今を生きる果てにたどり着いた王国~黒夢「黒と影」(2014)
はじめに
音楽を聴く人はその過程で単純な音だけではなく、その背後にある文化や生き様を学ばせてもらうことも多いだろう。
僕にとっては黒夢もそういったバンドの1つで、中学2年の頃に好きになって以来、そのバンドの生き急いでる様や今を大事にする姿勢は僕の生き方に大きな影響を与えている。
音楽的には、黒夢を通してトランスレコードを知ったり、ポジパンやパンク・ハードコア・パンクに興味を持ちどんどん掘り下げていくなど自分の今の知識や音楽的興味の大きな基礎になっている。
彼らの音楽は活動を通して目まぐるしく変化していったし、その後もボーカルの清春も過去にとどまることなく、今の自分にとって最高にカッコいいものを追求し続けている。
そんな黒夢が再始動後、最後に出したアルバムを今一度聴き返しながらその魅力に迫っていきたいと思う。
黒夢「黒と影」(2014)
- ZERO
- ROCK ’N’ ROLL GOD STAIR
- I HATE YOUR POPSTAR LIFE
- CLARITY
- A LULL IN THE RAIN
- FREE LOVE, FREE SEX, FREE SPEECH
- MAD FLAVOR
- ゲルニカ (Album ver.)
- SOLITUDE
- BLACK HOLIDAY
- CALLING (Album ver.)
- 黒と影
- KINGDOM (Album ver.)
※通常盤には14番目の曲としてLEEPがありますが、僕は初回限定盤しか持っていないので今回は割愛します。
黒夢は1991年から1999年まで活動した日本のロックバンド。2009年に一夜限りの再結成を果たし、2010年に本格再始動。2015年以降は実質活動休止中。
彼らはその活動の中で大きく音楽性を変化させていき、再始動後もリリースした2枚のアルバム(2011年にリリースした「Headache and Dub Reel Inch」と今作)でも音楽性を全く違うものに変化させている。
今はまた深い眠りについている黒夢だが、そんな彼らが生きた今は一体何だったのだろうか?そんなことを考えながら1曲ずつ、そして初回限定盤にしかないある特典を見ていきたいと思う。
特別記載のない曲のドラムはcoldrainのKatsumaなのだが、彼のドラムがまためちゃめちゃカッコいい。coldrain自体が名古屋のバンドなため黒夢と縁があったり、トリビュートに参加してたりしたのだが、ソレを差し引いてもめちゃめちゃ上手い。そら清春に可愛がられるわけだ…。近年では色々なサポートの仕事でも見られるあたりその実力が伺い知れる。
全然関係ないんだけどさ…
このアルバムジャケットめちゃめちゃかっこよくない?
ついでに通常盤もかっこよくない?僕は持ってませんが…。
ちなみにアー写もカッコいい。何から何までカッコいい。
(左がボーカルの清春、右がベースの人時)
更に更に…
アルバムトレーラーまでくっそカッコいい。何だこのバンド。
黒夢 / 1 .29 new album 『黒と影』 trailer
1.ZERO 作曲、編曲:人時
アルバムの始まりはベースの人時作曲のインストナンバー。
ベースの音作りと淡々としたフレーズの中にノイズが効果的に使われ、静かな始まりを感じさせる。
ここの部分はデジロック的な作風だった前作の「Headache and Dub Reel Inch」を彷彿とさせる。
そこにドラムとギターがユニゾンに近いような形に絡んでくるが、その中で人時のベースが冴え渡る。
こういうのを聴いてると人時って凄いベーシストなんだなと感じる。ベースのフレーズがどれもコレもカッコいい。
徐々に曲が盛り上がっていくのだが、そのテンションを殺すことなく2曲目に繋がっていく曲順も含め見事である。
2.ROCK ’N’ ROLL GOD STAIR 作詞、作曲:清春 編曲:清春、三代堅
ドラムロールから始まるこの曲は、2010年に始動したSADS第2期に通じるようなヘヴィさと黒夢がずっと持っていたポップさを併せ持っているように思う。
ギターもドラムもそこまで複雑なことはしていない。しかし、その裏でベースの人時がガンガンに動き回っているあたり、やっぱりコレが黒夢なんだよなあ…。って思わせられる。
