ミルクレープを崇めよ…

自分が個人的な思いの丈を延々と書き連ねていくサイトです。

最狂で最高の暗黒宇宙~BUCK-TICK「Six/Nine」(1995)

はじめに

 このブログを始めるに当たって必ず書こうと思っていた話題だ。実はかつてレビューサイトでBUCK-TICKについては書いているのでこちらの過去記事からリンクを探して飛んでほしい。

 

disheatchaos.hatenadiary.com

 

 今まではBUCK-TICKの示す未来について記述してきたが、今回はBUCK-TICKのキャリアの中において大きなターニングポイントとなる作品であり、かつ僕が人生の中で最も聞いたと言える1枚を紹介しようと思う。

 このアルバムを手に入れたのはちょうど自分が中学2年終わりか3年だったころで、そこから10年以上途切れることなく聴き続けて来た。とても思い入れのある作品なので若干緊張している。…がんばります。

BUCK-TICK「Six/Nine」(1995)

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  1. Loop
  2. love letter
  3. 君のヴァニラ
  4. 鼓動
  5. 限りなく鼠
  6. 楽園(祈り 希い)
  7. 細い線
  8. Somewhere Nowhere
  9. 相変わらず「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり
  10. デタラメ野郎
  11. 密室
  12. Kick(大地を蹴る男)
  13. 愛しのロック・スター
  14. 見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ
  15. Loop MARK Ⅱ

 ※特記曲以外の全編曲はBUCK-TICK

バッキングボーカルとアレンジメントはSUSANNE BRAMSON

弦楽器系のアレンジメントは飛鳥ストリングス

キーボードとプログラムとマニピュレートは横山和俊

6曲目のタブラはシートベルツの梯郁夫

Six/Nine

Six/Nine

 

 

 全71分09秒、16曲という圧倒的なボリュームからなる今作は、自身史上最長のオリジナルアルバムであり、オリコン1位を獲得したアルバムでもある。

 今までのdarker than darkness-style93-で培った横乗り主体のビート感を更に発展させつつ、今井寿が「SCHAFT」で得たインダストリアル的な音像も取り込んだその時点のキャリアの集大成のような作品。個人的な感想ともに1曲ずつ見ていこう。

 

1.Loop 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

Loop

Loop

  • provided courtesy of iTunes

 

 今井寿の作ったアンビエントなトラックに櫻井敦司のポエトリー・リーディングが載った今作。アルバムの1曲目にこんな作品を持ってくるあたり、今アルバムの実験性の高さが伺える。

 

”感謝したい 心から 太陽と 水と 空気と あなたに

死にものぐるいで 生きてる

今ここに 終わるものと 始まるものが CROSSしている”

 こんな感じの歌詞が延々と続き恐らく生死を一つの輪と見てあらゆる物に感謝をするという遺書的な儚さを持つものである。

もう1曲目から最高の始まりだ。ぼくの音楽に求めるものが全て詰まっている。

しかし、これはメジャー流通のアルバム…

このバンド正気か?

 

2.love letter 作詞、作曲:今井寿 

love letter

love letter

  • provided courtesy of iTunes

 

  はい来ました。このアルバムは神です。100点中2000兆点の曲。異論は認めない。

 イントロのディストーションが聴いたグランジ的ギターからドスの利きつつ、どこか地の底から嘲笑うような声がくっっっっっっっそカッコいい。こんなカッコいい曲ある?

 まあ、真面目なことを言うと恐らく今井寿がSCHAFTで本格的にものにした、インダストリアル的なギターアプローチもかなり活かされている。リフ自体はめちゃめちゃシンプルなのにミニマル性があって一発で覚えられる中毒性がある。

 おそらく、今までの彼らには作り出せない曲だとぼくは睨んでいて、単純にグランジ的と形容するのは間違っていると考えている。

 なんといってもコレまで得てきた様々な音楽的手法が封じ込められたアルバムだからね。

それでいてもポップさを一切失わないのがこのバンドのやばいところなんだけどな…。

I'm just a simple madness man

Is this what you wanted
Is this what you wanted
Is this what you wanted
Is this what you wanted
Is this what you wanted
Is this what you wanted
Is this what you wnated”

