ミルクレープを崇めよ…

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冬をささやかに彩る~坂本真綾「Driving in the silence」(2011)

はじめに

  坂本真綾第2弾、ということで…。

 実はこっちの記事のほうが先に着手したのに「逆光」のほうが早く終わってしまって困惑してる。詳しくはこちら。

 

disheatchaos.hatenadiary.com

 

 

 そもそも坂本真綾を好きになったのは小学校5年生でそこからずっと聴き続けてる。そう、ヴィジュアル系を好きになるより早いのだ。と言っても1,2年程度の違いでしか無いけども。

 色々坂本真綾の音源を聴き続けてる僕が、冬に紹介する音源と言ったらコレしか無いので、読みましょう。冬のコンセプトアルバムの名盤だぞ!!!

 坂本真綾を好きになりましょう。

 

坂本真綾「Driving in the silence」(2011)

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  1. Driving in the silence
  2. Sayonara Santa
  3. Melt the snow in me
  4. homemade christmas
  5. 今年いちばん
  6. たとえばリンゴが手に落ちるように
  7. 極夜
  8. 誓い
  9. Driving in the silence -reprise-

  ※プロデュース、全編曲:河野伸

 

 

Driving in the silence(初回限定盤)(DVD付)

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 坂本真綾が初のオリコン1位を獲得した7枚目のオリジナルアルバム「You can't catch me」(2010)を経て新たに出したトータルで33分、3枚目のコンセプトミニアルバム。

 テーマが「冬」「冬景色を見つめる坂本真綾の視点」なのだが、そのテーマに沿って様々な角度から描かれている様は題材とは対照的にどこか彩りの豊かさを感じられる。

 僕は坂本真綾のアルバムの中でもトップクラスにコレが好きなのだが、1曲ずつ中身を見ていこう。

 

1.Driving in the silence 作詞:坂本真綾 作曲:柴草玲

Driving in the silence

Driving in the silence

  • provided courtesy of iTunes

 

 作詞が坂本真綾なのは、もう定番だとして作曲の柴草玲(しばくされい)が見慣れない方もいるだろう。

 実はこの方、Coccoの超名曲「強く儚い者たち」「樹海の糸」の楽曲提供者であり、また90年代前半から女性だけのサルサバンドチカブーンのキーボーディストとして活動している。ちなみにチカブーン日本ゴールドディスク大賞のニューアーティスト賞を受賞したほか、キューバとの音楽交流の先駆けとなっている。

 


1993ChicaBoom "春夏秋冬・朝昼夜"PV

 じゃあ、サルサっぽいの?Coccoみたいな感じなの?って言われると全然そんなことはなく、2分半弱というワンコーラス程度の短めの尺の中に、ピアノ・アコースティックギター・パーカッションの織りなす美しい旋律が光る。

 そしてそこに坂本真綾の美しい歌声と幾重にも折り重なる美しいコーラスが重なることで、物足りなさを感じるながらも始まりを感じさせる極上のポップスに仕上がっている。

”きみを好きになることは 自分を好きになること

自分を好きになることは 世界を好きになること”

 そう優しく語りかけていながらも、

”静寂を滑る ハンドルを握る

永遠に続く孤独を握ってる ”

 冬の寂しさと孤独を感じさせることも同時に歌う。


「Driving in the silece」 Music Clip

 

 誰かを引っ張り上げたり背中を押すのではなく、共に歩んでくれそうな歌を歌えるのが坂本真綾の大きな魅力だと思う。

 冬にしか聴かないと決めているが、冬になるといつも決まって聴きたくなる。そう思わせてくれるオープニングナンバー。

ちなみにコレを聴くと涙が出ます。

 

2.Sayonara Santa 作詞:坂本真綾 作曲:Rasmus Faber・Frida Sundemo

Sayonara Santa

Sayonara Santa

  • provided courtesy of iTunes

 

 今では坂本真綾の楽曲提供として常連となったRasmus Faberだが、初めて共にお仕事をしたのはこのアルバムから。今作はFrida Sundemoとの連名である。

 Rasmus Faber(ラスマス・フェイバー)スウェーデンの音楽プロデューサーでジャンルは主にハウスミュージック。また、作編曲家でもありDJやキーボーディストとしても活躍するかなり多彩な御方。アニソン界だとプラチナ・ジャズで有名だろうか…?