ちなみにドラムはtoeやthe HIATUS、セッションドラマーとして活躍している柏倉隆史であり、ギターはペトロールズや東京事変で素晴らしいギターを奏でてくれている長岡亮介。
曲を壊さない中でのドラムのハットやオカズの入れ方はものすごい巧みだし、歌うドラマーにふさわしいリズミカルなフレーズを連発してくる。
長岡亮介はもともとカントリーやソウル、ファンク系のギターを好むはずだが、今回はガッツリ黒夢に合わせてきている。特にギターソロは黒夢に合わせてきてる中にもスライドを入れていくあたり聞き所が満載である。
しかし、どこからこんな人脈が…?と今も思っている。
編曲は元M-AGEであり、清春のソロでも長年編曲に携わっている三代堅(みよけん)。清春はソロと黒夢を分ける気はないのだろうなとこういった細かいところから感じることが出来る。
もちろん清春は言うまでもなくくっそカッコいいのだが、決してネガティブな意味ではなく歌詞が昔と異なるなとはいつも聴いていて思う。
”右手に折れた刃 独白、余生、前途
目を見開いて笑う 高揚した素手”
昔はもっと直接的な歌詞が多かったし、この変化は実はかなり大きな変化のはずである。
しかし、清春の歌の強烈な個性と作曲のポップさで前述のミュージシャンたちを含めて全く散漫にならない。
約3分の中に聴きどころが詰まっている軽快でロックンロールなポップナンバーでアルバムの序盤のつかみとしてはバッチリ。
3.I HATE YOUR POPSTAR LIFE (Album ver.) 作詞、作曲:清春 編曲:清春、三代堅
はい来ましたアルバムの序盤の最強ナンバー。カッコよさの具現化。
タイトルからして攻撃的だが、そのタイトルに負けることなく清春の歌い方も歌詞も攻撃的。
”You will surely give up this bad dream.
Yeah, you remember this bad dream again.”
後期黒夢に通じる刺々しさを感じさせる序盤の歌詞が見事に炸裂している。
日本の音楽に多大な影響を与え、もちろん清春にも大きな影響をもたらした伝説的ロックバンドDEAD END。そのボーカルMORRIEのソロでも彼は素晴らしいギターを聴かせてくれていた。
全て過去形になってしまったのは昨年急性骨髄性白血病で亡くなってしまったからである。めちゃめちゃショックでした。
上記以外でも本当に素晴らしいギタリストだった…。そのうちdownyとかそっちの紹介もしようかなと考えている。
話を曲に戻すと、今回は彼の普段弾くインプロヴィゼーション的なギターではなく割とオーソドックスな雰囲気がする。もちろんギターソロやフレーズ、出す音はかなり独特でカッコいい。
ドラムはSUNS OWLや地獄カルテットのドラマーでもあり、数々のアーティストのレコーディングにも参加、そして2010年以降のSADSでもドラマーを務めているGO。
清春との出会いは2009年の一夜限りの黒夢再結成だったのだろうと思っているのだが、力強くストレートなドラムはそのアグレッシブさでバンドサウンドをガンガンに前へ前へ駆り立てていく。
そして、人時なのだが…
コレがヤバイ。某L'Arc~en~Cielばりに臆することなくギターを喰いに行ってる。
そらキャリア的には先輩だし遠慮することもないのだろうが、黒夢時代を彷彿とさせるそのアグレッシブなベースはブランクもなにも一切感じさせることがない。正直こんがガンガン前に出まくるベーシストだとこの作品聴くまでしっかり認識できてなかった。
ベースのフレーズも音も最初から最後までカッコいい。
そして、清春なのだが…
この人ほんとに40代か(当時)?めちゃめちゃアグレッシブだぞ?
強力なバックの面々に一切負けることなく、ひたすらに刺々しく、ソレで居ながらポップにこの曲を彩っていく。
”I told fxxk off!! 手を出した?
降り止まない銀のテープ
どう悪を? 腹に「Do you love me?」
You gotta feel it! I hate star life.
Your star life.
Your star life.
Your star life.
Hate, star life.
Hate, star life.
Hate, star life.
Popstar life.”