 

 イントロの規則的にかき鳴らされたギターフレーズとともに今井寿櫻井敦司のダブルボーカルで畳み掛けるこの部分。いつ聴いても絶頂です。

 

3.君のヴァニラ 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

君のヴァニラ

君のヴァニラ

  • provided courtesy of iTunes

 

 もともとはシングル「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」カップリングナンバーなのだが、こちらはドラムをあえてチープな録音にし、歌い方もどこかユーモアのある特徴的な歌い方である。シングルカットされてからドラムとボーカルが大幅に変化している。

 櫻井敦司の歌、というのは「狂った太陽」で確変を起こしたかのように素晴らしくなったわけだが(バンド全体がそうだけど)、とりわけ今作ではより実験的な方向性を指向するため櫻井自身も様々な歌唱法に挑戦している。そんな試みを象徴するのがこの一曲だとぼくは思っている。

  ギターも今井寿にしてはシンプルだし、もうひとりのギター星野英彦、樋口兄弟のリズム隊がしっかりとボトムを支えてるためシンプルにカッコいい曲として聴ける。

 

 歌詞もそうだが、櫻井の歌い方がエロティックなため、なんだか妖しい気持ちになってくる…。

 

”可愛い君の胸 その命愛おしい

 

激しく切なく求めてみたい 激しく激しく求めて

冷たく優しく愛して欲しい 優しく優しく愛して

 

愛おしい君の胸 その命憎らしい

 

激しく切なく愛してみたい 激しく激しく愛して

冷たく優しく愛して欲しい 優しく優しく愛して

 

赤く充血してるヴァニラ 左胸が痛い”

 

 櫻井のわざと少し上ずった声でエロティックに歌われるとこっちまで変な気分になってくる。

 

 てかヴァニラって完全に女の人の「アレ」の隠語でしょ。そうでしょ。ぼくはそういう言葉に慣れてるんだ!知ってるぞ!

 

4.鼓動 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

鼓動

鼓動

  • provided courtesy of iTunes

 

 9枚目のシングルだがミックスが異なる。そして、僕がこっそり感謝ソングとか呼んでる「鼓動」。いや実際マジで色々なことに感謝してるし…。

 綺麗なメロディラインと重厚でありながらも浮遊感のあるギターサウンドが凄く調和しているミディアムテンポのナンバーで、

実際に今井自身が

「色々なコードを使用していて、メロディアス」

 というコンセプトのもと作ったようだ。

 そして今井自身がアルバムの中で最も悩んでた曲で綺麗でポップでメロディアスの枠に収まってしまうことを危惧してようだが、櫻井を信頼して曲を渡した結果納得できる形に仕上がったという。

 

いやこのエピソードくっそカッコいいな?

 

 

バンドマジックも感じられるし、絆も感じられる。

カッコいいわ…(2回目)。

カッコいいわ…(3回目)

 

”生きていたいと思う 愛されているなら 

ごめんなさい ありがとう

この世に生きる あなたの鼓動 はかない だけど美しく

この世に生ける 全ての鼓動 はかない だけど 輝いて”

 

 ノイジーで浮遊感のあるサウンドにこのサビは卑怯ですよ、めちゃめちゃかっこいいもん…。


BUCK-TICK / 鼓動【Victor Years】

 

5.限りなく鼠 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

限りなく鼠

限りなく鼠

  • provided courtesy of iTunes

 

 櫻井敦司が鼠という漢字の難しさから作詞をしたというナンバーだが、はじめて聴いたときにはとても驚いた。

幻想耽美性が売りだったバンドとは思えないほど、弱さをさらけ出した歌詞…

吉井和哉に通じるものを感じる。  

 僕はコレを聴いていると三島由紀夫の「天人五衰」を思い出すのだが、この作品も文の美しさと虚しさが同居した名作だと思うので読んでみると良いと思います。

 

豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)

 

 