 そして、Frida Sundemo、フリーダといったほうが伝わりやすいのかもしれないがも同じくスウェーデンのシンガーソングライターであり、主にダンスミュージックやエレクトロを主軸の活躍する女性ボーカリストだ。ちなみにデビューがラスマス・フェイバーのプロデュースなのでこの2人の縁は深い。

 ちなみに2人でやってる音楽はこんな感じです。僕は凄い好き。


Indian Summer - Rasmus Faber feat. Frida Sundemo

 超きらびやかなポップミュージックでいつ聴いても心が踊りだしてしまう。

 

 さて、話を本題に戻すと今作では坂本真綾「クリスマスにサンタを待ちわびていた子供の頃」「大人になってしまった自分」を対比するかのような歌詞が特徴的で、

それがストリングスやおもちゃ箱のようにきらびやかに彩られたサウンドに乗っかるんだからもうたまらないでしょ。

 しかも、このサンタという箇所は色々な解釈と含みを持たせることが出来るように作られているのが個人的にとても好き。

”窓から見送ったら もう会えなくなるわ

さよなら あなたが好きだった

出会った頃まだ少女だった

あれから

たくさんの冬が過ぎて もう大人になった”

 PVだとここの最初の部分で坂本真綾が窓を見ながら歌うんだけど…

めちゃめちゃ好き(語彙力)!!


坂本真綾 / Sayonara Santa 【PV】

 全然関係ないけど、途中で出てくるすっぽり身体が収まる岩…

LUNA SEAのMOTHERのPVっぽいですよね。

 

3.Melt the snow in me 作詞、作曲:Rasmus Faber・Frida Sundemo

Melt the snow in me

Melt the snow in me

  • provided courtesy of iTunes

 

 アルバムの中でガラッと雰囲気が変わる曲であり、全体的に孤独とタイトル通りの雪解けを感じさせるミディアムテンポのナンバー。

 全編英語の歌詞で構成されており、日本語にはない言葉の響きや流れを堪能することが出来る。

 打ち込みで計算され尽くした静謐な音色に重なるキーボードやストリングスもさることながら、坂本真綾の歌声がまた絶妙であり、更にサビの部分でコーラスと一体になることでマジで天上の美しさになる。

やっぱり坂本真綾は神。

 そして後半からウィスパーボイスのコーラスがかぶさる構成がマジで素晴らしい。個人的にはアルバムの中で1、2を争う曲。

 どことなく菅野よう子女史に通じるような幻想的な雰囲気を感じる。

 

”You arrived, you saved me from the fading stars

And the light you gave me filled my empty heart

Then you gently wept my frozen tears away

Saviour is your name today”

 サビの部分の歌詞なんですけど、和訳すると凄い綺麗な言葉になるので英語ができる人はどうぞ。

 

4.homemade christmas 作詞:坂本真綾 作曲:江口亮

homemade christmas

homemade christmas

  • provided courtesy of iTunes

 

 「Buddy」での作曲や近年だとla la larksとしても坂本真綾の関わりが深い江口亮から提供された楽曲。

 前曲が孤独と雪解けだとすると、この曲はうって変わって団欒をテーマにした曲。

 若干懐かしさの漂う音色にアコースティックギターの音色とカッティングが冴え渡るナンバーで、曲だけでも暖炉のそばで歌っているかのような印象を受ける。

 坂本真綾のありふれているようで幸福なひとときをそのまま切り取ったかのような歌詞も特徴的である。

 クリスマスに友達と集まってプレゼントを持ち寄り、ささやかなお祝いをする。

 聴いていると電気を暗めにして暖炉を皆で囲んで、飲み物でも持ちながら歌っている様子がありありと浮かんできて…サビで思わず口が緩んでしまう。

 

”赤い扉が目印 ベルが鳴るのを待ってる

プレゼントには 大きなリボン忘れないで

みんな ワインを選んで

今日のこの夜を待ってた

おしゃれしてね とびきり

7時ちょうどに乾杯しよう

今年のクリスマス 一緒に過ごそう

暖炉に集まって 手をたたき歌おう”

こういうありふれた日常を切り取れる歌っていいよね…。

 まあ、こういう日常って意外と手に入らないものなんですけどね。かけがえのないものなので大事にしたいですね。

 

 5.今年いちばん 作詞:坂本真綾 作曲:永野亮

今年いちばん

今年いちばん

  • provided courtesy of iTunes

 

 結論から言うと…

 

僕はコレが1番好きです。マジでこれだけ突出して聴いてる。

 

 実は永野亮さんはこのアルバムで知ったのですが、ロックバンドAPOGEE(アポジー)のボーカリスト

インディーロック感とシティポップ感、さらにニューウェーブ風味とブラック・ミュージック的なリズム感覚が絶妙に混ざっている、ノれる良いロックバンドです。聴きましょう。


APOGEE - Sleepless (Official Music Video)

 

 で、そんなハイブリッドな音楽性のバンドのボーカリストが提供した曲がどんな物かと言うと…

 ウッドベースの良さやジャジーなリズムの良さを全面に押し出した名バラードになりました。

 そこに坂本真綾の詩的でロマンチックさのある歌詞が乗ると…

 

好き…

好き…!