後期並みに尖りまくりである。ソロとは別人としか思えないレベルで方向性が違う。ちなみにこの後のギターソロがめちゃめちゃかっこいい。
そんなロックアイコンとしての強烈なカッコよさを誇示しながら、黒夢は約3分を突き進んでいく。
ぶっちゃけこの曲までで体感的には5000兆円が口座に振り込まれるので、約6000円の初回限定盤と考えると4999兆円の得である。
超お得だね。ちなみに、シングル盤だがPVを見ると追加で1000兆円くらい入ってくるぞ。
黒夢 / I HATE YOUR POPSTAR LIFE (MUSIC VIDEO FULL)
4.CLARITY 作詞:人時 作曲:清春 編曲:人時
アルバムの序盤の疾走感あふれる曲の中でも速く短いナンバーであり、なんとおおよそ2分半。
パンキッシュと言うよりハードコア・パンクやメタルコアに通じるようなハイスピードなその攻撃性は否が応でもリスナーの血湧き肉躍らせる。
人時のベースが強烈に暴れまわるのだが、間奏で光る人時のベースソロも文句のつけようがないほどにかっこよく。良いフックになっている。
ギターはGOと同じく2009年の一夜限りの再結成以降、SADSの再始動やソロでも長年のパートナーになっているカイキゲッショクのK-A-Z。低音がゴリゴリ効いたギターがリフを刻みながら極悪に暴れまわる。
ドラムは今や海外でも人気を獲得し、日本を代表するメタルコアバンドになったCrossfaithのTatsu。
そのドラムは要所要所でオカズをはさみながらもとにかく速く力強く、ラウドロック勢のフィジカルの強さを感じさせる。
清春の歌唱は前曲にまして攻撃的で前のめりながら、どことなくオイパンクを彷彿とさせる。
息つく暇もなくハイスピードで駆け抜けていくその様は音の重さも相まって、後期以上に凶暴に思える。まあ、音像がほぼSADSってのは気にしないゾ。
アルバムの前作がデジロック的な作風であったことを踏まえると、今作はその生々しい音作りに驚かされるばかりだが、とりわけ音の重さが目立つ。
同じところに安住しない、雑に言うと飽きっぽい今を生きている清春の性格が反映されてるのだが、そのどれもがめちゃめちゃかっこいいから良いのだ。
”希望的観測 Figure laughing us.
未来的観点 笑いだす影
俯瞰的憶測 くだらないメッセージ”
初めて聴いたときに今までの言葉遣いと違うなと感じたのだが、実はこの曲が人時唯一の作詞曲。やはりそれは人時と清春の関係性の変化が関係してるのだろう。
それを知ってから聴くとお互い大人になったなあと少ししんみりしました…。ハイスピードナンバーなのに…。
5.A LULL IN THE RAIN 作詞、作曲:清春 編曲:人時
今までの流れとは打って変わって、メロウさと軽快なリズムで歌メロが際立ったナンバー。
どことなく哀愁が漂うのは、清春の歌い方以上に歌謡曲的な雰囲気の漂う作曲に依るのだろうか。
ラウドロック的な勢いと重さが強調されてきた今までのアルバムの流れとは全く違うカッティング主体のギターが耳に心地よい。
ちなみにギターはスカ・パンクバンドの大御所KEMURIのギターである田中‘T’幸彦。
どこで交流があったんだろうと考えていたら、再始動前最後のアルバム「CORKSCREW」でガッツリ関わっていた。こういうところから繋がっていくのは面白い。やっぱり曲に合わせてギタリストを選んでいるのだろう。ギターソローのキャッチーさがとても耳に残る。
ドラムはMR.ORANGEやchocolate fuzz manicsやTAKUYA and the Cloud Collectors(JUDY AND MARYのTAKUYAのバンド)のかどしゅんたろう。
BAROQUEの「PLANETARY SECRET」でドラムを務めていた、と言ったほうがこちらのファンにはしっくり来るのだろうか。chocolate fuzz manicsではギターボーカルを努めているようだが、本業はドラマーである。
MR.ORANGEではパンキッシュなドラムを叩いていたが今回はかなり多彩なリズムを叩いていてつくづく器用で巧いドラマーだと感じる。
ベースの人時の跳ねるベースラインがいいアクセントになっており、本当に人時は素晴らしいベーシストだということをここでも再確認できる。
歌詞も今までのとは違いかなり叙情的であり、
”レイン 笑ってる君の瞳に
今日は 朝が降りてくよ
レイン 回って通り抜ける
レイン レイン”
”会えるよ 夜が怖くて泣いたよね
遠くで 雨の日歌う
きっと僕の元へ帰る様に”
というように歌詞にも哀愁が感じられる。少しだけfeminismの頃の黒夢を感じさせる歌詞だ。清春は日本語詞がとても巧みだなと改めて感じる。