 ぶっちゃけ歌い方がかなり低音主体なのもあるけど、ギターもドラムもどれもこれもがノイジーで聴きやすいとは言えないと思う。

でも、カッコよさは絶対に保証する。リフはカッコいいしBUCK-TICKのポップ性は失われていないから…。

 

”360度見渡せば夢見がちの俺は 罠にはまった鼠みたいだ

「自由!自由!」と叫ぶ 泣いて逃げてもダメさ 追いつめられた時猫に噛み付く

もうさよならさ 

甘い顔をした少年よ 可愛い顔した少年よ 

生まれ変わり忘れよう 暗い顔に遣られる その前に”

 

 櫻井さんの猫好きがわかってると、このテーマも少しだけ明るく見えるのは内緒だぞ

 

6.楽園(祈り 希い) 作詞:櫻井敦司 作曲:星野英彦

 カッコ内はの希いはこいねがいと読むらしい。櫻井敦司が今井宅から見つけた映画から知った読み方だという。

 鼓動のカップリングとして制作されたバージョンと違って、こちらはベースとドラムの音が削除されており、代わりにもっと民族音楽的なものを盛り込んでいる。

 トライバルなタブラのパーカッションと電子音がふんだんに盛り込まれているこの曲、ボーカルにもどこか紗幕が掛かったような処理がなされていてとても不思議な気持ちになる。

 歌詞も反戦をテーマのひとつに掲げているとは思うが、むしろ厭世的で風刺を存分に効かせた内容がひたすらに刺さる。

  この曲には少し小話があって、実はこの曲にはコーランの逆再生が間奏で使われていた。なぜ過去形か?

 このコーランの使用が問題になり、アルバム自体が回収騒ぎになったから…。

 ちなみに、回収前のバージョンも回収しきれなかったようで某古本屋で出回っているので、探そうと思えば探せる。もし興味がありましたら是非。

 僕はこの曲がアルバムの中でもめちゃめちゃ好きな部類に入ります。

 

”テレビでは悲痛な声でまくし立てる メロドラマ

この僕は 軽く涙流すふりで 目を伏せた

神の子が殺し合う 愛の園 

この僕は 知らん顔で 夢を見る”

 

この部分の歌詞がどこか儚く自暴自棄でありながら、めちゃめちゃ皮肉が効いてて大好きです。

 

7.細い線 作詞:櫻井敦司 作曲:星野英彦

細い線

細い線

  • provided courtesy of iTunes

 

 続けても星野英彦ナンバー。印象的なギターリフから櫻井が紡ぐその歌詞は全編にわたり弱さを感じる。というかぶっ壊れている。

聴いていて心配になるくらいに…。いや冗談抜きで今生きててよかったよ…。

個人的にこの曲と楽園の歌詞は似ていると思っていて、それは櫻井敦司のぶっ壊れ方。

 

”神のお恵みを力なき弱き僕に

独り迷い目を開けたなら闇

俺の言葉に赤面する線の細い俺

独り歌う 食べていくためだけ

弱虫毛虫 生きる場所見つけたか

何ひとつ ああ選べない” 

 

 こんな歌詞をメジャー流通のアルバムでぶっこんでくるんだからな…。

徹底的に自嘲して自虐して、それを美学のレベルにまで高めた様は哀しくもどこか芸術的である。

 このアルバム、この曲に救われたリスナーは少なくはないんじゃないかな?

 当然耐えられなくて離れてしまったリスナーもいると思うけど、やっぱりこの人間味と弱さのある櫻井敦司が僕には魅力的に見える。

 やっぱり、こういう曲聞いてると吉井和哉を思い出すんだよなあ…。

 

8.Somewhere Nowhere 作詞:今井寿櫻井敦司 作曲:今井寿  編曲:今井寿、横山和俊

Somewhere Nowhere

Somewhere Nowhere

  • provided courtesy of iTunes

 

 この曲もLoopと同様ポエトリー・リーディングであり、作詞は今井と櫻井の共作であり、編曲には今作に限らずBUCK-TICKの数々のアルバムでキーボードやマニピュレーターをしてる横山和俊、そして今井寿