好き!!!

 

って感じになりますよね。

 

”歩こう 長い夜の ほんの短い夢

あつい缶コーヒー買って 君がかまわないなら”

 

 この時点ですでにロマンチックじゃありません?

しんしんと降り積もる夜中の雪道をふたりっきりで歩いてるようなさ~!!

なるじゃん!!そんな景色が浮かぶじゃん!!

あ、ちなみに自己投影は一切しませんのであしからず。僕は第三者視点で良いんです。

 

それでさ…

 

”表通りは明るすぎる

ひとりぼっちよりも ふたりって 寂しいよね”

 

 ここでなんか冬ならではの静けさと精神的な孤独と感じさせたり、ここの道は街灯だけ照らされて延々と続く裏道なんだろうなとか、色々浮かぶでしょ…。

 それで…

 

”遅すぎたの 早すぎたの

なぜ今ごろ君は現れたの

闇にまぎれ 街灯の灯をよけて 夢覚めるまで”

 

 このサビはずるい!…ずるくない?

 

 坂本真綾の歌声でコレは卑怯!悪魔の所業!

 

簡単にまとめると…

 

好き!お前ら全員この曲は聴け!!

 

6.たとえばリンゴが手に落ちるように 作詞:坂本真綾 作曲:永野亮

たとえばリンゴが手に落ちるように

たとえばリンゴが手に落ちるように

  • provided courtesy of iTunes

 

 こちらも作曲は永野亮。

 ガットギター含め楽器隊がデッドな音色が特徴で、独特のアクセントとフレーズのある楽曲が印象的である。

 坂本真綾の歌詞も疑問形がやたら多くてなんか自分に問いかけられている気持ちにもなってしまう。声質が若干昔の頃っぽくてそこがまたいい感じになって入ると思う。

 

”たとえば 冬のつぎ 春がくるように

リンゴが手に落ちるように

映画の結末が不満なように

地球が丸いように ”

 

最初の歌詞の例え方自体がかなり独特なんだよな。ここで引き込まれる。

そして…

 

”わかりきってるんだ そんなことは

僕らの恋は始まってるんだ

絡み合ってるいろんな事情なんかはいいとして

君はどう思う? 君はどうしたい?”

 

 こんな感じでサビの全てが疑問系なのである。

 恋の始まりを「君」という二人称を効果的に用いることでより鮮やかに彩っているこの曲は、冬というより冬の終わりから春の初めを感じさせるナンバーだと思う。

  ポップスとしてかなり独特な感じがするのですがサラッと聴けるのは、やっぱり坂本真綾に依るところが大きいなあと感じますよ…。

 

7.極夜 作詞:坂本真綾 作曲:Rasmus Faber・Frida Sundemo

極夜

極夜

  • provided courtesy of iTunes

 

 こちらもRasmus Faber・Frida Sundemoの連名作曲。

最初に聴いたときは「独特だな…」って思いました。

 ストリングスの美しさやコーラスの美しさは確かにあるのだが、譜割りが独特なのかその区切りがかなり不思議で今までに聴いたことのないポップスに仕上がっている。

 さらに、ドラムのフレーズや音色のなんとも不思議な感じはどことなくDIR EN GREYのShinyaを感じさせる。

これがそのドラム。ちなみにこれはDIR EN GREYの最新アルバムからの超名曲。


DIR EN GREY - 「Ranunculus」(Promotion Edit Ver.) (CLIP)

 

 まあこんな感じのかなり変わったポップソングなのだが、そこに坂本真綾のコーラスが美しく乗ることで生み出される雰囲気は鳥肌が立つほどに素晴らしい。

 「私は丘の上から花瓶を投げる」「KINGFISHER GIRL The Song of "Wish You Were Here"」「Vento」を彷彿とさせるスルメな歌が聴くたびに新たな魅力が発見できる。

 極夜」は日中でも薄明かりや太陽が沈んだ状態ー主に北極圏や南極圏で起きる気象現象ーを指す言葉だが、

恐らく坂本真綾一時期旅に出て色々な国を見て回ったことや、北極圏のあるアイルランドでロケを重ねたことは決して無関係ではないはずだ。

 