若い頃はあまり響かなかったのだが、大人になってその良さが理解できたナンバーの1つである。ダークな雰囲気を漂わせながらも多様性をしっかり持っているのがこのアルバムの魅力の一部であることを感じることがここで出来るだろう。
清春の色気半端ねえな…。
6.FREE LOVE, FREE SEX, FREE SPEECH 作詞:清春 作曲、編曲:人時
人時が作曲と編曲を担当したこちらのナンバーは、CLARITY同様約2分半という高速ナンバー。
短いナンバー2曲とも人時編曲なのだが、どっちもベースラインが際立っているのはやっぱりベーシストなんだからなのだろうか。
しかもこの短いナンバーの中でまたもCrossfaithのTatsuがドラムを叩いている。ツーバスドコドコしてる完全にハードコアチックなナンバーなのだが、その中で長岡亮介がギターを弾いているのが意外に思える。こんなも弾けるんだなこの人…。
ここに来てまた高速ナンバー。CORKSCREWを彷彿とさせる駆け抜け方だが、やはり違うのは音の重さである。おそらく一番影響が大きいのはドラムなので、如何にドラムが重要な存在かがこの曲で感じられる。そして、かたやパンク、かたやラウドロックという対比が年月の長さを感じさせる。
てかこのスピードでベース弾きまくる人時凄えな…。
清春の歌詞はほぼ英語詞であり、後半なんて全部英語。
スピード感と語感を重視するとそういう感じになるのだろうか。確かにロックには英語のほうが向いているからな…。
個人的には序盤の
”Die & Lie 豹のFlower
慈愛とヘビーダンス
Downright Lie 多く有って無いよ
リミテッド”
の部分が日本語と英語の語感がバッチリ噛み合ってて好き。
8.MAD FLAVOR 作詞、作曲:清春 編曲:黒夢、三代堅
ヘヴィでグルーヴ感を強調したサウンドが特徴的なミディアムテンポナンバー。
恐らく、アルバムの中でも1,2を争うほどのヘヴィなナンバーではあるが、それを巷のラウドロックと差別化しているのは清春の歌唱法やメロディセンスに依るところが大きい。
ラウドなのだがとてつもなくポップであり、デスボイスなどは使わないというのが1つの個性となっているし、それはSADSでも活きていると思う。それが逆によく思われないのもわからないではないのだが…。
ギターはK-A-Z、ドラムはGOというほぼほぼSADSなメンバーだし、音像もほぼSADSなのだがカッコいいから良いのだ。多分この辺の音像が一部のリスナーにSADSじゃん!と不満をもたれる原因なんだろうな。
ミディアムテンポということもあり、ギター以上にドラムとベースが目立ちまくる。リズム隊の重要性と素晴らしさを余すことなく堪能することが出来る。
黒夢名義で編曲するとやっぱり楽器の感じとか変わるのかな?
清春の歌も溜めをうまく使っており、歌のほうでもグルーヴ感を強調させることに成功している。
”Mad flavor 暗がりの世界
Dying flavor I can believe nothing
Weird flavor ただ影と光
鼓動、劣化したら I will walk away”
ヘヴィなリフとグルーヴ感のあるリズム隊にこの歌詞が乗っかると最高にかっこいい。
まさしくこれこそが、毒と華のあるロック・スターの風格。
8.ゲルニカ (Album ver.) 作詞、作曲:清春 編曲:黒夢、三代堅
はい出ました。再始動後の中でも屈指の名曲。100点だとか何点だとかそういう野暮な事が言いたくなくなる最高のナンバー。
ギターとドラムはK-A-ZとGOというSADS布陣。というかほぼSADSだし、音像もSADSなのだが曲がマジでカッコいいから言うことがない。
ストリングスとラウドなサウンドの兼ね合いも抜群だし、幻想的で哲学的な歌詞も最高。人時のベースもめちゃめちゃ聴かせてくる。
今まで得てきた経験が全て集約されていると思えるばかりの渾身の1曲。
再結成前の黒夢にはなかったような物に、音の重さがあげられるのだが、ミディアムナンバーの説得力があげられると思う。
もちろん、ミディアムナンバー自体は昔の黒夢にも限りなくあるし、昔のsadsにもあったがやはりソロで歌物を数多く作り、歌い上げてきたものは大きい。
勢いだけではなく、一言一言をしっかり聴かせてくるカッコよさを完全にモノにしている。
人時のベースも昔より前に出てくるという印象があり、ラウドな音像に対して引くことなく存在を主張し続けている。日本が誇る素晴らしいベーシストの一人だと思う。
”それは遥か彼方で貴方へ手を振るだろう
そう此処では悲しい心は芽生え無くて”
昔はこのような歌詞を書く人ではなかったのだが、そこには清春の人生経験、更には父の死も大きく関係しているのだろう。死生観や別れを意識した歌詞が昔より増えたように思う。
そういえば「ゲルニカ」というとパブロ・ピカソがスペイン内戦中に描いた有名な絵画であるが、時代背景を反映してか負のエネルギーを集約しているように思える。