 おおよそ1分半の中に櫻井が道に迷ったあと光明を見つけ出すさまを若干オタク臭く朗読しているのがなんかツボ。

この時期の櫻井は自分がアイドル視されることをとても自嘲していたので、若干ユーモアを交えて雰囲気は狙っていると思う。

 きっとそのはず。朗読が慣れてないから下手くそとかそんなんじゃないから。

 このシンセとノイズの印象的な曲は今井寿がトラックダウン直前に即興で作り、作詞は櫻井の即興で完成を見たらしい。そういう経緯を知っているとやっぱり見えるものも変わると思う。

”何処だ…

何処なんだよ…

どっちだ!?

チェッ!?

完全に迷った、クソッ”

 アルバム聴いてていきなりこんなん流れてきたらびっくりしちゃうね。

僕はびっくりしました。

 

9.相変わらず「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり 作詞、作曲:今井寿

 

  今井寿がメインボーカルを務めるこの曲はアルバムの中で密かに裏の番長だと思っているのだが、まずタイトルが長い。

僕はちゃんと覚えるまで3年くらいかかった。今でもたまに間違える。

  ポエトリー・リーディングなのかラップなのか…と思える意味不明の歌詞が、経典のようにひたすらに繰り返される。

 この如何わしさだらけのナンバーをメジャーでぶち込んでくる今井寿は何なの?

 曲自体が超ダウナーでノイジーなのにやたらと耳に残るのも特徴的で、何故か何回も聴きたくなってしまう。今井寿の頭の中が知りたい。

 まさに麻薬のような曲なのだが、この曲が地味に面白いのは歌詞の中に「six side is heaven/nine side is go」とある通り、実はこれはアルバムの表題曲である。

 もう一度言う。これは表題曲である。

 いやいやいやいやwwwって思うでしょ?

今のBUCK-TICKのファンクラブ名はFISH TANKERだぞ?ぼくはこの曲から名前を決めたんじゃないかと睨んでいる。

 そういうのを考慮するとやっぱりコレが当時のBUCK-TICK、そしてこのアルバムのの象徴だったんだろうとぼくは思ってやまないのだ…。

 

”游ぐサカナ 游がないサカナ

游げるサカナ 游げないサカナ

有象無象の魑魅魍魎が跋扈する海の中のあの世界

俺は一人金魚ばかりうるさい魚群(カタマリ)から抜け出す雑魚

欲望だけか 欲望だけさ

よくあることだ よくある芸だ

垂れ流された快感(オルガズム)が たどり着いたマンホールから覗く

それが鉄のブーツをはいて悦ぶお前の心蹴り上げる”

 

 やっぱり今井寿は天才だ。怪物だ。

 

10.デタラメ野郎 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿櫻井敦司

デタラメ野郎

デタラメ野郎

  • provided courtesy of iTunes

 

 今井寿が曲先で簡単なコード進行だけ作り、後から櫻井敦司が歌メロをつけたというこのナンバー。

 今作ではどれもこれもネガティブを一種の自己表現として用い芸術の域にまで高めた櫻井敦司の歌詞が堪能できるのだが、これもそれに漏れないどころか極致に至っている印象を受ける。

 PHYSICAL NEUROSEの如き櫻井が書く歌詞も歌い方もどれもこれも闇と狂気しか感じない。犯罪者心理的なものへの接近も見られるし。

 恐らく、今同じように歌うことは本人にも不可能だろう。そう思えるまでの絶望や弱さの吐露。

 弱々しい歌詞なのに力強さを感じるという二律背反的な要素を含むこの曲は数々のファンを心配させ圧倒するとともに、ネガティブであることを肯定するその姿がまた多くのファンを救ってきたのではないかなと思う。

 あらゆるタブーを取り払い突き抜けた歌詞表現を突き詰めた櫻井敦司の美しさを堪能できる一曲だ。

 

”存在理由 お前が死ねば 何の意味もない軽い言葉だ

軽薄な俺さ酷い顔して 存在理由 存在理由と

生きる・自由・死ぬ・自由

ウォォォォーッ ウォォォォーッ ウワァァァーッ ガァァァァーッ

みんな真実を濁らせていた 闇はどこにある濁りのない闇
それこそが俺だ場所を間違えた 雨が大好きで夜が大好きさ”

