私の中の空白は なにものにも埋められない
この先目にする光も きっとあるけど”
地味にこの最初の部分で坂本真綾が静かに歌っているバックで、様々なフレーズが鳴っているのが聴きどころです。ドラムカウントやギターのアルペジオやストリングスなど、いちいち情報量がめちゃめちゃ多い。インストゥルメンタルで聞くと面白いです。
そして、ストリングス含め一気に転調するサビをバシッと持ってくるのがポップ感を更に高めて聴きやすくしてると思う。
そういう展開は聴けないけど、まあFGOのこのPVで雰囲気をつかめるんじゃないかな…。
『Fate/Grand Order Arcade』 PV 第3弾
「BUDDY」もそうなんだけど、この手のサウンドは坂本真綾に新たな可能性と光をもたらしたと思う。
菅野よう子以前、以降で語られることの多い彼女だが、どちらにも強烈な個性があって僕はどっちも好きです。他にもラスマス・フェイバーとか北川勝利とか鈴木祥子とか語りたい人がいっぱいいるので、また折に触れて書きます。
3.色彩-unplugged session- 作詞:坂本真綾 作曲:la la larks 編曲:扇谷研人
「Fate/Grand Order」の主題歌であった「色彩」を扇谷研人が編曲し、スタジオでアンプラグドバージョンとしてライブ録音。そこに坂本真綾が歌声を乗せたバージョンになっている。
アンプラグド、というのはエレクトリック・ギターやエレクトリック・ベースギターなどいわゆる電気を通す楽器を使わずに演奏される楽曲やパフォーマンス、表現形式そのものを指す単語である。
なので、この曲でもピアノの音やアコースティックギター、ストリングスの音色が生々しく響いてくるわけだが、こういう曲を通してわかるのは坂本真綾は単純に歌が上手い。歌唱力と表現力の両面で秀でている。
”ひとりになると聞こえるの
苦しいならやめていいと
ブラックホールみたいに深く 怖くて魅力的な甘い声が ”
ここからはじまる序盤から1番目のサビのテンポが遅いところでは無理に力を入れず、ブレスをコントロールを繊細に行う。そして…
”私をたしなめるように 何度も同じ夢を見る
皮肉なほど綺麗な夢
目覚めさせて 逃げたくないの”
このあたりからテンポアップするのだが、その場面でも難なくついてくる。繊細なコントロールの元に発声されるためか、一言一言が非常にはっきりと聞こえてくる。
レコーディング版だから編集してると思うなかれ、坂本真綾は舞台女優でもある。
生歌での発声コントロールもお手の物、ライブそのものがかなりうまい。
そして、声優であるということもあり、やはり言葉一つ一つに込める表現は丁寧であり、アンプラグドバージョンを通してそれを堪能することが出来る。
「MAAYA SAKAMOTO LIVE 2011 in the silence」を観に行ったことのだが、凄いうまかった記憶がある。どんなジャンルにも魅力が詰まっているとは言え、やっぱり生歌がうまい歌手はいいなと思います。
あと、全編歌詞がくっそいい。教科書に載せろ。
これは色彩のアンプラグドではないけどスタジオライブの音源。声が透き通ってて凄い綺麗でずっと聴いてられる。あとやっぱり上手い。
坂本真綾×石成正人 STUDIO LIVE 2014 ダイジェスト
めっちゃうまくてワロタ
最後に
またしても愛が重くなりました。BUCK-TICKといい、坂本真綾といい、好きなアーティストは大体こうなってしまいます。
※これは11000字を超えるので読むときは時間を取りましょう。
坂本真綾は少女から大人になる過程をそのままパッケージングしたタイプの歌手だし、同年代の水樹奈々とはまた違った魅力を持つ方だなと改めて感じました。水樹奈々さんも好きなので、そのうち書きたいなと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございます。ありがとうというついでになんですけど坂本真綾さんはエッセイも出してるんですよ。
特に「満腹論」がお気に入りでなにかあると読み返してます。サイン付きなのが自慢です。
まあ、何が言いたいのかと言うと…坂本真綾を好きになりましょう。
そして色々買え!じゃあな!
坂本真綾 1st&Last 写真集 "You can't catch me" ドキュメント 2011.3.5-6.15
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