この曲が何処まで関係しているのかはわからないが、何の考えもなくタイトルにつけるとは思えないのだ。
特に名義ごとに音楽を作り分けているようではなさそうだし、映画のタイアップもついていたのでソレを踏まえて作った曲であることはインタビューで語っていた。
しかし、ソレ以上の意図は恐らく各々で想像するしか無いのだろう、そしてひとりひとりが違う解釈になるのだろう。
曲そのものだけではなくPVもカッコいいのも黒夢の特徴だが、黒を貴重にしたファッションや影をうまく使った照明が素晴らしい。さらに現代舞踏が映像に挟まることでアート性の高いPVになっている。
かっこいいわぁ…。
9.SOLITUDE 作詞:清春 作曲:人時 編曲:黒夢、是永巧一
イントロがベースから始まるミディアムナンバー。
アルバムの中では音が重いほうではないが、そのダークさとまるで鬱蒼と茂った森のような仄暗い闇を漂わせる様はソロっぽくもあるが、初期の黒夢の香りを少しだけ漂わせていると思う。
ロック・フュージョン系の出自のギタリストでレベッカのライブやレコーディングに一貫して参加している他、浜崎あゆみやTHE ALFEE、今井美樹や安室奈美恵など数々のアーティストのレコーディングに参加。
はたまたKalafinaや水樹奈々などアニメ系関連の仕事も豊富で、あらゆるジャンルを弾くことが出来るオールラウンダー。
多分、この人を話すだけで1つの記事ができるほど幅広いレコーディング経験を持つ名ギタリストであるのだが、編曲の経験もかなり豊富。調べてみたらめっちゃビビるぞ。
ドラムはdownyの秋山タカヒコ。downy自体複雑なアンサンブルと前述した青木裕のギターが冴え渡る素晴らしいバンドなのだが、秋山タカヒコの演奏力も素晴らしく、複雑なリズムも難なく叩くことが出来る。
ポップな曲からメタルやジャズも叩くことの出来る幅広さも兼ね備えているためか、バンド以外の経験も豊富でスキマスイッチや大塚愛、ナオト・インティライミなどの数々のJPOPアーティストのレコーディングにも参加した経験がある。
現在はdownyの他にBUCK-TICKの櫻井敦司がフロントマンを務めるバンドTHE MORTALのドラマーも努めている。
人時のベースラインはどの曲でも動き回っているが、バンドの音がそこまで重くないからかベースの音がいつも以上にはっきり聴こえてくる。更に、歌謡曲的な歌メロに寄り添うベースラインの気持ちよさを感じられる。単純にギターとドラムがものすごい巧いというのはおそらく大きいだろう。
清春の歌メロが本当に歌謡曲的で、こちらはかなり清春ソロの楽曲に近い。というか多分入ってても違和感がない。
ソレで居ながら、翳りと仄暗さを帯びているところが初期の黒夢を感じさせてくれたりもする。初期の黒夢はもっとブラックメタル的だしASYLUMっぽいけど…。
”とめどなく流れる涙、どうあれ独り
哀しみよ剥がれて、炎に撃たれ闇と会えたなら
超えてゆこうね貴方に
会えるだろう”
この辺の歌詞とか清春の「FOREVER LOVE」とか「madrigal of decadence」とかに入ってても全然違和感がない。ソロとかSADSとか黒夢とか分けて考えるのは無意味なんだろうな、と改めて識ることが出来るナンバーである。
10.BLACK HOLIDAY 作詞:清春 作曲、編曲:人時
独特のキメとギターの音やフレーズの展開が癖になる曲。
ギターは西川進。この方も是永巧一と同様数多くのアーティストのレコーディングやライブ、作曲や編曲やサウンドプロデュースに参加している、モッズファッションや赤く染めたマッシュルームヘアーがトレードマークのベテランギタリストである。
最初にサポートとして名前を馳せたのは椎名林檎の「無罪モラトリアム」と「勝訴ストリップ」での楽曲だったと記憶してるが、女性のオルタナティロック系ならこの方がまっさきに名前が上がるであろう凄いギタリスト。椎名林檎の初期イメージなんておそらくこの人の音が関わってるところも大きいし。
他にも阿部真央、小南泰葉、大森靖子など様々なオルタナティブロック系の女性シンガーと共に仕事とをしている上、アイドル系やヴィジュアル系、アニメソングやニコニコ動画系などでのプロデュースも超多彩。ある意味時代を反映し象徴するギタリストとも言える。最近だとWii Uゲーム「スプラトゥーン」の楽曲まで演奏を担当している。多彩過ぎる。
是永巧一がオールラウンダーで綺麗なギターを弾くギタリストなら、この方は幅広いプレイスタイルながらも感情直結型の荒々しいギターを弾くのが特徴である。
ギターの構えが独特である上、ブリティッシュサウンドを軸にしながらも非常にノイジーでカッティングが荒々しく1曲でピックをダメにするほどである。しかもエフェクターも多用する。音が超目立つな?