 

 この曲は全編カッコいいんだけど、ここの部分が個人的には特に好きです。

 

11.密室 作詞:櫻井敦司 作曲:星野英彦

密室

密室

  • provided courtesy of iTunes

 

 櫻井敦司の歪んだ愛情が爆発してるナンバー。星野英彦の作った物悲しいメロディと共に刻まれていく歌詞はかつて美しいなとしか思えなかったのだけど…

今聞くと完全にストーカー心理的な歌なんだな…。

 ほんとにこの時期の櫻井敦司やばいんじゃないか?そうとしか思えない歌詞なんだけど、確かストーカー的な言葉が日本で使われ始めたのは90年代半ばだと記憶している。

 そのような事情を考慮すると、社会病理を切り取り描写するという芸術家的な視点も垣間見えるあたり、やっぱりBUCK-TICKは時代にも敏感なバンドなんだなあと…。

 こういう社会風刺は今井寿の曲に多そうな印象を受けたのだが、星野曲でもこういうのがあるってあたりが個人的に今聞いても新鮮に思える。

 一応純愛っちゃ純愛なんだけど、その純粋さがすでに歪んでいるからなあ…とか色々な思いが巡る表現であり、そこに「痛み」が滲んでいる。

DIR EN GREYの京とかってBUCK-TICKのビジュアルだけならず、このへんの歌詞表現からもすごい影響を受けてるんじゃないかな?

 

”たとえ嫌われ口もきかない ああそれでも君が要れば

君の痛み知り僕の喜びは君に そうしてそばにいて微笑んで

君の傷口に僕の溢れ出す愛を だから此処にいて 泣かないで

あなたは僕だけのものでいて”

 

 やべえよ…。やべえよ…。

 

12.Kick(大地を蹴る男) 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

Kick(大地を蹴る男)

Kick(大地を蹴る男)

  • provided courtesy of iTunes

 

 この曲は比較的アルバムの中でも聴きやすい部類に入る、と僕は思っている。

ちゃんとAメロBメロサビみたいな構成してるし。

 あと個人的に思うのは、この曲にBUCK-TICKの未来像を感じるということ。

「SEXY STREAM LINER」に通じるようなデジタルサウンドと生音の融合はこの曲に顕著だし、歌詞にも光が見られる。あと、明らかにギターじゃない音は何の楽器なんだろう?超ノイジーなのとかシンセみたいな音色とか。ギターなのかな?それともSynthAxeみたいなMIDIコントローラー?後者はアラン・ホールズワースが使ってる映像とかしか見たこと無いけど…。

どうにせよ、今井寿ならそういうの使ってても違和感皆無だし、個人的にこれは後のデジタルサウンド路線への序章になる曲だと思う。

歌詞だってほら、地獄で泣いてるけど一応開放的だから…(震え声)

 櫻井の歌も最初こそ深くリバーブがかかっているが、そのエフェクトが途中で外れるのがとてもカッコいい。

 これは褒め言葉なのだが、BUCK-TICKは日本のロックバンドである。

 日本のロックバンドだからこそのメロディセンスや文化的バックボーンの薄さがこういう音楽を産んでくれるのだ。世界のどこにもないオリジナルを。

 「Six/Nine」は挫折しそう!って方もまずはこれだけ聴いてほしいです。

”怖い夢見て泣いていたの だいじょうぶ全て夢

ここは呼吸 鼓動 響く 終わりなき愛のチューリップ

存在消え霧の中 大河を越え会いに行く

星と繋がり呼びかけてる 解き放て全てから

そこは呼吸 鼓動 響く 血まみれの愛の中

さあ道化師 躍れ躍れそれが運命 光る地獄で泣きながら
道化師 歌え歌えこれが運命 闇の真実に帰るんだ”

「血まみれの愛の中」「光る地獄で泣きながら」って部分が櫻井敦司らしくて凄いカッコいいなと思います(小並感)。

 