”朝目覚めるとすぐ あなたのこと思い出して

もう一度目を閉じる あといくつ眠れば 悲しいこと

氷のように溶け出して 涙になるのだろう”

 

コレがまさに冬の孤独と夜の深さを思わせている。恐らく昔では書けない歌詞であろう。

 

"のぼらない太陽 凍った星

時が止まることはない それでも

あなたがいないのに 私はいる

祈りは誰に捧げて 誰を救うためにあるの"

 そしてここは完全に極夜というタイトルとリンクしている。

直接的に一切言わないで表現しきれるのが素晴らしい。

 

”音をたて 震えながら

狂おしいほどに

生きている 生きているわ

生きている 今 今”

ここの部分は昔なら書けないだろう。本当に素晴らしい。

 

 しかし、この曲のクライマックスはここではないのだ…極夜とその次の曲を持ってクライマックスを迎えるのだ…。

 

8.誓い 作詞、作曲:坂本真綾

誓い

誓い

  • provided courtesy of iTunes

 

 はい来ました!このアルバム最強のナンバー。

全世界5千兆人の人間が聴いてひれ伏せるであろう神曲

 

 まあ、実際本当に素晴らしい曲なのですが…。

 坂本真綾の作詞作曲ナンバーというといくつかあるのだが、この曲は彼女の作詞作曲したナンバーの中でも屈指の出来だと思う。

 そもそも「everywhere」を聴いた時点で坂本真綾凄いな…って改めて恐れ入ったのですが、それを超えてきた。

 この曲は震災後の空白期間の間に作られた曲らしいのですが、曲調にも歌詞にも乗り越える強さが滲んでいる。

 

”もっと強くなりたい もっと優しい人に

君が そうだったように もっと、もっと”

 

 この歌詞から感じられるのは男のようなある種の「堅い強さ」ではなく、女性ならではの「包容力のある受け入れる強さ」「飲み込んで前に進んでいく強い意志」を感じる事ができる。

 こう言った曲を作り上げられたのはやっぱり坂本真綾の今まで経てきた経験もあるだろうが、彼女の持つ世界への見方や感性がこういった曲を作り上げる力を育んできたのだなあと考えると敬服する他ない。

 

”何を失っても 僕は生きていくだろう

どんな悲しみも 踏み越えるだろう

愛を誓うとき 告別も 約束した ”

 

 この部分から大切な人との死別と愛を与える人間の強さを感じさせる中…

 

”そして冬が終わる 憂いを振りほどいて

君が好きだった季節が すべてをさらい 過ぎて行く

僕はこのまま このまま”

 

 死別を忘れることなく、そこに寂しさも感じつつ生きていくという一人の人間としての決意を感じさせる。まさしく「誓い」というタイトルに相応しい。

 オーソドックスな曲調とメロディの美しさが余計に坂本真綾の書いた歌詞と歌声を引き立てる。

 アルバムの実質的なシメとして極夜~誓いの流れは完璧だと思う。

 

この曲を聴いてるとコレがエモいか…ってなります。このアルバムは名盤です!

 

9.Driving in the silence -reprise- 作詞:坂本真綾 作曲:柴草玲

Driving in the silence-reprise-

Driving in the silence-reprise-

  • provided courtesy of iTunes

 

 reprise、反復を意味する音楽用語。

そうやって静かに冬は終わり、また繰り返す…

 

最後に

 アルバムを聴きながら書きました。

 自分の過去と現在、様々な思い出が詰まったこの作品ですが、改めて聴くと坂本真綾さんの持つ感性の鋭さや視点の多様性に驚くばかりです。

 彼女を好きになり、その生き方や感性を信じてきて良かったなあと心から思いました。

 特に、浪人中にたった1回だけ行ったライブが坂本真綾さんのもので銀河劇場の音響も相まってその素晴らしさにいたく感動した覚えがあります。

 3枚のコンセプトアルバムを再現した名演です。


Blu-ray&DVD「MAAYA SAKAMOTO LIVE 2011 in the silence」ダイジェスト

 

 真綾さんの綴る言葉の数々や極上の作曲提供、更に彼女自身の表現力など様々な物が1つになったときに生まれる作品は、他と比肩なきものですし、やっぱり1人のアーティストとして素晴らしい方です。

 

 冬が終わればいつものようにまた次の冬が来るまでこのアルバムはしばしお休みさせて待とうと思います。

 

この記事を通して1人でも多くの方に坂本真綾の魅力が伝わったなら幸いです。