前曲同様ドラマーは秋山タカヒコなのだが、こんな2人と黒夢がどんな化学反応を起こすかと言うと、コレが凄い。
秋山がどっしりした音と単調さを感じさせないフィルインを要所ではさみながらしっかりボトムを支え、人時がメロディアスなベースでメロディを彩る中に西川進のギターが炸裂している。
おそらくイントロのカッティングはファズなのだろうが、その歪みが強烈でその歪みのままにカッティングを行うものだから、めちゃめちゃ目立つ。一度聞いたら忘れられない音だ。もはや主役である。
途中で流麗なアルペジオが挟まることで一切のマンネリ感を与えないのも素晴らしい。
メタルと言うよりはオルタナティブロックやグランジに近いその音像は今作の多様性も象徴しているように思える。今までが割と歌謡曲とかメタル的なものばかりだったので新鮮である。
それでいて間奏で入ってくる人時のスラップがかっこよすぎない?
しかもギターを重ね録りしてるのか様々な音が感じられる。青木裕のソロ並みに音の情報量がじつは多いんじゃないかという気さえしてきた。
清春の歌メロはとてもメロディアスなので、情報量の多さに反してかなり聴きやすい。なんか不思議な曲だ。
”謀略を束で売った 汚い手、借りて売った
音楽と程遠いね 考えた能書きを
同化して解らないよ
憧れた人は居ないね 何処へ行けたとしても
太陽は笑わない”
最後の部分でギターがアルペジオオンリーになり、少しずつテンポダウンしながらラストと向かう歌詞なのだが…ここでもとても尖っている。
再始動前の後期の黒夢を感じる歌詞ではあるが、後期はもっと曲自体がパンキッシュだったのでありそうでなかった曲というのが相応しいのだろう。
11.CALLING (Album ver.) 作詞、作曲:清春 編曲:黒夢、是永巧一
黒夢のゲルニカのカップリング曲でもあるハイスピードナンバー。
SADSにありそうだなあ、と思わせる曲調なのだがSADSと違ってそこまでゴリゴリのサウンドではないのが違いなのだろうか。約3分という短さをダレることなく駆け抜けていく。
ドラムは2曲目も担当した柏倉隆史。僕の中では柏倉隆史はポストロックバンドtoeの
イメージが強いのだが、レコーディング参加経験の豊富さやthe HIATUSのメンバーでもあるわけだし、At The Drive Inのようなエモなサウンドのドラムが叩けても不思議ではないわけだ。まあ完全にエモというわけではなく、ポストハードコア的な要素もあるんだろうけど、ここらへんの定義は曖昧なので…。
吉田達也みたいな複雑怪奇なリズムではないにしろ、オカズをバンバン入れ込んでて若干ドラムソロっぽくなるのが実に柏倉らしい。
坂本真綾の「eternal return」でもそうなってたからね(笑)そういうところが好きなのです。
是永巧一は本当に何でも弾けるんだなあと感じさせてくれるのだが、ワーミーがいい味出してるヘヴィメタル的な速弾きもあるし、リフもいちいち小技を挟んでくるし、ディストーションサウンドの効いたリフもカッコいいし…。マジで凄えなあ…。
清春も疾走感のあるボーカルを披露するが、速い曲になるともはや日本語の発音とか英語の発音とかそんなのを分けるのはどうでもいいと言わんばかりのボーカルを披露する。
”Feel my calling. I keep calling.
Till you hear that. So I¥m calling. I¥m calling it. ”
サビはこのフレーズを連呼しまくるわけだが、まあ1回じゃ聴き取れない。そういうタイプの歌手じゃないからかっこよければオッケーです。そうなのです。
そして人時のベースがマジで休む暇もない。速い中でもきっちりスライドを入れたりするのもニクい。全曲で言えることだがベースの音作りがめちゃめちゃかっこいい。曲はメンバーが全く違うのになんかまあSADSでやってそうな気もするけど…。
カッコいいから良し!