13.愛しのロック・スター 作詞:櫻井敦司 作曲:星野英彦

 櫻井敦司が超絶に自分を卑下しまくってる曲。徹底した自己否定の美学は此処でも健在である。歌い方もどこか自分自身だけじゃなくロック・スターそのものをおちょくるような感じしてるし。

 バックでひたすら鳴ってるワーミーを噛ませたギターサウンドが癖になる。

 星野英彦も安定していい曲を作ると思っているのだが、今作でもアルバムの雰囲気にぴったりで、かつ今井曲との差別化が図れるようないいアクセントになる曲が多いように思う。

 このバランス感覚がやはりBUCK-TICKの強みだし、このアルバムに限らず櫻井敦司の徹底した美学と、樋口豊のベースとヤガミ・トールのドラムがあってこそのBUCK-TICKらしい雰囲気が貫かれているのだろう。

  実は、もともと櫻井は星野にツインボーカルで歌うことを提案したのだが断られたらしい。恥ずかしかったのだとしたらなんかかわいい

 そのかわりに、櫻井がオファーをかけたのはかねてから櫻井が大ファンであると公言してるバンドDER ZIBETのボーカル、ISSAYだった。

 以前に星野がISSAYのソロアルバム「FLOWERS」に参加していたこともあって、交渉はスムーズに進んだらしい。

 

FLOWERS

FLOWERS

 

 (こちらも名盤なので是非…)

 櫻井はこの曲を通して得たものが大きいらしく、色々とISSAYに感謝をしているとという旨を雑誌のインタビューで語っているようだ。

 また、ヤガミ・トールもリンゴ・スターのようなドラムが叩けた」とこの曲には納得がいっているよう。

 こういう暗黒のようなアルバムでも得るものがあるのがやっぱりいい雰囲気のバンドなんだなって…

 

”道化の化粧 派手な衣装で 芝居がかってるワンマンショー

訳もなく騒ぎまくり 独りマスターベーション

人気者はごめんだ 道化者は楽じゃない

私は生きている

もし僕がブタになっても 君は微笑う

もし僕が虫になっても 君は微笑う”

 

 メジャーを突っ走ってるロックバンドでなかなかここまで自己を卑下するボーカリストも珍しい。

 

14.唄 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

唄

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 8枚目のシングルだがアルバムとはミックスが異なる。この曲でめちゃめちゃ印象的なのはギター。

イントロからいきなりディストーションが効いたギターのリフが炸裂し、ドラムのフレーズと共にジャーン!ジャーン!って鳴らされるギターの音。

 これほんとにシングル曲なの?今井寿は頭がオカシイのか?

 まともに考えたら弾かないであろうフレーズの連発なのだが、これは今井寿が得てきた新たな音楽ジャンルのノウハウを、自分の感性だけで消化して出力すると訳わからんフレーズの連発になるんじゃないかなと解釈している。

 実際コレに関しては今も健在どころかますます凄いことになってるから…。

 こんなもんをシングルに出すBUCK-TICKにはもう敬服するしか無い。これで勝負をかけていくロックスピリッツが最高にかっこいいし、そこに惚れてついてきてるのだし。

 櫻井敦司もこの歌詞の内容でタイトルを「唄」と形容するあたり、相当に狂っている。

自己否定の連発が当時の彼の唄なのだろうと思うと、その心情は察するに余りある。

 しかし、単純に曲だけ見たら最高にカッコいいし、「Six/Nine」という宇宙の広大さと暗さに浸りきり、疲れたとも形容できる身にはここでガツンと魂を注入される感覚だ。

 こういうアルバムの曲順の良さはBUCK-TICKが一貫して持ち続けているものだし、だからこそ虜になるのだと思う。上手いんだよなあこの辺…。

 ちなみに、PVも面白くて、メンバーそれぞれが思い思いの格好に扮している。

内訳は

 こういうところでも少しメンバーの好みやルーツが垣間見えるのも面白い。

 