12.黒と影 作詞、作曲:清春 編曲:黒夢、三代堅
アルバムの表題曲にして恐らく最も独特なナンバー。
ギターが青木裕、ドラムが柏倉隆史という布陣の中制作されたのだが、歌メロもギターもドラムも今までの黒夢で一切聴いたことがない感覚である。ベースはそこまで動き回るわけではないが、今回は支えることに徹しているのだろう。
柏倉のドラムは恐らく今までのアルバムのナンバーの中で最もtoeに近いまさに「歌うようなドラム」。オカズ入れるわ、リズムを変則的に叩くわでドラムだけで何回でも聴いていられる。
青木裕のギターは本当に強烈でイントロのフレーズからなんだか摩訶不思議である。そして、非常に情熱的なギターソロを聴かせてくれる。
清春の歌詞もかなり象徴的であり、
”這い上がる、したたかよ ぬめった胴体の柄”
”一度きり、舌を切る 二度目の再現は無い
逃げ歩け、色を変え 延々と輝る皮膚”
黒と影と黒蜥蜴がかかってるのかな?と感じさせるものである。そして「二度目の再現はない」と述べているようにバンドのこれからを暗示しているようにも思える。
”黒と影が夢をくるむなら目隠しを
心に闇を纏う
黒蜥蜴は僕が解けなかった不可解を
撫で回った後 説いて 舐めるよ’
ここで黒蜥蜴と述べているのだが、歌詞がなかなか抽象的で幾通りもの解釈ができそうなものになっている。こういった歌詞は近年のソロ活動の賜物だろう。
青木裕のギターソロだが、変則的でインプロヴィゼーション的なフレーズが炸裂するところに彼の強烈な個性がにじむし、本当に素晴らしいギタリストであると改めて思う。惜しむばかりだ…。
今までの黒夢にはなかったナンバーで何回も聴きたくなる。
ところでクロトカゲという言葉なのだが…
黒蜥蜴、というと字義通りの黒い蜥蜴がまず最初に浮かぶ。その名の通り黒いトカゲであり、トカゲと言えば尻尾を自切することで知られている。
しかし実は数に限りがあるし完全には元に戻らない。更には傷口から細菌が入ったり、栄養失調で死ぬこともあるので命がけの行動なのだ。
そして黒蜥蜴という言葉でもう1つ思い出すのが江戸川乱歩の長編探偵小説「黒蜥蜴」。三島由紀夫により戯曲化され、更には映画化もされている。キャストは数度の映像化や舞台化において、京マチ子や美輪明宏、中谷美紀など錚々たる俳優が演じており、名実ともに日本の文芸史に残す作品だ。
黒蜥蜴 江戸川乱歩ベストセレクション (5) (角川ホラー文庫)
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2009/01/24
- メディア: 文庫
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ストーリーはあらゆる美しいものを標的とする経歴一切不明の美貌の女盗賊「黒蜥蜴」と幾多の事件を解決してきた探偵「明智小五郎」の対決がメインで、まあ怪盗キッドと江戸川コナンの関係をイメージすれば良いのだろうか。
わかりやすくワクワク出来る一方、耽美的で倒錯的な雰囲気も漂う作品なのでっ興味がある方はぜひ。
…まあおそらく後者にはかかってはいないのだろうけど、どうしてもこの2つを連想してしまうので書き加えておきたかった。多分本当に関連があるのはトカゲの方。ソレだけです。
13.KINGDOM (Album ver.) 作詞、作曲:清春 編曲:黒夢、是永巧一
アルバムのラストを飾る会場限定シングルの曲であり、再結成後の黒夢ならおそらく一番の完成度を誇るミドルチューン。
ちなみにこの曲に限ったことではないのだが、シングルは全てアルバムバージョンで収録されている。
ギターは是永巧一、ドラムは秋山タカヒコなのだが、アルバムの中でもその存在感は群を抜いている。
ディストーションが効いた拡がりを感じさせるギターに、手数は多くなくとも一音一音を非常に強く発するドラム。ベースもソレに連なるように一音に全てを込めるかのごとく鬼気迫る演奏。その哀愁と重たさ、執念にはもはやポストメタル的な雰囲気すら漂っている。
清春の歌詞も非常に抽象的で、
”夜に詞えば 響いたのは 夢追いの弱者
消えてしまった それなんて紛い物でした
困惑を繰り返したい こう在るべき理解の海
抱いてくれる貴方に会う 過去に浚われたら”
と、夜と闇を漂わせるものが多い。
そして、KINGDOMの名が示すとおり…
”AH 気が触れる新しい盲目
AH 耐え乱れる艶かしき王国を揺らすよ”
こんなフレーズもある。これを書き上げた清春の心境はどのようなものだったのだろうと思う。
”闇夜を裂いて鳴らしている
灯りを消して帰ってゆく
愛楽を見る人の元へまた階段を登る”
と何やら象徴的なフレーズが光るサビだが、愛楽(あいらく)というのは
愛楽(あいぎょう)とも読むらしく
- 仏法をなどを願い求めること
- 愛し好むこと
という2つの意味があるらしい。どちらの意味で使われているのかは定かではないが、
自分たちの今の確固たる姿を「王国」に例え、ファンへの感謝やメッセージをこの曲に込めているとしたらソレはとても素晴らしいことであると思う。
実際ファンのコーラスとか入れてるからファンに向けてのメッセージもあるんじゃないかなと少しは思っている。あんまりそういう事するイメージなかったからね…。
清春の艶かしいボーカルがメロディラインに絡みつき、ラスサビでは更に高みに登る。
コレほどまでのスケール感のあるバラードは以前の黒夢にはなかったし、こういう曲自体が昔の黒夢では存在しなかった。
新しい黒夢の姿を「王国」の名のもとに示したのかもしれない。
最後に響く大合唱もまるで聖歌のようで厳かな雰囲気すら漂う。
アルバムのラスト、そして黒夢の確固たる姿やカッコよさを示すのに相応しい曲だと改めて感じた。最高の曲である。
まあ、アルバムの話はここで終わりなのだが初回限定盤の話なので、特典の話もしようかと思います。後少しですが、お付き合いください。
特別編:THE BLACK FILM
黒と影の初回盤タイプAについてくる特典映像。ちなみに他のトラックにシングルのPV映像もついている。
内容は黒夢について様々なアーティストが黒夢を語ると共にライブ映像やレコーディング映像が挟まれるという40分程度のものだが、まずそのメンバーが凄いので一通り書き記しておく。
- 明徳(lynch.)