”どうして生きているのか この俺は
そうだ狂いだしたい
生きてる証が欲しい
神経は落ちてくばかりで
鼓動はずっとあばれ出しそうだ
深い森に迷い お前の名を呼ぶ

逃げ出す事もできない
立ち止まる事も知らない
聞いてくれこの声 お前を愛しているのに”

 

 サビ前のこれが凄いカッコいいんですよね、しかも櫻井と今井のツインボーカル

BUCK-TICKは良いぞ。


BUCK-TICK / 唄【Victor Years】

 

15.見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ 作詞:櫻井敦司 作曲:今井寿

 

 10枚目のシングル。こちらはアルバム後にシングルカットされたのだが、シングル版とアルバム版で歌詞が大きく異なるのでどちらも必聴である。ちなみにミックスはほぼ同じ。

 ギターのフレーズはどれもこれもめちゃめちゃかっこいいんだけど…

 シングルにするにはダウナー過ぎない?売れる気ある?

 これは聴くたびに思っている。歌詞もめちゃめちゃ暗いし、ギターのフレーズもそうだし、リズムもノれるようなやつじゃないし…。

 人は真実を追い求め、その行為そのものが誤解だと知り、何が真実か嘘かなど知り得ないまま生き、そのサイクルを繰り返す…。という輪廻を描いているように読み取れるのだが、この歌詞の構造自体が冒頭と最後のLoopにかかっているとしたら、マジでこのバンドは凄いなと思う。多分狙っているんじゃないかな。

 とにかく、世間のメインストリーム、そして一般大衆が追い求めるような「真実」「希望」という光に対して真っ向から背を向けると共に、

ひたすらに自己探求の哲学を突きつけていくそのさまはまごうことなきカウンター・カルチャーとしてのロックバンドだ。

 そしてその中にはロックをビジネスとして扱い行動することそのものへの深い苦悩も混ざっており、如何にこのアルバムが難産だったのかを垣間見ることが出来る。

 「Six/Nine」というアルバムは何だったのか?何を言いたいのか?

 そう問いかけたい気持ちが湧き起こるがしかし、その目に見えぬものを見ようとする問い自体が誤解なのかもしれない…。

”夢を売れば 絶望の中

踊らされた 俺は傷ついている

俺は仲間と 歌い狂って 踊りまくるのさ

楽しい夜さ 気が狂れそうに

誰かが生きれば 泣いてやるのさ いつでも

誰かが死ぬなら 笑いかけてやるのさ

真実を知るには 此処にいても見えない

真実を知るなら 此処にいてはいけない

真実を 真実を 真実を 嘘を 嘘を 嘘を”

 この部分に恐らくこの曲のすべてが集約されるのだろう。

 ちなみにシングル版だと歌詞が大きく異なるほか、櫻井敦司の語りも入ってきて、こちらはこちらで凄まじくカッコいい。


BUCK-TICK / 見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ【Victor Years】

 

16.Loop MARK Ⅱ  作曲:今井寿

Loop MARK II

Loop MARK II

  • provided courtesy of iTunes

 

 1曲目とは違い、インストゥルメンタル。この曲で浄化されると共に今井寿のうち込みの美しさを知るのだ…。

 普通にアンビエント・ミュージックとしてとても好きな作品です。

 

最後に

 まず一言いいですか?凄い疲れた…。

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 10000字を超える文字の中に自分のBUCK-TICKリスナーとしての12年と愛をぶつけました。

 僕は負けず嫌いなのです、知識ではまだまだですが、愛では誰にも負けたくないのです…。

 BUCK-TICKは書きたい作品がいっぱいあるのですが、一番最初にこの「人生で一番聞いたアルバム」を書きたかったのです。

 購入して以来、思春期をこのアルバムと共に歩み、救われた回数は数知れず。ソレが今の僕を作っています。かけがえのない作品です。

 そんなこんなでこのくっっっっそ長過ぎる記事を読んでくれた人がいたらすっごい嬉しいです。

BUCK-TICKはいいゾ、聴きましょうね…。

 書いてて面白かったのも事実なのでまた何か見つけたら書きまくろうかなと思います。じゃあね!