- 有村竜太朗(Plastic Tree)
- HYDE(L'Arc~en~Ciel)
- 葉月(lynch.)
- INORAN(LUNA SEA)
- Katsuma(coldrain)
- Masato(coldrain)
- MIYAVI(ex.Dué le quartz)
- MORRIE(DEAD END)
- RUKI(the GazettE)
- SUGIZO(LUNA SEA)
- 高野哲(ex.MALICE MIZER、ZIGZO)
- 坂下たけとも(ex.SADS)
- T.M.Revolution
色々凄い。闇のバンド大集合みたいな感じである。人間関係に闇があった人もいるけど…。
しかも、この映像の数年後に更にビッグになった人たちもいることを考えるとマジで歴史遺産レベルのメンツである。恐らく今集めようと思ってももう集まらないだろう。
他にも様々な関係者が語っているのが(多分大体清春のことだけど…)黒夢というバンドの存在の大きさを示している。
後輩として語る者、同志として語る者、後輩として語る者、かつての仲間として語る者…その視点は本当に様々だが、恐らく根底の部分はブレていないと思われているのか割とイメージが散漫にはならない。
深化という言葉や過去が要らなくなる、ロック・スターという象徴的な言葉が飛び出すのは。まさにカリスマのカリスマたるところを確固たるものにしてることを示している。
数々のコメントがかなり象徴的で仰々しい中にT.M.Revolutionの西川貴教が、めんどくさい人とか長らく会って無くても時間を感じさせないというコメントに人間を感じさせるのがとてもいい。
そして何よりも面白いのが色々あった坂下たけともが、結構正直に「時にムカつくこともあるけど、時に可愛くて、時に本当の優しさが見える」とか言っている点だ。そして、「一回深く関わると忘れられなくなる。」と語っている。ほんとに色々なことが起きたのがちらほら見えて微笑ましい(笑)
あと、有村竜太朗のコメントがブレなくふわふわしているのが好き。
そして、元々は同じシーンに居て互いにリスペクトしあっている高野哲のコメントが何処か客観的で面白い。みんなコメントは素晴らしくて面白いんだけどね。
言及してない人もまだまだ居ますが…
まじでこの映像は永久保存版なので、初回Aが売ってたら絶対に買いましょう。そして自分のその目で確かめましょう。
ちなみにLUNA SEAに関してはX JAPANのHIDEやSLAVEがメジャーデビュー前から目をつけていたようで教えていたらしい、HIDEの目の付け方ほんと凄いなめっちゃ凄いな…。
ちなみに灰色の銀貨さんからは1人も出ていない。まあ、色々ありましたからねボーカル同士。メンバー間で交流はありそうなのに人間関係は難しいものだ…。
最後に
BUCK-TICKの69を超える長さのレビューはもう書けないだろうとか思ってたら意外とあっさり超えてしまった…。
黒夢は僕の反骨心の大きな芽生えとなったバンドだし、その姿勢もとにかくかっこいい。
このアルバムは黒夢再結成後に清春と人時が作り上げたある種の最高傑作であり、コレこそが今の黒夢なのだと言わんばかりの圧倒的完成度である。
ところどころ、これはソロでは?これはSADSでは?というのもあるのだが、その問い自体が何の意味持たないのだろう…。
是非、いろいろな人が黒夢のこのアルバムを聴いて圧倒的なエネルギーとダークなカッコよさを身をもって体感してほしいと思っている。
ここまで読んでいただきありがとうございました!